最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~霧の森編 第4章~

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[干渉]

 「グリルさん!前に誰かいるよっ⁉」

 ロメリアの大きな声が馬車の外へと響く。グリルとフォルトは道の真ん中でただじっと立っている影を見続ける。まるで亡霊のように佇むその人影を見たロメリア達は冷や汗をかかずにはいられなかった。

 どんどん近づいていくにつれてぼんやりとしていた影がはっきりとその姿を現していった。

 身長は170㎝ぐらいで細身・・・髪はフォルトと同じく勿忘草色で癖毛が目立つ短髪をしていて、目には光が無く、肌は死人のように真っ白だった。体格から性別は男であろうと推測できる。

 「ねぇ、フォルト・・・あの人・・・何か様子がおかしいよね?まるで死人みたいに肌が真っ白・・・」

 ロメリアが目を凝らしながら言葉を発したその瞬間、前に立つ男が背中から白く輝く片手で握れる鎌を両手に出現させる。2つの鎌は長い銀色の鎖で繋がっており、ジャラジャラと音を鳴らしている。

 『何をする気だ、あいつ・・・嫌な予感しかしないけど・・・』

 フォルトが鉈を握る両手に力を込めながら睨みつけていると、男は急に右手を思いっきり振り上げて鎌を上へと放り投げる。そのまま鎖を掴むと頭の上で回し始め、男の横に無数に聳え立つ霧に包まれた木に向かって鎖を巻き付けるように放り投げた。

 鎌は不規則な動きを見せながら周囲の木々に巻き付いていく。男が再び鎌を手に取る頃にはフォルト達がこれ以上先に進めないように街道を封鎖するようにチェーンが男の背後に展開された。

 グリルは咄嗟に手綱を強く引いて馬を制止させ、その際にフォルト達は何か近くにある固定されたものに掴まって衝撃を緩和した。

 荷馬車が停止すると、ロメリアがフォルト達全員に聞こえるように叫ぶ。

 「進路がっ・・・あんなに鎖が張られていたら先に進めないよっ!早く方向転換して彼から離れないとっ・・・」

 「ロメリア・・・多分それ・・・意味ないと思う・・・」

 フォルトはそう言ってロメリアに後ろを向くよう合図を送った。ロメリアがフォルトの合図に従って後ろを振り向くと、ロメリア達から少し離れた後方にある墓の傍にも前方を覆い尽くしている鎖のフェンスが張り巡らされていた。

 退路と進路を完全に塞がれ、フォルト達は深い霧に包まれた森の中で完全に孤立してしまった。アルトとミーシャも荷台から顔を出して前方にいる男の姿を視認する。

 「まさかあの鎖鎌を持った男が・・・」

 「私達も・・・さっきロメリアさん達が見てきた人達のように・・・」

 2人が震える声で小さく呟くと、フォルト達も唾をごくりと飲み込んだ。頬を汗が伝い、地面へと零れ落ちる。

 フォルト達と鎌男が睨み合っていると、急に何も気配を感じさせていなかった鎌男の周囲に殺気が現れ、フォルト達に襲い掛かる。

 ・・・来るっ!

 「皆さんっ!早く荷馬車の中に・・・」

 ロメリアが棒を持って荷馬車の前へと飛び出してグリル達に荷馬車の中へ入るよう指示を出したその瞬間、鎌男が両手に持っている鎌をロメリアに向けて思い切り投げつける。鎖を振り回し、回転によって威力を増した鎖はまるで蛇のように不規則な動きでロメリアへと向かっていく。

 「ロメリアッ!」

 フォルトは両手に持っている鉈を生き物のようにうねりながら迫ってきている鎌目掛けて投擲する。カキンッと甲高い金属がぶつかった音が響き、鉈と鎌が宙を舞った。
 
 フォルトは鉈を投擲した瞬間に猿のように近くにある木に飛び移りながら、鎌男に接近し鉈が鎌に当たって宙を舞った瞬間に、今飛び乗っている木の枝を強く蹴り鎌男に向かって一直線に飛び掛かる。宙で舞い上がった鉈をキャッチし、そのまま鎌男の首を弾き飛ばすつもりで双鉈を交差させる。

 鎌男は鎖を自分の元へと一気に引き寄せるのと同時に鎌を操る。戻ってくる鎌がフォルトの背中を捉えた。
 
 「フォルト!後ろっ!」

 ロメリアの叫びを受けてフォルトは咄嗟に空中で身を捻って鎌を回避すると、体を捻った勢いを活かして鎌男に鋭い一撃をお見舞いする。フォルトの鉈は鎌男の首を胴体と別れさせることに成功した。

 ・・・が、フォルトは目を細めて舌を打った。

 『斬った感触が無いっ!こいつ・・・人間じゃねえっ!』

 男は首を斬られた瞬間、丁度切られた部分が千切れ雲のように霞がかって宙に漂っていた。直ぐに男の首が再び胴と再会し、元通りに戻る。

 鎌男が両腕を思いっきり開き、フォルトの周囲を鎖で囲む。このままでは鎖で拘束されると判断したフォルトは猫のように地面を這うぐらい姿勢を低くして鎖を回避し、それと同時に鎌男の足首を鉈で斬る。・・・がこれも先程首を切ったのと同様に雲のように千切れた後直ぐにくっついてしまった。

 『やはり効かないかっ!どうやって倒す・・・』

 フォルトが後ろへ下がろうとした時、鎌男が体を捻って鎌でフォルトに斬りかかった。フォルトは地面に背中をつけながら体を回転させて鎌を蹴り上げる。服が土で汚れてしまったがもうこの際どうでもいい。

 「てやぁ!」

 フォルトが鎌を弾いた瞬間にロメリアが空中で体を前後にグルグルと回転させながら鎌男の真上に来て、両足を開いて両手で棒を振り上げてから思いっきり棒を叩きつけた。バキィンッ!とド派手な音が鳴ったが鎌男は一切動じず、直ぐに体勢を立て直しロメリアの棒を防ぐと鎌を一気に押してロメリアを弾き飛ばす。

 「きゃあぁっ⁉」

 ロメリアは宙に吹き飛ばされた際に悲鳴を上げたが、直ぐに空中で受け身を取って地面に着地する。

 「ふぅ、何とか着地でき・・・」

 ロメリアがほっとしたその時、鎌男が左手に持つ鎌をロメリアの方へと投擲する。ロメリアは地面に手をついたままでまだ咄嗟に動くことが出来なかった。

 『あぅっ!しまっ・・・』

 ロメリアの首元に鎌が突き刺さる瞬間、フォルトが鎌目掛けて鉈を投擲し鎌を吹き飛ばした。鎌は宙高く上がったが、それと同時に鎌男が鎖を手元に引き寄せて鎌を呼び寄せると一気にロメリアに接近して弾き飛ばされた鎌を手に取って直接斬りかかった。

 「させるかっ!」

 フォルトは地面を一気に蹴りってロメリアの前に盾になる様に現れると、まだ手元に残っているもう1本の鉈で鎌男の攻撃を防ぐ。鎌と鉈の刃が激しく擦れ火花がフォルトの顔に当たり、暑さで思わず片目をつぶる。

 「ロメリア、怪我はしてない⁉」

 「う、うん!私は元気だよ!・・・あれ?この場合、大丈夫って言うんだったっけ?」

 「どっちでもいいよ!そんな事より早く後ろに下がっ・・・」

 ・・・ピキィッ!

 ガラスにヒビが入る様な嫌な音を聞いたフォルトは手元の鉈に視線を向けると、鎌が鉈に半分近く食い込んでいて、刃に激しくヒビが入っていた。フォルトを思わず唸り声をあげる。

 『っ!鉈の刃がっ!なんて馬鹿力してるんだ⁉』

 ロメリアはその光景を見た瞬間、フォルトの体を抱えて一気に後ろへと下がった。その勢いでフォルトの鉈から鎌が外れ、鉈の損傷が止まる。

 ロメリアはある程度鎌男と距離を取ると、フォルトをそっと体から離した。フォルトは鎌男への警戒をしながらロメリアの方を見る。

 「助かったよ、ロメリア!鉈が壊れかけて一瞬意識が飛んでいたから動けなかったんだ。」

 「えへへっ、これで借りは返したよ!」

 ロメリアはこんな命をかけた状況にも関わらずフォルトに何時もと同じ笑顔を向ける。その笑顔を見たフォルトも思わずロメリアに微笑み返した。

 フォルトは壊れかけの鉈に目を向ける。

 「それにしても強靭な鋼で鍛え上げられた鉈をも砕きかねない力・・・このぐらい力があれば人間の体をバラバラにするのも簡単だろうね。」

 「じゃあ・・・あの男の人が・・・」

 「あの死体の山を作った・・・犯人だよ。・・・しかも幽霊とはね。」

 「フォルトが首を斬った時、全然効いている感じがしなかったもんね・・・それどころか直ぐにくっついたし・・・」

 「となると普通の武器では殺せないってことだね・・・素手も勿論効かないだろうね。」

 フォルトが鎌男を睨みつけながらそう言うと、ロメリアが棒を両手に持って少し怒りだした。

 「でも向こうはあの鎌で私達を斬ったり、鎖で拘束したりすることが出来るんだよね?こっちは干渉できないのに向こうは干渉できるなんて・・・こんなんじゃ向こう有利の一方的な戦いじゃんっ!卑怯だよそんなのっ!この卑怯者!正々堂々戦え~!」

 「ロメリア・・・」

 「うぅ~!何か腹立ってきた!私そんなズルして戦う人大っ嫌い!」

 「ズルって・・・まぁ確かに一方的な展開に出来るのは卑怯と言われれば卑怯だけれども・・・」

 フォルトは両手を振り上げて怒りを喚き散らしているロメリアを軽く笑いながら呟いた。確かに、『こっち』から『あっち』への干渉は出来ないのに、『あっち』から『こっち』への干渉は出来ているというのはどう見てもフェアではない。フォルトは小さく首を振って目を瞑った。

 ・・・ん?何かおかしくない、これ?

 フォルトの頭の中にある疑問が湧き出た。

 『鎌男を幽霊だと仮定するならば彼は『死者』で、僕やロメリアは『生者』・・・『死者』と『生者』はそれぞれ存在する世界が違うのだから互いに干渉は出来ない・・・だからこっちの攻撃は向こうには通用しない・・・そうだとすれば向こうもこっちを攻撃できないはずなんじゃないのか?何であいつは『こちら側』に干渉できるの?・・・干渉できる術を持っているのか?』

 フォルトは奥に立っている鎌男を睨みつけた。鎌男は微動だにせずただじぃ・・・とフォルトとロメリアを見つめていた。

 『干渉できるもの・・・何か・・・何か・・・』

 フォルトは頭の中で念仏を唱えるようにずっと考え込んでいた・・・その時、はっと気が付いた。

 『そうか・・・分かったぞ!奴の『からくり』が!』

 フォルトは怒りで頬を膨らませているロメリアに嬉々として声をかける。

 「分かったよ、ロメリア!あいつを倒す方法が!」

 「えっ⁉本当⁉教えて教えて!」

 フォルトはロメリアの耳元でさっき思いついた考えを伝えた。そのことを伝え終えると、ロメリアはおおっ!と目を輝かせる。

 「成程!確かにそれならあの幽霊を倒せるかも!」

 「でもまだそれが正しいか確証は無いんだけどね・・・」

 「そんなの関係ないよ!確証が無いのなら実際にやってみればいいじゃん!駄目だったらまた考えればいいんだし?」

 ロメリアはそう言ってフォルトにウィンクをすると、棒を構えて鎌男と向かい合った。フォルトは壊れかけの鉈を放り投げると、拳を鳴らした。

 ・・・ゾワァァァ・・・

 突然フォルトの意識が極限にまで鋭利になり、体が軽くなる。

 ・・・まただ。以前から体が興奮すると偶にこのような現象がフォルトの身には起こっていた。

 だが今回は違った。以前まではまるで自分ではない他人が体を動かしている様な感覚を覚えていたが、今回に関しては自分でしっかりと自分の体を操れるようになっていたのだった。

 武器も何も持たず、素手で戦いに挑もうとするフォルトを見たロメリアが心配そうに声をかける。

 「フォルト・・・何か武器を持っていた方がいいんじゃない?危ないよ?」

 「要らない。持っていてもどうせ効き目ないし。・・・それに・・・」

 フォルトは不敵に頬を釣り上げる。

 「・・・今『俺』、物凄く調子いいから。」

 フォルトの瞳が深紅に変わった。
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