12 / 12
11
しおりを挟む
「……」
「……」
澄み渡るような青空のもと、俺たちは並んで歩いていた。
亜里沙に遊んで来いよと言われたものの、特に行く当てもないのでブラブラと散策をしているだけだが。
「麻子さん、今日はいい天気ですね」
「はい……っ」
京介の言葉に俺は小さく頷く。
あまり目を合わせず、声量も控えめだ。
これは脳内で決めたシミュレーションに従っているから……とかではない。
単刀直入に言わせてもらおう。
この格好、めっちゃ恥ずかしい!
いきなりお外で女装姿を披露はさすがにハードルが高かった。
京介だけでなく、道行く通行人までもが俺の方をじろじろと見てくるのだから。
「(なぁおい、アレ見てみろよ)」
「(うぉ、すっげー綺麗な人)」
「(モデルさんかな?)」
「(隣にいるの彼氏? めっちゃイケメンじゃん)」
「(美男美女のカップルとか羨ましい~!)」
……ヤバい、めっちゃひそひそ声が聞こえるんですけど。
絶対キモいとか変態じゃんとか言われてるんだろーな、これ。
はぁぁ……死にたい。
「麻子さん、大丈夫? 顔色悪いよ」
顔を上げ振り返ると、京介が心配そうな顔で覗き込んできていた。
瞳の中に映る俺はなるほど確かに青白い。
「……いえっ、そんなことは」
「隠さなくてもいいよ。困ったことがあったら僕を頼って? これでも一応、男だからさ」
これでも一応男です、俺も。
なんて言えるはずもなく、ぼろを出さないようにというプレッシャーに押しつぶされそうにもなっていたので、ここは京介の厚意に甘えさせてもらうことに。
近場にある公園での休憩を提案し、俺たちはそこへ向かうことにした。
やや足元がふらついていたのを見かねたのか、さりげなく肩へと手を回される。
「え!? あ、あの……っ!」
「少しの間だけだから、我慢してね」
はにかみながら、ぎゅっと抱き寄せられた。
男らしい筋肉の付いた腕は服越しでもやけどしそうなくらいに熱く感じて、思わずそちらに意識が向いてしまう。
俺と肩を組んだりするときは、こんなことならないのにな……。
言いようのない複雑な気持ちが胸に渦巻き、もやもやがこみあげてくる。
それがなんなのか分からないでいるうちに、公園にあるベンチが見えてきた。
「座ってて、少しは気分が楽になると思う。僕は自販機で飲み物を買ってくるから」
「う、うん」
腰を下ろし、小さく首肯してみせる。
はぁ……っ、やっぱ慣れないことはするもんじゃないな。
でもこれも京介のためだし、頑張らないと。
緩みそうになる気を引き締め、ぎゅっと拳を握り締める。
そんな風に自分に言い聞かせていると、場を離れていた京介が戻ってきた。
手には二つ、ペットボトルが握られていて。
「はい、これどうぞ。口に合うかどうかわからないけど」
「あ、ありがとう。――そうだ、お金」
「そんなのいいから、ほら」
うっ、やっぱ優しいなお前。姉貴とは全然違うぜ。
受け取ったペットボトルを開け、ごくごくとのどを潤していく。
つーかこれ、俺の好きな「ほーい粗茶」じゃん。分かってる~。
ふぅっと一息ついて、隣を見やる。
そしたら京介のやつが固唾をのんでいる様子でいたから、思わず笑ってしまった。
「え、どうしたんですか?」
「い、いえっ……舞浜くん、って優しいなあって、思ったから」
「そんなことないですよ。見せかけですから」
ウソ言うなよ、お前普段からこうじゃねーか。
俺が困ってるとき、いっつも手を差し伸べてくれる。
最高の親友だよ、まったく。
笑い声を上げたおかげか、いくばくか気分がほぐれてきた。
緊張とか恥じらいとかはまだあるけども、家を出た時ほどじゃない。
これ女装に慣れてきたとかだろうか? いやだななんか大事なものを失いそうな気がして。
男らしさとか、京介とのこれまで積み上げてきた関係性とか。
でも、今のこの瞬間を楽しいなと感じている自分も、心のどっかにいることは間違いないんだろう。
じゃなきゃ、胸の中に渦巻いているこのもやもやした感じがなんなのかわかんないし。
……複雑だな。
嫌われようとシチュエーションをこなすのに必死な自分と、馴染んで楽しもうとしているお気楽な自分がいる。
俺はこの先、どうするのが正解なんだろうか?
京介が辛い思いをせず、俺も納得のいく答えって、果たしてあるのだろうか?
「……」
澄み渡るような青空のもと、俺たちは並んで歩いていた。
亜里沙に遊んで来いよと言われたものの、特に行く当てもないのでブラブラと散策をしているだけだが。
「麻子さん、今日はいい天気ですね」
「はい……っ」
京介の言葉に俺は小さく頷く。
あまり目を合わせず、声量も控えめだ。
これは脳内で決めたシミュレーションに従っているから……とかではない。
単刀直入に言わせてもらおう。
この格好、めっちゃ恥ずかしい!
いきなりお外で女装姿を披露はさすがにハードルが高かった。
京介だけでなく、道行く通行人までもが俺の方をじろじろと見てくるのだから。
「(なぁおい、アレ見てみろよ)」
「(うぉ、すっげー綺麗な人)」
「(モデルさんかな?)」
「(隣にいるの彼氏? めっちゃイケメンじゃん)」
「(美男美女のカップルとか羨ましい~!)」
……ヤバい、めっちゃひそひそ声が聞こえるんですけど。
絶対キモいとか変態じゃんとか言われてるんだろーな、これ。
はぁぁ……死にたい。
「麻子さん、大丈夫? 顔色悪いよ」
顔を上げ振り返ると、京介が心配そうな顔で覗き込んできていた。
瞳の中に映る俺はなるほど確かに青白い。
「……いえっ、そんなことは」
「隠さなくてもいいよ。困ったことがあったら僕を頼って? これでも一応、男だからさ」
これでも一応男です、俺も。
なんて言えるはずもなく、ぼろを出さないようにというプレッシャーに押しつぶされそうにもなっていたので、ここは京介の厚意に甘えさせてもらうことに。
近場にある公園での休憩を提案し、俺たちはそこへ向かうことにした。
やや足元がふらついていたのを見かねたのか、さりげなく肩へと手を回される。
「え!? あ、あの……っ!」
「少しの間だけだから、我慢してね」
はにかみながら、ぎゅっと抱き寄せられた。
男らしい筋肉の付いた腕は服越しでもやけどしそうなくらいに熱く感じて、思わずそちらに意識が向いてしまう。
俺と肩を組んだりするときは、こんなことならないのにな……。
言いようのない複雑な気持ちが胸に渦巻き、もやもやがこみあげてくる。
それがなんなのか分からないでいるうちに、公園にあるベンチが見えてきた。
「座ってて、少しは気分が楽になると思う。僕は自販機で飲み物を買ってくるから」
「う、うん」
腰を下ろし、小さく首肯してみせる。
はぁ……っ、やっぱ慣れないことはするもんじゃないな。
でもこれも京介のためだし、頑張らないと。
緩みそうになる気を引き締め、ぎゅっと拳を握り締める。
そんな風に自分に言い聞かせていると、場を離れていた京介が戻ってきた。
手には二つ、ペットボトルが握られていて。
「はい、これどうぞ。口に合うかどうかわからないけど」
「あ、ありがとう。――そうだ、お金」
「そんなのいいから、ほら」
うっ、やっぱ優しいなお前。姉貴とは全然違うぜ。
受け取ったペットボトルを開け、ごくごくとのどを潤していく。
つーかこれ、俺の好きな「ほーい粗茶」じゃん。分かってる~。
ふぅっと一息ついて、隣を見やる。
そしたら京介のやつが固唾をのんでいる様子でいたから、思わず笑ってしまった。
「え、どうしたんですか?」
「い、いえっ……舞浜くん、って優しいなあって、思ったから」
「そんなことないですよ。見せかけですから」
ウソ言うなよ、お前普段からこうじゃねーか。
俺が困ってるとき、いっつも手を差し伸べてくれる。
最高の親友だよ、まったく。
笑い声を上げたおかげか、いくばくか気分がほぐれてきた。
緊張とか恥じらいとかはまだあるけども、家を出た時ほどじゃない。
これ女装に慣れてきたとかだろうか? いやだななんか大事なものを失いそうな気がして。
男らしさとか、京介とのこれまで積み上げてきた関係性とか。
でも、今のこの瞬間を楽しいなと感じている自分も、心のどっかにいることは間違いないんだろう。
じゃなきゃ、胸の中に渦巻いているこのもやもやした感じがなんなのかわかんないし。
……複雑だな。
嫌われようとシチュエーションをこなすのに必死な自分と、馴染んで楽しもうとしているお気楽な自分がいる。
俺はこの先、どうするのが正解なんだろうか?
京介が辛い思いをせず、俺も納得のいく答えって、果たしてあるのだろうか?
0
お気に入りに追加
19
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる