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第1幕 We Will Rock You~馬鹿騒ぎの始まり~
005 おれってこの国最強☆
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「これだけ水ぶっかければ炎も消えちまうよなぁ? あーあ。ものは試しだ」
銀髪の幼女はそう言い放ち、愛らしい笑みを浮かべる。この鉄火場みたいな戦場にまったく似合わないことだけは確かだ。
「ごほほほほッ!!」
(……いや、コイツ。面白がっているんだ。自分と張り合えるヤツが出てきたから、その分遊び倒してやろうって腹積もりか)
がむしゃらに水の塊から出ようとしているように見えるクール・レイノルズだが、実際のところ慌てふためいているわけではなさそうだ。
それでも信じるしかない。炎は水で消火できる、と。そんな基礎原則は、魔術の世界にも通用するはずだ、と。
だが、ルーシの魂胆をすべて見透かしていたかのように、クールは火力のみで200メートルほどに膨れ上がっていた洪水の塊を蒸発させた。
「あー。溺れ死ぬかと思ったッ」
軽快かつ爽やかな態度で、クールは身構える。
「でも、公式は掴めてきたぞ?」
光った、と目で捉えた頃にはすでに遅かった。クールの翼が熱気を帯び、熱波というエネルギーが小柄で華奢なルーシをレシートのごとく吹き飛ばす。
(……殺すッ!)
「怖ェー顔するなよ。オマエはこの世界に新たな条理を生み出せるんだろ? さっきのはそれの応用で、物体へもルールを追加した。ただ溢れんばかりの水に生まれ変われ、とな。やー。こうなると、透けて見えるぜ……?」
くの字になって工場の果てまで吹っ飛ばされ、頭部と口から大量の血を垂らす。こんなまともに攻撃を食らったのはいつぶりか。この奇妙な世界に来てから、いや、まだ熟睡できた15歳くらいまで遡るかもしれない。
しかし立ち止まっているわけにもいかない。ルーシはめまいを振りほどいて立ち上がり、パンパンッと砂埃を取り除く。
「おお、まだやるつもりか!? 元気いっぱいだねェ!!」
「……。そういうわけでもないさ」
「ローテンションになっちまったか。子どもが夜遊びで羽目外さずにどうするよ? まあ、見た目だけが10歳女児なんだろーけど」
刹那、クールはルーシとの間合いを一気に狭めた。もはや反応し切れない幼女ルーシに、クールは情けも容赦もなく殴りかかった。寸のところで顔周りを腕で防御したが、その両腕すらミシミシ……と頼りない音をあげている。
「おい。もしかして転生者なのか?」
「そうだとしたら?」
「良く頑張ったし、良く闘ったと言っておこうか。自分で言うのもあれなんだけど、おれってこの国最強だからさ☆」
右腕でルーシに殴りかかったクールは、その幼女の身体能力は魔術抜きの軍人レベルだと断定し、それでも強行突破するべく利き腕でない左腕へ“魔力”を込めた。
そして、黒いスーツの上からも分かるほど青い色へ染まった左の拳でルーシの顎にアッパーを入れた。
「ぎやぁッ!!」
「情けねェ声あげるなよ。まあ無理もねェか? 発火する魔力と腕力を絡み合わせた攻撃なんて、防御したくてもできないだろーしなぁ……!!」
手応え有りのクールだが、同時にまだまだ終わらないことも知る羽目になった。
顎を抑えながら、銀髪の150センチくらいの幼女が立ち上がったからである。フラフラしながら、それでも地面を踏みしめていた。
「立ち上がるのは結構だが……もうオマエの負けは揺るがねェだろ。またインファイト仕掛けても良いんだぜ?」
「……。悪りィが、負けを認められるほど大人じゃない」
「認めることから始めてみろよ。でもまあ……そう言っても聞くわけねェか!」
クールが姿をくらませた。魔力やら魔術やらなんやらを使い、人間の目では追いきれない速度を出し、音だけが響き渡る。
そんな中、ルーシは目を瞑る。そして黒い鷲の翼にすこしずつエネルギーを溜めていく。
「なにか対策でも思いついたのかァ!?」
「ああ……。掌握してやったぞ」
「……!!?」
超速度で動き回っていたクールの身体から、力が抜けていく。熱病にうなされるように身体から力感が消えていき、彼は地面に落下した。
「魔力だか魔術だか知らねェが、それらはすべて音有りきで動いている」
幼女は平淡な声色で、へたり込んで睨んでくるクールを見据えていた。
「だったら話は簡単だ。音に細工を仕掛ければ良い。ここまで法則を操ったら普通は気が付きそうなものだが、オマエは“超能力”という概念を理解できていない。分からないものにはカウンター攻撃を仕掛けることもできないだろ?」
クールは首を横に振る。
「参ったな~。魔術って音を弄られたら作動しないのか。んー、どうしたものかねェ」
「まったく驚いているように見えないが?」
「だって驚いてねェもん」
「……あ?」
「オマエが強ェことくらい知ってるし、いままで喧嘩したヤツらの中でも1位2位を争うレベルなのも認める。でもさ……これしきで勝ったと思うなよ、メスガキ」
クール・レイノルズはへたり込みながら、目を妖しく光らせた。彼の周りに幽霊みたいに半透明で白い現象が発生し、それらはすべてクールの体内へ吸収されていった。
刹那、“一部の音の効果を無効化”したはずの廃工場で、もう廃棄されていた機材もほとんど消し飛んだ場所で、天井には無数の穴が空いて美しい夜空が見える戦場で、クールが軽やかに立ち上がる。
「よっしゃ。カイザ・マギア成功!」
「……。カイザ・マギア?」
「自然や人間から魔力を吸い寄せる帝王の魔術さ。つか、そんなことも知らねェのか。いや、転生者なら当たり前か。超能力がどうたらこうたらってそういうこと?」
「だとしたら?」
「ますます歓迎したくなっちゃうなぁ! そろそろ転生者雇おうと思ってたところでさぁ!」
「ありふれた存在なわけだ」
「この喧嘩が終わったらビール片手に話してやるよ。我が母国ロスト・エンジェルス連邦共和国についてな」
戦闘中なのに談笑しているふたりだが、彼らは気が付きつつあった。次の攻撃ですべて決まると。次、しくじったほうが負けるとも。
銀髪の幼女はそう言い放ち、愛らしい笑みを浮かべる。この鉄火場みたいな戦場にまったく似合わないことだけは確かだ。
「ごほほほほッ!!」
(……いや、コイツ。面白がっているんだ。自分と張り合えるヤツが出てきたから、その分遊び倒してやろうって腹積もりか)
がむしゃらに水の塊から出ようとしているように見えるクール・レイノルズだが、実際のところ慌てふためいているわけではなさそうだ。
それでも信じるしかない。炎は水で消火できる、と。そんな基礎原則は、魔術の世界にも通用するはずだ、と。
だが、ルーシの魂胆をすべて見透かしていたかのように、クールは火力のみで200メートルほどに膨れ上がっていた洪水の塊を蒸発させた。
「あー。溺れ死ぬかと思ったッ」
軽快かつ爽やかな態度で、クールは身構える。
「でも、公式は掴めてきたぞ?」
光った、と目で捉えた頃にはすでに遅かった。クールの翼が熱気を帯び、熱波というエネルギーが小柄で華奢なルーシをレシートのごとく吹き飛ばす。
(……殺すッ!)
「怖ェー顔するなよ。オマエはこの世界に新たな条理を生み出せるんだろ? さっきのはそれの応用で、物体へもルールを追加した。ただ溢れんばかりの水に生まれ変われ、とな。やー。こうなると、透けて見えるぜ……?」
くの字になって工場の果てまで吹っ飛ばされ、頭部と口から大量の血を垂らす。こんなまともに攻撃を食らったのはいつぶりか。この奇妙な世界に来てから、いや、まだ熟睡できた15歳くらいまで遡るかもしれない。
しかし立ち止まっているわけにもいかない。ルーシはめまいを振りほどいて立ち上がり、パンパンッと砂埃を取り除く。
「おお、まだやるつもりか!? 元気いっぱいだねェ!!」
「……。そういうわけでもないさ」
「ローテンションになっちまったか。子どもが夜遊びで羽目外さずにどうするよ? まあ、見た目だけが10歳女児なんだろーけど」
刹那、クールはルーシとの間合いを一気に狭めた。もはや反応し切れない幼女ルーシに、クールは情けも容赦もなく殴りかかった。寸のところで顔周りを腕で防御したが、その両腕すらミシミシ……と頼りない音をあげている。
「おい。もしかして転生者なのか?」
「そうだとしたら?」
「良く頑張ったし、良く闘ったと言っておこうか。自分で言うのもあれなんだけど、おれってこの国最強だからさ☆」
右腕でルーシに殴りかかったクールは、その幼女の身体能力は魔術抜きの軍人レベルだと断定し、それでも強行突破するべく利き腕でない左腕へ“魔力”を込めた。
そして、黒いスーツの上からも分かるほど青い色へ染まった左の拳でルーシの顎にアッパーを入れた。
「ぎやぁッ!!」
「情けねェ声あげるなよ。まあ無理もねェか? 発火する魔力と腕力を絡み合わせた攻撃なんて、防御したくてもできないだろーしなぁ……!!」
手応え有りのクールだが、同時にまだまだ終わらないことも知る羽目になった。
顎を抑えながら、銀髪の150センチくらいの幼女が立ち上がったからである。フラフラしながら、それでも地面を踏みしめていた。
「立ち上がるのは結構だが……もうオマエの負けは揺るがねェだろ。またインファイト仕掛けても良いんだぜ?」
「……。悪りィが、負けを認められるほど大人じゃない」
「認めることから始めてみろよ。でもまあ……そう言っても聞くわけねェか!」
クールが姿をくらませた。魔力やら魔術やらなんやらを使い、人間の目では追いきれない速度を出し、音だけが響き渡る。
そんな中、ルーシは目を瞑る。そして黒い鷲の翼にすこしずつエネルギーを溜めていく。
「なにか対策でも思いついたのかァ!?」
「ああ……。掌握してやったぞ」
「……!!?」
超速度で動き回っていたクールの身体から、力が抜けていく。熱病にうなされるように身体から力感が消えていき、彼は地面に落下した。
「魔力だか魔術だか知らねェが、それらはすべて音有りきで動いている」
幼女は平淡な声色で、へたり込んで睨んでくるクールを見据えていた。
「だったら話は簡単だ。音に細工を仕掛ければ良い。ここまで法則を操ったら普通は気が付きそうなものだが、オマエは“超能力”という概念を理解できていない。分からないものにはカウンター攻撃を仕掛けることもできないだろ?」
クールは首を横に振る。
「参ったな~。魔術って音を弄られたら作動しないのか。んー、どうしたものかねェ」
「まったく驚いているように見えないが?」
「だって驚いてねェもん」
「……あ?」
「オマエが強ェことくらい知ってるし、いままで喧嘩したヤツらの中でも1位2位を争うレベルなのも認める。でもさ……これしきで勝ったと思うなよ、メスガキ」
クール・レイノルズはへたり込みながら、目を妖しく光らせた。彼の周りに幽霊みたいに半透明で白い現象が発生し、それらはすべてクールの体内へ吸収されていった。
刹那、“一部の音の効果を無効化”したはずの廃工場で、もう廃棄されていた機材もほとんど消し飛んだ場所で、天井には無数の穴が空いて美しい夜空が見える戦場で、クールが軽やかに立ち上がる。
「よっしゃ。カイザ・マギア成功!」
「……。カイザ・マギア?」
「自然や人間から魔力を吸い寄せる帝王の魔術さ。つか、そんなことも知らねェのか。いや、転生者なら当たり前か。超能力がどうたらこうたらってそういうこと?」
「だとしたら?」
「ますます歓迎したくなっちゃうなぁ! そろそろ転生者雇おうと思ってたところでさぁ!」
「ありふれた存在なわけだ」
「この喧嘩が終わったらビール片手に話してやるよ。我が母国ロスト・エンジェルス連邦共和国についてな」
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