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~魔族襲撃編 第13話~
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[新たなる仲間・新たなる謎]
グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___アルヴェント大陸南部・アフターグロウ郊外
謎の魔族がアフターグロウを襲撃してから四日が経った。街の住民は町の外の臨時避難所を拠点として、今日も焼け焦げた街の処理を行っている。街の人々全員で取り組んだかいもあって、一部では既に新しい家を作り始めている所もあるが、完全に元通りになるにはかなりの月日がかかりそうだ。
重傷を負ったウィルベールはと言うと、無事に施術が完了し、元の状態にまで戻っていた。潰れた肺も骨もストレーガの治療もあって元通りになった。彼はベッドに横たわりながら、傍にいるストレーガに話しかける。
「今日で動けるようになりそうか?」
「えぇ、出来るわよ。普通ならまだ到底動けないはずだけど・・・相変わらず化物みたいな再生力してるわよね、あんた。」
彼女がウィルベールの傷具合を確認しながら告げる。彼女がそう告げると、ウィルベールはゆっくりと上体を起こして、ベッドの外に足を出す。
「・・・あいつ等は今何してる?」
「さぁ、知らないわ。今日もエルフェンと訓練してるんじゃない?本当、飽きずによくやるわね。」
ストレーガが呆れたように溜息を吐く。ウィルベールは小さく笑いながらベッドから立ち上がって近くの机の上に折りたたまれた服に着替えていく。患者服を脱ぐと、筋骨隆々の鍛え上げた肉体が露になる。年を取っている為、所々に皴があったりするが、それでも腹筋・胸筋・背筋・腕の筋肉はとても還暦を超えた老人のものではなかった。そんな彼の肉体をストレーガはうっとりとした目で見つめる。
「凄い筋肉ね。今でも鍛えてるの?」
「ああ、いついかなる状況に置かれても常に最高のコンディションを保てるよう、鍛えてる。何が起こるか、分からん世の中だからな。」
ウィルベールはシャツを着る。彼女は彼を見ながら小さく溜息をついた。
「ふ~ん、あっそ。・・・にしてもあんた、年を取ったわよね。イケメンだった昔の面影はどこへやら・・・」
「俺はもう六十五歳だぞ?もう昔のようには行かないさ。・・・それよりも疑問なのが、お前の方だ。」
「私?」
「ああ。お前の容姿はあの時から全く変わってない。全く、何もな。基地の中で会った時から不思議に思っていたが、どんな魔術を使ってる?若返りの魔術などは無い筈だ。」
「何?気になるの?」
「そりゃあ気になるだろ。エルフのエルフェンはともかく、お前は俺と同じ只の人間だ。本来なら俺と同じ、皴皴の婆さんになってる筈なのに、そうはなっていない。気になるのは当然だろう。・・・何をやってるんだ?」
ウィルベールは上着を羽織り、身だしなみを整える。彼女は足を組み、キセルを一服し、煙を吐く。白い煙がふぅっと彼女の口から洩れ、宙に漂う。
「別に、大したことはやってないわよ。ただ『若返りの薬』を飲んでるだけよ。」
「若返りの薬・・・『魔薬』の一つか。」
『魔薬』___特殊な薬草と錬金術を組み合わせて製造する違法薬物だ。只の違法薬物とは違い、依存度や効果が比較にならないほど高く、魔薬によって国が滅んだこともある。王都軍による厳しい取り締まりが行われ、検挙数は年々減少していっているものの、今なお世界中のならず者達の間で問題となっている代物だ。
「そうよ。」
「・・・魔薬は違法薬物の筈だ。製造・保管・販売・使用・譲渡・・・どれを行っても重罪行為と言うのは分かってるよな?」
「当たり前じゃない。でも私はいいの。だって八英雄だし。世界救ったんだから魔薬ぐらい作ったり使ってもいいでしょ?」
「何馬鹿な事を言ってる。駄目に決まってるだろ。・・・ヒュッセルの奴にバレたりしたら殺されるぞ?」
「あの間抜けには見つけられないわよ。勿論、あんたにもね。私が使ってるとしてもクスリの在処は見つけられないわよ。・・・何よ、その目。なんか言いたいことがあるなら言いなさいよ。」
ストレーガがキセルをふかしながら彼に問いかけると、彼は腰にベルトを巻き、剣をベルトに差す。
「・・・失望したぞ、ストレーガ。まさかと思っていたが『また』魔薬に手を出していたとはな。何時まで自堕落な生活を続けるつもりだ?あの時も言ったよな?もう二度と魔薬には手を付けない。クスリの世話にならない、しっかりと自制を利かせると約束したよな?忘れたのか?お前の為にわざわざ言ったのに___」
「何の事かしら?知らないわね、そんなこと。・・・何?説教でもするつもり?うざいんだけど。別に私が何しようがあんたには関係ないでしょ?あんたのそう言う保護者面、気持ち悪いんだけど。___アイリーンそっくり、本当にうざいわ。」
アイリーンは不機嫌にキセルをふかす。ウィルベールは小さく溜息をつき、テントの入口へと向かう。
「別に儂はお前が何をしようが正直どうでもいい。お前がどうなろうが、儂には関係ないからな。」
「・・・」
「ただ・・・悲しいだけだ。お前の姿を見た時から嫌な予感はしていたが、儂達との約束を破ってまでまた魔薬に手を出しているとはな。」
「あんたの傷を治してあげたのは誰だと思ってんの?治してくれた相手にその言い草はないんじゃない?」
「それはそれだ。傷を癒してくれたことには感謝しかしていない。いくら金が欲しいとか、新しい住処が欲しいというのなら、何としても直ぐに儂が手配する。それだけのことをお前はしてくれたのだからな。」
「・・・」
「だが、それ以上に___『約束』を破ったことは許せない。それだけだ。」
ウィルベールはテントの外へと出ていった。一人残されたストレーガは静かにキセルをふかし、キセルを強く握りしめる。この時、彼女の右頬はぴくぴくと痙攣していた。
「何が『悲しいだけ』よ・・・私の気持ち何か一ミリも分かってない癖に・・・偉そうにッ・・・」
ストレーガはウィルベールが出ていったテントの入口を見ながら舌を打った。キセルの火皿から白煙が薄く宙に解けていっていた。
ウィルベールが外へ出ると、多くの人々が街の復興に向けて動いていた。男達や騎士達が瓦礫の撤去や新しい家を建てる為の木材を運んでおり、女達が焚きだしを行ったり、洗濯物を洗いに行っている。子供達は母親ら女性達の手伝いをしており、皆街の復興に尽力していた。ブレイズ達を探しに街の方へ行くと、エルフェンが復興の手伝いをしていた。エルフェンは魔術で一気に木材を運んでいる上に、釘や縄なども器用に操り、ものすごい勢いで家を建築していく。
「あのエルフ・・・一人でどんどん家を作ってんぞ・・・俺ら要らなくないか?」
「で・・・でもよぉ、あれだとしっかりと固定されているか心配じゃないか?」
「それに関しては問題無いぜ。さっきあのエルフが作った家を確かめたんだが、魔力でかなり頑丈に固定されてたぜ。地面にも深く突き刺さってる上に、突き刺した後木を変形させて揺れたり崩れないように固定までしてる。後何故か柱にエルフ族の美しい彫刻が彫られてる。・・・あの人が作った家は人気が出るぞ。」
「それなら余計俺らの仕事・・・無くない?」
「んな訳あるか!街中焼けてんだぞ⁉こんな所で喋ってねえで体を動かしやがれ!」
「ひィッ!親方だ!」
エルフェンの建築スキルに見惚れていた男達がやたら強面の老人に怒られて仕事に戻っていく。強面の男は『全く・・・』と呆れながら、エルフェンの方へ歩いていく。
「エルフェン様、わざわざお手伝いして頂き、誠にありがとうございます。」
「構わん・・・少しでも役に立てたのなら・・・良かった。」
「少しどころか大変役に立ってますよ!まだ一時間しか経っていませんのに、既に五軒もの家を建築なさって下さりました!しかも壁や柱に美しい細工までして頂いて・・・我々もエルフェン様に負けていられませんな!」
強面の男はエルフェンに短く一礼すると、他の現場に戻って行った。エルフェンはそのまま黙って家を作り続けている。そんな彼の元にウィルベールは近づいて、声をかける。
「エルフェン、随分と手際よく家を作るんだな。お前にそんなスキルがあるなんて知らなかったぞ?」
「・・・あれから一人で旅を続けていた中で・・・自然と身についたスキルだ。野宿する時にこのスキルがあると・・・便利だからな。」
エルフェンはそう言ってまた新たに家を一軒完成させる。彼はゆっくりと体をウィルベールへ向ける。
「怪我の方は大丈夫なのか。」
「ああ、もう問題ない。ストレーガの治療のおかげだ。・・・お前にも世話になったな。」
「何がだ?」
「レフィナとブレイズの事だよ。儂が動けない間、あいつ等に訓練してくれてただろう。」
「それか。別に感謝されることではない・・・私はただ、あの二人に頼まれて付き合っただけにすぎん・・・」
エルフェンがウィルベールの瞳を真っ直ぐ見ながら、そう告げる。エルフェンは何かと面倒見の良い男であることは良く知っていたが、その面倒見の良さは今でも健在のようだ。
「ところでブレイズとレフィナを知らないか?てっきりお前と一緒にいると思っていたが・・・」
「あの二人は狩りに行っている。最近街の周辺に凶暴な魔物が現れるとの報告が上がっていて・・・その対処に向かった。」
「・・・お前は付いて行かなかったのか?」
「私が付いて行っても良かったが、それではあの二人に『甘え』が生まれる。何かあれば私が助けにやって来る・・・その甘えは成長に繋がらない。お前には悪いが、あの二人が死んでも責任を取るつもりは・・・無い。」
「構わないさ。あいつ等はそう簡単には死にはしない。___なんせ儂の孫娘と儂が興味を持った男だからな。」
ウィルベールがそう言って微笑むと、エルフェンも薄っすらと笑みを浮かべた。エルフェンも内心あの二人が死ぬとは思っていないと信じているのだろう。
直後、街の外から歓声が上がった。二人が歓声の上がる方へ向かうと、街の入口に無数の氷の刃が頭部に突き刺さったエリュマントスの死体が置かれており、傍にはレフィナとブレイズの姿があった。人々の歓声を受けて、二人共恥ずかしそうに頬を赤らめる。
『暴れていた魔物はエリュマントスだったか。図体からして以前倒した奴よりかは少し小さいが、立派な大人のエリュマントスだな。・・・儂がいなくてもこれほど凶暴な魔物を倒せるようになったか。』
ウィルベールは自然と二人に拍手を送っていた。レフィナがウィルベールに気が付いて、近づいてくる。ブレイズもレフィナに続いて近づいてくる。
「お爺様!もうお怪我は治ったのですか⁉」
「ああ、もう大丈夫だ。それよりもあのエリュマントスを二人で倒したのか。やるじゃないか。」
「ま・・・まぁ・・・殆どレフィナが倒したようなものだけど・・・」
「そんなこと無いですよ。私が魔術を詠唱している間、ずっと気を引いてくれたじゃないですか。それに足の腱を斬ったりして機動力も落としてましたし、大いに活躍していましたよ。」
「そ・・・そうかな・・・」
ブレイズが恥ずかしそうに後頭部を掻く。レフィナは腕を後ろに組んで、彼に優しく微笑む。互いに認め合う姿勢は精神的にも技術的にも効果的だ。この二人の関係はまさに切磋琢磨するには理想の状態だと確信した。
「エルフェン様、貴方の教えがあり、無事にエリュマントスの討伐を達成いたしました。この度は戦闘のご教授、誠にありがとうございました。」
「私はただ単に基礎を叩きこんだだけだ。礼を言われる覚えはない。」
エルフェンはそう言ってそそくさと何処かへ消える。レフィナが何か余計な事を言ったのではと少しあわあわしているので、ウィルベールがフォローを入れる。
「あいつは昔っから照れ屋な所があるから気にするな。ああ見えて、内心とても喜んでるんだよ。喜んでいる時はいつもああやって何処かへ消えて、何時の間にか戻って来てるんだ。」
「・・・変わってますね、エルフェン様は。」
「というかウィルベールの仲間って皆変わってそうだよな。あの人と言い、ストレーガさんといい・・・やっぱ一味違うつうか、言っちゃ悪いけど変人だよな。」
「そう言われたら否定できんな。実際他の奴らも変人だからな。・・・あいつだけは違ったが。」
「あいつ?」
「お前の婆さんだよ。アイリーンの奴はまさに今のお前みたいに俺達の中で常識人枠だった。あいつがいたから、俺達は一つにまとまってたんだ。・・・お前にも婆さんと同じ苦労人の匂いがするな。」
ウィルベールはそう言ってレフィナの頭を撫でる。レフィナは恥ずかし気に顔を俯ける。
「これはこれは・・・やたら騒がしいと思えば貴方達でしたか。」
声のする方へ振り向くと、そこには第三師団第四騎兵分隊の分隊長、ベッシュがいた。ベッシュは右手に杖を携えており、頭を下げる。
「お前は確か、第三師団の分隊長だったな。名前は確か・・・」
「ベッシュ、ベッシュ・クローノと申します。以降お見知りおきを。・・・それにしても大きなエリュマントスだ。この付近に最近出没していた凶悪な魔物とはこれの事だったのか。___貴方が、これを?」
「いや、儂の孫達が仕留めた。」
「何と!彼女達が!これは凄い!お二人でエリュマントスを撃破したと!エリュマントスは戦力にして王都軍の一個中隊相当、二人で撃破したとなると相当な練度を持っていますね。」
ベッシュは興味深そうにレフィナとブレイズを見る。
「特に彼女・・・君は確か第一師団の剣術士だったかな?」
「はい。第一師団第七騎兵分隊所属、レフィナ・グランディオーツです。」
「ふむふむ・・・精鋭揃いの第一師団・・・若くして才覚に溢れている。流石、『英雄の孫娘』と言うべきか。」
「・・・」
「おっと、失礼した。別に嫌味などではないよ。純粋に君の力を評価しているだけだ。君が戻る部隊はもう既にないが、その力はこれからも王都軍に預けてくれるかな?」
「はい、勿論でございます。」
レフィナの言葉にベッシュは頷く。ウィルベールは腕を組んで彼に尋ねる。
「で、儂達に何の用だ?只雑談をしに来た訳じゃあないだろう?」
「勿論でございます。ゲルニカ副団長が皆様と話がしたいとのことで、お探ししておりました。・・・ご同行願えますか?」
「分かった。案内してくれ。」
ベッシュは小さく頷くと、ウィルベール達に背を向けて歩き出した。三人は彼の後を追って、避難所にある野営基地の指令場に向かった。到着すると、そこには大きな机を囲むようにゲルニカ、ラッシュ、ストレーガの姿があった。ストレーガはウィルベールの方をちらりと見て、ばつが悪そうに視線を直ぐ逸らす。
「ゲルニカ副団長、ウィルベール様をお呼びいたしました。」
「ありがとう、ベッシュ。申し訳ありませんね、ウィルベール様。病み上がりというのにわざわざ呼び寄せてしまって・・・」
「構わない。それで話と言うのは何だ。」
尋ねると、ゲルニカがある大きな紙を机の上に広げた。その紙には真ん中に弓を持った女神のような人物と、その女神の周囲に無数の死体が積み上げられている絵が描かれている。単刀直入に言って非常に趣味の悪い絵だ。
「・・・これは?」
「この絵は我が王都軍に保管されている絵巻の一つで御座います。タイトルは『星后アルテミス』___第六次人魔戦争で猛威を振るった魔王を示した絵となります。」
「アルテミス___ってあの時、襲ってきた奴と同じ名前!言われてみればこの絵の女も弓を持ってるし、髪形も服も何となく似てるような・・・」
「儂達が戦った奴が以前の魔王ということか?」
「まだ確定はしていませんが、ストレーガ様に伺った時にアルテミスという名を聞いたので、もしかしてと思い、連絡させて頂きました。」
ウィルベールはゲルニカの言葉を聞いた後、その絵を真剣に見続ける。彼が絵を注視している間、レフィナが声を上げた。
「で・・・ですが歴代の魔王は現在の魔王ディルメルガを除き、全員各時代の勇者一行に倒されたはずじゃ・・・」
「そう、倒されている。その絵の『星后アルテミス』も当時の勇者と複数人の犠牲を伴って撃破している。死亡確認も取ったとも記されているから、確かに息の根は止めている。」
「ではあの魔族は一体何者だったのでしょうか?彼女は確かに自身を『アルテミス』と名乗っておりましたけれど・・・」
レフィナの呟きに、ウィルベールが顎を摩りながら呟く。
「___偽者か。『アルテミス』の名と姿を模した別の何かという可能性もあるな。失踪した王都軍の分隊長がヒュッセルの姿になって襲撃してきた以上、あの魔族も偽者である可能性がる。・・・正直、もしあいつが本当にあの『星后アルテミス』なら、あの程度で倒せはしないだろう。」
ウィルベールは机に広げられている絵を見ながら、目を細める。あの時、エルフェンは確かにアルテミスの胸に穴をあけたが、その後に現れた謎のフードの男が彼女を連れて離脱したことから仕留めきれてはいないだろう。そもそも四十五年前に戦った魔王ディルメルガも胸に穴をあけた程度では死ななかった。魔族は人間とは違い、魔力が尽きない限り死ぬことはない。胸を貫かれたり、頭を吹き飛ばされれば大量の魔力を失うこととなるが、それでも魔力が残っていれば再生する。魔族を倒すには魔力が尽きる程のダメージを与えるしかないのだ。
『しかしそれだと、あの女が『偽者』である理由が薄くなるな。単純に偽者と判明するのを恐れて連れ帰ったというのでも説明がつくが、あいつは『まだここで失う訳にはいかない』と言っていた・・・とすれば、あの女は本物ということか?だがそれではかつての勇者が倒してという情報が誤りだということになってしまうが・・・』
ウィルベールは腕を組んで、唸り声を上げる。どうにも不自然な出来事が乱立しているこの状況に気味悪さを覚えた。整理するにはもう少し情報と時間がいると確信した。
「これらの資料、儂らに譲ってもらうことは出来るか?こちらでじっくりと読み解きたいんだが・・・」
「大変申し訳ありませんが、これらの書物は王都軍管轄の極秘書物に指定されており、貸し出しは許可しておりません。」
「まぁ・・・そうだろうな。」
ウィルベールが半ば分かっていたように返事すると、ゲルニカは机の上に広げた書を丸め始めた。
「ですが、今回のこの異常事態・・・我々としても早急に事態の把握と情報を収集したいと思っておりますので、特例としてお貸しいたしましょう。___それに我々が持っているよりも八英雄であるウィルベール様が持っておられた方が安全だと思いますので。・・・この基地の書庫にあるかつての人魔戦争に関する他の書物もついでに持っていっても構いません。大部分は王都に保管されておりますので数はあまりありませんので参考になるかは分かりませんが・・・」
「いいや、助かる。わざわざありがとう。」
ウィルベールはゲルニカに感謝を述べる。その後、ウィルベール達は基地の地下にある書庫へと向かう。地下に保管されていた為、幸運なことにあの襲撃で被害にあうことはなかった。古書特有のかび臭いが部屋中に漂う中、ウィルベール達は重要そうなことが書かれてある本を厳選する。最終的に三冊の分厚い本を借りることにした。
ウィルベール達は書庫を後にすると、次なる街へ向かう準備をする。避難所のテントで荷造りを整えて、三人は出発の準備を完了させるとテントを後にする。避難所を出た後に焼け野原と化した街の中を横断し、街の北門へ向かうとそこにはゲルニカ・ラッシュ・ベッシュの姿が見えた。
「わざわざ送り出してくれるのか?」
「勿論です。貴方はこの街を救ってくれた英雄ですので。」
「・・・儂は何も救ってはいない。街を救えず、挙句の果てに死に損ねた男だ。儂に礼を言わず、エルフェンやストレーガの奴らに礼を言ってくれ。」
「何をそんな謙遜なさるのですか?貴方がいなければこの街はガロックのように滅んでいたかもしれない・・・貴方のおかげで多くの命が救われたのも事実で御座います。私は貴方に何と言われようが、感謝の気持ちを伝え続けますよ。」
「・・・なら勝手にするといい。」
ウィルベールはそう言って街を後にした。レフィナとブレイズはゲルニカに頭を下げる。
「ゲルニカ副団長、そしてラッシュ分隊長、ベッシュ分隊長。この度は大変お世話になりました。」
「うむ。これからも気を付けて任務にあたるように。今後の旅の安全を心より願っているぞ。」
「レフィナ君、ブレイズ君。私も君達二人の上に明星の導きがあらんことを祈らせて頂くよ。」
ゲルニカとベッシュが二人に別れの言葉をかける。ラッシュだけ、二人を少しキツイ眼つきで睨みつけたままだった。二人は会釈した後、ウィルベールの元へ向かった。ゲルニカ達がウィルベール達の後ろ姿を見送る中で、ベッシュがラッシュに声をかける。
「兄さん、何やってるのさ。折角向こうから挨拶してきたんだからちゃんと返事しないと。」
「・・・うるせえ。」
「もしかして・・・憧れのウィルベール様を前にして緊張しちゃってた?兄さん、あの人に憧れて騎士になったものだからそうなのかな?」
「うるせえっつってんだろ、ベッシュ!今度余計なこと言うとぶっ飛ばすぞ!」
ラッシュが激昂し、ベッシュが両手を前に出して呆れた顔をする。ゲルニカは小さく溜息をつき、その場を去る。ベッシュとラッシュもゲルニカの後に続いて街の中へ消えていった。
ウィルベール達は北へ続く街道を歩く。馬を無くしたせいで、徒歩で移動する羽目になり、初夏のじりじりとした熱が三人の肌を焼き、乾いた風が彼らを撫でる。
「あァ、暑い・・・馬に乗りたい・・・何で貸してくれないんだよ・・・」
「我慢してください、ブレイズ。この前の襲撃で王都軍の馬が殆ど死んでしまって足りないんですからしょうがないですよ。」
レフィナがブレイズに叱咤すると、ウィルベールに話しかける。
「お爺様、次は何処へ?」
「次の目的地は『コロッセウム』に向かう。年中、闘気と覇気に満ちた街で唯一王都軍が駐屯していない街だが、無数の傭兵ギルドが存在する武装都市だ。」
「ということは・・・『ドーラン』様へお会いになるつもりで。」
「そうだ。・・・あいつの力を借りる羽目になるかも知れないからな。今回の事件についてとか、その他色々と話を通しておきたいからな。」
ウィルベールがかつての仲間の事を思い浮かべながら横にいるレフィナの方へ顔を向けて今後の予定を口にした直後、目の前から聞きなれた女の声が聞こえてきた。
「ふぅん___『コロッセウム』に向かうつもりなのね。」
レフィナから視線を外して前を向くと、前にはストレーガとエルフェンの姿があった。ストレーガはキセルを右手に持って、腕を組んでいる。じっと相変わらずの鋭い眼つきで睨みつけてくる彼女にレフィナとブレイズは警戒する中、エルフェンが話しかけてきた。
「・・・ドーランに会いに行くのか。」
「ああ、王都に向かう途中でコロッセウムに寄るからな。あいつの耳にも街で起こった出来事を教えておきたいと思ってる。」
「そうか・・・」
エルフェンはそう言って黙り込んでしまう。ウィルベールが代わりに二人へ問いかける。
「で、何の用だ?ただ見送るためだけにわざわざ儂達の前に立ったわけじゃあないだろう。」
「ええ、その通りよ。じゃあ単刀直入に言わせてもらうわね。・・・ウィルベール、私とエルフェンをあんた達の旅に加えなさい。」
ストレーガの言葉にレフィナとブレイズが動揺する。突然の話だったが、ウィルベールは一切表情を変えず、更に問いかける。
「いきなりだな。何か理由でもあるのか?・・・エルフェン、お前は別の用事があるんじゃなかったのか?わざわざお前自身の用事をキャンセルしてまで付き合う必要は無いと思うが。」
「・・・確かに、私には用事がある・・・が、この前の一件で事態が変わった。・・・私は自分の用事を優先するよりも今起こっている問題を解決する方が先だと考えた・・・それだけだ。」
「成程。お前がそう判断するのなら、別に構わない。こっちとしては、お前程の戦力が傍にいることはありがたい。・・・ストレーガ、お前もエルフェンと同じ感じか?」
「・・・そうね。大体はエルフェンと同じ___まぁ、他にも少し訳はあるけど。奴らに家壊されたからお返しもしたいし・・・それに私がいれば古代文字や魔術に関する心配をする必要が無いわよ。何かあったら私が何とかしてあげるから。」
『『あげる』って・・・頼む側なのに随分と上から目線だな・・・』
ブレイズが彼女の謎に上から目線での物言いに困惑しながらも、ウィルベールは小さく目を瞑って返事をする。
「・・・分かった。一緒に来てくれ、ストレーガ。」
ストレーガはふんっと鼻を鳴らす。本当に何処までもふてぶてしい人だとレフィナとブレイズは思った。彼女が一体何を考えているのかは二人には分からないが、もう少し言い方というものがあると感じていた。そして何故彼女がここまで親しい者にも攻撃的な性格なのか・・・好意とは別に単純な興味も湧き始めた。
エルフェンとストレーガを加えて、五人は北へ向かう街道を歩きだした。空を覆う雲は厚みを増し、周囲を薄暗くしていった。
グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・六月___アルヴェント大陸南部・アフターグロウ郊外
謎の魔族がアフターグロウを襲撃してから四日が経った。街の住民は町の外の臨時避難所を拠点として、今日も焼け焦げた街の処理を行っている。街の人々全員で取り組んだかいもあって、一部では既に新しい家を作り始めている所もあるが、完全に元通りになるにはかなりの月日がかかりそうだ。
重傷を負ったウィルベールはと言うと、無事に施術が完了し、元の状態にまで戻っていた。潰れた肺も骨もストレーガの治療もあって元通りになった。彼はベッドに横たわりながら、傍にいるストレーガに話しかける。
「今日で動けるようになりそうか?」
「えぇ、出来るわよ。普通ならまだ到底動けないはずだけど・・・相変わらず化物みたいな再生力してるわよね、あんた。」
彼女がウィルベールの傷具合を確認しながら告げる。彼女がそう告げると、ウィルベールはゆっくりと上体を起こして、ベッドの外に足を出す。
「・・・あいつ等は今何してる?」
「さぁ、知らないわ。今日もエルフェンと訓練してるんじゃない?本当、飽きずによくやるわね。」
ストレーガが呆れたように溜息を吐く。ウィルベールは小さく笑いながらベッドから立ち上がって近くの机の上に折りたたまれた服に着替えていく。患者服を脱ぐと、筋骨隆々の鍛え上げた肉体が露になる。年を取っている為、所々に皴があったりするが、それでも腹筋・胸筋・背筋・腕の筋肉はとても還暦を超えた老人のものではなかった。そんな彼の肉体をストレーガはうっとりとした目で見つめる。
「凄い筋肉ね。今でも鍛えてるの?」
「ああ、いついかなる状況に置かれても常に最高のコンディションを保てるよう、鍛えてる。何が起こるか、分からん世の中だからな。」
ウィルベールはシャツを着る。彼女は彼を見ながら小さく溜息をついた。
「ふ~ん、あっそ。・・・にしてもあんた、年を取ったわよね。イケメンだった昔の面影はどこへやら・・・」
「俺はもう六十五歳だぞ?もう昔のようには行かないさ。・・・それよりも疑問なのが、お前の方だ。」
「私?」
「ああ。お前の容姿はあの時から全く変わってない。全く、何もな。基地の中で会った時から不思議に思っていたが、どんな魔術を使ってる?若返りの魔術などは無い筈だ。」
「何?気になるの?」
「そりゃあ気になるだろ。エルフのエルフェンはともかく、お前は俺と同じ只の人間だ。本来なら俺と同じ、皴皴の婆さんになってる筈なのに、そうはなっていない。気になるのは当然だろう。・・・何をやってるんだ?」
ウィルベールは上着を羽織り、身だしなみを整える。彼女は足を組み、キセルを一服し、煙を吐く。白い煙がふぅっと彼女の口から洩れ、宙に漂う。
「別に、大したことはやってないわよ。ただ『若返りの薬』を飲んでるだけよ。」
「若返りの薬・・・『魔薬』の一つか。」
『魔薬』___特殊な薬草と錬金術を組み合わせて製造する違法薬物だ。只の違法薬物とは違い、依存度や効果が比較にならないほど高く、魔薬によって国が滅んだこともある。王都軍による厳しい取り締まりが行われ、検挙数は年々減少していっているものの、今なお世界中のならず者達の間で問題となっている代物だ。
「そうよ。」
「・・・魔薬は違法薬物の筈だ。製造・保管・販売・使用・譲渡・・・どれを行っても重罪行為と言うのは分かってるよな?」
「当たり前じゃない。でも私はいいの。だって八英雄だし。世界救ったんだから魔薬ぐらい作ったり使ってもいいでしょ?」
「何馬鹿な事を言ってる。駄目に決まってるだろ。・・・ヒュッセルの奴にバレたりしたら殺されるぞ?」
「あの間抜けには見つけられないわよ。勿論、あんたにもね。私が使ってるとしてもクスリの在処は見つけられないわよ。・・・何よ、その目。なんか言いたいことがあるなら言いなさいよ。」
ストレーガがキセルをふかしながら彼に問いかけると、彼は腰にベルトを巻き、剣をベルトに差す。
「・・・失望したぞ、ストレーガ。まさかと思っていたが『また』魔薬に手を出していたとはな。何時まで自堕落な生活を続けるつもりだ?あの時も言ったよな?もう二度と魔薬には手を付けない。クスリの世話にならない、しっかりと自制を利かせると約束したよな?忘れたのか?お前の為にわざわざ言ったのに___」
「何の事かしら?知らないわね、そんなこと。・・・何?説教でもするつもり?うざいんだけど。別に私が何しようがあんたには関係ないでしょ?あんたのそう言う保護者面、気持ち悪いんだけど。___アイリーンそっくり、本当にうざいわ。」
アイリーンは不機嫌にキセルをふかす。ウィルベールは小さく溜息をつき、テントの入口へと向かう。
「別に儂はお前が何をしようが正直どうでもいい。お前がどうなろうが、儂には関係ないからな。」
「・・・」
「ただ・・・悲しいだけだ。お前の姿を見た時から嫌な予感はしていたが、儂達との約束を破ってまでまた魔薬に手を出しているとはな。」
「あんたの傷を治してあげたのは誰だと思ってんの?治してくれた相手にその言い草はないんじゃない?」
「それはそれだ。傷を癒してくれたことには感謝しかしていない。いくら金が欲しいとか、新しい住処が欲しいというのなら、何としても直ぐに儂が手配する。それだけのことをお前はしてくれたのだからな。」
「・・・」
「だが、それ以上に___『約束』を破ったことは許せない。それだけだ。」
ウィルベールはテントの外へと出ていった。一人残されたストレーガは静かにキセルをふかし、キセルを強く握りしめる。この時、彼女の右頬はぴくぴくと痙攣していた。
「何が『悲しいだけ』よ・・・私の気持ち何か一ミリも分かってない癖に・・・偉そうにッ・・・」
ストレーガはウィルベールが出ていったテントの入口を見ながら舌を打った。キセルの火皿から白煙が薄く宙に解けていっていた。
ウィルベールが外へ出ると、多くの人々が街の復興に向けて動いていた。男達や騎士達が瓦礫の撤去や新しい家を建てる為の木材を運んでおり、女達が焚きだしを行ったり、洗濯物を洗いに行っている。子供達は母親ら女性達の手伝いをしており、皆街の復興に尽力していた。ブレイズ達を探しに街の方へ行くと、エルフェンが復興の手伝いをしていた。エルフェンは魔術で一気に木材を運んでいる上に、釘や縄なども器用に操り、ものすごい勢いで家を建築していく。
「あのエルフ・・・一人でどんどん家を作ってんぞ・・・俺ら要らなくないか?」
「で・・・でもよぉ、あれだとしっかりと固定されているか心配じゃないか?」
「それに関しては問題無いぜ。さっきあのエルフが作った家を確かめたんだが、魔力でかなり頑丈に固定されてたぜ。地面にも深く突き刺さってる上に、突き刺した後木を変形させて揺れたり崩れないように固定までしてる。後何故か柱にエルフ族の美しい彫刻が彫られてる。・・・あの人が作った家は人気が出るぞ。」
「それなら余計俺らの仕事・・・無くない?」
「んな訳あるか!街中焼けてんだぞ⁉こんな所で喋ってねえで体を動かしやがれ!」
「ひィッ!親方だ!」
エルフェンの建築スキルに見惚れていた男達がやたら強面の老人に怒られて仕事に戻っていく。強面の男は『全く・・・』と呆れながら、エルフェンの方へ歩いていく。
「エルフェン様、わざわざお手伝いして頂き、誠にありがとうございます。」
「構わん・・・少しでも役に立てたのなら・・・良かった。」
「少しどころか大変役に立ってますよ!まだ一時間しか経っていませんのに、既に五軒もの家を建築なさって下さりました!しかも壁や柱に美しい細工までして頂いて・・・我々もエルフェン様に負けていられませんな!」
強面の男はエルフェンに短く一礼すると、他の現場に戻って行った。エルフェンはそのまま黙って家を作り続けている。そんな彼の元にウィルベールは近づいて、声をかける。
「エルフェン、随分と手際よく家を作るんだな。お前にそんなスキルがあるなんて知らなかったぞ?」
「・・・あれから一人で旅を続けていた中で・・・自然と身についたスキルだ。野宿する時にこのスキルがあると・・・便利だからな。」
エルフェンはそう言ってまた新たに家を一軒完成させる。彼はゆっくりと体をウィルベールへ向ける。
「怪我の方は大丈夫なのか。」
「ああ、もう問題ない。ストレーガの治療のおかげだ。・・・お前にも世話になったな。」
「何がだ?」
「レフィナとブレイズの事だよ。儂が動けない間、あいつ等に訓練してくれてただろう。」
「それか。別に感謝されることではない・・・私はただ、あの二人に頼まれて付き合っただけにすぎん・・・」
エルフェンがウィルベールの瞳を真っ直ぐ見ながら、そう告げる。エルフェンは何かと面倒見の良い男であることは良く知っていたが、その面倒見の良さは今でも健在のようだ。
「ところでブレイズとレフィナを知らないか?てっきりお前と一緒にいると思っていたが・・・」
「あの二人は狩りに行っている。最近街の周辺に凶暴な魔物が現れるとの報告が上がっていて・・・その対処に向かった。」
「・・・お前は付いて行かなかったのか?」
「私が付いて行っても良かったが、それではあの二人に『甘え』が生まれる。何かあれば私が助けにやって来る・・・その甘えは成長に繋がらない。お前には悪いが、あの二人が死んでも責任を取るつもりは・・・無い。」
「構わないさ。あいつ等はそう簡単には死にはしない。___なんせ儂の孫娘と儂が興味を持った男だからな。」
ウィルベールがそう言って微笑むと、エルフェンも薄っすらと笑みを浮かべた。エルフェンも内心あの二人が死ぬとは思っていないと信じているのだろう。
直後、街の外から歓声が上がった。二人が歓声の上がる方へ向かうと、街の入口に無数の氷の刃が頭部に突き刺さったエリュマントスの死体が置かれており、傍にはレフィナとブレイズの姿があった。人々の歓声を受けて、二人共恥ずかしそうに頬を赤らめる。
『暴れていた魔物はエリュマントスだったか。図体からして以前倒した奴よりかは少し小さいが、立派な大人のエリュマントスだな。・・・儂がいなくてもこれほど凶暴な魔物を倒せるようになったか。』
ウィルベールは自然と二人に拍手を送っていた。レフィナがウィルベールに気が付いて、近づいてくる。ブレイズもレフィナに続いて近づいてくる。
「お爺様!もうお怪我は治ったのですか⁉」
「ああ、もう大丈夫だ。それよりもあのエリュマントスを二人で倒したのか。やるじゃないか。」
「ま・・・まぁ・・・殆どレフィナが倒したようなものだけど・・・」
「そんなこと無いですよ。私が魔術を詠唱している間、ずっと気を引いてくれたじゃないですか。それに足の腱を斬ったりして機動力も落としてましたし、大いに活躍していましたよ。」
「そ・・・そうかな・・・」
ブレイズが恥ずかしそうに後頭部を掻く。レフィナは腕を後ろに組んで、彼に優しく微笑む。互いに認め合う姿勢は精神的にも技術的にも効果的だ。この二人の関係はまさに切磋琢磨するには理想の状態だと確信した。
「エルフェン様、貴方の教えがあり、無事にエリュマントスの討伐を達成いたしました。この度は戦闘のご教授、誠にありがとうございました。」
「私はただ単に基礎を叩きこんだだけだ。礼を言われる覚えはない。」
エルフェンはそう言ってそそくさと何処かへ消える。レフィナが何か余計な事を言ったのではと少しあわあわしているので、ウィルベールがフォローを入れる。
「あいつは昔っから照れ屋な所があるから気にするな。ああ見えて、内心とても喜んでるんだよ。喜んでいる時はいつもああやって何処かへ消えて、何時の間にか戻って来てるんだ。」
「・・・変わってますね、エルフェン様は。」
「というかウィルベールの仲間って皆変わってそうだよな。あの人と言い、ストレーガさんといい・・・やっぱ一味違うつうか、言っちゃ悪いけど変人だよな。」
「そう言われたら否定できんな。実際他の奴らも変人だからな。・・・あいつだけは違ったが。」
「あいつ?」
「お前の婆さんだよ。アイリーンの奴はまさに今のお前みたいに俺達の中で常識人枠だった。あいつがいたから、俺達は一つにまとまってたんだ。・・・お前にも婆さんと同じ苦労人の匂いがするな。」
ウィルベールはそう言ってレフィナの頭を撫でる。レフィナは恥ずかし気に顔を俯ける。
「これはこれは・・・やたら騒がしいと思えば貴方達でしたか。」
声のする方へ振り向くと、そこには第三師団第四騎兵分隊の分隊長、ベッシュがいた。ベッシュは右手に杖を携えており、頭を下げる。
「お前は確か、第三師団の分隊長だったな。名前は確か・・・」
「ベッシュ、ベッシュ・クローノと申します。以降お見知りおきを。・・・それにしても大きなエリュマントスだ。この付近に最近出没していた凶悪な魔物とはこれの事だったのか。___貴方が、これを?」
「いや、儂の孫達が仕留めた。」
「何と!彼女達が!これは凄い!お二人でエリュマントスを撃破したと!エリュマントスは戦力にして王都軍の一個中隊相当、二人で撃破したとなると相当な練度を持っていますね。」
ベッシュは興味深そうにレフィナとブレイズを見る。
「特に彼女・・・君は確か第一師団の剣術士だったかな?」
「はい。第一師団第七騎兵分隊所属、レフィナ・グランディオーツです。」
「ふむふむ・・・精鋭揃いの第一師団・・・若くして才覚に溢れている。流石、『英雄の孫娘』と言うべきか。」
「・・・」
「おっと、失礼した。別に嫌味などではないよ。純粋に君の力を評価しているだけだ。君が戻る部隊はもう既にないが、その力はこれからも王都軍に預けてくれるかな?」
「はい、勿論でございます。」
レフィナの言葉にベッシュは頷く。ウィルベールは腕を組んで彼に尋ねる。
「で、儂達に何の用だ?只雑談をしに来た訳じゃあないだろう?」
「勿論でございます。ゲルニカ副団長が皆様と話がしたいとのことで、お探ししておりました。・・・ご同行願えますか?」
「分かった。案内してくれ。」
ベッシュは小さく頷くと、ウィルベール達に背を向けて歩き出した。三人は彼の後を追って、避難所にある野営基地の指令場に向かった。到着すると、そこには大きな机を囲むようにゲルニカ、ラッシュ、ストレーガの姿があった。ストレーガはウィルベールの方をちらりと見て、ばつが悪そうに視線を直ぐ逸らす。
「ゲルニカ副団長、ウィルベール様をお呼びいたしました。」
「ありがとう、ベッシュ。申し訳ありませんね、ウィルベール様。病み上がりというのにわざわざ呼び寄せてしまって・・・」
「構わない。それで話と言うのは何だ。」
尋ねると、ゲルニカがある大きな紙を机の上に広げた。その紙には真ん中に弓を持った女神のような人物と、その女神の周囲に無数の死体が積み上げられている絵が描かれている。単刀直入に言って非常に趣味の悪い絵だ。
「・・・これは?」
「この絵は我が王都軍に保管されている絵巻の一つで御座います。タイトルは『星后アルテミス』___第六次人魔戦争で猛威を振るった魔王を示した絵となります。」
「アルテミス___ってあの時、襲ってきた奴と同じ名前!言われてみればこの絵の女も弓を持ってるし、髪形も服も何となく似てるような・・・」
「儂達が戦った奴が以前の魔王ということか?」
「まだ確定はしていませんが、ストレーガ様に伺った時にアルテミスという名を聞いたので、もしかしてと思い、連絡させて頂きました。」
ウィルベールはゲルニカの言葉を聞いた後、その絵を真剣に見続ける。彼が絵を注視している間、レフィナが声を上げた。
「で・・・ですが歴代の魔王は現在の魔王ディルメルガを除き、全員各時代の勇者一行に倒されたはずじゃ・・・」
「そう、倒されている。その絵の『星后アルテミス』も当時の勇者と複数人の犠牲を伴って撃破している。死亡確認も取ったとも記されているから、確かに息の根は止めている。」
「ではあの魔族は一体何者だったのでしょうか?彼女は確かに自身を『アルテミス』と名乗っておりましたけれど・・・」
レフィナの呟きに、ウィルベールが顎を摩りながら呟く。
「___偽者か。『アルテミス』の名と姿を模した別の何かという可能性もあるな。失踪した王都軍の分隊長がヒュッセルの姿になって襲撃してきた以上、あの魔族も偽者である可能性がる。・・・正直、もしあいつが本当にあの『星后アルテミス』なら、あの程度で倒せはしないだろう。」
ウィルベールは机に広げられている絵を見ながら、目を細める。あの時、エルフェンは確かにアルテミスの胸に穴をあけたが、その後に現れた謎のフードの男が彼女を連れて離脱したことから仕留めきれてはいないだろう。そもそも四十五年前に戦った魔王ディルメルガも胸に穴をあけた程度では死ななかった。魔族は人間とは違い、魔力が尽きない限り死ぬことはない。胸を貫かれたり、頭を吹き飛ばされれば大量の魔力を失うこととなるが、それでも魔力が残っていれば再生する。魔族を倒すには魔力が尽きる程のダメージを与えるしかないのだ。
『しかしそれだと、あの女が『偽者』である理由が薄くなるな。単純に偽者と判明するのを恐れて連れ帰ったというのでも説明がつくが、あいつは『まだここで失う訳にはいかない』と言っていた・・・とすれば、あの女は本物ということか?だがそれではかつての勇者が倒してという情報が誤りだということになってしまうが・・・』
ウィルベールは腕を組んで、唸り声を上げる。どうにも不自然な出来事が乱立しているこの状況に気味悪さを覚えた。整理するにはもう少し情報と時間がいると確信した。
「これらの資料、儂らに譲ってもらうことは出来るか?こちらでじっくりと読み解きたいんだが・・・」
「大変申し訳ありませんが、これらの書物は王都軍管轄の極秘書物に指定されており、貸し出しは許可しておりません。」
「まぁ・・・そうだろうな。」
ウィルベールが半ば分かっていたように返事すると、ゲルニカは机の上に広げた書を丸め始めた。
「ですが、今回のこの異常事態・・・我々としても早急に事態の把握と情報を収集したいと思っておりますので、特例としてお貸しいたしましょう。___それに我々が持っているよりも八英雄であるウィルベール様が持っておられた方が安全だと思いますので。・・・この基地の書庫にあるかつての人魔戦争に関する他の書物もついでに持っていっても構いません。大部分は王都に保管されておりますので数はあまりありませんので参考になるかは分かりませんが・・・」
「いいや、助かる。わざわざありがとう。」
ウィルベールはゲルニカに感謝を述べる。その後、ウィルベール達は基地の地下にある書庫へと向かう。地下に保管されていた為、幸運なことにあの襲撃で被害にあうことはなかった。古書特有のかび臭いが部屋中に漂う中、ウィルベール達は重要そうなことが書かれてある本を厳選する。最終的に三冊の分厚い本を借りることにした。
ウィルベール達は書庫を後にすると、次なる街へ向かう準備をする。避難所のテントで荷造りを整えて、三人は出発の準備を完了させるとテントを後にする。避難所を出た後に焼け野原と化した街の中を横断し、街の北門へ向かうとそこにはゲルニカ・ラッシュ・ベッシュの姿が見えた。
「わざわざ送り出してくれるのか?」
「勿論です。貴方はこの街を救ってくれた英雄ですので。」
「・・・儂は何も救ってはいない。街を救えず、挙句の果てに死に損ねた男だ。儂に礼を言わず、エルフェンやストレーガの奴らに礼を言ってくれ。」
「何をそんな謙遜なさるのですか?貴方がいなければこの街はガロックのように滅んでいたかもしれない・・・貴方のおかげで多くの命が救われたのも事実で御座います。私は貴方に何と言われようが、感謝の気持ちを伝え続けますよ。」
「・・・なら勝手にするといい。」
ウィルベールはそう言って街を後にした。レフィナとブレイズはゲルニカに頭を下げる。
「ゲルニカ副団長、そしてラッシュ分隊長、ベッシュ分隊長。この度は大変お世話になりました。」
「うむ。これからも気を付けて任務にあたるように。今後の旅の安全を心より願っているぞ。」
「レフィナ君、ブレイズ君。私も君達二人の上に明星の導きがあらんことを祈らせて頂くよ。」
ゲルニカとベッシュが二人に別れの言葉をかける。ラッシュだけ、二人を少しキツイ眼つきで睨みつけたままだった。二人は会釈した後、ウィルベールの元へ向かった。ゲルニカ達がウィルベール達の後ろ姿を見送る中で、ベッシュがラッシュに声をかける。
「兄さん、何やってるのさ。折角向こうから挨拶してきたんだからちゃんと返事しないと。」
「・・・うるせえ。」
「もしかして・・・憧れのウィルベール様を前にして緊張しちゃってた?兄さん、あの人に憧れて騎士になったものだからそうなのかな?」
「うるせえっつってんだろ、ベッシュ!今度余計なこと言うとぶっ飛ばすぞ!」
ラッシュが激昂し、ベッシュが両手を前に出して呆れた顔をする。ゲルニカは小さく溜息をつき、その場を去る。ベッシュとラッシュもゲルニカの後に続いて街の中へ消えていった。
ウィルベール達は北へ続く街道を歩く。馬を無くしたせいで、徒歩で移動する羽目になり、初夏のじりじりとした熱が三人の肌を焼き、乾いた風が彼らを撫でる。
「あァ、暑い・・・馬に乗りたい・・・何で貸してくれないんだよ・・・」
「我慢してください、ブレイズ。この前の襲撃で王都軍の馬が殆ど死んでしまって足りないんですからしょうがないですよ。」
レフィナがブレイズに叱咤すると、ウィルベールに話しかける。
「お爺様、次は何処へ?」
「次の目的地は『コロッセウム』に向かう。年中、闘気と覇気に満ちた街で唯一王都軍が駐屯していない街だが、無数の傭兵ギルドが存在する武装都市だ。」
「ということは・・・『ドーラン』様へお会いになるつもりで。」
「そうだ。・・・あいつの力を借りる羽目になるかも知れないからな。今回の事件についてとか、その他色々と話を通しておきたいからな。」
ウィルベールがかつての仲間の事を思い浮かべながら横にいるレフィナの方へ顔を向けて今後の予定を口にした直後、目の前から聞きなれた女の声が聞こえてきた。
「ふぅん___『コロッセウム』に向かうつもりなのね。」
レフィナから視線を外して前を向くと、前にはストレーガとエルフェンの姿があった。ストレーガはキセルを右手に持って、腕を組んでいる。じっと相変わらずの鋭い眼つきで睨みつけてくる彼女にレフィナとブレイズは警戒する中、エルフェンが話しかけてきた。
「・・・ドーランに会いに行くのか。」
「ああ、王都に向かう途中でコロッセウムに寄るからな。あいつの耳にも街で起こった出来事を教えておきたいと思ってる。」
「そうか・・・」
エルフェンはそう言って黙り込んでしまう。ウィルベールが代わりに二人へ問いかける。
「で、何の用だ?ただ見送るためだけにわざわざ儂達の前に立ったわけじゃあないだろう。」
「ええ、その通りよ。じゃあ単刀直入に言わせてもらうわね。・・・ウィルベール、私とエルフェンをあんた達の旅に加えなさい。」
ストレーガの言葉にレフィナとブレイズが動揺する。突然の話だったが、ウィルベールは一切表情を変えず、更に問いかける。
「いきなりだな。何か理由でもあるのか?・・・エルフェン、お前は別の用事があるんじゃなかったのか?わざわざお前自身の用事をキャンセルしてまで付き合う必要は無いと思うが。」
「・・・確かに、私には用事がある・・・が、この前の一件で事態が変わった。・・・私は自分の用事を優先するよりも今起こっている問題を解決する方が先だと考えた・・・それだけだ。」
「成程。お前がそう判断するのなら、別に構わない。こっちとしては、お前程の戦力が傍にいることはありがたい。・・・ストレーガ、お前もエルフェンと同じ感じか?」
「・・・そうね。大体はエルフェンと同じ___まぁ、他にも少し訳はあるけど。奴らに家壊されたからお返しもしたいし・・・それに私がいれば古代文字や魔術に関する心配をする必要が無いわよ。何かあったら私が何とかしてあげるから。」
『『あげる』って・・・頼む側なのに随分と上から目線だな・・・』
ブレイズが彼女の謎に上から目線での物言いに困惑しながらも、ウィルベールは小さく目を瞑って返事をする。
「・・・分かった。一緒に来てくれ、ストレーガ。」
ストレーガはふんっと鼻を鳴らす。本当に何処までもふてぶてしい人だとレフィナとブレイズは思った。彼女が一体何を考えているのかは二人には分からないが、もう少し言い方というものがあると感じていた。そして何故彼女がここまで親しい者にも攻撃的な性格なのか・・・好意とは別に単純な興味も湧き始めた。
エルフェンとストレーガを加えて、五人は北へ向かう街道を歩きだした。空を覆う雲は厚みを増し、周囲を薄暗くしていった。
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