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チャプター3 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭

070 【史上最大の下剋上】"ランクD"メリットVS"ランクA"キャメル・レイノルズ

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 物語は佳境に入っていた。 
 9日目。闘いは準決勝まで来ていた。
 優勝候補の一角シエスタは、なんとアーク・ロイヤルに敗れた。
 残されたランクAピアニッシモはなぜかキャメルとの闘いで棄権を選択し、残されたのは、
『ランクS:ルーシ・レイノルズ』 
『ランクA:キャメル・レイノルズ』
『ランクC:メリット』
『ランクD:アーク・ロイヤル』
 となっていた。

 対戦カードは、
『キャメルVSメリット』
『ルーシVSアーク』
 となる。

 キャメル・レイノルズはここまで無傷で闘ってきた。それはメリットも同様である。
 そのため、間違いなく確実に無傷の帝王がひとりいなくなることは確実で、大方の見方では両者ともなにかしら傷つくだろうといったものであった。

「メリット。格上に挑む気分は?」

 次戦へ出るため待機室にいたルーシがいたずらっぽく聞いてくる。されどメリットは集中しきっており、ルーシの声すら届かない。

「怖いねェ。獣みてーな目つきしやがって。そんなにキャメルへ勝ちたいかい?」
「……勝つ以外見えないもんで」
「勝ち筋があるのか。楽しみにしておくよ。しかし……、ひとつおもしれェ話しを教えてやる。オマエは盟友だからな」

 *

 対してキャメルとアークの待機室。
 キャメルが居心地悪そうにアークをちらちら見るが、アークは気にもしない。

「ね、ねえ。アーク……」
「なに?」睨んでくるような目つきだ。
「わ、私がそんなに悪いことをしたのかしら?」
「したね」即答だった。
「……そう」

 まったくリラックスできないまま、キャメルは呼び出しとともに戦地へ向かう。

 *

「名勝負数え唄だぁ!! 勝てよ根暗!!」
「メントちゃん、メリットちゃんの応援するんだ~」

 パーラは不思議がっていた。ふたりの仲の悪さは折り紙付きなだけに、キャメルを支持するとばかり思っていたのだ。

「あんなおっぱいのちっちゃいガキンチョみたいな女に負けられたら、それに瞬殺されたあたしがバカみたいだろ?」
「メリットちゃん強いもんね~」
「そんなわけで一旦休戦だ~!! 頑張れ根暗の不良趣味!! だっせえタトゥー見せつけろ!!」 

 応援する態度でないのはいまに始まったことでもない。
 そしていよいよ、ふたりが出てきた。

 *

 史上最大の下剋上。そんな言葉がよく似合う。
 昨年ランクDの落ちこぼれだったメリットが、ベスト32まで駒を進め負けたのが、現主席キャメルだからだ。

「1年ぶりね、メリットさん」
「こちらこそ。キャメルさん」
「申し訳ないけれど、貴方に負けるわけにはいかないの。最初から全力で行くわよ」
「全力の貴方を倒せない私なら、王冠なんて手に入らない」

 走り始める。玉座と王冠はただひとつ。

 言葉もすくなく、コングが鳴る。

 観客たちは呆然とした。ルーシとアークの虐殺のような戦闘や、シエスタとホープが闘ったときの短期決戦を予測していた生徒たちは、驚愕に染まった。

「…………っ!?」
(炎をずらされたっ!? なんで……)
「クソガキ、ナイスアドバイス」

 刹那、魔力がこもった拳がキャメルの顔を直撃した。

「……な、なにがっ!?」

 キャメルは炎系統の魔術師で、身体の周りに薄い膜を常時貼っている。この膜に触れると相手の腕が火傷するという仕様であり、彼女にダメージを与えるには、通常魔術による攻撃以外にない。
 それなのに、メリットは乱雑な動きながら腕を動かし、キャメルの顔を殴った。

「ぐうっ!?」
「主席だったら、自分で考えて」

 再び炎の渦を起こす。こんなこと、想定もしていない。だからキャメルには確実に焦りが生じている。この行動は魔力をいたずらに消耗するだけでなく、相手の攻撃を推測すらしていないのだ。
 そして、またもや渦が破られる。
 その壁は凍り、一瞬で蒸発した。
 メリットは足取りも雑なまま、キャメルの腹に拳をにじませる。

「うわっ!?」

 まただ。また、火傷しなかった。
 いったいなにが起きている? メリットは新たな魔術を生み出したのか?

(いや……一旦距離を取るしかないわね)

 キャメルはわざとらしい炎の弾を数十発発射し、その間にメリットの拳の届かない場所へと距離を変える。

「さて……どうしたものかしら」

 生半端な攻撃では凍らされて終わり。強大な一撃を叩き込みたいが、それを撃つには時間が必要だ。
 そのため、キャメルは炎を一部分離させる。時間経過とともにその炎は大きくなる。つまり、あとは時間稼ぎが必要になってくる。メリットに必殺技を悟られないように。

 だが、メリットがとった行動はキャメルの上を進んでいた。

 文字通りキャメルの頭上に舞い上がるメリットは、強風を起こした。
 これでは炎がかき消されてしまう。最初はとても微量であるためだ。
 だからキャメルも応戦せざるを得ない。
 しかし、1年生のときに見たそれより、今回のそれのほうが威力・範囲ともに上回っている。

「さすがは……ってところねっ!!」

 だったら本体に攻撃を加えるか、風を消滅させるほどのオーバーヒートを起こすしかない。
 この場合、魔力の消耗がすくないのは、本人へ向かうほうだ。
 キャメルは腕に炎をまとわせて、運動神経の良い者らしく、運動慣れしていないメリットとの殴り合いに挑む。

「さすがって評価じゃ終われない……!!」
「それはこちらもそうよ!! ここで勝てばランクSが大きく近づく!! 満願成就まんがんじょうじゅの日が来たのよ!!」
「それこそ、こっちのセリフ!」

 キャメルは最前のお返しとばかりにメリットの顔を狙う。
 されども、この場で冷静だったのは間違いなくメリットだった。

「バリアっ!?」

 カウンターをしっかり仕掛けておいたのだ。わざわざ顔だけを守るためだけに。その分、消耗は少ない上に返せる攻撃の強さも違う。

「カウンターショック」

 自らの炎に包まれ、キャメルはいわば自爆のように倒れ込んだ。
 しかしキャメルは怒涛の痛みで落ち着きを取り戻していた。

(そうよ。ここで負けたらなにも得られない。メリット、私は貴方を見くびっていたみたいね……!!)

 自分の身体が炎に包まれるとどうなるか。
 答えはシンプル。至る場所へ炎を放射し始めるのだ。

「魔力の消耗はないみたい……」

 メリットはここで始めて焦りを覚える。キャメルが狙ってやったのか偶然なのかはわからないが、魔力を介さず勝手に炎で焼き払われてしまえば、それを防御するメリットの損失は計り知れない。

(…………こんなとき、クソガキだったらどんなことを言う?)

 あのムカつくクソガキの顔がよぎる。
 このとき、あの強すぎる怪物であればどうやって対処するか。
 メリットとクソガキの実力差は広いが、考えならばついていけるはずだ。
 炎がついにメリットの射程距離に突入する。
 もう、出し惜しみはなしだ。

「へェ。ここで切るか」

 ルーシは満足げに笑う。

 一点突破。
 ほとんどすべての魔力を使う代わりに、凄まじいエネルギーを持ったスキルを使える。
 その禍々しい背中から生える手は、メリットの賭けの象徴だ。

 そして、放出された炎は消え去る。
 その刹那には、腕がキャメルを撃ち抜こうと鈍重な動きを見せていた。
 キャメルはそれに気がつく。防御できなければ、間違いなくキャメルは負ける。
 ここを乗り越えるしかない。 
 そして、

 大爆風のなか、ふたりの少女が立っていった。


「はあ、はあ……」
「苦しいわね……。だいぶ、もってかれたわ……」
「だいぶじゃ足りない……!!」

 勝負がつきつつあった。互いに魔力はほんのすこしだけしか残っていない。
 ふたりは頷き合う。

 キャメルは腕に炎をまとわせ、メリットは魔力を集中させる。

 最後は単調に見える殴り合いだった。

 足取りの運びがうまくないメリットでは、運動神経の良いキャメルにはかなわない。
 最後の最後、決着をつけたのは、普段の生活だった。
 どさっ、とメリットは倒れた。

『勝者:キャメル・レイノルズ』

 無機質なアナウンスが結果を知らせた。

 キャメルはなんとか立っていられた。もう立っているだけで精一杯だ。
 それでも、彼女はメリットへ肩を貸す。
 メリットはその肩を借り、ふたりは演台から去っていく。スタンディングオベーションとともに。

 *


「メリット、すごかったわよ」
「……そりゃどうも」
「貴方は最高のライバルだわ。ね?」

 キャメルは裏側でメリットの手を握り、きらきらした目で彼女を見る。とても楽しそうだ。

「……かなわないな。陽キャには」
「陽キャ?」
「……私はずっと、貴方みたいな人が怖かったから」

 メリットは顔をうつむかせる。

「きらきらしてて、クラスの中心で指揮を取るような人たち。私みたいな根暗は、貴方みたいな人が1番怖い。なにを考えてるのかわかんないから。でも……」

 メリットは意識が途切れ、キャメルへ抱きつく形で気絶した。

「なにいってるのよ……。立派よ、メリット、怖いものにたいしてあんなに攻撃できないでしょうに」

 キャメルはメリットの背中をさすり、彼女を座らせ、治療班を待つことにした。
 キャメルの夢、ランクSが際限なく近づいた。あとはあとひとつ勝つだけだ。
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