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~魔皇会議編 第9話~

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 グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___ゲオルグラディア大陸北部・魔王城・訓練場___闘技大会まで、残り十三日

 「お兄ちゃん・・・」

 全身傷だらけになっている兄の姿を見たヴィオラはドレスの胸元を抑えながら呟いた。兄が負けるわけがない・・・世界で一番強いのは兄だと心から信じている彼女はぎゅっと唇を噛み、負けないでと心から願った。

 すると隣にいた同級生の魔族達が小声で呟いているのが聞こえた。

 「ああー、デュンケルハイト様ボロボロじゃん。やっぱヴェアウルフじゃドラゴンには勝てないのかー。」

 「そりゃそうだよ。ヴェアウルフ族は四大貴族の中では末席、ドラゴン族は四大貴族でも最上位。そもそも数百年前まではヴェアウルフ族は四大貴族でもなんでもなかったからね。」

 「確か元はドラゴン族、ヴァンパイア族、夜鴉族の三大貴族だったっけか?・・・よくヴェアウルフ族が入ったもんだね。」

 「当時のヴェアウルフ族が強かったんじゃない?それでも当時の決闘ではドラゴン族が勝ってるけど。」

 「なぁ、ドラゴン族とヴェアウルフ族の決闘って今回で何回目だっけ?」

 「えっと・・・確か百八回目だったかな?因みに今まで百七回の決闘では全戦ドラゴン族が勝ってるよ。」

 「じゃあ今回で百八回目だな。デュンケルハイト様カッコイイから勝ってほしかったんだけどなー。」

 彼らが大きな溜息をつく。ヴィオラは彼らの発言を聞いて、悔しくなりドレスの裾を握りしめる。

 「ありゃりゃ、大好きなお兄ちゃんが負けそうだよ~、ヴィオラ~。もっと頑張って応援しないと。」

 後ろから声をかけられて彼女は振り返る。声のした方には同じクラスにいるドラゴン族の男子が数名おり、ヴィオラを嘲笑っていた。

 「ヴィオラ~、お前言ってたよな?今回の決闘ではお兄ちゃんが勝つんだって。どう?勝てそうか?」

 「・・・」

 「おいおい、睨んでないで何か言えよ、『泣き虫ヴィオラ』。」

 「・・・うるさい・・・あっち行ってよ・・・」

 「おい、今の聞いたか⁉『あっち行ってよ』だってさ!あはははは!」

 リーダー格の男の子がヴィオラの肩を勢いよく押して転倒させる。ヴィオラは尻もちをつくと、顔を歪ませる。

 「うっ!」

 「偉そうに言ってんじゃねぇよ。俺達はドラゴン族だぞ?お前よりも遥かに高位の種族なのに何命令してんだよ。四大貴族の一角だからって調子にのんなよ。」

 彼女を虐める彼らがヴィオラを見下しながら告げる。ヴィオラは歯を食いしばり、彼らを睨みつける。

 魔族の中では今なお差別思想を持っている者達が大勢いる。これは昔の武力・魔力社会の名残で、特にドラゴン族のような昔から絶大な権力と力を持っている種族はこの思想が根深く残っている。人魔共生条約で大きく世界の流れが変わったとは言えども、まだローカルな空間ではこの思想の影響力は大きいのが現状だ。

 その影響で周りの同級生も先生も彼らに口が出せないでいた。口を出せば後で何と言われるか、何をされるか分かったものでは無かったからだ。ヴィオラはゆっくりと立ち上がると、ドレスの汚れを払う。しかし汚れが思った以上に残ってしまった。

 『ドレスが・・・汚れちゃった・・・』

 ヴィオラが来ているドレスは兄からの贈り物の中で一番のお気に入りだった。何故ならこのドレスは兄と一緒に考えたもので、完成したものを着た時に兄がとても喜んでくれたからだ。只買ったのではなく、兄と一緒にデザインを考えたりしたもので思い入れが深かった。そのドレスを汚されたことでヴィオラの怒りのボルテージがどんどん上がっていき、体がわなわなと震えだした。

 「おいおい、こいつまた震えだしたぞ!また泣き出すかも!」

 ドラゴン族の男の子達が騒ぎ立てる中、リーダー格のドラゴン族の男の子がヴィオラに告げる。

 「何だよ、言いたいことがあるなら何か言えよ。いっつもメソメソして気持ちわりぃな。」

 「・・・」

 「ていうかさ、お前身の程知らずなんだよ。ヴェアウルフ族がドラゴン族に勝てるわけ無いじゃん。今まで一度も勝ったこと無いのに。持っている魔力量も力も全然違うのにさ。」

 「・・・関係ない。」

 「あ?」

 彼が高圧的な声をあげると、ヴィオラはゆっくりと顔を上げて睨みつける。

 「そんなの・・・関係ない。どんだけ相手が強くても・・・お兄ちゃんが絶対に勝つんだから・・・」

 「だからそんなの天地がひっくり返ったって在り得な___」

 男の子が言い返そうとしたその時、

 ドンッ!

 「ぐえッ!」

 ヴィオラは男の子の目の前に一瞬で移動し、彼の顔を全力で殴った。彼の顔は大きく歪み、盛大に吹き飛んだ。

 「こいつッ!」

 近くにいた他のドラゴン族の男の子二人がヴィオラに殴りかかるが、ヴィオラは攻撃を見切ると、反撃。一人の男の子の顎を蹴り上げ、もう一人は足を素早く払って転倒させると、踵落としを顔に喰らわせる。二人共白目を剥いて気絶している。他のドラゴン族の同級生や近くにいる同級生、人々は彼女に動揺している。

 ヴィオラは先程殴り飛ばした男の子の方へ歩く。男の子は鼻血を出しながら、折れた歯を掌にのせている。

 「は・・・俺の歯が・・・」

 「・・・」

 「ひっ⁉」

 ヴィオラが彼の前に立って見下ろすと、男の子は怖れをなして縮こまる。ヴィオラはじっと彼を見つめながら呟く。

 「・・・お兄ちゃんが・・・勝つから・・・」

 ヴィオラはただそれだけ言うと、彼に背を向けて元の場所へ戻っていく。別に彼と争うつもりは無い。そんな事をしても時間の無駄だからだ。あんな奴を相手にするよりも大好きな兄を応援したい___それが彼女の思っていたことだった。

 彼女が先程までいた所に戻ってきた直後、オルフェ―シュチの周りに巨大な水の渦が天高く伸びる。その渦が消えると巨大なドラゴンに変貌したオルフェ―シュチが現れ、周りが騒然とする。

 「うおッ!オルフェ―シュチ様がドラゴンに・・・ありゃあ本気で、殺すつもりだな。」

 「スゲエ、初めてみた!デュンケルハイト様も変身するのかな?」

 「多分できないと思うぜ。ヴェアウルフ族は夜しか変身できいないからな。」

 「ああ、こりゃ勝負ついたな。デュンケルハイト様の負けだろ、これ。」

 周りから色んな声が聞こえてくる。どれもオルフェ―シュチを称賛する言葉と兄の勝利を諦める声ばかり・・・ヴィオラは悔しくなり、思わず声を上げた。

 「お・・・お兄ちゃん!ま・・・負けないで!」

 ヴィオラは声を上げたが周りの歓声が大きすぎたのと、あまり大声を出したことが無かったこともあってか周囲の声に打ち消されてしまい、デュンケルハイトに届くことは無かった。更に周りのオルフェ―シュチに対する歓声が大きくなり、余計にヴィオラの声は届かない。

 『どうしよう・・・どうしよう・・・ヴィオラがいっぱい応援しないといけないのに・・・』

 ヴィオラは諦めずに何度も声援を送るが、デュンケルハイトには届かない。慣れない大声を出してしまい喉が痛くなるが、それでも声をかけ続けた。声が枯れ始めても、何度も声を上げた。

 するとその瞬間、昼夜が突如逆転した。
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