同い年のはずなのに、扱いがおかしい!

葵井しいな

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帰宅後のひととき②

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 俺と綾莉は晩御飯用の食材を買うため、近場のスーパーマーケットへとやってきていた。
 別に俺は来る必要なかったんだが、家でボーっとしてるのも退屈だったので、彼女にこうしてついてきた次第だ。

 キョロキョロ辺りを見渡してみれば、献立に頭を悩ませている様子の主婦だったり、仕事帰りのサラリーマンとかを見かける。

 「けっこう混んでるな……」
 「夕飯時だからね。あっ、はぐれないように手繋いだほうがいい?」
 「けっこーだ。子ども扱いしなくていいっての」
 「……そっか」

 唇を尖らせるようにして綾莉が呟く。
 なんかちょっと拗ねてるような気もするが、単にからかいがいがないとか思ってるからだろう。
 ふふん、その手には乗らんぞ。
 
 カートを押しながらドヤ顔していた俺は、それからはてと隣を振り返る。
 
 「そういや、今日は結局なに作るんだ?」
 「ハンバーグがいいかなって思ってるんだけど。葵好きでしょ?」
 
 綾莉の問いかけに俺は大きく頷く。
 ハンバーグといえば老若男女誰もが好きなはずの一品であり、けして俺が子どもっぽいということの証明にはならない食べ物である。
 ちなみに味付けはデミグラスがいい。これまたおなじみといえるソースでありけして俺が(以下略)。
 
 個人的には冷凍のものでもいいのだが、綾莉は材料をそろえて一からこねこねしてくれる。
 そのためだろう、ふっくらとした仕上がりになるのだ。
 
 「ふふ、葵ったら……ちょっと待ってて」

 呆れたように笑った綾莉が、ポケットからなにかを取り出す。
 白い布っぽいそれはどうやらハンカチのようで。

 「じっとしててね」
 「ん? あ、やべ……」

 ハンバーグのことを考えていたせいで気づかなかったが、口元からよだれが垂れていたらしい。
 綾莉に拭われたことで、なんとか生き恥を晒さずに済んだ。
 え? 拭いてもらってる時点ですでにアウトって? それはそうかもしれないが……、

 「あらあら~、弟さん想いの優しいお姉さんねぇ~」

 と、思いきや、すぐ近くにいたおばさんに一部始終をバッチリ見られていた。
 つーか弟って……うぐぐぐぐ。

 落ち込む俺をよそに、綾莉が代わりに口を開いた。

 「えっと、この子は私の弟じゃないんです」
 「……まさか、息子さん?」
 「――ち、違いますから! 幼馴染みなんです!」
 「あ、あっそうよね!? おばさん勘違いしちゃってたわ! ごめんなさいね!」

 申し訳なさそうに頭を下げ、おばさんが去っていく。
 慌てた様子なのはきっと、恥をかいたからだけじゃないはずだ。

 その証拠に、俺はチラッと隣を振り返ってみる。

 「…………」

 綾莉が顔を青ざめさせていた。
 すっかり色あせてしまった瞳が、こっちに向けられて、

 「息子って……私そんなに老けて見えるの……ねぇ、」
 「そ、そんなことないぞ! 綾莉はめっちゃくちゃ若いっ! 肌つやが良いし、ハリだってある! 世界でいっっっっちばん美人だから、ほんと! だからそんなに落ち込むなって!!」

 俺はひたすら宥めた。大げさに身振り手振りも加えてな。
 通りすがりの人たちから不思議そうな目で見られてるけど、気にしてなんかいられない。今は緊急事態なのだから。
 ややあって綾莉の瞳に生気が戻ってきた。
 
 「……ありがと。なんか葵からそう言ってもらえるとすごくホッとする」
 「言っとくけどお世辞じゃないからな。本心だぞ本心っ」
 「はぁ……まったく、素直すぎるのも困りものね」
 
 笑顔を取り戻したのはいいが、俺の頬っぺたを掴んでむにぃーと伸ばすのはやめてほしい。

 「ふふ、葵の頬っぺたってつきたての餅みたいに柔らかいよね」
 「ひょろひょろいいひゃろ? ……ほらっ、さっさと材料買って帰るぞ」
 「そうだね。――あ、励ましてもらったお礼に好きなお菓子買ってあげるから」
 「別にいい。それよりもハンバーグをいっぱい作ってくれ! 腹減ったんだ」
 「……うん、分かったわ。全部、腕によりをかけるから残さないでよ?」
 「とーぜんっ!」

 カートを引きながらたわいのない会話を続ける。
 んー、こういうのってなんかいいよな。家でただ無為な時間を過ごしているよりも、毎日が充実してるって感じがして。
 それはきっと……気の置けない、俺のことを親身になって考えてくれる幼馴染みがいるから。

 「どうかした? 私の顔じっと見たりして」
 「えっと、その、いつもありがとな!」
 「……もう、なんなのよ急に……」

 気恥ずかしくなった俺がポリポリと頬をかきながら告げた言葉だったけれど、綾莉にはちゃんと届いたみたいで。
 嬉しそうにはにかんでいたのだ。
 

 その後、安くなっていたお肉やら、付け合わせに使う野菜やらその他もろもろをカゴに入れて、レジでお会計を済ませた。
 ちなみに財布の中に入っているお金は、ウチの親が振り込んでいるものを使っている。
 なんでもお世話を買って出た際に、「使ってほしい」と母さんからお願いされたとのこと。
 俺としてもそっちの方が気兼ねしなくて済むから、ま、助かるんだけどな。


 「ちょっと買い過ぎたかもね」

 綾莉は少し困ったふうな表情で、支払いを終えた商品に目を落としている。
 大きめのレジ袋を二つ使うぐらい買いこんでしまったからだ。
 ひとつ持ってみるとけっこー重い。うごごごご……。

 「じゃあもうひとつは私が持つから」
 「いや、いい。俺が持つ」
 「え?」

 俺の発言を聞いて目を丸くする綾莉。
 意味が分からないとでも言いたげだ。

 だがそれでいい。
 男らしさをこっそりアピールするのが目的なので、むしろ気づかないでくれ。
 深層心理に俺が頼りになる存在であると刻み込んでくれるわ!
 
 「そっか……なら、お願いするね」

 綾莉は思いのほかあっさりと譲ってきた。
 両手に袋を持った俺は、いい感じにバランスを取りながら店を出る。
 その後ろには綾莉がピッタリとくっついてきて……んん? なぜに横を歩かない?

 不審に思った俺が振り返ると、

 「なんで笑ってんだ?」

 ニヤニヤしていた。それはもう得意げな顔だった。
 うぅ、めちゃくちゃ嫌な予感……。

 「葵はきっと頼ってほしかったんだろうなー、って思ってね。そういうとこほんと子どもっぽくて可愛いなぁ、ふふっ」
 「……っ!」
 
 どうやらコイツには俺の考えが筒抜けだったらしい。
 恥ずかしさで顔が熱くなってくる。なんとマヌケなことか。
 そんな俺に追い打ちをかけるように、綾莉が手を伸ばしてきて、

 「あなたがもっと頑張れるように頭なでなでしててあげるから。ほら、ファイト♪」
 「や、やめっ……! くそぉっ!」

 両手が袋で塞がっているために、振り払うことが出来ない。
 まさかここまで見越して買い物を……? いやそれはないか。
 
 それから家に着くまでの間、俺はひたすら頭を撫でられるはめになった。
 くそっ、いつかぜっっったいにやり返してやるからな! と、すり減った心に誓ったのであった。
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