最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~霧の森編 第3章~

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[霧]

 「うぅん・・・ん?・・・ふわぁぁぁ・・・」

 ロメリアは目を覚ますと両手を思いっきり伸ばして大きな欠伸をする。欠伸をした事で目から少し涙が出てきて右手で優しくこすって涙を拭きとる。

 フォルトが視線を起きたばっかりのロメリアに向ける。

 「ロメリア、ゆっくり眠れた?」

 「うん・・・肩貸してくれてありがとうね。おかげて気持ち良く昼寝が出来たよ。」

 ロメリアが周囲を見渡す。アルトとミーシャも互いに体を寄り添わせて昼寝をしている。

 「私どのくらい寝てた?」

 「1時間・・・ちょっとかな?午後1時過ぎに寝てから・・・今2時半前だからね。」

 「そっかぁ・・・結構寝てたんだね・・・フォルトもお昼寝はした?」

 「いや・・・僕はしてないよ。・・・この森に入ってから何故か妙に目が冴えてしまってね・・・それに・・・さっきから鳥肌が止まらないんだ。」

 フォルトは左手で自分の右腕をゆっくりと摩っていた。鳥肌によって髪の毛がほんの少しだけ逆立っており、そんなフォルトの様子を見たロメリアが左腕をフォルトの左肩に回して自分の体に引き寄せる。

 ロメリアの温かい体温が優しく伝わってきて、フォルトの騒めいた心が落ち着きを取り戻していく。

 「フォルト?・・・温かい?」

 「うん・・・とても・・・温かい・・・」
 
 フォルトは母親に甘えるようにロメリアの体に自分の身を委ねた。ロメリアも右手でフォルトの頭を優しく撫で始め、フォルトの意識はどんどん安らかになっていった。

 森の中には澄んだ涼しい空気が漂っていて、静かに泣いている鳥達の囀りがフォルトの心を浄化していく。荷台の心地よい振動も相まってフォルトは再び激しい眠気に襲われ、夢の世界へと落っこちてしまいそうだった。

 だがフォルトが夢の世界へと向かおうとしたその時、ロメリアが急に声を上げる。

 「・・・お墓?」

 フォルトはロメリアの声に反応し、ゆっくりと目を開いてロメリアが見つめている方向に顔を向けるとそこにはすっかり風化してしまって所々崩れてしまっている墓石が街道沿いにぽつんと1つ、置かれていた。

 墓の近くには何も添えられておらず、誰も管理していないというのが一目で分かった。

 「誰のお墓なのかな・・・こんな薄暗い森の中でぽつんと一人ぼっちで・・・少し可哀そう・・・」

 ロメリアの言葉を聞いてフォルトが外でただ無心に馬を走らせているグリルに声をかけた。

 「グリルさん・・・このお墓って・・・さっき言っていた殿を務めた男の人の・・・墓なんですか?」

 「・・・ああ、丁度この場所で亡くなっていたんだ。定期的にこの墓には彼が最期まで守り抜いて生き残った村の人達が定期的にお墓参りをしていたんだが・・・でも何時からだったかな・・・去年の春ぐらいからだったか・・・急に誰も来なくなってな・・・それからずっとこのざまだ。整備されなくなった瞬間に一気に朽ち始めてな・・・今やもう誰の墓なのか・・・一目見ただけではもう分からなくなっちまってる。」

 フォルトとロメリアはその話を聞きながら朽ちた墓を見続ける。荷馬車はそのまま墓を通り過ぎていき、あっという間に見えなくなっていった。

 ロメリアはぼそりと呟く。

 「・・・お墓参りに来ていた人達・・・どうしちゃったんだろうね?」

 「・・・多分、亡くなったんだと思う。彼が亡くなったのは今から40年前のことらしいし・・・あの時生き残った人がもう寿命でこの世を去っている可能性があるね・・・」

 「そうなんだ・・・そんな昔のことだったんだ・・・」

 ロメリアがぎゅっとフォルトの体を強く引き寄せる。

 「・・・あのお墓・・・もっと明るい所に持っていきたいね・・・折角命をかけてまで守り抜いたのに誰からも見向きもされなくなって一人ぼっちでこの森の中に置いていかれるなんて・・・可哀そうだよ。・・・フォルトもそう思うでしょ?」

 「うん・・・」

 フォルトは今まで誰かの墓を見て哀しくなったりすることは一切無かった。毎日誰かが死んでいる帝都の貧民街にいたせいで人の死体や墓を見ても感情を移入することが出来なくなってしまっていたからだ。

 でもこの時、フォルトは初めて心の中にぽっかりとした穴が開いたかのような感覚に襲われた。別にフォルトは彼と面識は一切なく、今日初めて彼の話を知った程度の関係なのだが不思議と彼に対して僅かに尊敬の念を覚えてしまっていた。命をかけてまで人々の命を守り切ったことへの称賛なのか・・・それともその他の何かなのか、フォルト自身にも分からなかったが。

 その後フォルト達は何も言葉を発することなくただ森の景色を眺める。いくら走っても変わり映えの無い風景に本当に先に進んでいるのだろうかという錯覚に陥りそうだった。

 フォルトがふと荷馬車から顔を出して前方を確認すると、奥の方の街道から少し離れた茂みの中にフォルト達が乗っている様な荷台が幾つも無造作に放置されていた。

 だがその荷台は綺麗に整備されており、放置してまだ数日、もしくわ数時間しか経っていないと思われる。

 「こんな森の中に荷台を捨てるなんて・・・何を考えているんだろう?」

 「ね~。家で処分すればいいのに。」

 フォルト達がその荷台を見ていると、急にグリルが手綱を引いて馬を制止させる。急に止まったのでフォルトとロメリア、昼寝をしていたアルトとミーシャが体勢を崩して荷台に倒れ込んだ。

 「な、何?」

 「父さん?どうしたの急に馬を止めて・・・」

 グリルがアルト達の言葉を無視すると、急いで茂みの中に放置されている荷台へと接近する。フォルトとロメリアも荷台から飛び降りてグリルの元へと近づく。

 グリルの元へと近づくと、グリルは荷台の中を見て顔を真っ青にしているのが分かった。フォルト達の心が急に騒めきだす。

 「グリルさん・・・どうしたんですか・・・?」

 「・・・」

 「グリルさん?」

 フォルトとロメリアはいくら声をかけても返事をしないグリルを不思議に思いながら、グリルの視線の先へと顔を向けた。その光景を見た瞬間、フォルト達は思わず息が止まりそうになった。
 
 荷台の中にはバラバラに切り刻まれた人達が無造作に散らばっていた。首の数は6つからこの荷台には6人の人間が乗っていたと推測できる。

 荷台の前にも茂みによって見えなかったが、馬も首を何か鋭利なものに引き裂かれていて絶命していた。荷台の周囲には吐き気を催す死臭が鼻をつく。

 「な、何これ・・・魔物がやったの?」

 「・・・いや、この傷は非常に切れ味のいい刃物によって出来た傷だ・・・魔物の場合だと肉が捻じれたり、骨が砕かれたりするけどこの死体は綺麗に切断されている。・・・まるで豆腐のように・・・綺麗に・・・」

 「じゃ、じゃあ山賊や盗賊が?」

 「多分それも違うと思う。中には荷物が全部きれいに残っているでしょ?荒らされた痕跡は一切無いから盗賊の襲撃でもない・・・」

 「それじゃあ犯人の目的は・・・殺人がメインだったってこと?」

 フォルトは小さく頷いて、ふと視線を森の奥の方へと向けた。すると、フォルトはまたもや驚愕の光景を目の当たりにする。

 奥の方にも、この荷台と同じく整備された荷台が幾つも捨てられていて、その荷台を覆っている布に血がべっとりと付着しており、中から足や腕が飛び出していた。

 ロメリアは目を大きく見開き右手を口元に当てて後ろへと後ずさった。

 「まさか・・・これ全部・・・」

 震えた声を上げるロメリアにフォルトはそっと傍に近づいて、グリルに声をかける。

 「グリルさん・・・急いでこの森から出ましょう。・・・嫌な感じがします。」

 「そうだな・・・早くこの森から出ねえとまずい事になりそうだ。」

 フォルト達は急いで荷馬車に飛び乗ると、グリルが綱を思いっきり叩きつけて馬を走らせる。パシンッという鞭が馬の背中を叩く音が森の中に響いた。

 全速力で駆けだしたので、荷台は激しく揺れて体が何度も激しく上下に動く。アルト達がフォルト達に声をかける。
 
 「フォルト君、何があったんだい?」
 
 「・・・あの荷台の中で・・・沢山の人が殺されていました。その他にも・・・奥に幾つもの荷台があってその荷台の中から・・・」

 「・・・何てことだ・・・」

 アルトが思わず言葉を失って黙り込む。ミーシャがロメリアに優しく声をかける。

 「ロメリアさん・・・大丈夫?顔色がよろしくないですよ?」

 「は、はい・・・ちょっと・・・あの光景を見て気分が・・・」

 ロメリアが小さく囁いた瞬間、荷台の周囲に霧が発生し始め、荷台の中に霧が流れ込んできた。

 「な、何この霧⁉急に出てきて・・・」

 「・・・っ!」

 フォルトは立ち上がり荷台から顔を出して周囲を見渡すが、霧のせいで周りの景色が真っ白に染まってしまい、状況を正確に確認できない。

 『くそっ!これじゃ自分達の現在位置が分からない!』

 フォルトが目を凝らしながら前を見ていると、街道の端に何か見覚えのある物体が置いてあった。ロメリアもその物体を視認したようで、フォルトに声をかけた。

 「フォルト!あれって・・・」

 「ああ・・・そんな馬鹿な・・・」

 フォルト達を乗せた荷台はその物体の横を横切った。フォルトとロメリアは唖然としながらその物体を見つめ続けた。

 ・・・それは先程通過した殿を務めた男の墓だった。

 「グリルさん!あの人の墓って他にもあるんですか⁉」

 「いや、1つだけだ!」

 ロメリアがフォルトに震えた声で話しかける。

 「それにフォルト・・・今のおかしいよ・・・さっき私達があの墓を見た時は向かって右側にあったのに・・・今回も進行方向の向かって右側にあったよ!」

 「・・・ループしてる?同じ所をグルグルと回ってるってこと?」

 フォルトが前方を見続けていると、先程見かけた荷台が『同じ場所』に放棄されていた。フォルト達を乗せた荷台はその横を通過する。

 「あれも・・・さっき見たのと同じ・・・」

 ロメリアは足元にあった2m弱ある棒を手に取って周囲を警戒し始める。フォルトも荷台の中にあった刃渡り30㎝程の鉈を2つそれぞれ両手に握ると、再び前方を見つめる。

 フォルトの背中にこの森に入った時と同じ、鋭く突き刺さる様な感覚が走る。

 『何かいる・・・霧の中に・・・何かいるっ!』

 フォルトが小さく舌を打つと再びあの墓の横を横切った。・・・これで同じ所をグルグルと回っていることが確定した。

 「フォルト!またあの墓だよ!」

 「うん!・・・ループしてるね・・・この森の中を・・・」

 フォルトが屋根の上に登って前を見つめると、奥の方に何か黒い影が薄っすらと現れた。馬を操っているグリルは目を凝らしてその影を見る。

 「何だ・・・あいつは・・・」

 その影は一切表情を変える事無く、街道のど真ん中に只突っ立っていた。フォルトは鉈を握っている手に強く力を込める。

 フォルトの血が急に熱くなってきて、全身に鳥肌が立つ。
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