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覇権争い

大博打

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学園東京本校、生徒会会長室からは意地の悪い高笑いがこだましていた。
「一世一代の大博打!!私は勝った!!義経の馬鹿も鈴木翔も誰も何も出来ない!!」
学園内における覇権争いは、結局の所は1人の男の手のひらに収まる程度のものでしか無かった。外交戦争に負けたのを逆手にとる形でアーサーの計画は始まっていたのだ。
「第2校の落ちこぼれどもや横浜の狂犬どもがどんなに吠えようが本校は決して負けやしない。」
本校緊急幹部会でそう断言したアーサー及び本校防衛委員には、その発言に見合うだけの実力があることを理解していた。
「埼玉との同盟が無くなろうが関係がない。あの同盟は元々ためのものだ。こういう有事のときにな。」
「横浜の団結力はそう高くはない。あのは息巻いていたが、現実を逃避しているに過ぎない…大きなはったりだ。現に今第2校に展開されているヤツらは大したことは無い。」
この闘いの本質は大きな出鱈目に満ち溢れていた。まず、イリーナの身柄を本校に明け渡すという提案は通るわけのないものであることを認知していた本校は、横浜が勝てる戦争のために準備をし始めていることを察知していた。
反本校感情の強い第2校との同盟は簡単なもの。後ろ盾として兵庫の支持を受ける。ここまでは予測出来ていたことだったのだ。
「埼玉が中立を保つとは予想外だったがな。」
プロスペクト放出による打算的な好意的中立宣言は、横浜が埼玉を恐れている証拠だった。本校は単独でも闘えるが、横浜にとって見れば本校埼玉中軸が義務を守って来れば破滅は確実。そこで取り引きを交わしたのだ。
「ネットワークは筒抜け。あのオタク野郎には難しかったかな?」
リーコンが作り上げた横浜ネットワークは、アーサーという学園最高クラスのハッカーにしてみれば、赤子の手をひねるよりも簡単に潰せるものだった。
「イリイチの情報がまるでなかったのが不気味だったが…。どうも!ヤツらは生徒1人の管理も出来ないらしいな。」
本校、基、アーサーの最終目標である「イリイチ確保」のためにあらゆる情報にアクセスしていたが、全くと言っていいほどに情報が残っていなかったのだ。
「結論から言う。第2校は簡単に落とせる。横浜攻略は難儀になりそうだがな…。」
本校演習は実戦にかなり近い形で行われた。第2校及び横浜連合軍の推定戦力と本校展開可能戦力はこの時点でほぼ完璧に把握していたのだ。これは第2校司令部がかなり本校をしていたのとは対象的であった。
「本校は大したことないだろ。腐った納屋は扉を蹴れば崩れ落ちるってな!第2校の戦力を見せてやろうぜ。」
第2校に漂う驕りは致命的なものになった。わざわざ横浜から届いた本校推定戦力を全く気にもかけていなかったのである。
「開始日時は12月8日未明から。ひとまず本校に侵入してくるであろうヤツらと対峙しろ。空間移動系超能力者は意外な程に多いからな。ある程度時間が経てば、会長殿の指揮の元、大反撃作戦を開始する。第2校のネットワークが遮断されるとの事だ。雁首並べて勝った気でいる連中を叩き起す。」
空間移動系超能力者は学園同士の戦闘になれば当然重要なものだ。本校を過小評価していた第2校は、それを出し切った後に攻められ始めたのだ。 
「…大博打だった。もし、横浜の援軍が少しでも早ければ、第2校の教室ひとつひとつを奪い合う泥沼と化していた。あのチョッパー軍用ヘリに乗っていた生徒を知って戦慄したよ。横浜序列第1位、旧序列第2位、そして旧序列第1位。3人の化け物によって戦局はひっくり返っただろうさ。」
勝ちを確信しながら、もしも横浜の援軍がもう少しだけ早ければ、勝ちが泥の中に埋もれていく可能性が高かった。第2校生徒会攻略戦を急かしたのも、その報告を聞いて青ざめたアーサーが行ったものだった。
「人生を賭けた大博打は私の勝利で終わるだろう。現実的に横浜が東京と戦争するための手段は尽きているのだから…。」
勝ちの余韻に浸っているはずの彼は、同時にこれだけでは終わらない可能性も高いことを実感していた。
「我々は戦闘に負けたが、戦争に負けた訳では無い。」
ナチス・ドイツによる侵略によって1ヶ月で降伏したフランス。それでも植民地軍を引っ張りながら戦争に勝った英雄の言葉は、アーサーの胸に突き刺さっていた。
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