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しおりを挟むダンジョン
交配無しにモンスターが生まれ、モンスターが帰る場所
ダンジョンのボスを倒すまで、そのダンジョンからは絶え間なくモンスターが生まれ出し、周辺の土地を闊歩し、命あるものの全てを奪い尽くす
ダンジョン産のモンスターが増えれば増える程、もとからダンジョン外で生活するモンスターもそれに感化され、縄張りを主張するために凶暴化する。とディーダが言葉を続ける
「フユキ、今すぐ荷物を纏めてここを出た方がいい!」
緊張な面持ちでディーダが言う。その顔にいつもの笑みはない
彼の表情が今どれ程の緊急事態なのかを物語っていた
「…ポチ……!!そうだ、昨日ポチが森に入ったままだ!!」
ディーダの言葉にポチを置いてはいけない。そう思い名を呼ぶと同時、森へと入ったまま帰ってきていない大事な相棒を思い出す
もしかして何かあったのでは?
と嫌な考えが過ぎる。
いつもいつも決まった時間に来るわけではない、1日に最低1回は会いにくるだけ。夕方に来る事もあった。
だから、今日もフラッと昼過ぎにやって来るかもしれない…しれないが、絶対ではない。
「ポチい?!!なんだ?!」
「一緒に住んでる犬だ!」
素っ頓狂な声をあげるディーダに掴みかかる勢いでそう宣言した。
一緒に住んでる犬。共に過ごす大事な家族
「………心配するな。アイツなら大丈夫だ」
「っでも!!!」
ボソリとラルフレッドが呟いた。だがその言葉には何処か芯があり、説得力すら感じさせる
確かにポチは俺より強い、間違いなく強い
でも、初めて会ったあの日は間違いなく死にかけていたんだ。
「……ネージュウルフだ。絶対に問題ない」
ラルフレッドのアイスグレーの瞳が、力強く俺を見つめる。
「ネージュウルフ?!!雪山にいる奴がこんな温暖な所に居るのか!?」
「ネージュウルフって?」
ポチの犬種の事だろうか?聞き慣れない単語に首を傾げたが、何方からも追加の情報はなかった
ディーダが右手で顎を触りながら小さく唸る
「…ネージュウルフなら心配はいらねえなあ」
大丈夫だ心配せず避難しろ。とその大きな手が俺の背中を摩る
2人が言うなら大丈夫なのだろうか?
何せ、この世界の知識は俺より2人の方が有る
しかし、だからと言って無条件に安心できるわけではない
そもそもラルフレッドはポチに会ったことがあっただろうか?前回会った時は俺は1人だったはずだ。だから彼が言うポチが「ネージュウルフ」という名前の種という話も信用し切れない
「……ダンジョンが生まれたのは昨日の午後。ここまでモンスターが来るにしても、あと半日は問題ない」
「そうだな…今ならまだ街へ逃げれる!!俺が連れてってやるから早く荷物纏めちまえ」
「………行かない」
俺の放った一言が静寂を生み出した。
ポチなら問題無いと2人は言うが、絶対ではない。
俺の家族だ置いては行けない。
俺が異世界で今もこうして生きているのはポチのおかげでもある。置いてなんかいかない
危険になると分かってる場所に残るのは、本当は嫌だ。今、隣にポチが居れば間違いなく一緒に逃げるだろう
でも、今は居ない…ポチが一緒じゃないなら逃げる気はない。
ポチが帰るまで待つ。帰ってこないなら探しに行く。それ程、俺の中でポチはもう、なくてはならない存在になっている
暫く続いた静寂の中、静かに席を立ったディーダが大きなリュックの中へと腕を入れ、何かを握って俺の前へと立った
「行かねえなら、コレをやる」
ころん。とテーブルの上へと置かれたのはピラミッド型の黒い物体
俺が首を傾げるのを見てディーダが笑った。胡散臭いような、人懐こい笑い
「モンスター避けの香だ!無いよりマシだろ!!」
「…いや、貰えない!」
俺の我儘で残るのだ。
どれくらいの価値が有るか分からない物をおちおち貰えない
そっとテーブルの上の香を指で押し、ディーダへと返す
「……仕方ねえ。じゃあ商売といくかあ!!」
頭を掻き元気よく叫んだディーダがリュックへと駆け寄った。意味が分からずポカンと口を開ける俺と、変わらず無表情のラルフレッド
ディーダは慣れた手つきで床へと布を広げると、リュックから次々に色んな物を取り出し並べ始める
暫くして布いっぱいに商品を並べ終えたディーダが、豪快に笑い俺を見た
「で?ローションは何本あるんだ?」
「……えっと…30本ほど」
「よし!全部買うぞ!いいか?!!」
「え、あ、うん?」
あまりの空気の変わりようと、目の前で起こった手際のいい仕事ぶりに、思考が少し追いつかない
ディーダに言われるがまま、テーブルの上へとローションを並べると、その横に並べられる銀色のコイン達
ラルフレッドはいつの間にか3杯目のスープを飲んでいた
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