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~新たなる旅の始まり編 第5話~

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どうして子供のころはあんなに肝試しが好きなのかねえ?
あんたもやったことはないかい?
ちょうど私が十一の時だったよ。
今から六十年以上前の話さ。
私が住んでいた町内には観音様とお稲荷様と天王様があってね。
この天王様を八雲神社というんだが…………
天王様ってのは牛頭天王、すなわち素戔嗚神のことらしい。
私もなかなか学があるだろう?
といっても旦那の受け売りだけどね。
一説には素戔嗚神はあの世の神様だというよ。
もっとも、子供のころはそんなこと気にもならなかったんだがねえ。
あれは7月の暑い盛りだったよ。
近所のAが肝試しに行こうと言い出したのさ。
ちょうど夏祭りの稽古があって、近所の子供は夜に外出する予定があった。
そのついでに、というわけさ。
すぐに数人がはしゃいで、行こう行こうという話になった。
どこに行く? となったら真っ先にあがるのは天王様さ。
あそこには社殿の奥に、すり鉢状の沼がある。
普段はフェンスで囲まれて、子供は入れないようにしてるんだ。
フェンスの上は鉄条網で登れないようにしている念の入れようさね。
どうしてそんな厳重に囲っているのか、子供たちはみんな知っていた。
もう五、六年前になるか。
一人の女性がそこで自殺したからなんだ。
なんでも男と別れたせいらしい。
が、この話には続きがあってね。
女性が好きだった男性というのは実の兄だった。
その兄が結婚することが決まり兄が他人のものになることに耐えられなかったらしい。
だから兄はまだ存命で、命日にはきちんと花束を供えに来るそうだよ。
とはいえ、それはすべて後でわかったことだ。
子供だった当時はそんなこと何も知らなかったからね。
稽古もそこそこに適当な理由をつけてみんなで天王様に集まったのは夜の八時ごろだった。
みんなはしゃいでいたよ。
当時は今みたいにLEDライトなんてないし、鳥居の近くの電柱に街路灯があるだけ。
鳥居の先の階段をあがれば真っ暗さ。
懐中電灯片手に天王様の社殿を通り抜けると、ちょうど左後ろに沼がある。
もともと不気味なところだったけど、夜の暗闇に浮かぶそこは本当に気味が悪かったよ。
水面が暗くて、底なしのように見えたからね。
だが怖いというのは同時に楽しいということでもあるんだ。
友達とキャーキャーいいながら水面に懐中電灯を向けるのは楽しかったね。
あれ?
ふと何かにきづいて声を上げたのは近所のAだった。
うわ!花が置いてあるじゃん!
よしなよ、と止めるまもなくAは花束をつかんで振り回し始めた。
さすがに罰当たりだと幼心に思ったね。
でも止めるとますますAは調子にのって、花束をバンバンとご神木に叩きつけた。
さすがにその場にいたみんなが止めた。
もうそれ以上はやばい。
そしたらAの奴、ムキになってその花束を沼の中に放り投げやがった。
そのときだよ。
ひいいいいいいいいいいいいい!
泣き声ともうめき声ともつかぬ女の悲鳴。
子供たちはもうパニックさ!
慌てて逃げようとしたら、ご神木の前にずぶ濡れの女がいるじゃないか!
兄さんの!兄さんの!兄さんの!
そういいながら女はAだけを睨みつけていた。
あとは無我夢中で逃げて、ぼろぼろになってみんな泣いて帰ったよ。
当然大人にバレて、しこたま怒られた。
親に叩かれたところが痛くて、また泣いてしまった。
翌朝、肝試しにいった子供たちは親同伴で神社にお参りにいくことになった。
罰当たりなことしてごめんなさい
あそこまで真剣に神様に祈ったのは後にも先にもあのときだけさ。
もうこんなことは二度とするんじゃないぞ?
親にそう諭された帰り道、Aが突然泣き出した。
ちょうど鳥居をくぐったあたりのときだった。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……
泣きながらそう繰り返すAに、母親がなだめるように言った。
ちゃんと謝ったんだから大丈夫よ。
でもAは泣きながら首を振る。
お姉ちゃんがさっきから、そこでお前だけは許さないから!って叫んでる!
Aが鳥居の方向を指さして、誰もが一斉に鳥居の方を向いた。
次の瞬間、交差点の陰から一時停止を無視して飛び出してきた軽トラックに跳ねられて、Aは死んだ。
いいかい?
子供だから、とか、偶然事故で、とか、言い訳は霊には通用しないんだよ。
やったことがすべてで、大抵は取り返しがつかないんだ。
触らぬ神に祟りなしってのはそういうことさ。
何かあってからじゃ遅いんだからね。
ひっひっひっ……
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