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チャプター3 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭

067 "ランクD"アーク・ロイヤルVS"ランクA"ラーク

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 間違いなく、歴史が変わる。

 それを肌身に感じ取っていたMIH学園の生徒たちは、この状況下でも淡々と試合を続けるランクA・Bの化け物たちに畏怖を覚える。

「アイツら緊張とかしねえのかよ」

 アーク・ロイヤルの隣にいたアロマは、自分とは文字通り格が違う連中に疑念すら抱いていた。

「緊張してるんじゃない? 魔力の流れが悪いもん」
「流れ?」
「魔力は緊張で動脈みたいに動くからね。このなかで緊張してないのって、キャメルとシエスタくん、ラークさんくらいじゃない?」
「あのクソガキは?」ルーシのことだろう。
「ルーシはそもそも魔力をあんまり感じ取れない。魔力でスキルを使ってないみたいだ」
「じゃあ緊張してねえと?」
「勝とうが負けようが結果は同じ人が、はたして緊張するものか」
「そういわれるとしなさそうだな」

 MIH学園に激震が走っていた。ルーシとその仲間たちは、いまやMIHに属すほとんどの生徒から悪役として扱われている。ついこないだまで注目を浴びることもなかったであろう……いや、悪い意味での目線しか送られてこなかったメリットやメントも、こうなってしまえば立派なヒール役である。

「メントとかメリットってヤツらもルーシの子分なんだろ? かわいそうだな、アイツら」
「そうかな? プレッシャーは必ずしも結果に反映される、とも限らないんじゃない?」
「と、いうと?」
「メリットさんは良いところまで行けると思う。さっきの勝ち抜き戦見る限りね。それに、キャメルとの因縁もある」
「ああ、去年あのちびっこに負けたんだったな。アイツは」
「キャメルは嫌われ者だけど、今回は珍しくあの子に非はない。ランクDをランクAが破るなんて、当然のことだからね。でもメリットさんは納得してないみたいだし、次は盛り上がるかも」
「とか言ってる間にオマエの番だぞ。健闘、祈ってるぜ」
「うん」

 アークは耐久性の高い白いシャツに黒のパンツを履いている。一応、MIHの制服とは違うものだが、傍から見てそれを判別できるのかは不明だ。

 ランクA:ラークVSランクD:アーク・ロイヤル

 最前、緊張してなさそうな人間に挙げた人物だ。実際、あくびまでして、とことんやる気がないように見える。

「やぁ、はじめまして」
「はじめまして~」
「落ちこぼれだと見くびらないんだ」

 されど目つきは狩人のそれである。

「まーね。勝ち抜き戦見てたら、正直他の有象無象うぞうむぞうとはレベチだなって思った」

 ラーク。透明的な赤い髪の毛をセミロングに伸ばしていて、妖精のように顔立ちは整っている。身長は160センチ前半しかないアークよりも二周りちいさく、どこか気の抜けた話し方をする。

「ま、御託はあとでも良いじゃん。喧嘩、はじめよっか」
「そうだね。学校が喧嘩して良いなんていってるんだから、どうかしてるとは思うけど」
「またまた~。ランクS、狙ってるんでしょ?」
「もちろん」断言した。
「素直な子だね。ま、ひねくれてるヤツよりよっぽどマシだよ」
「ひねくれるほど能がないもんで」
「それはいったい誰にいってるんだか……。どこまでも素直な子だ」

 開始のコング。

 勝負がはじまった。勝敗予想は9割9分がラークへ向いている。
 だが、こういう場面で勝利とか敗北を予測するのは極めて難しい。その予測が不安定で信用ならないのは、このふたりが苦しいほどわかっているのだ。

「……」
「攻撃しないの~?」
「煽っても効かないよ。先手を取ることが必ずしもすべてじゃないからね」
「そりゃそうだね~。ならもらおうかな」

 足をバネにして、爆発的な速度でラークはアークへ詰め寄る。
 アークは慌てず、「魔力の流れ」を推測する。

(単純に殴ってくるだけ?)

 ならば避けることもカウンターを入れることも容易だ。いったいなにを考えているのだろうか。
 そういえば、この少女、転校してきたばかりでスキルの情報がまだ出回っていない。
 つまり、速攻で終わらせようという魂胆だ。
 ならば、時短を行えないようにすれば良い。

「──ッ!?」

 アークの頭に衝撃が走る。間違いなく、ラークの攻撃だ。

(どうやって殴ったッ!? 確かに避けたはずだぞッ!?)
「避けた、避けられたとかさ……あんまり関係ないんだよね。たとえばさ、自動じどう追尾ついびするミサイルを交わす方法ってあると思う?」

 アークは膝を崩しかけるが、その体制を気合いで立て直し、一旦地面を蹴って空中に跳ねた。
 だが、ラークもまた邪気の混じった笑顔をこぼして、アークを追いかける。

「私はないと思う。だって勝手に追いかけてくるんだもん。ストーカーは怖いよね。その自覚がないのに、人を傷つける。さて、ヒントはここまでだよ~ん」

 アークは腕に魔力をまとう。そして相手の魔力の流れを追う。冷静に、的確に。

(こんなのっておかしいよッ!? こんなに最適化されてるのッ!? 漬け込めるところ、ほとんどないじゃん……)
「これがランクA……」

 寸のところでアークはラークの攻撃パターンを知り、なんとかその方向に盾代わりの腕を置く。
 まともに触れていれば、腕が木っ端微塵になっていた。そんな凶悪な攻撃であった。

「随分落ち着いてるじゃん。普通だったら懇願こんがんするころだけどね?」
「……懇願したところで無駄なヤツらにいじめられたもので」
「いじめられっ子が成り上がる……。んー、物語としては月並みだね。小学生でも思いつきそう」
「現実のほうがドラマチックなものさ。たぶんね」
「それもそうだね」

 この間、アークは防戦ぼうせん一方いっぽうだった。魔力の流れに気が向きすぎているのだ。ラークの攻撃に合わせて防御を取る。
 これでは勝てない。しかし、別格な魔術師とまともに闘ったのが人生初の人間に、勝ち方を教える方法は限られている。誰も彼も、アークを助けられない。

「……いや」

 それでも、アーク・ロイヤルは世界でも屈指の学習できる魔術師である。それが無力と知れば、また別の方法を一瞬で試すことのできる存在だ。

「ドラマチックなのは、人間の思い込みかもしれない」
「あー、そっちのほうが近い気する~」

 ラークは蹴り技でアークのみぞおちを蹴ろうとする。
 しかし、アークはそれを交わす。交わして、彼女の足を掴む。

「足フェチ?」
「悪いけど、女子にはあんまり興味ないんだ」
「ゲイ的な?」
「女性関係で苦労してきたから。これでもね」
「なんのことやら──」

 結局、アークは女子に振り回される運命なのかもしれない。関わってきた女子たちがことごとく狂っていたから、いまのアークが生まれたのだろう。

 刹那、アークはラークを地面へ叩きつけた。

「思い込みはドラマチックだ。ぼくは自分の性愛にずっと悩んできた。魔術にも悩んできた。でもそんなものは、思い込みにしか過ぎないんだ」

 それを見ていたルーシは、ニヤリと口角を上げる。

「積木くずし、完成だな? 相手の魔力の流れを崩す。相手が魔力を使っていれば使っているほど、効果は強い。どうなるかはオマエの考え方次第みてーだが」

 土埃つちぼこりからラークは立ち上がれなかった。痛みはないのに身体は動かない。不思議な感覚だった。

「……こりゃ、キャメルちゃん勝てないな」

 カウントが取られ、ラークの敗北が決まった。
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