幼きマフィアの頭領(ボス)は、きょうも銀の髪をなびかせ学校へ行く

東山統星

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第1幕 We Will Rock You~馬鹿騒ぎの始まり~

003 まだ満足していない

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 会話としての体を成していないが、ヘーラーは売店へ赴き灰皿を買ってきた。これで彼女の舌に火を押し付ける必要性もなくなったわけである。

「さて、ヘーラーよ。なにをしたら男の姿に戻してくれるんだ?」
「え? 照れ隠しとかじゃなくて本気で男性に戻りたいのですか?」

 きょとんとしていた。ルーシは舌打ちしつつも、彼女を詰めていく。

「先ほども言ったように、女へしてくれという注文をつけた覚えはない。元に戻せ」
「えーと~……ご愁傷さまです」
「あ?」
「怒っても可愛いですね、じゃなくて、今更前世の姿には戻せませんよ」
「なんで?」

「だってデータ消しましたもん。貴方が逆上して天界へ侵攻しないように」ヘーラーは謎の余裕を醸し出し、「ルーシさんがその器を受け入れたとしてもそうじゃなかったとしても、その姿になるのが一番の更生方法だと思います」凛とした表情で宣言する。

 ルーシは2本目のタバコに火を入れ、無言のまま凄まじい勢いで吸い上げていく。半分どころかフィルター数ミリ前まで迫っていたそれを灰皿へ捨てて、またもや舌打ちし、どこかへ立ち去るように歩き始めた。

「えっ? ちょ、どこ行くのですか?」
「ガン・ショップ。ちょうどひとり蜂の巣にしてやりてェヤツがいてさ」
「それって私のことじゃないですよね?」
「特徴言ってやるよ。独善的な思考で、アホみてーな髪色している女だ」
「ピンクの髪色は気に入っていますし、善悪の概念を自分のみで決めるヒトは嫌ですねっ!」
「自覚あるのか? いや、ないのか」

 取り付く島もないルーシに、ヘーラーは何度も他愛もなく話しかけてみるが、その度に無視され続けるのだった。

 *

 ルーシの記憶力はもはや病気の域だ。彼女は最前売店でチラリと覗いた新聞の広告の地図を覚えていて、実際誰かに訊くこともなく銃器を取り扱う店へたどり着いた。

「18歳未満立ち入り禁止、ねえ」
「ルーシさんの実年齢は25歳ですもんね! 身分証をおつくりします!!」

 いないものとして扱われていたヘーラーは、ルーシが久々に言葉を発したことに散歩前の犬のごとく喜ぶ。言われてもないのに偽造を始めるあたりは、有望かもしれない。

「はいっ! おつくりしました! でも銃はヒトを殺せてしまいます! 誰も殺めないように──」

 無視し、男臭い銃器店へ入る。

「よう、嬢ちゃん。ここは18歳未満立ち入り禁止だ。気に入らないアイツを殺す前に良く寝て身長を伸ばしな」
「ああ、童顔で低身長なものですから間違われますが、私は20歳です」

 どうせ深くは確認しない。店員はやや面食らった表情になるだけだった。

「ま、だったら問題なしだ。試運転から購入までご自由に」
「ありがとうございます」

 転生直後に奪った財布の中には100メニーと書かれた紙幣が3枚、50メニーが1枚、20メニーが3枚ある。合わせて410メニーだ。
 一番安い拳銃が10メニー。ただ、まっすぐ弾丸が飛びそうな出来の良いものはそれこそ400メニーくらいの値札がついている。

「たぶん米ドルと同じ程度の価値だな」

 1メニーは1米ドル。日本円換算で100円以上だろう。自販機でコーラが1メニー、タバコが3メニーだったので、物価は前世、死ぬ直前の米国や日本より高くないように思える。

「ま……試し撃ちだ」

 銃を手に持ち、射撃場へ入る。防音イヤーマフをつけ、さっそく発砲しようと的に照準を定めた。
 が、引き金が重たすぎて撃つことができない。やはり筋力は落ちているのだろうか。幸いなことにトリガーへは中指も入るので、もう一度指を引いた。

「うおッ」

 板の的が粉々に吹き飛んだ。一般市民用だと考えれば威力が高すぎるだろう。たいした反動もないのに、ヒトを模した180センチほどの板が3分の2消え去っているのだから。

「威力を調整できるのか? ビーム・ライフルみてーなものか」

 銃槍に入っているもの自体は馴染みある鉛玉かもしれないが、発射するときに異質性を感じる。ハンドガンの後部についている撃鉄……と良く似た、しかしハンマーと違う働きをしているなにかで威力を調節できるらしい。
 考えてみれば、ここが異世界というのならば物理法則が前世と違っていてもオカシクはない。ようやく楽しくなってきたルーシは、マガジンに入っている弾の強弱を変えつつハッピートリガーと化すのだった。

 そして遊底が動いて一息ついた頃、ルーシは何者かに肩を叩かれる。

「良い撃ちっぷりじゃん! 嬢ちゃん!!」

 茶髪を七三に分けてオールバックにしている30歳くらいの男が称賛してきた。顔立ちは良く、渋さと若さを両立している。背丈が高く体格に恵まれており、態度や雰囲気からも余裕が漂っていた。

「ええ、ありがとうございます」汗を手で拭う。
「しかしこんなところにいるってことは、身寄りがねェのか?」
「ええ、まあ」
「ならおれの組織に来い! クール・ファミリーは超実力主義! 嬢ちゃんくらいの腕前があれば、すぐNo.3にはなれるぜ!」
「……。大変恐縮ですが、誰かの下につくつもりはないので」
「おお、ずいぶん大口叩くな!!」

 高身長の彼はずっこけた。どうやら二つ返事で組織、推測するに裏社会に勧誘できると思っていたらしい。

「でもよー、おれは嬢ちゃんのこと気に入ったんだよな~。どうしても仲間になってくんねェの?」
「見れば分かると思いますが、10歳程度の幼女が裏組織に属すのは似合いませんよ」
「マフィアだって速攻で気づくのも有能だしなぁ。んじゃさ、ひとつ頼み事言って良いか?」
「なんでしょう?」
「タイマン、張ろうぜ。嬢ちゃんが勝ったらおれの組織もくれてやる。ただ負けたら素直に従ってくれると嬉しいな」

「従うかどうかは努力義務なのかよ……」ルーシは鼻で笑い、「けどまあ、悪くない条件だ。クール、だよな? オマエは相当強そうだ。それについてくる連中も当然強ェーだろ? よし……」

 ルーシは左手で右指を押し、バキバキバキッと音を鳴らした。

「タイマン、受けてやるよ。欲しいもののためならギャンブルしなきゃ無法者じゃねェしなぁ」

 まだ無法の世界を懐かしむような年齢ではない。まだ満足していない。
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