上 下
35 / 80
チャプター2 実力と陰謀の学び舎、メイド・イン・ヘブン学園

035 ”幼女”ルーシVS”ランクB”メント

しおりを挟む
「……ッ!?」

(攻撃が入った? なぜだ? クールと闘ったとき、おれは自分の能力を理解できていたはずだ。は存在しないが、は存在する以上、攻撃がとおるわけがないだろ……ッ!?)

「……ようやくあせったみたいだな。ロスト・エンジェルス……いや、世界でもごく少数の法則を乱すスキルを持ってると踏んだ!! 蹴りをつけるぞっ!!」

 土壇場に追い込まれたルーシ。余裕のあった表情から、すこしあせりが見えはじめた。
 ルーシがこの世界に来て闘った最初の強敵はクール。だが、クールの攻撃すら、自分の能力を定義できれば防御できたし、彼のような人間にも攻撃を加えられた。
 だが、今回は違う。ルーシはメントに能力を考えさせた。自分の能力は一切喋っていない。だというのに、彼女はそれを割り出した。
 だから、ルーシにとって2回目の苦戦……いや、下手を打てば負ける闘いがはじまる。

「四の五の言ってられねェなッ!!」

 ルーシは背中に翼を広げた。ルーシの能力はなぜか翼が生える。だが、これはクールも同様なので、別に珍しいものでもない。いわば能力の底上げに使うのだ。

 だが、
「銀色の翼……? いや、銀鷲の翼か」
 メントはそういいはなった。

(銀鷲? おれの翼は黒鷲のはずだ。黒い翼のはずだ。なにが起きている?)

 それを考える間もなく、ルーシはメントによる攻撃がはじまる。以前のような矢印だ。
 そして翼で身体を隠し、ルーシはそれを防ごうとする。
 だが、またもや妙な現象が起きた。

(防御し切れていないッ!?)

 理論上はどんな攻撃もはねのける、必殺の黒い鷲の翼。
 しかし、メントの攻撃は一部だけ貫通し、ルーシの右腕を貫く。

「効いたな!? だったら……っ!!」

 またもや矢印が動く。

(再生もうまく作動していねェ。ということは、ッ!?)

 超能力は存在しない。この世界においては。
 魔術は存在する。この世界においては。
 それが混ざるとどうなるか?

「まいったぜ……。あのアホ天使め。どこまでもおれの足を引っ張りやがる。なら──」

 矢印が放射された。
 ルーシはここで気がついていた。メントの矢印はまっすぐしか飛ばないのだ。発射した時点で定めた狙い以外の場所へ飛ばせないのである。
 だったら、ひとまず回避だ。
 ルーシは翼をなびかせ、空を飛ぶ。

「交わしたかっ!? でも、もう1回撃てば……!!」

 だからといって、ルーシは鳥ではない。自由自在に空を動けるわけではないのだ。ましてやここは無風に近い。存在しない風を作れる確証もない。ならば、いつものように空を飛んで華麗に移動はできない。
 そんなことはメントも承知しているようだった。
 そして、敗北が決まりかねない一撃が放たれる。


「……ギリギリセーフだな」


 ルーシの背中には、黒鷲の翼──勝利を確定させる壮麗な翼が動いていた。

「…………っ!?」
「わかっているみてーだな。そうだ。もう隙間はねェ。だが時間もねェ。ここは……」

 使えるものならばすべて使う。それがルーシの考え方だ。法則を乱すことで戦闘を強制的に終了させられるのならば、それに越したことはない。

 *

「──やっぱ不良ぶってるでしょ!! 煙草なんて吸ったら肌荒れるし、口も臭くなっちゃうよ?」
「──クソガキ。コイツ、殴っても死なない?」
「──やめておけよ。悪意あっていっているんじゃないんだ」
「──……帰りたい」

 声、が漏れていた。パーラと女みたいな出で立ちをした少年とヤニカスと……アイツだ。

「よォ、起きたか。ウェルカムドリンクだ」

 メントは床に寝転がっていたようだった。仰向けなので、目を彼らへ向ければ、スカートの中身が見える。
 パーラは意外なほどに色っぽいものだった。
 ヤニカスは見た目どおり地味な黒色だった。
 そしてアイツは……トランクス? 男物ではないか。

「……意味わかんない」
「いつかわかる。ほら、なに飲む?」
「……まずは説明してよ」
「オマエは負けた。私は勝った。それだけだ。だが、良い勝負だった。そしてオマエを痛めつけると、パーラが泣いちゃうだろ? だから気絶してもらった。わかったか?」

 そんな会話をしていると、どうも酔い始めていてこちらに注意を向けていなかったパーラが、機敏に反応する。

「メントちゃん!! 大丈夫!? ルーちゃんは一切怪我させてないっていうけど、私心配で……」
「……ああ。大丈夫さ。むしろ……ルーシってヤツのほうを心配したほうが良いと思う」
「心配ご無用。この程度なれているのでね」

 ルーシはブレザーを脱ぎ、長袖のワイシャツの右部分を切り取って無理やり包帯にしていた。
 だが、そんなことは些細な問題だった。

「……なに、そのタトゥー」
「かっこいいだろ?」
「会話を成立させようという努力はしねえの?」
「おお、毒舌だな。なあ、パーラ」
「ルーちゃんのタトゥーはね、ルーちゃんの国だったら10歳のときに入れるものなんだって!! んでさ、キャメルちゃんと親戚だったらこの国の人じゃないのって聞いたら、お父さんが海外で作った子どもがルーちゃんなんだって!! だからその文化を守ってるって!!」
「そういうこった」ルーシは煙草を咥える。
「……煙草は嫌いだ。臭いし、健康に悪い」
「そんなに私と会話したくねェか? 嫌いなものこそ受け入れるんだ。そうすりゃ、見えてくる世界も変わってくる」
「でもさ、ルーちゃん煙草やっぱ臭いよ!!」
「そうかい」

 パーラの言葉を聞き、ルーシはあっさり煙草を携帯灰皿へ入れた。結局なにがしたいのかよくわからない人間である。

「まあ、オマエだってパーラのことが好きなんだろ? だったら友だちだ。私たちは友だち。親友だ」
「……なんもしらないくせに」
「あ?」
「アンタはパーラのことをまったく知らない。そんな人間にあたしの親友を任せらんねえよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...