最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~看板娘とウェイター編 第7章~

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[父親]

 「フォルト・・・この人達どうするの?」

 ロメリアは調理場の床に意識を失って縄で手足を拘束された状態で横になっているリジックの付き人達を見下ろしながらフォルトに話しかける。フォルトは右手で髪の毛を掻きむしる。

 「どうするって言われても・・・どうしたらいいと思う?」

 「私に聞かれても分かんないよ・・・フォルトが捕まえたんでしょ?」

 「捕まえたけどその後のことなんて考えてないよ・・・解いてあげた方がいいかな?」

 ロメリアはう~んと腕を組んで目を瞑って唸る。暫くしてからゆっくりと目を開いた。

 「・・・このままでいいんじゃない?意識も飛んでいっているんだし、問題ないでしょ。」

 「それも・・・そうかなぁ・・・また襲ってこられても困るし・・・このままでいいか。」

 フォルトはそう言うとそのまま調理場から客席がある方へと歩き始める。ロメリアもフォルトの後について歩き始め、話しかける。

 「それにしても、フォルトはやっぱり強いね~!どうやってあの人達を倒したの?」

 「1人ずつ孤立した時を見極めて紐を首に巻き付けて一瞬で締め上げて、意識を飛ばしていったんだ。あんまり強くやったら首の骨折っちゃうから加減が難しいんだけどね・・・」

 「首を絞めるって・・・フォルトの身長じゃあの人達の首を絞めるの難しくない?」

 「普通ならね。・・・でもほら、上を見て。」

 フォルトが調理場の天井を指さすのでロメリアが上を見上げると、正方形の木の板がびっしりと敷き詰められていた。ところが、フォルトが指さした所の木の板だけ僅かにズレていて、ロメリアがあっと声を上げた。

 「あっ!木の板がズレてるっ!」

 「そう。あそこの木の板を剥がして上に登ったんだ。そしたら上は空洞でさ、隠れるのに最適だったって訳。」

 ロメリアが目を細めて天井を見る。

 「それに天井には・・・所々穴が開いているよね?・・・あそこから下の様子が見えたの?」

 「うん。だから誰がどんな風に動いているのか・・・誰が1人になったのか・・・全員の視線が外れた一瞬を見計らって、天井からこっそりと1人ずつ気を失わせていったんだ。」

 ロメリアがへぇ~と呑気な声を上げた。

 「屋根裏に潜んで1人ずつ倒していくなんて・・・まるで『アサシン』みたいだね!」
 
 ロメリアの言葉にフォルトは乾いた笑い声を小さく上げた。

 「あはは・・・アサシン・・・ね。」

 この時、フォルトはかつて路地裏にいた老婆から言われた事を思い出していた。フォルトは何で今そんな事を思い出したのか・・・自分でも良く分からなかった。フォルトは頭の中からあの時の記憶を弾き飛ばそうと小さく首を振って鼻を鳴らす。

 「どうしたの、フォルト?」

 ロメリアが腰を少し下げてフォルトの顔を覗く。フォルトはロメリアと顔を合わせると頬を軽く上げた。

 「ううん、何でもないよ・・・気にしないで。・・・客席の所に戻ろう?」

 フォルトがそう言うと、2人は調理場を出てジョージ達と合流した。ジョージの周りにはリティ達も集まって座っており、バンカーとラックの怪我の手当てを行っていた。

 フォルトとロメリアもリティ達の傍に近づいて、近くの椅子を持ってくると傍に座った。

 「バンカーさん、ラックさん・・・怪我の方は・・・」

 バンカーは背中を伸ばして、首を左右に曲げる。

 「ああ、俺は特に問題は無いが・・・弟の方が少し怪我は酷いかな。首を捻っちまってるそうだからな。」

 「ラックさん・・・大丈夫ですか?」

 ラックは椅子に深く腰掛けて背もたれに背中を預けながら、ロメリア達に返事をする。

 「大丈夫だよ。・・・少し首を動かしにくい・・・ぐらいかな、困っているのは。・・・いてて」

 ラックが痛そうに顔を歪めると、リティが咄嗟にラックの体に手を添える。
 
 「兄さん・・・やっぱり無理しないで横になってた方がいいよ・・・」

 「ああ・・・そのようだな・・・」

 ラックはリティの手を借りながらゆっくりと椅子を並べて寝転がれるようにした所にそっと寝かせた。

 ジョージがフォルトとロメリアの方を見て頭を下げた。
 
 「ロメリアさん、フォルト君・・・貴女達を余計な問題に巻き込んでしまって申し訳ない。」

 「そんな・・・ジョージさんが謝る必要なんてないですよっ!悪いのはリティさんの思いを尊重しなかった向こうじゃないですか!」

 「・・・寧ろ、僕達の方が謝らないといけません。・・・あの人に怪我を負わせてしまったから・・・ジョージさん達に組合から何かしらの報復措置が取られる原因を作ってしまった・・・」

 フォルトがジョージに頭を下げると、バンカーがフォルトに優しく声をかける。

 「フォルト・・・お前が謝る必要なんかない。そもそも、俺とラックが最初にあの男に殴りかかったんだから・・・例え、何かしら報復を受けてもフォルト達が気にする必要なんかないぞ。」

 「そうだよ、うちの息子達が最初に殴りかかったんだから、ロメリアちゃんやフォルト君が申し訳なく思う必要は無いんだよ?・・・それに、あのままあの男が向かってきてたら私がぶん殴ってやろうと思ってたところだから!」

 ロイナが笑顔で大きな笑い声をあげた。ジョージやバンカー達もロイナと同じく大きく口を開けて笑う。ロメリアとフォルトもいつの間にかロイナ達に釣られて思わず頬を緩めて笑っていた。

 店全体にフォルト達の笑い声が響き、ランプの中でゆらゆらと赤く燃える炎が温かく雰囲気を温める。

 そんな中、ロイナは椅子から立ち上がった。

 「ふぅ・・・さて、と!それはそれとして!そろそろ皆でご飯にしましょうか!ロメリアちゃんもフォルト君も一杯食べてお行き?」

 「良いんですかっ⁉」

 ロメリアの言葉にロイナが笑顔で微笑む。

 「勿論よ!貴女達は今日どんだけ頑張ってくれたか・・・お店の手伝いから、あの男を撃退するまで・・・本当に貴女達には頭が上がらないわ!だから今日はしっかりとお礼させて?美味しい料理一杯作ってあげるからね。」

 ロメリアとフォルトは互いに顔を見合わせて、目を輝かせながらロイナの方を向いた。

 「ありがとうございます、ロイナさんっ!」

 「・・・ありがとうございます。」

 ロイナは小さく微笑むと、調理場へと歩きだした。フォルトはロイナに声をかける。

 「ロイナさん・・・調理場になんですけど・・・まだ、付き人達を縛ったままなんですよね・・・」

 「あら、どうしようかしら?」

 「・・・俺が外に放り出してくるよ。祭りの期間中はあちこちに酔っ払いが道端に倒れているから、別に違和感も何もないだろ。」

 バンカーが席を立ちあがり、調理場へと歩きだした。・・・その時。

 ガチャン・・・カランカラン・・・

 急に店のドアがゆっくりと開き、身長が190㎝はあろうかというぐらいの赤髪で髪の毛を逆立てている中年の男が入ってくる。傍には数人の付き人も同時に入ってきて、腰には剣を携えていた。

 赤髪の男を見たジョージ達は思わず息が止まった。

 「・・・うちのせがれが世話になったのは・・・この店か?」

 男の低く重い声が室内に響き渡る。フォルト達は全員席から立ち上がって男を見つめる。

 『あの男の人・・・さっき来た男の人と同じ髪の色っ!という事は・・・』

 『もう報復に来たのか?しかも祭りの最中に・・・』

 ロメリアとフォルトは咄嗟に身構えて、男を睨みつける。

 ジョージが震えた声でその男に声をかける。

 「はい・・・そうです。・・・ライギス様・・・」

 ライギスという男がジョージ達を見渡す。男の眼光は非常に鋭く、目が合っただけで心臓にナイフを突き立てられているような感覚に襲われる。

 ライギスは少し唸るとジョージ達に声をかける。

 「せがれの顎と鼻の骨を砕いたのは・・・誰だ?」

 ライギスの呼びかけを受け、フォルトとロメリアがライギスの前に出る。ライギスの表情は先程から一切変わってはおらず、ずっと無表情だったが皴が多く、彫りも深くて強面だったため、押しつぶされるような威圧を2人は感じ取った。

 『凄い威圧・・・近づくだけで心臓が止まりそう・・・』

 『・・・』

 リティが震えた声でロメリア達に声をかける。

 「ロメリアさん・・・フォルト君・・・」

 ロメリアはリティの方に振り向いて小さく頷くと、ライギスの方に視線を移して返事をする。

 「顎の骨を砕いたのは私だよ。」

 「僕は鼻の骨を。彼女が地面に貴方の息子を転倒させた時に追撃して砕きました。」

 フォルトとロメリアははっきりとライギスに答えた。ライギスは腕を組んで、2人を見下ろす。威圧感がより高まる。

 「・・・何故、せがれを傷つけた?せがれは何をしたのだ?」

 「貴方の息子さんはこの店の看板娘であるリティさんの気持ちを考えず一方的にしつこく求婚していました。そのせいでリティさんは心を病んで、体調を崩してしまいました。」

 ロメリアが淡々とライギスにリジックがしてきたことを語った。ライギスはそのことを聞き終えると、何度も小さく頷いた。

 「成程・・・如何やら、うちのせがれが私の息子という肩書を利用してこの店の娘に迷惑をかけたようだな。・・・おい、連れてこい。」

 ライギスは付き人の1人に指示を出すと、その付き人は店の外へと出ていった。直ぐにその付き人は帰ってきたが、彼はリジックを連れて店内に入ってきた。

 その時のリジックの顔を見て、フォルトやロメリア、ジョージ達は思わず声を失った。

 『あれ・・・この人こんなにボコボコだったっけ?』

 『ロメリアと僕は顎と鼻の骨しか潰してないのに・・・目の上が腫れてるし、顔全体に青あざがある・・・僕達、そこまでしてないよね?』

 フォルト達がこの店から出ていった時よりも何故か傷が増えているリジックに困惑していると、ライギスがリジックの胸ぐらを掴んでロメリア達の前に叩きつけるようにぶん投げた。リジックはそのまま地面に叩きつけられ、地面に横たわる。

 そしてライギスはリジックの横に立つと、膝をついてリジックの頭に手を置いて床にこすりつけるとライギスも深々とジョージ達に頭を下げた。

 「この度は・・・うちのせがれが迷惑をかけた・・・申し訳ない・・・」

 「・・・」

 フォルト達は思わぬ展開に何も言う事が出来ず、ただライギスとリジックの頭頂部をじっと見下ろしていた。フォルトとロメリアは互いの顔を見合わせた。

 「ロメリア・・・僕、正直言ってこの人達が店に入ってきた時殺し合いが始まると思ったんだけど・・・」

 「私も・・・まさか謝ってくるなんて思って無かった・・・息子があれだから親もきっと悪いんだろうなぁって思って・・・」

 フォルト達が小声で呟いていると、ジョージとリティがライギスとリジックの前に膝をついて床に座ると静かに声をかけた。

 「ライギス様・・・どうか頭を上げてください・・・私達の方こそ、リジック様に怪我を負わせてしまい、申し訳ありませんでした・・・」

 「何、それはうちのせがれが迷惑をかけた結果だ。・・・因果応報というものだよ。」

 ライギスはリジックの頭から手を離すと、リジックは頭をゆっくりと上げた。リジックは正座をしたまま下を俯き、リティ達の方を見ずに床ばっかり見ていた。

 「せがれは先月にもお宅の娘さんに行った事と同じことを他の所でしとるんだ。私の名前を使い、その娘の家族を黙らせ、娘の意思を尊重せず物のように取り扱ったのだ。・・・その時は私が気づいて注意をした。・・・もうしないと言っていたが、一か月も経たずにまたやるとは・・・このバカ息子が。」

 ライギスはリジックを見て深く溜息をついた。リジックは全く動く気配を見せない。

 「こいつは私達が貴方達の様な商品を買ってくれている人達がいるからここまで大きくなれたという事を未だに分かっておらんのだ。・・・先月の件に関しても、脅したのは私達の組合を長年利用してくれていた人達だった。・・・事件の後、その人達は他の街へと移ってしまってうちの組合を利用しなくなった。」

 ライギスはリジックを見て声をかける。

 「リジック。いい加減、お前は自分達の生活が他の人達に支えられているという自覚を持て。これで反省しなければ、私はお前を家から追い出す。」

 「・・・」

 「お前が今、こうして裕福な暮らしが出来ているのは私や先代がずっと『信頼』を集めてきたからなんだぞ?『信頼』はな・・・築き上げるのは何日、何週間、何か月、何年もかかるが、崩すのは1秒もかからないのだぞ。ふとしたきっかけで泡のように弾けて消える・・・それが『信頼』・・・我々商人が最も丁寧に扱う商品なのだぞ。」

 リジックはライギスの言葉を受け、漸く小さく何度も頷いた。するとリジックは少し顔を上げてリティ達を見る。リジックの瞳は涙で潤んでおり、一応反省はしているみたいだ。

 「・・・申し訳・・・ありませんでした。」

 リジックは先程ライギスに無理された時とは違って、今度は自分から頭を深々と下げた。その様子を見たリティがリジックに優しく声をかける。

 「・・・頭を上げてください、リジック様。」

 リジックは頭を上げると、まるで怒られた子供の様に視点を色んな所に慌ただしく動かしながらリティと向かい合った。リティはリジックとは違って真っ直ぐ見つめる。

 「リジック様・・・もうこれからは私の様な人を増やさないって約束できますか?」

 「・・・はい。」

 リティの言葉にリジックはしっかりと頭を下げて頷いた。リティは視線をライギスに向ける。

 「ライギス様・・・リジック様もこう言っていらっしゃいますのでもう許してあげて頂けませんでしょうか?」

 「リティさん・・・よろしいのですか?」

 「はい。・・・私はもう怒っていません・・・彼の口からしっかりと謝罪が聞けたので・・・」

 リティは再びリジックの顔を見る。

 「これからはお父様の威光を借りるのではなく・・・自分自身の力を高めてください。・・・そうすれば、きっと・・・今のリジック様より素敵なお方になると思いますよ。・・・こんなちっぽけな店の看板娘が言うのもなんですけどね。」

 リティはそう言うとリジックに優しく微笑んだ。リティの憎しみや怒りなど無いすっきりとした笑みを向けられたリジックは目に貯めていた涙をとうとう流し始め、再び頭を下げてしまった。

 ライギスがリジックの肩を優しく叩く。

 「リジック、もう顔を上げなさい。・・・全く、困った息子ですよ、ほんとに・・・」

 ライギスが初めて頬を緩めて微笑んだ。それに合わせて、ジョージ達も少しずつ笑顔になっていく。

 店の中の雰囲気が再び温かくなっていった。
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