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~魔皇会議編 最終話~

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[混迷の種]

 グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___海洋___闘技大会まで残り六日

 「ふぅ・・・積荷の不備は無し、と。」

 ゲオルグラディア大陸からアルヴェント大陸へと向かう輸送船の積み荷を整理していた乗組員がタオルで汗を拭う。時刻は既に夜中の二時___夜勤以外の乗組員は全員夢の中だ。

 「おい、点検は終わったか?」

 「ああ、終わったよ。何処にも異常なし、船が揺れても崩れる心配はねぇ。」

 他の所で作業をしていた魔族の男に彼は返事をする。

 「それじゃあ早く戻って飲もうぜ。」

 「おっ、いいねぇ~。またあのデブから上物のワイン盗んできたのか?」

 「ああ、あいつ何度盗まれても酒が無くなったって思ってねえからよ。マジで馬鹿。」

 「へへっ、違いねぇ。」

 二人は笑いながら倉庫を後にする。天井にぶら下がっているランタンの微かな灯りだけが倉庫をぼんやりと照らす。船はゆっくりと左右に揺れて『ギギギギ・・・』と軋む音が静かに響いている。

 ガタ・・・ガタ・・・

 そんな倉庫の中である木箱が激しく揺れていた。木箱には『《バルド地方原産・コーレス花の香料》___ベリーズ港着、コロッセウム行き』と書かれており、暫く揺れた後木箱の蓋が少し開いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 デュンケルハイト達が大陸を発った翌日の朝___その朝も昨日と大差は無かった。いつものように家政婦達が朝食の準備や屋敷の清掃を行い、その内の一人が家に残っているヴィオラを起こしに行った。ヴィオラは昨日の夜夕食を取っていない。兄との関係が若干悪化してしまったせいで行きづらかったのだろうが、朝食まで抜くとなると体に悪い。起こしに行ったメイドはヴィオラの寝室へ向かうと扉を三回ノックする。

 「ヴィオラ様、朝食のお時間となりましたのでお迎えに参りました。」

 メイドが呼びかけるが部屋の中から返事はない。でもこれは珍しい事ではない。きっと今日もまだベッドの上で眠っているのだろう。

 「ヴィオラ様、失礼しますね?」

 メイドは扉を開けて寝室に入る。寝室に入ってベッドを確認するとヴィオラはベッドの上で全身を毛布で包んで丸まっていた。カーテンを開け、瘴気で霞んだ日差しが室内に優しく入る。

 「もう朝ですよ、ヴィオラ様。本日も良い天気です。」

 「・・・」

 「ヴィオラ様、本日は学校がお休みの日ですが、だからと言ってずっと眠っているのは良くありませんよ?」

 「・・・」

 「デュンケルハイト様がお帰りになられた時に言いつけますよ?きっとお怒りになりますよ?それでもよろしいんですか?」

 「・・・」

 ヴィオラはベッドの上で微動だにしない。メイドは腰に手を当てて溜息を吐くとベッドに近づいて毛布に手をかける。

 「ヴィオラ様!起きて下さい!」

 メイドは一切の躊躇なく毛布をまくり上げた。すると次の瞬間、無数の枕が目の前に飛び込んできた。毛布でくるんであったおかげで形を保っていた枕達は毛布をはぎ取られてあちこちに散らばる。___そこにはヴィオラの姿は無かった。

 「ヴィオラ様⁉」

 メイドは目の前の光景に困惑し、積まれている無数の枕を退かす。しかしヴィオラの姿は何処にもなかった。

 「ヴィオラ様!どこに隠れていらっしゃるのですか⁉冗談はお止め下さい!」

 彼女が周囲を見渡しながら声をあげると近くを通り過ぎた他のメイドが顔を出す。

 「どうしたの、そんなに叫んで。」

 「ヴィオラ様がいないの!」

 「嘘ッ⁉」

 「本当よ!まだ眠っていると思って毛布を取ったら枕が大量に積まれてていなかったの!今部屋の中を探していたんだけど見つからなくて・・・」

 彼女が混乱して慌てふためいていると顔を出したメイドが落ち着かせる。

 「大丈夫、一回落ちつこう?とにかく、執事長にこのことを報告するのが先よ。」

 「えぇ・・・そうね・・・」

 混乱しているメイドを落ち着かせると、二人はヴィオラの寝室を後にした。その後、使用人たち総出で屋敷の中とその周囲を捜索したがヴィオラを見つけることが出来なかった。___一体何処へ消えたのか・・・執事長はある考えを思い浮かべながらアルヴェント大陸へ向かっているデュンケルハイトに伝書鳩を飛ばした。
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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

黄昏詩人
2021.08.29 黄昏詩人

スパークノークスさん、ありがとうございます。楽しんで読んでくださるよう精進して参りますので、今後とも宜しくお願い致します。

解除

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