8 / 12
8
しおりを挟む
「んー、やっぱり似合うわね」
「……嬉しくねぇ」
昨日と同じように姉貴の制服を身に着けた俺は、化粧台の前でげんなりしていた。
鏡越しに見る姿は女の子そのもので、しかもそれなりの美少女である。
元々、俺は染色体の異常かなんかで体毛が薄く、ひげなんかいまだに生えてこない。
それにあんまり外にも出ない性質なので、肌は雪のように白かったのもある。
「あとは女子っぽくメイクをすれば、化けるわね」
「……え、そこまでする必要なくないか」
「なーに言ってんの。これも重要なことなのよ」
肩にポンと手を置かれ、亜里沙が口を開く。
「いくらあんたが女っぽくても素の顔のままじゃ京介君と会った時にバレちゃうでしょ」
「は?」
バレるとか会うとかこの人なに言ってんの?
そんな俺の表情から察したらしい亜里沙は、鏡越しにずいっと顔を近づけてくる。
「あのさぁ、女装したら直接会ってやりとりしなきゃ、解決もなにもないじゃない」
「あーなるほど。この姿で京介の前に立って、ネタばらしってことね」
目の前で着替えて京介の目を覚まさせるって手か。
……ん? じゃ、バレるのは問題ないんじゃ。
「ネタばらしなんてしないわよ。あんたには彼と会った後も女装を続けてもらうから」
「え!? なんでだよ! バラせば終わるじゃねぇか!」
姉貴の提案に対し、俺は異を唱えていた。
どう考えてもこっちの方がスムーズに解決するだろうに。
待てよ。コイツもしかしてこの状況楽しんでるんじゃ……。
いぶかし気な視線を送るこちらに対し、姉貴はなぜか憐みのこもった眼差しを向けてくる。
「あんたはさぁ、恋をしたことがないから知らないのかもしれないけど。……好きな子が女装した男だと知ったら、普通はどんな気持ちになると思う?」
「へ? そりゃガッカリするんじゃ」
「それが初恋とかだったらね、死にたくなるほど落ち込むもんなのよ」
「マジでか」
「マジでよ(多分)」
つまり、京介は落胆するあまりに自ら命を手放してしまうかもしれないと。
姉貴の言葉に、俺はサーっと血の気が引いていった。
どうしよう、そんなことになりでもしたら。
京介は俺のたった一人の親友だ。
いつも仲良くしてくれるし、勉強だって教えてくれるし、とてもいい奴なのだ。
俺は、アイツを失いたくない。
目でそう訴えると、姉貴に頭を撫でられた。
「そんな顔しなくても平気よ。言ってるでしょ、大船に乗ったつもりでいなさいって」
「亜里沙……」
優しい表情になった姉貴は、何度も頭を撫でてくる。
落ち着かせようとしてくれてるのかもしれない。
「女装したあんたがやることはひとつよ」
耳元で、そっとささやかれる。
「彼に、嫌われるような行動をとりなさい」
「……嬉しくねぇ」
昨日と同じように姉貴の制服を身に着けた俺は、化粧台の前でげんなりしていた。
鏡越しに見る姿は女の子そのもので、しかもそれなりの美少女である。
元々、俺は染色体の異常かなんかで体毛が薄く、ひげなんかいまだに生えてこない。
それにあんまり外にも出ない性質なので、肌は雪のように白かったのもある。
「あとは女子っぽくメイクをすれば、化けるわね」
「……え、そこまでする必要なくないか」
「なーに言ってんの。これも重要なことなのよ」
肩にポンと手を置かれ、亜里沙が口を開く。
「いくらあんたが女っぽくても素の顔のままじゃ京介君と会った時にバレちゃうでしょ」
「は?」
バレるとか会うとかこの人なに言ってんの?
そんな俺の表情から察したらしい亜里沙は、鏡越しにずいっと顔を近づけてくる。
「あのさぁ、女装したら直接会ってやりとりしなきゃ、解決もなにもないじゃない」
「あーなるほど。この姿で京介の前に立って、ネタばらしってことね」
目の前で着替えて京介の目を覚まさせるって手か。
……ん? じゃ、バレるのは問題ないんじゃ。
「ネタばらしなんてしないわよ。あんたには彼と会った後も女装を続けてもらうから」
「え!? なんでだよ! バラせば終わるじゃねぇか!」
姉貴の提案に対し、俺は異を唱えていた。
どう考えてもこっちの方がスムーズに解決するだろうに。
待てよ。コイツもしかしてこの状況楽しんでるんじゃ……。
いぶかし気な視線を送るこちらに対し、姉貴はなぜか憐みのこもった眼差しを向けてくる。
「あんたはさぁ、恋をしたことがないから知らないのかもしれないけど。……好きな子が女装した男だと知ったら、普通はどんな気持ちになると思う?」
「へ? そりゃガッカリするんじゃ」
「それが初恋とかだったらね、死にたくなるほど落ち込むもんなのよ」
「マジでか」
「マジでよ(多分)」
つまり、京介は落胆するあまりに自ら命を手放してしまうかもしれないと。
姉貴の言葉に、俺はサーっと血の気が引いていった。
どうしよう、そんなことになりでもしたら。
京介は俺のたった一人の親友だ。
いつも仲良くしてくれるし、勉強だって教えてくれるし、とてもいい奴なのだ。
俺は、アイツを失いたくない。
目でそう訴えると、姉貴に頭を撫でられた。
「そんな顔しなくても平気よ。言ってるでしょ、大船に乗ったつもりでいなさいって」
「亜里沙……」
優しい表情になった姉貴は、何度も頭を撫でてくる。
落ち着かせようとしてくれてるのかもしれない。
「女装したあんたがやることはひとつよ」
耳元で、そっとささやかれる。
「彼に、嫌われるような行動をとりなさい」
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる