オルタナティブ・ガーディアンズ ~救世の英雄は世界に希望を灯す~

黄昏詩人

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~魔皇会議編 第7話~

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[起床]

 グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___ゲオルグラディア大陸北西部・ヴァルグ村___闘技大会まで、残り十三日

 「デュンケルハイト様、お迎えに参りました。」

 私室で支度を整えたデュンケルハイトの元へ老執事がやって来た。今朝ヴィオラを魔族が通う学校へ送迎してから戻ってきたようだ。

 「分かった。・・・行こうか。」

 デュンケルハイトは老執事と共に部屋から出て、玄関へ向かう。玄関の外には大勢のヴェアウルフ達が彼を送り出すために待機していた。いつもなら使用人達しかいないが、今日は決闘の日ということで配下達や里の人々が集まっていた。

 「デュンケルハイト様!どうかご武運を!」

 「ドラゴン族になんか負けないで下さい!デュンケルハイト様!」

 「デュンケルハイト様~、がんばれ~!」

 配下や子供のヴェアウルフ達がエールを送る。デュンケルハイトは彼らに一切返事を送ることなく、堂々と馬車へと乗り込んだ。扉が閉まり、馬車が動き出す。道中の街道沿いにも大勢のヴェアウルフ達が集まっており、馬車に向かって手を振っている。彼としては余計にプレッシャーがかかるので止めてもらいたかったが、皆期待の眼差しを向けてくるのでそうは言えない。手を振らなかったり、相槌を返さなかったのは過度な期待をかけないでおきたかったのと、これ以上緊張したくなかったからだった。

 街道を進み、馬車は魔王城に到着する。馬車から降りると、ディルメルガの側近のアルゲートが迎えてくれた。

 「デュンケルハイト様、本日も良くお越しくださいました。」

 アルゲートは彼に向かって深くお辞儀をする。小さく会釈をすると、アルゲートは顔を上げ、共にグラズウィンがいる訓練場へ向かう。訓練場へ向かう道中の森で、彼について尋ねる。

 「グラズウィン様のご様子は?」

 「しっかりとなさっておりましたよ。デュンケルハイト様が帰った後、一人黙々と誰の助けを借りずに森の中にいた魔物を狩って焼いて食べてましたし、木の蔦や葉を魔術で組み合わせて強化してハンモックのようにして寝ておりました。」

 「意外にサバイバル能力はあるんだな。」

 「グラズウィン様は引きこもっておられた間、ずっと本を読んでおりましたので知識はあったのでしょう。・・・しかし文句を言いながら黙々と貴方に言われたことをやり続けるお姿は何処か可愛げがありましたな。」

 「根は真面目・・・って奴か。それならいい。根っこが腐っていないのならいくらでも成長する。腐ってしまってはどんなに栄養をやろうが手間をかけようが、意味などないからな。」

 デュンケルハイトはグラズウィンの性根が腐っていないことを確信しながら告げた。傍にいるアルゲートも『おっしゃる通りでございます。』と彼の意見に賛同する。

 「あっ・・・そう言えば本日この訓練場でオルフェ―シュチ様と決闘を行うおつもりですよね?」

 「そうだ。ディルメルガ様より近日中に一戦交えろと言われておりましたが、まさか翌日とは想定外だった。・・・人の都合を考えていない奴だ。」

 「オルフェ―シュチ様はイケイケなお方ですからね。シンプルな事が大好きですので、とっととお済ませになりたいのでしょう。言い方があれですが単純な思想の持ち主ですから。___あ、このことはご内密にお願いしますよ?」

 「・・・分かってる。」

 「ありがとうございます。いやぁ、デュンケルハイト様は義理堅いお方で秘密を厳守するお方ですので、つい口が滑ってしまうんですよ。」

 「俺のせいにするのは止めてくれないか?」

 デュンケルハイトが呆れた声を漏らす。その後話を聞いているとどうやら魔王やセレス、その他大勢の者達が見に来るようだ。まるで見世物だ。

 訓練場を取り囲む結界内へ侵入する。訓練を行っていた広場へ着き辺りを見渡すと、広場の端にある大樹の枝にハンモックをかけて寝ているグラズウィンの姿を視認する。彼は足をハンモックの外に出してだらしの無い体勢のまま、眠り続けている。その大樹の傍にはそこそこの大きさの魔物の骨と焚火をしたであろう石を組んだ手製の竈があった。

 「グラズウィン様!デュンケルハイトで御座います!本日も訓練の為、只今参上いたしました。」

 デュンケルハイトが呼びかけるもグラズウィンは大いびきをかきながら爆睡し続けている。

 「・・・起きませんね。」

 「昨日は夜遅くまで作業してましたからね・・・それに今まで引きこもってましたので生活習慣が乱れているのでしょう。こればかりは矯正するのに骨が折れそうですね。」

 アルゲートが溜息交じりに呟く。デュンケルハイトはグラズウィンがハンモックをかけている大樹に近づく。
 
 「どうやって起こすつもりです?大声で呼びかけ続けますか?」

 「いや・・・『蹴り起こす。』」

 デュンケルハイトはそう言うと、息を吸い込んで脚に力を込めると、木が折れない程度に蹴った。木は大きく揺れ、軋み、葉がわさわさと激しくぶつかり合う。

 「おォあっ⁉」

 グラズウィンはハンモックから零れ落ちた。グラズウィンが頭から真っ逆さまに落ちて地面に頭が触れそうになった瞬間、デュンケルハイトが彼の右足首を掴んで地面への落下を防いだ。そして呆然とする彼に声をかけた。

 「おはようございます、グラズウィン様。もうとっくに陽は昇っておりますよ。」

 「・・・」

 「どういたしましたか?なぜそんなにお睨みなさるのでしょうか?」

 「分かんねえのかよ・・・あんた、あと少しでも遅れてたら首の骨が折れてたんたぞ、僕・・・」

 「ご心配なく、そのようなヘマは致しませんので。あと、グラズウィン様程の魔力の持ち主でしたら一度や二度、首の骨が折れても死ぬことはございません。」

 「でも寿命は絶対に縮んだぞ・・・」

 グラズウィンは大きな溜息を吐く。

 「なぁ・・・早く降ろしてくれないか?頭に血が回って来てんだが・・・」

 「おっと。これは大変失礼しました。」

 デュンケルハイトはそっと彼を地面へ横にする。彼は顔を歪めながらゆっくりと体を起こす。どうやら昨日急に体を過度に追い込んだせいで筋肉痛になっているようだ。

 「ったく、もっと僕に敬意を払えよ・・・王子なんだぞ、僕は・・・」

 グラズウィンはぶつぶつと恨み言を呟きながら、木に立てかけてある杖を手にする。杖を手にすると、彼は大きな欠伸をする。

 「眠・・・もう一回眠りてぇ・・・」

 「何をおっしゃいますか。もう午前の九時ですよ?一部の夜行種族を除き、皆が働いている時間です。寧ろグラズウィン様が眠り過ぎなのです。この訓練を機に生活習慣も整えましょうね。」

 「・・・マジでお袋見てぇだな、あんた。元々好きじゃなかったけど、更に嫌いになりそうだぜ・・・」

 「嫌いになって頂いて結構です。では柔軟運動を行いながら、本日の訓練内容をお話いたしますね。」

 デュンケルハイトとグラズウィンは訓練前の柔軟運動に取り掛かる。アルゲートは二人が柔軟運動をしている間に、『それでは、私はこれで。』と言って訓練場から去って行った。足を前後に開き、筋肉痛で叫ぶ体に鞭を打ってアキレス腱を伸ばしながらグラズウィンが尋ねる。

 「で、今日はどういうスケジュールで?また筋トレばっかなのか?」

 「いいえ、今日は戦闘訓練を行ってもらいます。」

 「戦闘訓練・・・急だな。てっきり今日もまた死ぬほど走らされたり、腕立てしたりするのかと思ったぜ。」

 「勿論、それはします。しかし回数を本来するはずだった量よりも減らします。それに戦闘訓練と言っても、こちらが一方的にグラズウィン様の魔術を受けるというものです。今日はこちらから手を出したりはしません。」

 「へぇ・・・優しいじゃん。急にどうしたの?やっぱ罪悪感に蝕まれちゃった?」

 「違います。単なる個人的な私用によるものです。」

 グラズウィンはニヤニヤしながら聞いたのに、デュンケルハイトがきっぱりと無表情で言い返したので、少しムッとした表情になる。

 「本日正午より、この場所で四魔皇のオルフェ―シュチと決闘を行います。」

 「ふぅん・・・あっそ___って、ちょッ・・・は⁉ここですんの⁉何で⁉別ん所行けよ!」

 「ここしかやる場所が無かったからです。ということですので、本日の訓練は午前中までとなります。・・・今日中に筋肉痛を治しておいてくださいね?」

 「無茶言うなよ・・・筋肉痛が今日中に治る訳ねえだろ・・・」

 グラズウィンが戸惑いを隠せないまま呟く。二人は柔軟運動を終えると本日の訓練に取り組み始めた。まずは腕立て百回___筋肉痛が容赦なくグラズウィンを襲う。胸と腕の筋肉が悲鳴を上げ、裂けるような痛みが走る中、歯を食いしばって大量の汗を流しながら着実に一回ずつ積み重ねていった。
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