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第2章
2 . 泣き声
しおりを挟むオーウェンは町に着くと、虎のような速さでクレアの店へ行き、象のような迫力で扉をバーンッと開ける。
だが、そこは居酒屋だ。誰も驚かない。酒を飲んでは、大声で暴れている。これがクレアにとっての日常だ。
だから店に来たオーウェンに気づいたのは、オーウェンの顔が目の前にきたときだった。
「っわぁぁ!坊っちゃま!どうなされたのですか?」
突然の来訪にクレアは驚く。オーウェンの目は燦然と光り、口角は上がりっぱなしだ。この前訪れた時のオーウェンとの違いに、クレアは戸惑った。
オーウェンはおかまいなく、クレアにソフィアが人見知りを始めたことを話す。
しかし、クレアがソフィアを知るわけがない。まさか孤児院に預けた子供だとは思いもしなかった。さすがに察しの良いクレアでも分からなかったのだ。
「少しお待ちください!坊っちゃま!ソフィアとは誰なのです?」
オーウェンは、はっとなる。そういえばクレアに、あの時の赤ん坊を引き取ったことを伝えていなかったと。
オーウェンは孤児院に行ったこと。赤ん坊を引き取ると決断したこと。離島での出来事。今までに起こったこと全てをクレアに話した。離島での出来事を話すのは辛かった。
クレアは、楽しそうに そして辛そうに話すオーウェンを、姉のような心境で聞く。
聞き終わるとクレアは二、三度うなづいた。
「あの噂は本当だったのですね...」
「あの噂とはなんなのだ?」
「離島の宿のことです。ここは居酒屋ですから色んな噂を聞きますよ。その宿の女将は絶世の美女だとか、妊娠してるから守るために亭主が隔離してるとか... 一番ひどい噂は、亭主が暴力を振っているというものです。しかし、それが真実だったとは..... 坊っちゃま、辛かったですよね?ほんとに坊っちゃまはよく頑張ったと思います。」
クレアはオーウェンを抱きしめた。クレアの腕の中は、オーウェンが小さい時からよく知っている所だ。
オーウェンは久しぶりすぎる姉の抱擁で泣きそうになった。
「どんなに辛いことがあっても、それを胸に刻んで前へ進まねばならん。そうだろ?クレア。クレアが昔よく言っていたことだ。」
いつまでも、くよくよしている訳にはいかない。オーウェンはクレアの腕の中から離れると、笑顔でそう言った。
「そうでございます!坊っちゃま。それより、今日は人見知り記念日でございましょう?最近、腕のいいデザイナーが店を開いたんです。そこで頼んではいかがですか?」
オーウェンはクレアに別れをつげて、そこへ寄った。
ソフィアとジェナミに初めて着させる子供用のワンピースを注文した。それが出来上がるのは、半年後ぐらいだ。
オーウェンが町を後にして家に着く頃には日が暮れていた。朝早くに家を出たはずなのに、遅くなったのはワンピースの色やデザインに迷ったからに違いない。
オーウェンが玄関の前までくると、ジェナミの泣き声が聞こえてきた。ソフィアはそんなことにはお構いなく、気持ちよさそうに寝ていることだろう。
我が家も賑やかになったものだと、オーウェンは幸せにひたった。
扉を開けるとサマンサが大変そうにジェナミをあやしていた。 サマンサは帰ってきたオーウェンに気づく。
「お帰りなさいませ!」
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