上 下
98 / 205
覇権争い

まだ終わっちゃいない

しおりを挟む
「説明書がいる理由が分かったよ…。無線で人工左脳を制御するんだ。」
イリイチの人工脳髄の説明書にはスマートウォッチが同封されていた。それを彼に渡すと、説明書通りに話していく。
「まず、左脳機能は限りなく普通の人間のそれに近い。充電不要で常時動き続ける。そして超能力制御も並行して行えるわけだ。単純な身体能力強化をな。さらに、さらに…シックス・センスを擬似的に再現することも出来る。つまりは、完全なシックス・センスとは言い難い。」
「自動的に超能力者を感知してシックス・センスやその身体能力強化を開始するわけだ。時間制限付きでなぁ。時間切れになると人工脳髄がオーバーヒートして呼吸困難に至ると。」
スマートウォッチには、イリイチが使える超能力が丁寧に記されていた。身体能力は完全開放しても1時間は行動可能。ただしシックス・センスの場合は、相手の位置をある程度把握するだけの限定開放でも制限時間は5分。イリイチが普段使用していた「第六感シックス・センス」をできる時間は僅か60秒。完全復活には程遠い。そんな現状を把握した彼は、溜息交じりだった。
「これでもいい方なんだろうな。まぁ、各国が威信を賭けてやっていたシックス・センスの探究は、基礎中の基礎から出ていないし、学園横浜が総力を賭けても…ま、1ヶ月間シックス・センスなしで生活したのは正解だった。今んところは違和感ねぇし。」
煙草を灰皿に押し付けた。それを見た大智も同じことを行い、彼らは再び病室に戻っていた。
学園横浜は賑やかになっていた。情報統制が行われているのにも関わらず、噂話の程度は横浜当局が把握しているものとほぼ同じだった。
「自動機能は切っとく…。横浜は妙な程に騒がしいな。」
「そういや詳しくは言ってなかったな。今、横浜は本校と戦争状態だ。あの糞ライミーが喧嘩ぶっかけてきてな。ヤツらの狙いはお前ら兄妹。そこは上手く伏せてはいるがな。」
軽やかに機密情報を話した大智は、大きな開戦原因であるイリイチに対してその責任を負わせる意味合いを込めた口調だった。もう横浜の勢いは止まることはないにしても、せめて少しでも犠牲を減らすためにも学園横浜最高戦力の1人が闘ってもらわないと困るのだ。
「……!なるほどな、そう来たか!」
イリイチはよく笑う男だった。暗殺を成し遂げたときも、大量殺戮の当事者になった時も、極秘のうちに銃殺が決まっても、学園横浜にて事件を巻き起こしても、いつも彼は笑っていた。そんな彼はやはり曇りひとつない笑顔が良く似合う。
「なにがおかしい?」
タガが外れたかのように狂気じみた笑いが止まらない様子のイリイチを見た大智は、怒りでもなく単純な疑問を投げかけた。
「なにがおかしいって?そりゃ愚問だ。こんなにおかしいことがあるか?あのイングランド人が顔を真っ赤にして、劣等民族として嘲笑っていたスラヴ人に一泡吹かされたことを未だに根に持ってる。こんなに面白いことがあるか?」
高笑いを済ませる。それでも笑いを堪える様子で、イリイチは宣戦布告を投げ飛ばす。

「上等じゃあねぇか。ロバが大熊に勝てるわけがねぇことを教えてやる。」

覇権争いグレート・ゲームの役者は揃った。欲望と意趣を返すための闘いは始まろうとしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

俺様当主との成り行き婚~二児の継母になりまして

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
夜、妹のパシリでコンビニでアイスを買った帰り。 花梨は、妖魔討伐中の勇悟と出会う。 そしてその二時間後、彼と結婚をしていた。 勇悟は日光地区の氏人の当主で、一目おかれる存在だ。 さらに彼には、小学一年の娘と二歳の息子がおり、花梨は必然的に二人の母親になる。 昨日までは、両親や妹から虐げられていた花梨だが、一晩にして生活ががらりと変わった。 なぜ勇悟は花梨に結婚を申し込んだのか。 これは、家族から虐げられていた花梨が、火の神当主の勇悟と出会い、子どもたちに囲まれて幸せに暮らす物語。 ※短編コン用の作品なので3万字程度の短編です。需要があれば長編化します。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】神様WEB!そのネットショップには、神様が棲んでいる。

かざみはら まなか
キャラ文芸
22歳の男子大学生が主人公。 就活に疲れて、山のふもとの一軒家を買った。 その一軒家の神棚には、神様がいた。 神様が常世へ還るまでの間、男子大学生と暮らすことに。 神様をお見送りした、大学四年生の冬。 もうすぐ卒業だけど、就職先が決まらない。 就職先が決まらないなら、自分で自分を雇う! 男子大学生は、イラストを売るネットショップをオープンした。 なかなか、売れない。 やっと、一つ、売れた日。 ネットショップに、作った覚えがないアバターが出現! 「神様?」 常世が満席になっていたために、人の世に戻ってきた神様は、男子学生のネットショップの中で、住み込み店員になった。

後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~

絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...