オルタナティブ・ガーディアンズ ~救世の英雄は世界に希望を灯す~

黄昏詩人

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~魔皇会議編 第15話~

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 グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___ゲオルグラディア大陸北西部・ヴァルグ村

 ディルメルガの指令を受けたデュンケルハイトはその後私邸へと戻り、グラズウィンを連れ戻すための作戦を練り始めた。

 「今すぐメルヴィン達を招集しろ。」

 「承知いたしました。直ちに召集致します。」

 デュンケルハイトはヴェアウルフの精鋭部隊の招集を呼びかけると、寝室へ戻り支度を行う。傍にいたヴィオラはもじもじしながら支度する兄に話しかけた。

 「お・・・お兄ちゃん・・・」

 「何だヴィオラ?」

 「・・・」

 「どうした何か言いたいことがあるのならさっさと言え。今忙しいのが分からないのか?」

 デュンケルハイトは手を止めてヴィオラを見る。ヴィオラはもじもじしながら思っていることを伝える。

 「あ・・・あのね・・・ヴィオラ、お兄ちゃんと一緒に行っちゃダメ?」

 「・・・」

 「ヴィオラ、お兄ちゃんと一緒に仕事がしたい・・・まだ未熟だからその・・・上手く出来ないかもだけど・・・お仕事のお勉強がした___」

 「ヴィオラ、お前舐めてるのか?」

 「えっ・・・」

 兄の重く威圧の感じる声にヴィオラは身を強張らせる。その眼つきは仕事の時に見せるもので、目があったものに恐怖と死を植え付けるものだ。

 「一つ質問するぞ?・・・お前は俺が連れて行くと本気で思っているのか?未成年でまだ力の制御が上手く出来ていないお前を。精神も未熟で過酷な状況でも折れない屈強な心を持っていないお前を。」

 「・・・」

 「まだお前が俺の横で戦うことなんて十年早い。仕事は遠足でもなんでもないぞ?役に立たないと分かっているのなら、邪魔をするな。お前は家に残って大人しくしているんだ。」

 デュンケルハイトは淡々とヴィオラに語り掛ける。彼女は言葉を返すことが出来ず、スカートの裾を掴んで顔を俯ける。そんなところに執事がやってきてデュンケルハイトに声をかける。

 「・・・お取込み中でしたか?」

 「いいや、問題ない。何の用だ?」

 「精鋭部隊の皆様が到着しました。只今作戦室にてお待ちになっております。」

 「分かった。今から向かう。」

 デュンケルハイトはそう言って部屋の外へ向かう。ヴィオラはただ一人兄の寝室に残された。デュンケルハイトが一階にある作戦室へと向かうと室内には四人のヴェアウルフが椅子に座って待機していた。

 「隊長、遅いぜ。またヴィオラ様のお守りでもしてたのか?」

 「そんなとこだ、メルヴィン。」

 デュンケルハイトは皆の前に立った。メルヴィンと呼ばれた癖毛の強い銀髪をしている男は机の上に両足を乗せて組んでいる。隣にいる黒色の癖の強いウェーブのかかったセミロングの髪をしている女ヴェアウルフがデュンケルハイトに尋ねる。

 「隊長、今回招集された理由は何なのでしょうか?」

 「今回お前達を招集したのはディルメルガ様のご子息___グラズウィン様を連れ戻す為だ。」

 デュンケルハイトがそう告げると、眼鏡をかけた赤髪の男が呟く。

 「・・・グラズウィン様は隊長が世話していたんじゃないんですか?」

 「そうだが情けないことに逃してしまった。ディルメルガ様との一悶着あった時に幻術だと判明した。」

 「てことは陛下の目をも欺いたって訳か⁉そりゃあスゲエ!隊長だけじゃなくて陛下をも幻術で欺けるとかセンス高すぎだろ!」

 メルヴィンが大きな笑い声をあげる。すると隣にいた女ヴェアウルフがメルヴィンの横腹を肘で強く打って黙らせる。

 「グラズウィン様が何処へ向かわれたのか、見当はついているのですか?」

 「それについてはおおよその見当はついている。アルヴェント大陸西部に位置する闘技都市コロッセウムだ。グラズウィン様はディルメルガ様の意に反して闘技大会へ参加するおつもりだ。」

 「意に反して・・・先の襲撃事件で陛下はご子息の参加を見送る決断をなさっていたのですね。」

 「別にいいんじゃね?放っておいても。闘技大会でもなんでもやらせりゃあいいだろ。」

 「何も無ければ俺もそう思っているが、謎の勢力が蠢いているこの状況で次期魔王であるグラズウィン様を単独で行動させる訳にはいかない。敵がこの情報を聞きつけて危害を加える可能性が十分に高い。」

 「仮にグラズウィン様に何かあれば陛下を良く思っていない反対勢力に勢いを持たせてしまう可能性もありますからね。」

 「ちっ・・・面倒くせぇ。」

 「そう言うな、メルヴィン。これも仕事だ。」

 デュンケルハイトはメルヴィンに小さく微笑む。

 「この任務では人間側の情勢を考慮し、最少人数で作戦を行う。そこで俺達ヴェアウルフ精鋭部隊『アルトヴォルフ隊』の出番という訳だ。」

 「ま、少数人数で作戦遂行できる部隊と言ったら俺達しかいないよな。でも久しぶりの任務がガキの捜索って・・・」

 「メルヴィン!口を慎みなさい!グラズウィン様をガキ呼ばわりするとはどういうことなの⁉」

 「うるせえな、カリーナ!何か文句でもあるか⁉」

 「ええ、あるわ!」

 メルヴィンとカリーナが椅子から立ち上がって睨み合う。デュンケルハイトはその二人の仲裁に入った。

 「落ち着け、お前ら!メルヴィン、お前はディルメルガ様に対して敬意を払え。カリーナも声を荒げてまでそう言い寄るな。」

 「・・・」

 「申し訳ありませんでした、隊長。」

 二人を落ち着かせると、デュンケルハイトは改めて作戦の続きを口にする。

 「この会議の後、各自支度を整えて日付が回るまでにガルッゾ港に集合せよ。その後の流れについては船の上で話す。何か質問がある者は?」

 「特にありません。」

 「俺もねえよ。」

 「・・・無いです。」

 「同じく。」

 「よし、では一旦解散する。」

 デュンケルハイトの言葉で皆一斉に立ち上がって部屋を後にする。皆が部屋を出た後、執事が部屋へ入ってくる。

 「グラズウィン様の行方は分かったか?」

 「いいえ。現在把握している情報としては未だグラズウィン様の行方を掴めていないということと魔王城に滞在していたドラゴン部隊の内の一名の消息が分からなくなっているということです。その者がドラゴンになって飛んでいったとの話もあるようで、既にこの大陸を出たのではないかと・・・」

 「協力者・・・ではなさそうだな。恐らくそいつも幻術・・・錯乱魔術か何かで意識を支配させているのだろう。」

 「・・・」

 「報告助かった。また何か分かればすぐに知らせてくれ。」

 「承知いたしました。」

 執事はお辞儀をして部屋から立ち去ろうとする。その時デュンケルハイトが彼を呼び止めた。

 「待て。・・・ヴィオラは今何してる?」

 執事は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

 「・・・ヴィオラ様は私室へお戻りになった後、部屋から出てきておりません。夕食の準備が出来ましたのでお声をかけたのですが、一向に返事が無く___ただ静かに鼻をすする音が聞こえてくるだけでした。」

 「・・・そうか。」

 「デュンケルハイト様・・・大変恐れ多いのですが、一度ヴィオラ様としっかり話し合った方がよろしいのではないでしょうか?」

 執事の言葉にデュンケルハイトは小さく溜息を吐く。

 「その必要はない。ヴィオラは駄々をこねているだけだ。一晩もすれば落ち着く。」

 「ですが・・・」

 「夕食も来る気配が無ければ食べさせる必要はない。妹を過剰に甘えさせるな。」

 デュンケルハイトは冷たくそう告げると部屋を出ていった。執事は少し悲しそうな目でデュンケルハイトを見つめるが何も言うことが出来ず彼の後を追って部屋から出ていった。
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