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チャプター2 実力と陰謀の学び舎、メイド・イン・ヘブン学園
026 "青嵐の使者"パーラ
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(随分と早口だな。なにか後ろめたいことでもあるのか?)
邪心しつつも、
「と、いうことは、他にも派閥があるんですか?」
「あるよ。有力な生徒は派閥をつくることで、自分の価値を示すからね~」
「なるほど。キャメルお姉ちゃんの派閥に入りたいのは山々なんですが、すこし考えさせてもらって良いですか?」
「良いよ~。ルーシちゃんの自由だからね」
おそらく、キャメルは派閥のメンバーには困っていない、有力な生徒が集まっているのだろう。キャメルは1学年にして10000人の頂点に君臨した少女だ。人ならばいくらでも集まる。
しかし、キャメルの思惑はともかく、優秀な生徒は傘下においておきたいのだろう。仮に後ろめたいことをしていても、仮に正しいことをしていても。
「じゃ、私は顔見せをしてこなくてはいけないので、ここで失礼します。また連絡しますね」
「うん! MIH学園を楽しんでね!」
キャメルが悠々と去っていくのを確認し、ルーシはタブレットどおりに道を進んでいく。
古めかしい校舎だったが、中身は近未来そのものだ。壁紙の代わりにディスプレイが置かれており、しかも前世における有機ELより美しい。だというのに、提示してある情報は陳腐なものである。いじめをやめましょうとか、暴力を振るった生徒は停学処分だとか……はっきりいって意味がない。意味を成していない。
「実力主義ってのはわかったが……陰謀ってのがよくわからんな」
派閥というものは、ルーシが考える限り、所詮学生の政治ごっこである。MIH学園のトップにいるのが女子で2学年のキャメルなのが気に食わない連中もいるだろうが、それはひっくり返す余地のない話だ。キャメルは名門中の名門レイノルズ家の子ども。無理なものは無理なのだ。
「ま……入ってみてわかることもあるだろう。せいぜいおれを楽しませてくれよ? 100億円の価値があるようにな」
そう日本語でつぶやき、ルーシは教室の横開きドアを開ける。
クラスは和気あいあいとしていた。学生らしいといえば学生らしい。
(金のあるクソガキは、おれを使って良い思いしていたんだな。ボンボンはどうしても気に入らねェ。おれみてーな無法者はいつも金持ちを喜ばしてばかりだ)
と、思っていると、担任が大声を張り上げ、クラスを落ち着かせた。
「よっしゃおめえら!! 新入生だ!! 6学年飛び級で高等部へ来た、現首席キャメルの親戚!! そして伝説のロックンローラー、クール・レイノルズの娘!! ルーシ・レイノルズだぁ!!」
クラスは騒然となった。たいしてルーシは冷めていた。
すでに、いじめの痕跡を2~3個ほど見つけてしまったからだ。
「ルーシ、自己紹介だ!!」
「はい。ルーシ・レイノルズです。先生がいったように、私は父にクールを持ち、叔母にキャメルを持ちます。ですが、皆様とぜひとも仲良くしたいと思っております。よろしくお願いいたします」
嫌味がなさそうで嫌味があるな、とでも思われただろう。ルーシは10歳だ。10歳児ならば10歳児らしく天真爛漫な性格風に行ったほうが良いし、最初に担任が話したとはいえ、わざわざクールとキャメルの名前を出し、それでいて自分が上であるといわんばかりに仲良くしたいと。
しかし、別に高校1年生と仲良くする義理なんてないのも事実だ。ルーシは異世界人の18歳。しかももともとの性別は男。それが別の世界の高校生とお友だちになれるわけがないのだ。
だから、教室の評価は真二つに割れた。こちらまで聞こえるように陰口を叩き、挙句の果てには「やっちまおう」という声すら聞こえる。それが大多数である。
だが、目をキラキラさせる少女も確かにいた。
(獣娘? どれだけアニメみてーな世界観なんだよ。もしこの世界の創作者がいるとしたら、ソイツは現実を見なさすぎだ)
「よっしゃルーシ!! 適当に座れや!!」
「そうですね……」
けれど、興味が湧くのも事実。ルーシはそうやって目を輝かせる少女のちかくへ座る。
「こんにちは。ルーシ・レイノルズです」適当に声をかける。
「敬語なんて使わなくて良いよ~!! 私はパーラ!! 見ればわかると思うけど、猫と人間のハーフです!! すごいでしょこの耳!! なんか普通の人間より声が聞き取りやすいらしいんだ!! んでね、しっぽまで生えてるんだ!! まあこれは使わないんだけどね!!」
(担任より元気そうだ。元気なのは良いことだな。暗いヤツよか断然ましだ)
パーラ。金髪のロングヘアーで、背中全体が隠れるほどの長さだ。顔立ちは美しいというより愛らしい感じで、柔らかい表情や程よい香水とトリートメントの匂いで、見た目以上に愛らしい印象を受ける。身長は座っているのではっきりとはわからないが、おそらくルーシより高い。150センチ中盤といったところか。ただし肉付きは良いようだ。もっとも、ルーシ並みの絶壁だが。
「んでさ、ルーちゃんって呼んで良いかな!! ルーちゃんめっちゃかわいいし、なんかかっこいいし、なんかもう大好きだよ!! 私のことは好きに呼んで良いからね!! そうだ!! きょうの放課後カフェかカラオケ行こうよ!! 男の子と女の子どっち誘えば良い? やっぱ両方?」
「……そうだな、やはり男子は外して──」
「やはりって……!! めっちゃかっこいい!! 別にけなしてるんじゃないんだよ? なんかそういう言葉がすぐ出てくるのがかっこいいんだ!! やっぱルーちゃんは頭良さそうだね!! 勉強教えてよ!!」
「別に良いが……」
「私落第寸前なんだよね~! 獣人って頭良くて身体つきも良くて魔術も強いって思われがちだけど、なんか私そういうの苦手でさ~! 結構自分なりには努力してるつもりなんだけど、やっぱ頭の良い人に教わるのが一番かな~って!」
(こちらの話をまったく聞いていねェ……)
コミュニケーション能力。それは、人間である以上、必ず必要になるスキルだ。獣娘にも必要不可欠だろう。
たとえば、相手の目を見て話せず、声もちいさく、相槌のひとつ打つのにも苦難するのもコミュニケーション能力が足りていないといえる。
だが、パーラのような子もそうだ。自分の話しかできない。いや、気がついたら自分の話に終始してしまう。そして、いままでもこういう連中を見てきたルーシは、対策方法をよく熟知している
しかし、その性格になるには気分を変えたい。
ルーシは立ち上がり、
「ごめん、トイレ行ってくる。すぐ戻るからさ、そのときに話をしよう」
そんなことを伝える。
女子は基本他人との関わりを重視する。それは、原始時代からの決まりだ。
だから、もしもついてこられたら面倒だとは感じる。なので、ルーシはあくまでも『会話は続けたいが、尿意が限界で、早足で行きたい』といった感じの態度で接した。
「わかった~。待ってるね!」
そんなわけでルーシは教室から出ていった。
「──なんだか懐かしいな。ああいうヤツは昔からいたものだね。無下にしてやっても良いが……やはりおれは中身が男なんだな。20センチ砲さえついていればなぁ」
前世では放蕩しきっていたルーシは、このとき、この場にいても男である自分を捨てられていない。なにせ獣娘なんていままで見たこともなかったからだ。何気なく悶々とするような、好みの女を見つけたときとは違う、はじめて自分の意思で性行為をしたときのような感覚に襲われていた。
「だが……ないものを嘆いても仕方がねェ。女にだって快楽を感じる部位は腐るほどある。いや、男以上かもな? ともかく、すこし煙草でも吸って落ち着こう」
ルーシはトイレに向かいつつ、ふと思う。
「……獣人ってことは、ニオイを感じ取る器官も強ェのか。猫とのハーフっていっていたしな。煙草はやめておこう」
意味がなくなった。このままトンボ返りしても良いのだが、ルーシはあえて女子トイレに入っていく。
理由は明白だ。
「……なあ、尾行ってのが下手すぎねェか? 私はしたこともねェが、こんなにヘマやらかすこともねェはずだぜ?」
ルーシはわざとらしく嫌味な笑顔を浮かべ、振り返った。
そこには間抜けそうな面をした男女混同の連中が5人。ルーシは鼻でフッと笑う。
「まあ……そういわれて悔しいと思うんだったら、実力行使で私の顔を壊してみろよ」
邪心しつつも、
「と、いうことは、他にも派閥があるんですか?」
「あるよ。有力な生徒は派閥をつくることで、自分の価値を示すからね~」
「なるほど。キャメルお姉ちゃんの派閥に入りたいのは山々なんですが、すこし考えさせてもらって良いですか?」
「良いよ~。ルーシちゃんの自由だからね」
おそらく、キャメルは派閥のメンバーには困っていない、有力な生徒が集まっているのだろう。キャメルは1学年にして10000人の頂点に君臨した少女だ。人ならばいくらでも集まる。
しかし、キャメルの思惑はともかく、優秀な生徒は傘下においておきたいのだろう。仮に後ろめたいことをしていても、仮に正しいことをしていても。
「じゃ、私は顔見せをしてこなくてはいけないので、ここで失礼します。また連絡しますね」
「うん! MIH学園を楽しんでね!」
キャメルが悠々と去っていくのを確認し、ルーシはタブレットどおりに道を進んでいく。
古めかしい校舎だったが、中身は近未来そのものだ。壁紙の代わりにディスプレイが置かれており、しかも前世における有機ELより美しい。だというのに、提示してある情報は陳腐なものである。いじめをやめましょうとか、暴力を振るった生徒は停学処分だとか……はっきりいって意味がない。意味を成していない。
「実力主義ってのはわかったが……陰謀ってのがよくわからんな」
派閥というものは、ルーシが考える限り、所詮学生の政治ごっこである。MIH学園のトップにいるのが女子で2学年のキャメルなのが気に食わない連中もいるだろうが、それはひっくり返す余地のない話だ。キャメルは名門中の名門レイノルズ家の子ども。無理なものは無理なのだ。
「ま……入ってみてわかることもあるだろう。せいぜいおれを楽しませてくれよ? 100億円の価値があるようにな」
そう日本語でつぶやき、ルーシは教室の横開きドアを開ける。
クラスは和気あいあいとしていた。学生らしいといえば学生らしい。
(金のあるクソガキは、おれを使って良い思いしていたんだな。ボンボンはどうしても気に入らねェ。おれみてーな無法者はいつも金持ちを喜ばしてばかりだ)
と、思っていると、担任が大声を張り上げ、クラスを落ち着かせた。
「よっしゃおめえら!! 新入生だ!! 6学年飛び級で高等部へ来た、現首席キャメルの親戚!! そして伝説のロックンローラー、クール・レイノルズの娘!! ルーシ・レイノルズだぁ!!」
クラスは騒然となった。たいしてルーシは冷めていた。
すでに、いじめの痕跡を2~3個ほど見つけてしまったからだ。
「ルーシ、自己紹介だ!!」
「はい。ルーシ・レイノルズです。先生がいったように、私は父にクールを持ち、叔母にキャメルを持ちます。ですが、皆様とぜひとも仲良くしたいと思っております。よろしくお願いいたします」
嫌味がなさそうで嫌味があるな、とでも思われただろう。ルーシは10歳だ。10歳児ならば10歳児らしく天真爛漫な性格風に行ったほうが良いし、最初に担任が話したとはいえ、わざわざクールとキャメルの名前を出し、それでいて自分が上であるといわんばかりに仲良くしたいと。
しかし、別に高校1年生と仲良くする義理なんてないのも事実だ。ルーシは異世界人の18歳。しかももともとの性別は男。それが別の世界の高校生とお友だちになれるわけがないのだ。
だから、教室の評価は真二つに割れた。こちらまで聞こえるように陰口を叩き、挙句の果てには「やっちまおう」という声すら聞こえる。それが大多数である。
だが、目をキラキラさせる少女も確かにいた。
(獣娘? どれだけアニメみてーな世界観なんだよ。もしこの世界の創作者がいるとしたら、ソイツは現実を見なさすぎだ)
「よっしゃルーシ!! 適当に座れや!!」
「そうですね……」
けれど、興味が湧くのも事実。ルーシはそうやって目を輝かせる少女のちかくへ座る。
「こんにちは。ルーシ・レイノルズです」適当に声をかける。
「敬語なんて使わなくて良いよ~!! 私はパーラ!! 見ればわかると思うけど、猫と人間のハーフです!! すごいでしょこの耳!! なんか普通の人間より声が聞き取りやすいらしいんだ!! んでね、しっぽまで生えてるんだ!! まあこれは使わないんだけどね!!」
(担任より元気そうだ。元気なのは良いことだな。暗いヤツよか断然ましだ)
パーラ。金髪のロングヘアーで、背中全体が隠れるほどの長さだ。顔立ちは美しいというより愛らしい感じで、柔らかい表情や程よい香水とトリートメントの匂いで、見た目以上に愛らしい印象を受ける。身長は座っているのではっきりとはわからないが、おそらくルーシより高い。150センチ中盤といったところか。ただし肉付きは良いようだ。もっとも、ルーシ並みの絶壁だが。
「んでさ、ルーちゃんって呼んで良いかな!! ルーちゃんめっちゃかわいいし、なんかかっこいいし、なんかもう大好きだよ!! 私のことは好きに呼んで良いからね!! そうだ!! きょうの放課後カフェかカラオケ行こうよ!! 男の子と女の子どっち誘えば良い? やっぱ両方?」
「……そうだな、やはり男子は外して──」
「やはりって……!! めっちゃかっこいい!! 別にけなしてるんじゃないんだよ? なんかそういう言葉がすぐ出てくるのがかっこいいんだ!! やっぱルーちゃんは頭良さそうだね!! 勉強教えてよ!!」
「別に良いが……」
「私落第寸前なんだよね~! 獣人って頭良くて身体つきも良くて魔術も強いって思われがちだけど、なんか私そういうの苦手でさ~! 結構自分なりには努力してるつもりなんだけど、やっぱ頭の良い人に教わるのが一番かな~って!」
(こちらの話をまったく聞いていねェ……)
コミュニケーション能力。それは、人間である以上、必ず必要になるスキルだ。獣娘にも必要不可欠だろう。
たとえば、相手の目を見て話せず、声もちいさく、相槌のひとつ打つのにも苦難するのもコミュニケーション能力が足りていないといえる。
だが、パーラのような子もそうだ。自分の話しかできない。いや、気がついたら自分の話に終始してしまう。そして、いままでもこういう連中を見てきたルーシは、対策方法をよく熟知している
しかし、その性格になるには気分を変えたい。
ルーシは立ち上がり、
「ごめん、トイレ行ってくる。すぐ戻るからさ、そのときに話をしよう」
そんなことを伝える。
女子は基本他人との関わりを重視する。それは、原始時代からの決まりだ。
だから、もしもついてこられたら面倒だとは感じる。なので、ルーシはあくまでも『会話は続けたいが、尿意が限界で、早足で行きたい』といった感じの態度で接した。
「わかった~。待ってるね!」
そんなわけでルーシは教室から出ていった。
「──なんだか懐かしいな。ああいうヤツは昔からいたものだね。無下にしてやっても良いが……やはりおれは中身が男なんだな。20センチ砲さえついていればなぁ」
前世では放蕩しきっていたルーシは、このとき、この場にいても男である自分を捨てられていない。なにせ獣娘なんていままで見たこともなかったからだ。何気なく悶々とするような、好みの女を見つけたときとは違う、はじめて自分の意思で性行為をしたときのような感覚に襲われていた。
「だが……ないものを嘆いても仕方がねェ。女にだって快楽を感じる部位は腐るほどある。いや、男以上かもな? ともかく、すこし煙草でも吸って落ち着こう」
ルーシはトイレに向かいつつ、ふと思う。
「……獣人ってことは、ニオイを感じ取る器官も強ェのか。猫とのハーフっていっていたしな。煙草はやめておこう」
意味がなくなった。このままトンボ返りしても良いのだが、ルーシはあえて女子トイレに入っていく。
理由は明白だ。
「……なあ、尾行ってのが下手すぎねェか? 私はしたこともねェが、こんなにヘマやらかすこともねェはずだぜ?」
ルーシはわざとらしく嫌味な笑顔を浮かべ、振り返った。
そこには間抜けそうな面をした男女混同の連中が5人。ルーシは鼻でフッと笑う。
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