オルタナティブ・ガーディアンズ ~救世の英雄は世界に希望を灯す~

黄昏詩人

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~魔皇会議編 第13話~

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[墓荒し]

 グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___ゲオルグラディア大陸西部・星后・幻王陵墓地___闘技大会まで、残り七日

 「これは・・・酷い様だね。」

 マルファスが陵墓の周囲に倒れている無残なヴェアウルフやドラゴン達の死体を見て、思わず声を漏らした。生存者の姿が見えない代わりに、古墳のような小さな山となっている陵墓の上には二つの人影が見える。

 「貴様ら、その場から動くな!」

 デュンケルハイトが二つの影に向かって叫ぶ。二人はゆっくりとデュンケルハイト達に体を向ける。

 「Oh , My Sister . 何やら新たなお客さんが来ちゃったようだよ~。」

 「・・・そうですね。思ったよりも早い到着でしたね。」

 お茶らけた男の声と凛とした女の声が聞こえてきた。そんな二人に対し、ディルメルガが陵墓に近づく。

 「お前達、今自分が何をしているのか分かっておるのか?」

 ディルメルガがそう告げた直後、上にいる女が彼の足元に矢を放った。放たれた矢は彼の足の指の前に刺さった。

 「今のは警告だ。それ以上近づけば、今度は貴様の眉間を撃ち抜く。」

 「ほう?汚らわしい侵入者の分際で警告とは・・・随分と舐められたものじゃないか、ディルメルガ。これは丁寧に教え込む必要があるんじゃないかね?」

 「ああ・・・我もそう思う。」

 マルファスの言葉に返事をしたディルメルガは魔力を漲らせていく。その様子を見た男が、大袈裟なジェスチャーで間に入る。

 「Stop , Stop ! 僕達は別に君達と争いに来た訳じゃないんだ。___『今はね』。」

 「今は?」

 「僕達はただ『かつて失ったもの』を取りに来ただけなんだ。___妹が失礼な態度を取ってしまい、大変失礼だったね。謝るよ。」

 男がそう告げた瞬間、瘴気が少し薄まり、陽の光が差し込んできた。二人の影が剥がれていき、はっきりと姿を現した。その二人の姿を見たマルファスが目を細める。

 「金色の月と星を模した弓使いの魔族・・・片方の女は勇者ウィルベールから貰った情報と一致するよ。」

 「Oh , 今の魔族は人間と通じているのかい?時代は変わったものだね~。」

 「えぇ、そうですねお兄様。___情けない方へ変わってしまいましたね。」

 アルテミスが吐き捨てるように告げた。隣にいたアポロンは下の三人に自分の名を告げる。

 「そう言えば自己紹介をしていなかったね、いけない、いけない。僕の名前はアポロン。隣にいるのは僕の愛する可愛い可愛い妹のアルテミスだ。」

 「・・・アルテミス・・・アポロン・・・かつての魔王と同じ名か。___兄妹揃って魔王の真似か?」

 「まさか!僕達は正真正銘本物の『元魔王』さ。・・・でも当時の魔族は皆死んじゃってるから証明できないか~、残念。・・・あ、でも長生きしてるエルフとかは僕達の事知ってるかも。気になったら彼らに聞いてみれば~?君達彼らとも仲良くなったらしいし、教えてくれると思うよ~?」

 アポロンはへらへらと魔王らしからぬ振る舞いをする。マルファスがディルメルガの横へやって来る。

 「ディルメルガ、奴の言葉を信じるか?」

 「・・・あの態度。本当のことを言っているのか嘘を言っているのかさっぱり分からん。」

 「お前の読心術でも読めないのか。___となると、あいつが本当に魔王かどうかはさておいても中級以下・・・いや並の上級魔族ではないというのは確かだな。お前が読めない奴となると・・・」

 「我と同様に魔王クラスの魔族か魔王と同等程度の膨大な魔力を有する上級魔族に限られる。・・・どうであれ、厄介な奴らに変わりない。」

 ディルメルガはそう言うと、魔力を一気に解き放った。アポロンはピクリとも動揺しなかったが、アルテミスは咄嗟に矢を番える。

 「マルファス、デュンケルハイト___構えよ。ここで奴らを潰す。例えあの者達が誠に古の魔王の『怨念』であろうとも、我の世にそのような忌々しき『闇』は不要だ。」

 「了解ッ!」

 「・・・ま、あの者達を捉えたら私がもらうことでいいかな?色々と確かめてみたいからね。」

 デュンケルハイトとマルファスも戦闘態勢に入る。アルテミスが三人に狙いを定める中、アポロンはアルテミスの肩に手を置いた。

 「相手にする必要は無いよ、僕の愛しの妹。既に目的は達した。僕達はこのまま家に帰るよ。変に作戦を変えちゃったら後で怒られちゃうからね。」

 「・・・了解しました。」

 アルテミスは弦をゆっくりと戻す。その時、アポロンが周囲に転送魔術を展開する。デュンケルハイトが拳に蒼炎を纏わせて突撃する。同時にマルファスとディルメルガも瘴気を纏った無数の錆びついた槍を召喚し、一気に射出する。

 「逃がさんッ!」

 槍とデュンケルハイトの拳が彼らの目の前に来た___が、その瞬間に二人はその場から姿を消した。デュンケルハイトの拳は陵墓に巨大なクレーターを作り、槍は墓標のように突き刺さった。

 「中々にやるね。周囲に逃走防止結界を張っていたのに、それを全て抜けていったよ。・・・あの短期間で中々にやる。」

 「・・・」

 「ディルメルガ、そんな怖い顔をしないでくれよ?私だって別に手を抜いていた訳じゃない。現行存在する最高の結界を張ってたんだ。それが破られた以上、現段階ではどうしようもない。直ぐに改良を施すよ。」

 「頼むぞ、マルファス。今度遭遇した際は奴らを逃がさぬように新術を開発するのだ。」

 ディルメルガはそう告げて古墳を登っていく。マルファスも彼の後に続く。頂上へ着くと、デュンケルハイトが深々と頭を下げた。

 「申し訳ありません、ディルメルガ様。後もう少し早ければ___」

 「謝る必要は無い。・・・それよりも奴らが盗んだものが気になる。」

 ディルメルガは先へ進み、古墳中央の墓への入口へ向かう。入口は盛大に破壊されており、古墳の中へ続く階段が露となっていた。三人が階段を下りると、かつての魔王『星后アルテミス』と『幻王アポロン』の墓が荒らされていた。中に入っていた『死体』は無くなっており、砕けた墓標が代わりに入っていた。

 「死体が無い・・・」

 「まぁそもそもここには古の魔王の骨しか保管されていないからな。高価な物としてはそこらにある金剛石を用いた燭台や生前の姿を模した金の魔王像があるがそれらは盗まれてない・・・」

 マルファスが言葉を途中で詰まらせる。

 「どうした?」

 「・・・当時の姿を模した魔王像・・・こいつか。・・・驚いたね。奴らの姿とそっくりじゃないか。特にあの男の方・・・この嫌みったらしい生臭った顔は像でもしっかりと表現されてるね。芸術点高いよ、これは。」

 「芸術点に関してはどうでもよいが、確かに似ておるな。横にいた女もアルテミス像と瓜二つだ。」

 「ではあの二人は正真正銘元魔王だと・・・いうことですか?」

 「限りなく近いだろうね。まだはっきりと断言はできないが、ほぼほぼ同一人物といっても間違いじゃない。ただ・・・仮にあれが『本物』だとして、奴らはどうやって生きていた?」

 「言われれば妙だな。復活したというのならば古墳は内側から破壊される筈。だが奴らは外から攻めてきた。魂だけで動いていたのか?」

 「馬鹿馬鹿しいね。肉体も無しに魂だけで実体を得て動けるなどこの世に現時点までに存在する二万三千九百七十五の術の中にそんなものはないよ。誰かが開発すれば話は別だが、それほどの天才は今のこの世にはいない。かつて人間にも魔族にもいたどの天才でさえも編み出せなかった術なのだから。・・・しかし奴らがいるということはその術、又はそれに近いモノがあるということには違いない。・・・悔しいね。私が知らない術がこの世にあるというのが非常に腹立たしいよ。余りの腹立たしさに胃がひっくり返ってしまいそうだ。」

 マルファスが不機嫌そうに舌を打つ。デュンケルハイトが墓を調べていると、ディルメルガが話しかけてきた。

 「デュンケルハイトよ、お主に伝えたいことがある。」

 「はい、何でしょうか?」

 「此度の闘技大会の件についてだが・・・息子に伝えてくれ。『お前を大会に参加させん』とな。」

 「・・・見送るということですか?」

 「そうだ。勇者ウィルベールより奴らの情報を得た時からどうしようかと悩んでいたのだが・・・事が思ったよりも厄介なものだと今回認識させられた。大会が催されるコロッセウムは王都と同等の軍事規模を誇る上に、あの街自体が巨大な要塞であるので安心と思っていたが、そうは言ってられん。」

 「・・・」

 「我の意見をどう思う?」

 「私は___」

 デュンケルハイトは言葉に詰まった。ディルメルガが息子を想う気持ちは妹を持つ自分からすれば痛い程良く分かる。しかし来週の大会に向けて漸くやる気になってくれたグラズウィンの気持ちを想えば非常に複雑だった。暫し考えた後、デュンケルハイトは言葉を続けた。

 「___賢明な判断だと思います。・・・ですが、一度ご子息と深く相談なされては如何かと。グラズウィン様の意思を汲んでから判断しても問題は無いかと思います。」

 「うむ・・・そうだな。」

 「・・・」

 「デュンケルハイト、まずはお主から話せ。その後に、もし我と話したいと申したならば、連れて来るが良い。」

 「承知いたしました。」

 デュンケルハイトが小さく頭を下げて返答する。ディルメルガは何処か憂いた表情をしたままマルファスの方に顔を向ける。マルファスは何やら墓を調べていた。

 「マルファス、我とデュンケルハイトは城へ戻るがお前はどうする?」

 「私は残る。幾らか調べたいことがあるからな。」

 「分かった。・・・デュンケルハイト、行くぞ。」

 ディルメルガはそう言って足元に転送魔術を展開し、デュンケルハイトと共にその場から消えた。マルファスは一人残されると、静かに溜息をついた。
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