上 下
32 / 49

~魔族襲撃編 最終話~

しおりを挟む
[闇の声]

 グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・五月___とある廃遺跡

 ___戻ったか。

 フードの男がアルテミスを連れて廃遺跡へと帰還すると、暗闇の奥から威圧感のある低い声が響いてきた。男はアルテミスを地面に雑に置くと、その場に膝をついた。

 「只今帰還しました、キング。」

 ___成果を報告せよ。

 「アフターグロウ内の駐屯基地機密書庫にてキングと歴代魔王の『遺体』の在処が書かれた書物を発見しました。侵入した痕跡は残しておりませんのでご安心を。今後はこの遺体の回収を中心に行ないたいと思います。」

 ___書物は焼かなかったのか?

 「書庫は基地の地下にあり、構造上火の手が回らない仕様となっております。もし書庫を燃やせば何者かが書庫に侵入し、我々の思惑を探知されてしまう恐れがあった為、そのように判断いたしました。」

 ___成程、納得した。理由があるのなら、それ以上何も問うまい。

 闇の中から唸り声のような溜息が聞こえてきた。フードの男は一拍間を置き、言葉を続ける。

 「また、同時に行われたアフターグロウへの攻撃ですが、街と駐屯していた王都軍の機能を停止させる事には成功しましたが、その場に居合わせた三名の八英雄にアルテミスが撃破されました。」

 男はそう言うと、横に転がっているアルテミスに手をかざした。その瞬間、アルテミスの体を蒼い炎が包み、胸に空いた穴が一瞬で治った。アルテミスが閉じていた瞼を開き、体を起こす。

 「アルテミス、キングに報告せよ。」

 男の声にアルテミスは咄嗟に起き上がって膝をつく。

 ___アルテミス、随分と酷くやられたものだな。

 「申し訳ありません、ヴェルヴォルグ様。不覚を取られてしまいました。___この失敗の責任は必ず・・・」

 ___そこまでかしこまらなくて良い・・・まだ貴様も『本体』ではないのだ。本来の力を発揮できなくとも、しょうがない。

 「・・・身に染みるお優しき言葉、感謝いたします。」

 アルテミスは頭を下げたまま、声がする闇の方へ返事をする。暫くの静寂の後、闇の中から魔王ヴェルヴォルグが二人に指令を出す。

 ___『ミネルヴァ』、アルテミス。我らの遺体を探せ。どこからでも構わん・・・損害被らずに早急に回収せよ。良いな?早急にだぞ。人間どもや日和った魔族共が我々の動きに勘づき、態勢を整える間を与えてはならん。

 「御意。」

 「承知いたしました。」

 アルテミスと『ミネルヴァ』と呼ばれた男が返事をして立ち上がる。フードの男___『ミネルヴァ』のフードが外れ、中性的な見た目をした男の顔が露になった。サラサラしたストレートの長髪で髪の色はブロンド、鋭い眼つきに瞳の色は銀色である。二人は闇に背を向けてその場を後にする。

 「・・・ミネルヴァ様。この度は貴方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした。」

 廃遺跡の通路を歩きながらアルテミスがアテナに声をかける。彼は彼女の方に顔を向ける事無く、歩きながら言葉を返す。

 「別に気にしてはいない。只次は同じミスをするな。キングは寛大なお心をお持ちだが、同じミスを繰り返す愚か者を嫌う。次は命が無いと思え。」

 「承知いたしました。深く胸に刻んでおきます。」

 アルテミスがミネルヴァの右後ろを歩きながら返事をする。その時、二人の前に二人の男が現れる。一人はアルテミスと同じ銀色の髪で、髪の毛を全体的に逆立てているのが特徴だ。革ジャンに革ズボン、腰には銀のチェーンを巻き付けているなど、かなり派手な見た目をしている。

 「Hey , My Pretty Sister ! 無事に戻って来てくれたんだね~!」

 「お兄様、無事に帰還いたしまし___きゃっ」

 アルテミスが返事を返していると、派手な服を着た男が彼女に抱きついた。アルテミスは恥ずかしそうに男から離れようとするが、彼は離してくれない。

 「お兄様!恥ずかしいですから離してください!ミネルヴァ様と『ポセイドン』様が傍にいらっしゃるのにッ・・・」

 「No Problem ! 誰が傍にいたって関係ないさ!僕はただ、ただただ可愛い妹を愛でるだけなんだから!誰にも邪魔はさせないよ!」

 「そう言う問題じゃありません!単純に恥ずかしいので止めてほしんですッ!」

 アルテミスが必死に男を剥がそうとし、男は剥がされまいと必死に抱きつき続ける。そんな二人を無視し、ミネルヴァはもう一人の男と会話し始める。男の名はポセイドン、厳つい老人で髪が無い代わりにふくよかな白髭を生やしているのが特徴で額には無数の傷跡があり、歴戦の老兵の風貌を感じさせる。

 「見つけたか。儂らの『遺体』は。」

 「見つけたとも。これがその在処だ。」

 ミネルヴァはポセイドンにある巻物を手渡す。ポセイドンは巻物を開き、中身を確認する。

 「それぞれの遺体の場所はそれに記されている。迅速に回収し、万全な状態を整えよとのご命令だ。」

 「・・・承知した。___行くぞ、『アポロン』。」

 ポセイドンがアルテミスに抱きついている男___『アポロン』に呼びかける。彼は顔を嫌そうに歪ませる。

 「ええ~!もう行くの~?もう少し俺の可愛い妹を愛でてもいいじゃん!行きたいのならポセイドン一人で行きゃあいいでしょ?」

 「呆けるなよ、若造。キングの命令を無視する気か?それに一人で行けるものなら一人で行かせてもらいたいものだが、キングがツーマンセルで動けと指示している以上、単独で行動は出来ん。・・・不快の極みだがな。」

 「じゃあミネルヴァと行きなよ。僕は妹と行くからさ。」

 「お兄様・・・勝手は駄目ですよ?ちゃんとヴェルヴォルグ様の指示に従わないと・・・」

 「あはっ!僕の妹が僕の為に怒ってくれた!怒った声も可愛いなぁ~。やっぱ僕の妹は最高だね!」

 アポロンは全く聞く耳を持たずに、妹へ過剰にスキンシップを図ろうとする。その様子を見て、ポセイドンが額に血管を浮き上がらせて怒りを顕わにするが、その直前にミネルヴァが彼に話しかける。

 「ポセイドン、私が同行しよう。キングは二人組で行動しろとは言ったが、誰と組むかは指定してはいない。・・・アルテミス、私の代わりに今度はアポロンと組め。」

 「了解しました。・・・兄の我儘で申し訳ありません・・・」

 「本当に⁉やったぁ!ありがとうミネルヴァ!」

 「やったぁ!・・・じゃありませんよ!ミネルヴァ様やポセイドン様に迷惑かけるなんて信じられません!」

 「ご、ごめんよ~!許しておくれよ~アルテミス~。___でもやっぱ怒った顔も可愛いな~。」

 アポロンはアルテミスに抱きついたまま、反省しているのかしていないのか良く分からない態度をとる。ポセイドンは短く溜息を吐く。

 「・・・こんな奴でも元『魔王』とはな。___ミネルヴァ、世話をかけたな。」

 「構わん。任務に支障が出ないよう行動するのも私の務めの内だ。・・・アポロン、わざわざバディを変えてやったんだ___変なミスを犯せば殺すからな。覚悟しておけ。」

 「OK , OK ! ちゃんと予定通りに事は進めるさぁ~。」

 アポロンは陽気な声で返事をする。ミネルヴァとポセイドンは転送魔術で何処かへ去って行った。残されたアルテミスとアポロンもまた転送魔術でミネルヴァ達とは別の場所へ消えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...