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第2章
4 . 時の流れ
しおりを挟む「それでは、また!父上!お元気で!」
ルーカスを見送る。オーウェンはサマンサから手紙を預かる。離島で力を貸してくれた かつての仲間からのものだった。実は彼にお礼を直接言うために、手紙を出していた。
彼はまだ現役の伯爵なので、直接会って言葉を交わすことは簡単に出来ない。手紙にはこの日この場所で何時から...といった細かい文言がある。
その手紙を読んでいるとサマンサが話しかけてきた。
「あの旦那様。その...失礼なのですが...ルーカス様は旦那様に似ていらっしゃらないですよね?顔立ちはなんとなく似ていますが...あそこまで性格は違うものなのだなと不思議でございました。」
「あぁ、あいつは母親の方に似たのだよ。」
「あっ...すみません!」
どうやらサマンサは、オーウェンに妻の事を思い出させてしまったと思って謝ったようだ。
もちろんオーウェンにとって妻のことは触れないでほしい部分だ。しかし最近は、いつまでも悲しみに暮れていては前に進めないと思えるようになった。
ソフィアの存在がオーウェンをそうさせた。
オーウェンはサマンサに、謝らないでよいと告げた。それでもサマンサは申し訳なさそうな顔をしていた。
数日後、オーウェンはかつての仲間である リアン・ウェトン 伯爵 のもとを訪ねた。
リアン・ウェトンはオーウェンが学生の頃からの親友だ。お互い長男で家督を継ぐ立場だった。境遇が似ているためすぐに打ち解けられた。かつては、二人で大きな夢を語ったこともあった。
そんな若かりし二人が家督を継ぐや否や、その夢を叶えるために東奔西走し、 あらゆる手段で成功させてきた。
互いが互いを尊重し、信頼し、命を預けてきた仲だ。
オーウェンがリアンの屋敷に着くと、メイドに案内された。客間に通されると、豪華な紅いふかふかのソファにリアンがどっしりと座っていた。さすが現役の伯爵。貫禄がある。
久しぶりの再会に二人は熱い抱擁をかわす。
「やぁ、オーウェン!久 し ぶ り だ の 体 の 方 は 大 丈 夫 な の か?」
「リアン、君こそ大丈夫なのかい?いや、大丈夫そうだな。その顔を見ればわかる。」
基本的におっとりしているリアン。しかし、今でも伯爵であるせいか、オーウェンと同い年にもかかわらず生き生きとしていた。
だから昔は、いくつもの案件を処理して 多忙を極めたオーウェンの方が若く見えた。
もちろん、オーウェンはソフィアと出会ってから生きる活力を得た。しかしそれでもなお、現役の伯爵ほどの若々しさは戻ってはこなかった。
今日の朝、オーウェンは水を汲んだバケツを持って腰を痛めそうになったぐらいだ。
それほどに伯爵という地位は忙しく、大変だがやりがいがある。
「リアン、この前はすまぬな。忙しいはずなのに力を貸してくれて...本当にかたじけない ありがとう」
「何を言っている? オーウェンと僕の仲だろう? ...それにしても残念だった。申し訳ない、うちの部下が止められなかったせいで...」
リアンは、茶髪に白髪が少しだけ混じった頭を垂れながら言った。
「いや君のせいではない。あれは彼女が自らの意思で決めたこと。もちろん最初は悔やんだが、今ではそう思えるようになった。」
オーウェンは、ほとんど白髪の頭を横にふった。それなら良かったとリアンは安堵するが、やはりまだ少し気がかりなようだ。
懐かしい昔話や近頃の話を二、三すると、リアンが立ち上がった。次のお客が来るようだった。
「オーウェン、次はソフィアも連れてきてくれたら嬉しい 待っているよ」
オーウェンはうなづくと自分の馬車に乗って、屋敷の大門を抜けていった。
リアンはその後ろ姿を見送る。
「オーウェン、君だけ 時の流れがはやいようだ。」
白い頭を隠すように深く帽子をかぶった 老夫の背中は、丸い曲線を描いていた。
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