49 / 49
~魔皇会議編 最終話~
しおりを挟む
[混迷の種]
グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___海洋___闘技大会まで残り六日
「ふぅ・・・積荷の不備は無し、と。」
ゲオルグラディア大陸からアルヴェント大陸へと向かう輸送船の積み荷を整理していた乗組員がタオルで汗を拭う。時刻は既に夜中の二時___夜勤以外の乗組員は全員夢の中だ。
「おい、点検は終わったか?」
「ああ、終わったよ。何処にも異常なし、船が揺れても崩れる心配はねぇ。」
他の所で作業をしていた魔族の男に彼は返事をする。
「それじゃあ早く戻って飲もうぜ。」
「おっ、いいねぇ~。またあのデブから上物のワイン盗んできたのか?」
「ああ、あいつ何度盗まれても酒が無くなったって思ってねえからよ。マジで馬鹿。」
「へへっ、違いねぇ。」
二人は笑いながら倉庫を後にする。天井にぶら下がっているランタンの微かな灯りだけが倉庫をぼんやりと照らす。船はゆっくりと左右に揺れて『ギギギギ・・・』と軋む音が静かに響いている。
ガタ・・・ガタ・・・
そんな倉庫の中である木箱が激しく揺れていた。木箱には『《バルド地方原産・コーレス花の香料》___ベリーズ港着、コロッセウム行き』と書かれており、暫く揺れた後木箱の蓋が少し開いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
デュンケルハイト達が大陸を発った翌日の朝___その朝も昨日と大差は無かった。いつものように家政婦達が朝食の準備や屋敷の清掃を行い、その内の一人が家に残っているヴィオラを起こしに行った。ヴィオラは昨日の夜夕食を取っていない。兄との関係が若干悪化してしまったせいで行きづらかったのだろうが、朝食まで抜くとなると体に悪い。起こしに行ったメイドはヴィオラの寝室へ向かうと扉を三回ノックする。
「ヴィオラ様、朝食のお時間となりましたのでお迎えに参りました。」
メイドが呼びかけるが部屋の中から返事はない。でもこれは珍しい事ではない。きっと今日もまだベッドの上で眠っているのだろう。
「ヴィオラ様、失礼しますね?」
メイドは扉を開けて寝室に入る。寝室に入ってベッドを確認するとヴィオラはベッドの上で全身を毛布で包んで丸まっていた。カーテンを開け、瘴気で霞んだ日差しが室内に優しく入る。
「もう朝ですよ、ヴィオラ様。本日も良い天気です。」
「・・・」
「ヴィオラ様、本日は学校がお休みの日ですが、だからと言ってずっと眠っているのは良くありませんよ?」
「・・・」
「デュンケルハイト様がお帰りになられた時に言いつけますよ?きっとお怒りになりますよ?それでもよろしいんですか?」
「・・・」
ヴィオラはベッドの上で微動だにしない。メイドは腰に手を当てて溜息を吐くとベッドに近づいて毛布に手をかける。
「ヴィオラ様!起きて下さい!」
メイドは一切の躊躇なく毛布をまくり上げた。すると次の瞬間、無数の枕が目の前に飛び込んできた。毛布でくるんであったおかげで形を保っていた枕達は毛布をはぎ取られてあちこちに散らばる。___そこにはヴィオラの姿は無かった。
「ヴィオラ様⁉」
メイドは目の前の光景に困惑し、積まれている無数の枕を退かす。しかしヴィオラの姿は何処にもなかった。
「ヴィオラ様!どこに隠れていらっしゃるのですか⁉冗談はお止め下さい!」
彼女が周囲を見渡しながら声をあげると近くを通り過ぎた他のメイドが顔を出す。
「どうしたの、そんなに叫んで。」
「ヴィオラ様がいないの!」
「嘘ッ⁉」
「本当よ!まだ眠っていると思って毛布を取ったら枕が大量に積まれてていなかったの!今部屋の中を探していたんだけど見つからなくて・・・」
彼女が混乱して慌てふためいていると顔を出したメイドが落ち着かせる。
「大丈夫、一回落ちつこう?とにかく、執事長にこのことを報告するのが先よ。」
「えぇ・・・そうね・・・」
混乱しているメイドを落ち着かせると、二人はヴィオラの寝室を後にした。その後、使用人たち総出で屋敷の中とその周囲を捜索したがヴィオラを見つけることが出来なかった。___一体何処へ消えたのか・・・執事長はある考えを思い浮かべながらアルヴェント大陸へ向かっているデュンケルハイトに伝書鳩を飛ばした。
グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___海洋___闘技大会まで残り六日
「ふぅ・・・積荷の不備は無し、と。」
ゲオルグラディア大陸からアルヴェント大陸へと向かう輸送船の積み荷を整理していた乗組員がタオルで汗を拭う。時刻は既に夜中の二時___夜勤以外の乗組員は全員夢の中だ。
「おい、点検は終わったか?」
「ああ、終わったよ。何処にも異常なし、船が揺れても崩れる心配はねぇ。」
他の所で作業をしていた魔族の男に彼は返事をする。
「それじゃあ早く戻って飲もうぜ。」
「おっ、いいねぇ~。またあのデブから上物のワイン盗んできたのか?」
「ああ、あいつ何度盗まれても酒が無くなったって思ってねえからよ。マジで馬鹿。」
「へへっ、違いねぇ。」
二人は笑いながら倉庫を後にする。天井にぶら下がっているランタンの微かな灯りだけが倉庫をぼんやりと照らす。船はゆっくりと左右に揺れて『ギギギギ・・・』と軋む音が静かに響いている。
ガタ・・・ガタ・・・
そんな倉庫の中である木箱が激しく揺れていた。木箱には『《バルド地方原産・コーレス花の香料》___ベリーズ港着、コロッセウム行き』と書かれており、暫く揺れた後木箱の蓋が少し開いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
デュンケルハイト達が大陸を発った翌日の朝___その朝も昨日と大差は無かった。いつものように家政婦達が朝食の準備や屋敷の清掃を行い、その内の一人が家に残っているヴィオラを起こしに行った。ヴィオラは昨日の夜夕食を取っていない。兄との関係が若干悪化してしまったせいで行きづらかったのだろうが、朝食まで抜くとなると体に悪い。起こしに行ったメイドはヴィオラの寝室へ向かうと扉を三回ノックする。
「ヴィオラ様、朝食のお時間となりましたのでお迎えに参りました。」
メイドが呼びかけるが部屋の中から返事はない。でもこれは珍しい事ではない。きっと今日もまだベッドの上で眠っているのだろう。
「ヴィオラ様、失礼しますね?」
メイドは扉を開けて寝室に入る。寝室に入ってベッドを確認するとヴィオラはベッドの上で全身を毛布で包んで丸まっていた。カーテンを開け、瘴気で霞んだ日差しが室内に優しく入る。
「もう朝ですよ、ヴィオラ様。本日も良い天気です。」
「・・・」
「ヴィオラ様、本日は学校がお休みの日ですが、だからと言ってずっと眠っているのは良くありませんよ?」
「・・・」
「デュンケルハイト様がお帰りになられた時に言いつけますよ?きっとお怒りになりますよ?それでもよろしいんですか?」
「・・・」
ヴィオラはベッドの上で微動だにしない。メイドは腰に手を当てて溜息を吐くとベッドに近づいて毛布に手をかける。
「ヴィオラ様!起きて下さい!」
メイドは一切の躊躇なく毛布をまくり上げた。すると次の瞬間、無数の枕が目の前に飛び込んできた。毛布でくるんであったおかげで形を保っていた枕達は毛布をはぎ取られてあちこちに散らばる。___そこにはヴィオラの姿は無かった。
「ヴィオラ様⁉」
メイドは目の前の光景に困惑し、積まれている無数の枕を退かす。しかしヴィオラの姿は何処にもなかった。
「ヴィオラ様!どこに隠れていらっしゃるのですか⁉冗談はお止め下さい!」
彼女が周囲を見渡しながら声をあげると近くを通り過ぎた他のメイドが顔を出す。
「どうしたの、そんなに叫んで。」
「ヴィオラ様がいないの!」
「嘘ッ⁉」
「本当よ!まだ眠っていると思って毛布を取ったら枕が大量に積まれてていなかったの!今部屋の中を探していたんだけど見つからなくて・・・」
彼女が混乱して慌てふためいていると顔を出したメイドが落ち着かせる。
「大丈夫、一回落ちつこう?とにかく、執事長にこのことを報告するのが先よ。」
「えぇ・・・そうね・・・」
混乱しているメイドを落ち着かせると、二人はヴィオラの寝室を後にした。その後、使用人たち総出で屋敷の中とその周囲を捜索したがヴィオラを見つけることが出来なかった。___一体何処へ消えたのか・・・執事長はある考えを思い浮かべながらアルヴェント大陸へ向かっているデュンケルハイトに伝書鳩を飛ばした。
0
お気に入りに追加
45
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界で俺はチーター
田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。
そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。
蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?!
しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
羨んでいたダンジョンはおれが勇者として救った異世界に酷似している~帰還した現代では無職業(ノージョブ)でも異世界で培った力で成り上がる~
むらくも航
ファンタジー
☆カクヨムにてでローファンタジー部門最高日間3位、週間4位を獲得!
【第1章完結】ダンジョン出現後、職業(ジョブ)持ちが名乗りを上げる中、無職業(ノージョブ)のおれはダンジョンを疎んでいた。しかし異世界転生を経て、帰還してみればダンジョンのあらゆるものが見たことのあるものだった。
現代では、まだそこまでダンジョン探索は進んでいないようだ。その中でおれは、異世界で誰も知らない事まで知っている。これなら無職業(ノージョブ)のおれもダンジョンに挑める。おれはダンジョンで成り上がる。
これは勇者として異世界を救った、元負け組天野 翔(あまの かける)が異世界で得た力で現代ダンジョンに挑む物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
スパークノークスさん、ありがとうございます。楽しんで読んでくださるよう精進して参りますので、今後とも宜しくお願い致します。