オルタナティブ・ガーディアンズ ~救世の英雄は世界に希望を灯す~

黄昏詩人

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~魔族襲撃編 第2話~

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[回り道]

 グレゴルド王朝・第九紀・四十五年・五月___アルヴェント大陸南部・オルガナ街道・野宿場

 食事処に入ると、ウィルベール達は奥のテーブル席へと案内された。店内には昼間というのに多くの旅人達が飲み食いしていた。中にはまだ昼間だというのに酒を飲んで酔っ払っている者もいる。テーブルに座ると、ウェイトレスが水の注がれたコップを机の上に置いた。ウィルベールは彼女からメニュー表を受け取ると、レフィナとブレイズにメニュー表を手渡す。

 「好きなものを選べ。遠慮はせんでいいからな。」

 ウィルベールはそう言って、コップに入った水を飲む。レフィナはメニューを開いてから僅か五秒で頼む料理を決めて、ウィルベールにメニュー表を手渡す。

 「決まりました。」

 「早ッ!いいのか、そんなに早く決めて。」

 「大丈夫です。」

 レフィナがブレイズにそう告げた直後、『グゥゥゥゥ・・・』と彼女のお腹から大きな音が聞こえた。レフィナは咄嗟にお腹を押さえて、頬を赤らめる。

 「・・・お腹が・・・空きましたので・・・」

 『・・・可愛いな、おい。』

 レフィナの恥ずかしがる顔を見ていると、思わずブレイズは妙な感情を抱いてしまった。そんな事を考えている内に、ウィルベールも注文を決めてしまったのか、メニュー表をテーブルの上に置く。

 「儂も決まったぞ。ブレイズはまだか?」

 「あ・・・悪い。ちょっと待って・・・」

 ブレイズは慌ててメニュー表に視線を戻す。この店では魚を扱った料理が多い。そう言えば、今日街道を走っている時に潮の匂いがしたな・・・近くに漁村とかがあるのか?

 ブレイズは色々見た結果、結局地元の牛を使用したステーキ丼を食べることにした。ブレイズもメニュー表をテーブルの上に置く。

 「決まったよ。」

 ウィルベールはブレイズの言葉を聞いて、ウェイトレスを呼んだ。ウェイトレスは注文票を持ってテーブルの傍にやって来た。

 「ご注文はお決まりでしょうか?」

 ウェイトレスがそう言うと、ウィルベールがブレイズの方を見る。どうやら俺から注文をする事になったようだ。

 「俺はジェヴァル村産の牛ステーキ丼を一つ。」

 「私は旬の魚の盛り合わせとろろ刺身丼を一つ、特大盛りで。」

 『特大盛り・・・レフィナって細身だから小食だと思ってたけど・・・結構食べるんだな。』

 「焼き鳥丼、一つ。卵を二つつけてくれ。」

 「かしこまりました。ジェヴァル村産の牛ステーキ丼と旬の魚の盛り合わせとろろ刺身丼の大盛り、焼き鳥丼を一つずつですね?ご注文は以上で御座いますか?」

 「ああ。」

 「かしこまりました。少々お待ちください。」

 ウェイトレスはそう言うと、テーブルから離れて行った。ブレイズはコップの水を飲んでいると、レフィナが席を立ちあがった。

 「少し席を外します、お爺様。」

 レフィナはそう言って何処かへ行った。レフィナがいなくなった後、ウィルベールに尋ねた。

 「レフィナって結構食べるのか?スラッと細身だからそんな印象無かったんだけど・・・」

 「あいつは、昔からそれなりに食べる子だ。特に刺身を用いた料理が大の好物でな___食べる時は今でも目を輝かせながら食べるんだ。」

 「そう言えば、さっきも注文する時に少し声が上がってたような・・・意外だなぁ。」

 ブレイズはレフィナが食いしん坊という意外な事を知れて少し嬉しかった。あまり顔の表情を変えないので少し冷たい印象を持っていたが、レフィナは面白い人間なのかもしれない・・・彼女についてもっと知りたくなったブレイズだった。ブレイズの心の呟きを読んでいたのか、ウィルベールが頬杖をつきながら話を続ける。

 「レフィナが気になるのか?」

 「いやッ、その・・・気になるって言うか・・・その・・・」

 ブレイズが急に慌てふためくと、ウィルベールは嫌らしい笑みを浮かべる。ブレイズは少し顔を下げて、もじもじしながら理由を述べた。

 「一緒に旅をするから・・・レフィナの事、もっと知りたいかなって・・・レフィナっていつも淡々としていて、対応も素っ気なくて・・・ちょっと冷たいって思ってたから・・・」

 「なるほどな。確かにあいつは真面目過ぎて、人間付き合いがどうしても事務的な感じに思えるって言うのも分かる。お前がそう思うのも仕方が無いだろうなぁ。」

 「・・・」

 「でもな。これだけは言わせてくれ。あいつは一見態度が冷たく思えるかも知れないが、お前のことを嫌ったりはしてない。あの子はただ・・・真面目過ぎるだけなんだ。砕けた喋り方とかが苦手なんだ。優しすぎるのか、丁寧な言葉でしゃべるのが癖になってるんだよ、あいつは。」

 ウィルベールが視線を横に逸らす。彼ももう少しレフィナが砕けた対応を行えないものか、気にかけていたのかもしれない。

 「後な、レフィナだって普通に今時の女だよ。じっくり見てると可愛いところは沢山あるぞ。ま、この後分かるさ。」

 ウィルベールは頬杖を止めて腕を組み、椅子にもたれ掛かった。暫くしてからレフィナが帰ってきて、席に座る。レフィナは椅子に座ると、ブレイズが自分を見つめているのことに気が付いた。

 「どうかしましたか?」

 「あ、いや・・・なんでも・・・」

 「?」

 ブレイズはレフィナから視線を外すと、コップを持って入っている水をすべて飲み干す。レフィナは首を傾げ、彼女も水を飲む。ウィルベールはそんな二人の様子を薄っすらと笑いながら見つめていた。

 その時、後ろのテーブルに座っている旅人達の声が聞こえてきた。

 「なあ、聞いたか?先日の大雨で川が氾濫しちまってカールズ橋が壊れて渡れなくなってしまってるらしいぞ。」

 「本当か?参ったな・・・カールズ橋が渡れないんじゃアフターグロウには行けねえよ・・・」

 「復旧まで最短でも一月はかかるそうだ。」

 「そりゃあ、そうだろ。カールズ橋はこの大陸の中を流れる巨大な運河を渡るために作られた橋だからな。そう簡単には元に戻らないだろうな・・・」

 「だな。・・・ったく、これじゃあ商品を納品出来ない。物流が止まっちまうぜ・・・」

 旅人達がどうしよものかと悩んでいる。ウィルベールは彼らの会話を盗み聞きしながら、この後の計画を再構築する。

 「でも確か少し離れた所にある山道を通っていけば、アフターグロウへ行けたよな?」

 「ディールン山道だろ?あそこは止めとけ、今凶暴な魔物が暴れまくってるようだからな。あそこは元々山賊がいたんだが、その山賊が全滅しちまったらしい。派遣された王都軍の部隊も壊滅したんだそうだぜ。」

 「マジかよ!大人しく橋が修復されるまで待った方がいいっぽいな・・・」

 『凶暴な魔物、か・・・ディールン山道・・・』

 ウィルベールは盗み聞きをして、迂回ルートの情報を獲得した。ウィルベールがもっと情報を得ようと耳を傾けていたその時、料理が届いた。

 「お待たせしましたぁ~!ジェヴァル村産の牛ステーキ丼と旬の魚の盛り合わせとろろ刺身丼の大盛り、そして焼き鳥丼です!」

 「・・・じゅる。」

 『今レフィナから思いっきり舌なめずりする音が・・・』

 ブレイズが横にいたレフィナの方を見る。レフィナは目を輝かせながら目の前に置かれた刺身丼を見ている。彼女の頬は自然と上がっていく。

 「それじゃ、頂くか。」

 「頂きます。」

 「い・・・頂きます・・・。」

 レフィナの反応が気になってブレイズは思わず食事の挨拶が遅れてしまった。というのも、レフィナは手を合わせた直後、背筋をピンと伸ばして姿勢よく、がっつき始めたからだ。この一週間、野宿中の食事ではゆっくりと品よく食べていたことから、まさかこんなに大体に食べるとは思って無かった。

 「うん・・・うんッ!お、美味しいッ!これは・・・ふふっ・・・ふふふふふ・・・」

 「・・・」

 ブレイズはレフィナがこれほど嬉しそうな顔をしているのを初めて見た。・・・こんなに笑うんだな、レフィナって。

 「美味しいか?」

 「はい!美味しくて頬っぺたが落っこちてしまいそうです!はむっ・・・はむっ・・・」

 「・・・」

 「どうした、ブレイズ。まだ一口も食べてないじゃないか。」

 「あ・・・う、うん・・・はふっ・・・」

 ブレイズは一切れのステーキを口一杯に頬張る。溢れ出る肉汁が口の中に広がり、濃厚な味わいを堪能する。ブレイズも思わずその美味しさに笑顔になる。ウィルベールは焼き鳥丼を食べながら、二人が美味しそうに食事をする光景を微笑ましく見守っていた。食事に集中しすぎて誰も喋らず、ウィルベールが完食する頃には、既に二人は完食しており談笑していた。

 「凄い食べっぷりだったな。ウィルベールから聞いたけど本当に刺身が好きなんだな。」

 「は、はい・・・刺身のさっぱりした味と食べやすい感じがすごく好きで・・・食感も好きなんです。だからその・・・つい・・・年甲斐もなく・・・興奮しちゃうんです・・・」

 「そう・・・なんだ・・・」

 『・・・可愛いな、おい。』

 ブレイズはレフィナが子供みたいにがっついて食べてしまっていたことを恥ずかしく思っている様子に思わずときめいてしまった。何時もは感情を余り出さない彼女だが、だからこそ先程の好物の食事っぷりとのギャップが凄まじかった。確かにウィルベールが言っていたように彼女にも可愛らしい所はあるようだ。・・・今時の女が刺身丼をがっつくかどうかは分からないが、少なくとも幸せそうにご飯を食べている時の顔は、とても可愛らしかった___と思う。

 ウィルベールは口の周りについたタレを拭きながら、二人に話しかける。

 「お前達、食べ終わったな。」

 「はい。この後出発しますか?」

 「いや、今日はここに泊まる。さっき小耳に挟んだんだが、どうやらこの先のカールズ橋が昨日の豪雨で流されてしまったんだと。」

 「・・・」

 ブレイズが表情を曇らせる。ウィルベールはブレイズに向けて声をかける。

 「そんなに落ち込むな、ブレイズ。お前の能力で橋が壊れた訳じゃないんだ。」

 「そうは言ってもカールズ橋は一世紀以上もの間どんなに川が荒れても壊れなかった橋で有名だったし・・・」

 「一世紀壊れてなかったとしても、今壊れないとは限らない。偶々今まで持っただけで、何時壊れてもおかしくは無かった。」

 「そうですよ。カールズ橋は幾度の修繕を繰り返してきましたが、それでも限界が近いと皆言ってました。だからこの前の豪雨で流されるのはしょうがないですよ。」

 ウィルベールとレフィナがブレイズを何とか慰める。ブレイズは彼の性質から周りで起こる不幸は全部自分のせいだと思い込んでしまうようだ。・・・恐らく、幼い頃から迫害されてきた弊害だろう。事実、旅の最中で悪天候に襲われた時や、保存食が虫に食われていた時があったのだが、その時も自分を責めていた。

 『ブレイズのこの悪癖を何とかしたいものだが・・・そう簡単には行かないだろうな。』

 ウィルベールはブレイズを見ながら、どうしたらいいものか考えたが時間をかけて意識を変えていくことしか思いつかなかった。彼は机の上に置かれた伝票を手に取ると、席を立った。会計を済ませて、ウィルベール達は今日泊まる宿屋へと向かった。
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