幼きマフィアの頭領(ボス)は、きょうも銀の髪をなびかせ学校へ行く

東山統星

文字の大きさ
上 下
1 / 18
第1幕 We Will Rock You~馬鹿騒ぎの始まり~

001 おれにしかできないこと

しおりを挟む
 どうやら死んでしまったらしい。
 あれはいつもどおりの一日だった。夜通し酒をあおり、部下たちと遊び呆けていた。長きに渡った仕事が終わって、羽目を外しすぎたということもあるだろう。それが故、過剰摂取で死んでしまったようだ。

 ただ、それがなんだって話でもある。

「あー、ついに死んじまった。葬式は盛り上がっているんだろうな。なあ?」

 ルーシと名乗っていた彼は、白い雲みたいなものの上にあぐらをかいていた。ルーシは腕を組み気難しそうな表情を浮かべ、目の前にいる女を睨む。

「随分と軽いですね。貴方死んだのですよ?」
「死んじまったのなら仕方ないだろう。だいたい、死ぬこと恐れていたら無法者なんてできないぞ。それで? おれはこれからどうなるんだ? やはり地獄というところへ落ちるのか?」

 ルーシは冷静に、しかし現状にやや狼狽えているのか、口数も多めだった。

「貴方は宗教放棄者ですよね? ならちょうど良い転生先があります」
「虚ろな目ェしているなぁ」
「自らが手にかけたヒトの数を忘れたのですか? 累計211,922人。そんな罪深き者の相手をしていれば、嫌な気分にもなります」
「いや、違うな。欲求不満だからそんな目つきしているんだろ?」
「…………。貴方の罪は到底清算しきれません。だから貴方がやるべきことは──」
「私を亀甲縛りすることです……ってな。冗談だ」

 痛々しいほど明るいピンク髪の女は目を見開く。考えを見透かされたかのように。

「ごほん。えー、貴方がやるべきことは異世界へ転生し罪を浄化することです」
「へー。だいぶ図星だったみてーだな」
「違いますっ!! 天使の私が、人間の堕落したSMプレイに興味があるわけなど──」
「天使がSMを知っているとは思わなかったが」
「……、そうやって私をいじめて楽しいですか?」

 ピンク髪の女は涙目になった。大したことを言ったつもりはないため、ルーシが彼女を気遣うことはない。

「いじめてなんかいねェよ。ちょっとからかっただけじゃねーか」
「こんな屈辱初めてです……。うう……」

 この程度の口撃で泣き崩れるヤツが天使だというのだから、神様とやらも苦労しているだろう。ルーシは首をゴキゴキ鳴らし、大きな溜め息を吐く。

 そして椅子の上で泣き続ける女の髪を掴み、顔を至近距離まで近寄らせる。ルーシは露骨に苛立っている態度で脅した。

「おい……いい加減にしろや。泣いていれば問題がいなくなるとでも? それともおれを苛つかせたいのか?」
「そ、そんな言い方は──」
「そんな言い方しかできないなぁ。なんの説明もせず、泣いているだけの役立たずに優しい言葉かけるほど、おれも人間できていねェんだわ」

 羞恥心なんて恐怖心の前では作動しない。ピンク髪でナイススタイルの女は涙を引っ込め、緊迫していますと言わんばかりの表情になる。

「それで良いんだ。さて、おれはこれからどうなる? ここが死後の世界だと仮定し、オマエはおれの罪が浄化しきれないと言った。となれば、輪廻転生かい?」

 ルーシは指を鳴らし、彼女がそう告げてくるのを待つ。

「ぐすっ……。そうです。別世界で功績を残してもらい、なんとか負の過去を清算してもらいます」
「弁護士みてーな言い方だな。裁判でもあるのか?」
「そうですね……ひくっ。私はいわば、貴方の弁護人です」

 涙をすする音もしゃっくりも正直やかましいが、指摘したところで治りそうにもない。しかしこんなのに弁護される、あるいは準ずる擁護をしてもらうと思ったら、いずれにせよ地獄に堕ちることは確定な気もする。

 と思っても無駄だ。20万人を超える者を手にかけてきた怪物が、仮に天国とやらにいたら、それはとても滑稽に映るだろう。

「話をまとめよう。おれはこれから輪廻転生する。そこで功績を立てれば地獄行きを回避できるかもしれない。オマエ……名前は?」
「ヘーラーと申します。まだ天使歴3年の駆け出し者──」
「が弁護人みてーなことをして、おれをしっかり無間地獄へ叩き込むと。そのタイミングは?」
「転生して死亡するまでです。途中で私や天界の天使が強制停止などはしません」
「よし。どんな世界へ行くのかは分からねェが、よほど運がない場合を除けば40年から70年程度の執行猶予ってわけだな。おっけー、だいたい分かった」

 こんなにも落ち着いて異世界転生を受け入れる者はなかなかいない。充分な説明が成されていないとか、前世からやり直させてくれとか、転生先に不満をぶつけられるとか、そういうことだらけだったから、ヘーラーも少々沈着さを取り戻しつつあった。

「だったら早く転生させてくれ。どんな世界でも、おれなら絶対結果を出せるからな」
「自信満々ですね……。チート能力は与えませんよ?」
「なんだよ、それ。チート? ゲームとかにあるヤツか。与えられなくても問題ないし、むしろ要らないと伝えておく」
「無双とかご興味ないのですか?」
「ねェよ。おれの前世洗わなかったのか?」

 ヘーラーは大量の書類を手元に発現させる。そして『ルーシ』についての情報へ目を通した。彼女は泡を吹いていてもオカシクないほど蒼い顔色で仰向けに倒れるのだった。

「ほら見ろ。おれは21世紀最大の怪物だぞ?」
「自ら手を出し殺したヒトが21万人超えで、5000……? どんな理由でこんな大量殺人をしたのですか!?」

「世界を変えたかったんだよ。数千万人死んででも、1000年続く平和を築きたかった」

 寂しげな目つきでルーシはうつむいた。
 ヘーラーは仰向けに倒れたことでぶつけた後頭部を撫でながら、それでもその遠くを見据える美青年に告げる。

「……。ヒトの世を変えようとする者は皆、決まって大量殺人鬼です。貴方もきっと、彼らと同じ考えを持っていたのでしょう」
「そうかもな。でも、もう終わったことさ。世の中は必定でしか動かず、数多の偶然はほとんどすべて無視される。あとすこし偶然を必定に変えられたら、おれが死ぬこともなかった」

 そんな中、ルーシは空気を変えるように宣言する。

「だが、また暴れてやるよ。おれには、おれにしかできないことがあるはずだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜

アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。 だが、そんな彼は…? Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み… パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。 その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。 テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。 いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。 そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや? ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。 そんなテルパの受け持つ生徒達だが…? サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。 態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。 テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか? 【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】 今回もHOTランキングは、最高6位でした。 皆様、有り難う御座います。

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

処理中です...