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はじまり

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食事を終えた後、暫く道なりに進み、今は道の左側にあった森の中へと入って暫く歩いたところだ。
勿論アルドは弁当5つで足りるはずもなく、計15個の弁当を平らげた…気持ち悪い
俺が食後のゴミなどをアイテムボックスへとポイポイ入れている間に、ロワンとアルドが何か会話をしていたかと思うと、会話を終えたアルドが「俺の飯代用。チャージしろ」と50,000円も渡してきた
きっとロワンに何か言われたのだろう……
 
あの時貰った現金を何も考えずにチャージした事を、実は今すごく悔やんでいる。
手元に現金を置いておくべきだった…


「トウヤ、剣を構えて」


鬱蒼と茂る森の中で、突然後ろから言われた言葉に背筋が震える
前方を歩くアルドの進行速度は変わってないし、剣だって腰にぶら下げたままだ
だが俺に剣を構えるように指示を出した後方のロワンは、腰元の細い剣へと手を掛けていた

という事は、後ろから何か近づいてきているのだろうか?
2人が居れば俺に命の危険…というまでの危険は訪れないのだろうけれど、だからと言って何もしないわけにはいかない。
それにモンスターが居るなら、剣を持っておかないと俺が不安だ
ロワンに言われたように、アイテムボックスから短剣を取り出し握りしめる

剣を出してほんの2、3歩、足を進めた頃だろうか…目の前を砂埃が舞い視界を奪った。
ズドン!!と大きな音
周囲の木々が騒めく
鋭い風が横を通り過ぎた。

砂埃に咳き込みながら一歩後ろへと下がると何かにぶつかり、驚いて振り返る
そこには剣を抜いてニッコリと笑うロワンの姿。
ホッと胸を撫で下ろし、砂埃が静まりつつある前方を見ると、足元には緑のトゲトゲした細長い物が散らばっている。
そしてその先には頭から血を流しながら、地面へとひっくり返るアルドの姿


「うっぜェ…フラム」


ひっくり返ったままグイ、と額の血液を黒いマントで拭ったアルドが素早く起き上がりボソリと何かを呟く
その言葉と同時に、アルドの更に先で赤い炎が上がった。

思考が停止する俺の頭の上で、小さい舌打ちが聞こえた気がする

音がした方へと恐る恐る振り返ると、そこには変わらぬ笑顔のロワンの姿。でも背中に纏うオーラは冷気を発しているようだ…

轟々と燃える炎の中から、今まで聞いた事も無い声の様な物が響き渡り、その炎が周りの木々に燃え移り始めた頃、炎全体を青い球体が囲んだ
すると、ジュッと音を鳴らし忽ち消えていく炎から、黒煙が立ち込める



「森で火を放つバカを見るのは何度目でしょうか」


その声はとても冷たく、俺の背筋を凍りつかせた。
何か言いたいが、俺が何か言葉を口にしても良いような空気では無さそうなので、ゴクリと唾を飲み込む
恐らく火を放ったバカ…であるアルドは我お構い無しといったようで、腰のポーチから出したポーションを頭へと振りかけていた。


ああ。ポーションにはバカに作用する効果は無いのだろうか…


「ああトウヤ…驚きましたよね、すみません。」
「い、イエ、全然ダイジョブ!」


「そうですか?では、こちらにトドメを」


そう言ってロワンが笑顔で俺へと差し出したのは、水で出来たロープの様な物でぐるぐる巻にされた植物型のモンスターだ。
全長は俺の背丈とあまり変わりなさそうで、赤銅色で花の様な形をした大きな頭部から、タコの様な足が伸びているが、その足は緑色でトゲトゲとしている

トドメ?もう死んでる様にみえるけど?ピクリとも動かないし…所々焦げてるし!!


「そうですね…ココ。ココです」


ロワンがクルリと指を回すと、水のロープが2本動き出し、花の中心部を無理やり開いていく
グチグチと嫌な音を鳴らしながら開いたその中は、襞の様な物で覆われヌルヌルとしていて、
ロワンがここ、と指差す所は襞の一部がぷっくりと赤く盛り上がっていた

気持ち悪いな…と思いながらロワンを見やると、大丈夫。とニッコリ笑って送り出されたので、覚悟を決めて剣を握る。


ズチュ、と嫌な音と共に手に伝わるこれまた嫌な感触
薄目でモンスターを確認すると、俺の剣を受けたその花の部分からみるみると萎びれてゆき、あっという間にカラカラに枯れ果てた花へと変貌を遂げた


「良くできましたね」
「え…俺ほとんど何もしてないけど??」

まるで子供を褒めるように、俺の頭を撫でるロワン。本当に何もしてないのに褒めてくれるなんて…
でもロワンの年齢からしたら、確かに俺なんて子供みたいな物か?

それにしても、生きてる時も死んでからも気持ち悪いモンスターだったな…
こんな気持ち悪いモンスターも居るのか…と辟易しながら剣をアイテムボックスへと入れる

そういえば、レベル上がったかな?結構あっさり倒せたし、経験値が少ないかもしれない…と思いながらも期待と共にステータス画面を開いた

レベル8
HP17/MP10


レベルが一気に二つも上がっている…
という事は、このモンスターは強い部類のモンスターだったという事だろうか?
瞬殺って訳では無かったが、モンスターの凄み?やらは感じなかったウルフベアのほうが怖かった……気持ち悪さなら存分に感じたが…。

いやでも、それにしてもロワンは凄いな…いち早くモンスターに気づくし、あっという間に戦闘不能にしてしまうし…トドメを俺に任せてくれる余裕もある。

それに比べてアルドは……まあ、あの炎の魔法はすごかったけど……

……魔法、魔法??


そういえば前にロワンが「下位魔法でもMP10消費する」的なこと言ってなかったっけ?
という事は言い換えれば10あれば魔法が使えるという事だ。とすれば、俺にはもう魔法が使えるという事だろうか?
楽しみすぎてこれは早く試したい。すぐに試したい

定番の火の魔法は…森の中だしさっきのロワンの事を思うと使えない、と言うか使いたく無いから…うーん。なんだろう。どれにしよう
適正だけはあるから何でも出来るとは思うけ
れど、下位魔法っぽい、ゲーム序盤で出てくるやつといえば…


「ウォーターボール!」


水の玉!
強く念じながら萎びれたモンスターの死骸を指さすと、何処からともなく現れた青い玉の様な透明の様な水の玉が、死骸にぶつかり弾けた



で、でたあああああ!!!
すごい!すごい!俺魔法使える!すごい!
あれ?でもなんだか気持ち悪い…、頭がクラクラするし、軽い耳鳴りがする…何だろうこれ貧血かな?全身から血の気が引いていく様な…ヤバい、視界が回る。立ってられないかも……


「っトウヤ!!!!!!」



身体が冷たくなり指先が痺れ倒れ込む寸前、ロワンに抱き止められる。
その次の瞬間首へと走る痛み
痛んだその部分が熱くなったかと思うと、ドクドクと脈打つその熱が身体へと広がり、徐々に身体が暖まり、意識がはっきりしていく。



「……、大丈夫ですか?」
「大丈夫かァ?」


俺の首元に埋まっていたロワンが顔を上げると同時に首筋がひどく痛む
憂わしげな表情で俺の腰を抱き留めたロワンが瞳を覗き込んだ
背後からはアルドの気が抜けるような声が響く

いったい今、俺の身に何が起こったというのだろうか…


「うん、ごめん…貧血かな…もう大丈夫。」

「いえ…トウヤ、魔法を使いましたね。魔力枯渇を起こしたのでしょう」
「コカツ……」


とは、なんぞ?!
あまりにも俺がトボけた顔をしていたのか、ロワンが俺の頬へと触れ美しい顔でクスリと笑う、そして


「MPが0になると、最悪の場合死んでしまいます…」

と衝撃発言をした。

最悪の場合…死ぬ
その言葉にゾワリと鳥肌が立ち、全身がカチコチに固まる
俺の全MPは10、下位魔法で消費するMPも10
まさかこんなところに、モンスターでは無い伏兵が居るとは思いもしなかった


「本当に間に合って良かった…
ほんの少しだけ私の魔力を流し込みましたが、不調はありませんか?」


俺の首筋を撫でたロワンが小首を傾げる

なるほど。さっきの首の痛みはロワンの牙による物だったのか…
痺れが解けた手をグーパーと動かし、軽く頭を振る。うん、もうクラクラしない。
ステータス画面を開けばMP8(10)の表記
それを見て大丈夫だと告げると、腰に回されていたロワンの手が離れていった。

うん。身体はもう何とも無さそう
これから魔法を使う時は気をつけよう。と心に誓った



「念の為、少し休憩しましょう。……アルド」

「そうだなァ、すぐ先に女神の泉がある。そこまで行こう」
「モンスターが寄り付けない泉…、それはいいですね」


ロワンから「私かアルドが運びますよ」と提案されたが、流石にそこまでして貰うのは気が引けるし、本当に身体の調子は何とも無いので、自分で歩けると言いお礼を告げた。
知らなかったとはいえ、俺の勝手な行動で寄り道する事になってしまい本当に申し訳ない…
魔法が使えるかも!と思って浮かれていたのだ。

先頭を歩くアルドに続き、草や枝を踏み締め歩く
俺を気遣ってなのか、先程より随分ペースがゆっくりだ。
暫くゆっくりと歩を進めると、徐々に俺の息が上がる。後ろからロワンに心配されたが、大丈夫と返して更に足を動かす

ロワンには大丈夫だと言ったが、大丈夫なのだろうか…
何故か息をして心臓が脈打つ度、体の奥底で熱が燃え上がる
指先など体の末端が甘く痺れはじめ、その痺れは息をする度に少しづつ全身へと広がっていく

身体が熱い。


もう少しだ、とアルドが言うので、荒い息を押し殺し、ひたすらアルドの背中を追った。
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