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チャプター3 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭

060 兄として振る舞うということ2️⃣

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 なんとなく、ルーシは学校の裏側にてひとりで煙草を吸っていた。

「おもしれェな。ウィンストンの子分ども、こっちを見ようともしねェ。やはりもう広がっているんだな」

 つい最近、MIH学園次席の家に精密ナパーム弾爆撃が行われたらしい、という噂は、新聞やテレビ、インターネットによって確定された。次席であるウィンストンを除く彼の家族は全員死に至り、彼はいまやけ酒に浸っている。ルーシの隣で。

「おい、こっちの声も聞こえねェか?」
「あー? 誰だ、てめェ」
「パーラの恋人だよ」
「あ? てめェ、レズかよ。気持ちワリィな。反出生主義か? あァ?」
「親が死ねば子どもはできんな? お悔やみ申し上げるよ」
「んだとこの野郎‼」

 ルーシは拳銃を取り出し、ウィンストンの持っていた酒瓶を撃ち抜いた。酒があられもなく流れていく。

「退屈極まりねェ野郎だ。変死してもらおうかと思ったが……いまはまだ生かしておいてやるよ。私もオマエみてーな小物殺して、名声下げるのも嫌なのでね」
「小物だ? おれが小物だと? おお、上等だ。てめェの女と家族さらってやるよ」
「撃たれてもビビらねェところは褒めてやるよ。だが、オマエはもう女も輪姦されたし、家族もなぜか死んじゃっただろ? 怖ェ世の中だな?」
「てめェ……まさかッ‼」

 ウィンストンの女が何者かによって犯されたことを知っているのは、他でもないウィンストンだけのはずだ。

「おいおい。私は女だぞ?」

 ウィンストンは立ち上がり、ルーシの額に拳銃を突きつける。

「とぼけるな‼ てめェ、誰に委託しやがったッ!? ぶっ殺されたくなきゃ答えろ‼」
「オマエさ、妹いるよな?」
「…………なんでそれを」青ざめた。
「可愛らしい子だったぞ。私のことなんて知らないだろうに、挨拶したら元気に『こんにちは‼』。挨拶は大事だな。第一印象を左右する」
「…………殺すつもりか?」喉が乾ききった。
「殺す? 私を蛮族かなにかだと思っているのかい? あの子はたしか9歳だよな? 親がいないことを不憫に思い、ちゃんと里親を探してあげたんだ。ああ、そうだ。もうそろそろ里親があの子のオークションをはじめるらしいな」
「て、てめェ……。おれの妹を……。おれの妹がなにしたってんだよォ!?」
「おれのパーラがなにしたっていうんだい?」ルーシはヘラヘラした態度から一転して彼をにらみ、「オマエの妹はてめェの所為で責任を負う。そして、オークションを止められるのは私だけだ」
「と、止めてくれッ‼ なんでもするッ! 頼む‼」

 ルーシは猛り狂ったように笑い散らす。
 そして、かつて自分がその立場に立たされたように、ウィンストンの尊厳を完全にへし折るために、唯一の条件を提示する。

「ああ、男娼やるのならオークションを止めてやろう」
「……は?」
「世の中同性愛者は多いものだ。だからソイツらの慰み者になるんだよ。まあ……オマエに恨みを持つヤツはたくさんいるから、殺されねェように配慮はしてやる」

 死ぬことも生きることも許すつもりはない。死ぬことは逃げだ。生きることは苦しみだ。苛烈な報復とは、こういうものを指すのだ。

「いま決めろ。オマエの妹はあと30分後に競られる。だが急に止めるのなら、1分以内に決めてくれなきゃ困るんだ」

 ルーシはウィンストンの肩を叩く。たいした力は入れていない。激励でもするような叩き方であった。

「あ、ああ……あ」
「早く決めろ。恋人に会いてェんだよ。まァ無理強いはしねェがな?」

 地獄へ落ちることが決まりつつある。殺されないように配慮するといったのは、未知の性病にかかって苦しみぬいて死んでいくことをルーシが望んでいるからだ。

「…………怪物だ。オマエは怪物だ」
「だから、早く決めろ。私が怪物かどうかなんて関係ないんだ。はいかいいえだ」

 どの道、逃げ場などない。安易な気持ちでルーシという怪物に挑んでしまったから、食い散らかされるのだ。

「……はい」

 妹にだけは生き残って欲しい。兄として、それがすべてだった。

「よろしい。私の部下がやってくるから、ここで待機していろ」

 ルーシはニコニコと笑いながら、その場を去っていった。

 その一方、裏側でその死刑宣告を見ていたスターリング工業の構成員たちは、ルーシのいったことがすこしバカげていると感じていた。

「代表取締役社長はなんであんな嘘ついたんだろうな。ウィンストンとかいうガキの妹は普通の里親に引き取られるのが決まってて、その手はず整えたのは社長なのに」
「さあ。あの人嫌がらせが好きなんじゃね? 非人道的な行動ばっかするけど、意外と子どもには優しいところあるってクールのアニキがいってたし」
「自分だって子どもだからかね?」
「いや、あれが10歳の幼女なわけねェだろ。クールのアニキやポールモールさんみてーな豪傑でも、社長を子ども扱いしてるところ見たことねェぜ?」
「まあ、ウィンストンのガキは三ヶ月保たねェだろうな……」

 ウィンストンは堂々と、なんら抵抗することなく、構成員に連れられていった。彼が最後に保てる意地なのは明白で、せめて最後のときくらい大物でいようと思っていたのだろう。

 そしてルーシは、恋人である愉快な獣娘と待ち合わせていた場所で、煙草を吸っていた。
 やがてパーラが訪れる。彼女はどんな表情をしてルーシと向き合えば良いのかわかってないのか、顔がこわばっていた。
 だから、ルーシは黙ってパーラを強く抱きしめた。
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