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覇権争い

「彼」の安全

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「考えてみればごくごく当たり前なことだ。あの子は本校との対立理由になるぐらいに危険な存在。前に本校の回し屋に拉致されたこともあったしな?要求はただ一つ。俺の妹の安全保障。創成の軍隊から引っ張ってこい。」
腕を組みながら尊大な態度で要求を通そうとする。横浜の現実を考えればこの要求は辛うじて通る可能性がある。第2校解放作戦開始が迫ってきている今となれば、学園横浜超能力者開発指数段階4第2位であるロシア人の存在なしでは始まらない。
「ついでイリーナに一般教養ぐらいは教えられる野郎の方がありがてェな。あと雑務もな。要するに、執事だ。バトラー。強くて、頭が良くて、雑務なんでもこなす便利屋。そういうヤツだ。」
「とことん都合のいい存在を求めるな。いい?学園はあくまで創成グループの1部門。ピースキーパーから引っ張りだすにはそれなりの…。」
「んなことは聞いてねェんだよ?そんな歯切れのいい言葉ではいそうですかって引き下がると思うか?回答は2つだけ。はいかいいえ。さぁ!」
美咲は覚悟した。イリイチなしには横浜の勝利は得られない。ピースキーパーから有能な超能力者を引っ張りだす覚悟を決めたのだ。強い語尾にたじろぐことなく、彼女は決断を下す。
「わかった。わかった!よろしい!学園横浜がピースキーパーから万能超能力者を融通するわ。」
「それでいい。それで宜しい。契約成立だ。作戦決行が2日後だろ?それに合わせて本校へ殴り込みにいってやるよ。」
イリイチは満足気味だった。横浜が彼に対して出せる最大限のだ。創成の1部門に過ぎない学園の更に1部門である横浜が世界1位の最強軍隊から強力な超能力者をイリイチのに使うということは、彼の予測通りに前例なきことだった。
「…1つ聞きたいんだけど、貴方にとってイリーナ、妹というのはどういう存在なの?血を分けた兄妹として余計な打算なしに守ろうとしているのか、それともなければもう1人のシックス・センスとして自分の敵に回られると困ると言う打算で守っているのか。」
「どうだろうな?映画の世界なら殺人鬼にも愛する人致命的な欠点がいるってストーリーになるんだろうが、これは現実だ。半分は無償の愛。もう半分は打算。それでいいか?」
そんな事は下らないものに過ぎないと言わんばかりに濁した回答を返す。さらにそれを返すようにイリイチは彼女の傷跡を抉る。
「無償の愛を勝手に押し付けて、自分の愛のためにとことん打算的になれるどこかの誰かさんに比べれば俺のやっていることは大したことでもない。」
「笑えない冗談ね。」
「笑えねェのは誰かさんに殺されたであろう生徒だろ?」
嫌味に溢れた事実の羅列は、あまりそりが合わない2人の関係を象徴するようだった。イリイチからすれば、愛や友情に惑わされて殺人をこなす彼女に対して好奇心と恐怖を感じるのだろう。美咲からすれば金や利益のためなら誰でも関係なく大量殺戮を難なくやり遂げるイリイチは狂気の世界の住民なのだろう。互いに互いに対していい感情を持っていない。
「……ま、過去は取り戻せないわ。大事なのは今。それはおわかりでしょ?」
「そうだな。全く結構だ。」
苦虫を噛み潰したような面持ちが、超能力者学園の頂点に君臨する女王の強き面持ちに変わったことに満足したイリイチは、それ以上の嫌味を返すことはなかった。

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