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覇権争い

金獅子VS金鷲

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「……!」
この場にいる意識のある全ての者が驚きを見せた。若葉による空間移動の暴発が起きたのだ。イリーナの座票に彼が変換されて、彼の場所にイリーナが変換される。驚愕が覚めやむ間もなく、本来イリーナにぶつけるはずだった金獅子の繰り出す重い蹴りは、若葉の顔を丁度捉える。耐えきれる訳もなく、彼はそのまま飛ばされていく。
「…空間移動術式が爆発したのか。自らの座標とイリイチの妹の座標を入れ替えた…。化け物め。やっぱここで皆殺しにしとく方が…!」
超能力者としての才能に溢れた2人の危険性を理解したアーサーは、まずは若葉にトドメを刺すために、一歩づつ向かっていく。脳震盪を起こしどうしようもなく動けない。更に厄介な問題として、アーサーが発する圧は、若葉を蛇に睨まれた蛙に変えてしまう。
「おい…。なんだよ…。その目付きはよ?…あ?なにビビってるの?」
アーサーの思考は乱れていた。この時点においてイリーナや若葉が彼に対して友好的な打撃を与えられることは有り得ない。それでも目の前に座り込むのが精一杯である中学生に対して、恐怖と危機感を覚えていたのだ。
「…ーナ!イリーナ!早く逃げろ!こいつは俺を殺ったら真っ先に…。」
そんな状況でも、もう1人のことを心配するとはなんとも無邪気なのだろうか。超能力者学園という狂い切った土地にて染まっていく前には、こういう人間としての温かさがあるのだろうか。アーサーの思考はどんどん支離滅裂になっていた。
「うるせェよ。」
雑音をかき消すためなのか。死に至ることはないであろう蹴りにより、とうとう若葉は気絶した。残るはシックス・センスただ1人だ。
「思えば手こずらしてくれたなァ。お前ら兄妹に生きる場所は必要ないっての。この真性屑野郎の妹なんざ…。その時点で死刑に決まってんだろうがよ!!」
アーサーの咆哮が、廃墟と化した本校生徒会本部に聞こえ渡る。死刑宣告を済ませられた少女は諦観するかのように、虚空を見つめている。
「1人ぼっちで生きるぐらいなら…別に生きる必要はないよ。殺したきゃ殺しなよ。それで貴方が満足するなら、それは素晴らしいことなんだよ。」
「なに1人で気持ちよくラリってんだ?お前の兄貴、イリイチみてェだな?ま、いいや。地獄で後悔してろ。」
シックス・センスの研究と評して、大事なものを全て投げ捨てるような運命を背負った少女には、もう1人のシックス・センスが居ないとなれば生きている意味は無い。絶望に歪んでいる訳でもなく、ただそう感じているだけなのだ。
それが気に食わないアーサーが一撃でイリーナの頭を粉砕しようとした瞬間てあった。無様に地面を這い回っていたイリイチから電子音が聞こえる。
不協和音がどうも彼の脳内電波から発信されたということと、脳髄のオーバーヒートによって酸素欠乏の末に死亡したはずの彼の復活コマンドが打ち込まれる。学園横浜の全技術を入れて造られたイリイチの人工左脳は、緊急事態に備えて確保されていた術式を解放する。
「ルール15秒…!横浜はそこまで到達していたのか!」
人工脳髄の研究は創成の必須課題であった。普段の生活は勿論のこと、超能力を起動すること、制限時間を限りなく伸ばすこと、そして、緊急時に備えておくこと。緊急時に作動する術式は、限りなく危険性の高いものだ。相手を無力化するのを最重要としても、普段使用には困難を極める。
15秒間の限界超能力。ロシア帝国の象徴にして、東ローマ帝国の末裔に相応しい動物。金色の鷲がイリイチの支配率を高める。
「獅子に対抗するものは鷲って訳か…。」
電子回路が目を覆いながらも、イリイチは気を取り戻し、シックス・センスを行使した攻撃を仕掛ける。これまでの鬱憤を晴らすような、しかし美しさも混じっている波動は、一目散にアーサーを貫いた。
覇権争いグレート・ゲームの勝者は…。っクソ。あと少しだったのになァ…。」
貫かれたアーサーは、なんとも満足したような笑みを浮かべ、やがて息絶えた。それを見たイリイチは、普段の人を食ったような態度はこの時だけ消え、賞賛の言葉を送る。
「あァ、いい喧嘩だった。
不敵な笑みを浮かべながら、イリイチも倒れ去った。
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