1 / 12
1
しおりを挟む
「姉貴いるかー? って、いねえし」
俺――鶴見麻耶が隣の部屋を訪れると、そこはもぬけの殻だった。
室内には甘ったるい香りが立ち上り、鼻をつまみたくなる。
いつもは入りたくもない場所ではあるのだが、今回は事情があった。
貸していたお金(五千円)がいつまで経っても帰ってこないのである。
そのせいで学校の昼休みに購買でご飯が買えず、親友の京介からお金を借りる羽目になってしまったのだ。
今後もこんなことが続くのは由々しき事態であるので、こうして催促に来た次第なのである。
「アイツいねえけど、財布はまぁ置いてあるだろ」
見たところ、学校からは帰って来てるらしかった。
ベッドの上には乱雑に放られた制服があり、化粧品やらなんやらで散らかり放題の机には通学カバンが置いてある。
ずかずか足を踏み入れつつ、カバンを開けてみた。
「うっわぁ、汚ったねぇ……。女として終わってんな」
綺麗好きの俺としては、目も当てられないほどである。
気になって仕方ないので、ぐちゃぐちゃのプリントはファイルにまとめてやり、中身の飛び出したペンなども筆箱に戻す。
途中、埋もれ気味になっていた財布を見つけ、中を開けるとそこそこ入っていた。
貸した五千円プラス利子として千円ほど貰っておこう。
「さてと……。部屋に戻るか」
ミッションをこなし、意気揚々と部屋を出ようとした時、ふいに姉貴の制服が目に入った。
姉貴の制服はこの辺では有名な女子高のもので、女子なら一度は着てみたいと思う制服No.1に選ばれたりしていた。
そしてアイツはこれが着たいがために偏差値が高いそこを選び、見事に合格したという異色の経歴を持っている。
なので、俺なんかよりもはるかに頭が良いはずなのだが……。
「着過ぎてて飽きちまったのか、今は見るも無残な姿に……」
頭のいい奴がやることじゃないだろ、ベッドの上に放っておくって。
しわになるし、このままじゃ埃も被るし。
「……クローゼットに戻しててやるか」
ひとつ頷き、俺はそれを手に取った。
持ってみると羽のように軽くて、生地も上等なものを使っているのか肌触りがいい。
鼻を近づけてみると、姉貴の体臭に混じってさわやかな香りもする。
多分、消臭スプレーの効果なんだろうが、不思議と落ち着く……。
「……あ、あんたなにやってんの」
ふいに、引きつったような声が耳に届いた。
それは部屋のドアがある方から聞こえてきた。
うすうす察しがついた俺は、背中に嫌な汗をかきながら声のした方を振り返る。
「あ……」
無意識にかすれた声がもれた。
それもそのはず。
俺の視線の先にいたのは、この部屋の主である姉の鶴見亜里沙だったのだから。
俺――鶴見麻耶が隣の部屋を訪れると、そこはもぬけの殻だった。
室内には甘ったるい香りが立ち上り、鼻をつまみたくなる。
いつもは入りたくもない場所ではあるのだが、今回は事情があった。
貸していたお金(五千円)がいつまで経っても帰ってこないのである。
そのせいで学校の昼休みに購買でご飯が買えず、親友の京介からお金を借りる羽目になってしまったのだ。
今後もこんなことが続くのは由々しき事態であるので、こうして催促に来た次第なのである。
「アイツいねえけど、財布はまぁ置いてあるだろ」
見たところ、学校からは帰って来てるらしかった。
ベッドの上には乱雑に放られた制服があり、化粧品やらなんやらで散らかり放題の机には通学カバンが置いてある。
ずかずか足を踏み入れつつ、カバンを開けてみた。
「うっわぁ、汚ったねぇ……。女として終わってんな」
綺麗好きの俺としては、目も当てられないほどである。
気になって仕方ないので、ぐちゃぐちゃのプリントはファイルにまとめてやり、中身の飛び出したペンなども筆箱に戻す。
途中、埋もれ気味になっていた財布を見つけ、中を開けるとそこそこ入っていた。
貸した五千円プラス利子として千円ほど貰っておこう。
「さてと……。部屋に戻るか」
ミッションをこなし、意気揚々と部屋を出ようとした時、ふいに姉貴の制服が目に入った。
姉貴の制服はこの辺では有名な女子高のもので、女子なら一度は着てみたいと思う制服No.1に選ばれたりしていた。
そしてアイツはこれが着たいがために偏差値が高いそこを選び、見事に合格したという異色の経歴を持っている。
なので、俺なんかよりもはるかに頭が良いはずなのだが……。
「着過ぎてて飽きちまったのか、今は見るも無残な姿に……」
頭のいい奴がやることじゃないだろ、ベッドの上に放っておくって。
しわになるし、このままじゃ埃も被るし。
「……クローゼットに戻しててやるか」
ひとつ頷き、俺はそれを手に取った。
持ってみると羽のように軽くて、生地も上等なものを使っているのか肌触りがいい。
鼻を近づけてみると、姉貴の体臭に混じってさわやかな香りもする。
多分、消臭スプレーの効果なんだろうが、不思議と落ち着く……。
「……あ、あんたなにやってんの」
ふいに、引きつったような声が耳に届いた。
それは部屋のドアがある方から聞こえてきた。
うすうす察しがついた俺は、背中に嫌な汗をかきながら声のした方を振り返る。
「あ……」
無意識にかすれた声がもれた。
それもそのはず。
俺の視線の先にいたのは、この部屋の主である姉の鶴見亜里沙だったのだから。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
同い年のはずなのに、扱いがおかしい!
葵井しいな
青春
柊木葵は低身長・童顔・ソプラノボイスの三拍子が揃った男子高校生。
そのことがコンプレックスで、同時に男らしさや大人っぽさに憧れを持つようになっていた。
けれどそのたびに幼馴染みの女の子に甘やかされたり、同級生にもからかわれたりで上手くいかない毎日。
果たして葵は、日々を過ごす中で自分を変えることが出来るのか?
※主人公は基本的にヒロインポジションですが、たま~に身の丈に合わないことをします。
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる