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チャプター1 銀髪碧眼幼女、LTAS(エルターズ)に立つ
019 合法的な100億円
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3月某日。まだまだ寒い時期だ。いや、この国において寒くない時期は少ない。7月、8月に入っても最高気温は25度前後。夏になると半袖の人も増えるらしいが、そんな光景はつい最近この国に来たルーシ・レイノルズが見たわけでもないので、未だに信じがたいものがある。
ルーシ・レイノルズ。偽名に偽名を重ね、ついには本名すら忘れてしまった無法者は、新しい名字に違和感を覚えながら、子どもらしいちいさな手で書類へのサインを終える。
「ルーシ・レイノルズ。10歳。性別女。……これって、トランスジェンダーの人はどうするんだ?」
「さあ。でも、制服さえ着ていれば問題ない学校だからよ。男だったら女のを着て、女だったら男のを着るんじゃねェの? それ以外にも問題はありそうだが、おれのときはLGBTなんて被差別民以外のナニモンでもなかったしなァ。それに比べりゃ、マシにはなってると思う」
(だったら、心理上の性別は男で、見た目は女ってことにしとけばよかったな。男ってほうがやりやすいし。どうしても昔いた場所の常識が抜けていねェ)
そう思った少女、いや、幼女、ルーシは、いまひとつ価値を見いだせなかった長髪が比較的短髪になったことに、すこしばかりすっきりした気分でいた。
銀髪碧眼。身長150センチジャスト。バストは80センチ。体重は40キロ。引き締まった身体。童顔ながらも整っていて、特徴的な座った目。身体中を駆け巡る和彫りとタトゥー。ほんのすこしだけ施された、いや、自分で行った化粧。デパートに行った際ついでに買っておいた、程よい香水の匂い。そんな少女である。
「それで? 下ごしらえは済んでいるのかい?」
「ああ、仰せの通りに」
それに答えるは、クール・レイノルズという男だ。年齢は32歳。しかし32歳に見えないほど若々しく、それでいて童顔──幼い顔にも見えず、あくまでも男前に整った顔立ちである。身長190センチを超える巨漢で、身体は鍛えられており、タトゥーの類いは入っていない。髪の毛は明るい茶髪。彼の家族は大半が茶髪らしい。なので、ルーシと親子という設定で行くには少々度胸がいるかもしれない。しかし、今回の作戦でクールの存在は欠かせない。そのため、多少の無茶は承知の上だ。
「戸籍謄本も改ざんしておいた。かなり時間を食っちまったが、仕方ねェよな? CEO」
「ああ、オマエはよくやっているよ。さすがはクールの一番子分だ」
そうやってルーシへ話しかけたのは、ポールモールという男だ。年齢は29歳。こちらは歳相応といった顔立ちで、クールほどではないが顔立ちは整っている。身長は180センチほどと、この国における平均身長とまったく同じだ。
そんな3人の無法者は、この国──ロスト・エンジェルス最大の学園「メイド・イン・ヘブン学園」から、合法的に100億円に及ぶ金をかすめ取るべく、きょうを迎えた。
これは、彼らの所属する組織「スターリング工業」の最初の大仕事である。
そんなわけで、さっそくメイド・イン・ヘブン学園──MIH学園へ向かいたいのだが、ルーシにはひとつ懸念材料、いや、行わないといけないことがあった。
「なァ、ヘーラーはどうすんの?」
クールがいったように、ルーシにはヘーラーという存在がいる。天界、とやらから降りてきた天使。スタイル抜群で顔もよく、この国ロスト・エンジェルスの女性平均身長167センチジャスト、スペックだけはモデルか女優にでもなれそうな女である。
「……そうだったな。あのアル中、ポールとオマエの部下が記念に持ってきた酒類全部飲みやがった。越してきて1週間だぞ? どう考えても3ヶ月は持つ酒を1週間で飲んで、いまだに寝てやがる」
「終わってるな。たまには羽目を外すのも悪くねェけど、アイツはそもそも人間として終わってやがる」
「アニキ、ルーシ、どうやってアイツを起こす? 正直、小便臭いし獣臭いし近づくだけでキスされて吐きそうになるし……やっぱりMIHへ入れるのはやめときますか?」
「そうだな……」
「いや、私に良い案がある」
「姉弟がそういうんならやってみろよ。おれら上で待ってるわ」
「おーう」
ルーシは下へ降りていく。この家の構造は地上にある1階と地下1階、地下2階だ。すこし他人には見せられない仕事用の部屋が地下2階であるため、ルーシは1階、ヘーラーは地下1階で生活している。ルーシも極力汚物なんて見たくないので、下の階へ降りるのは3日ぶりである。
「……さて。汚ねェヤツを起こすフェーズだ。つか、この部屋全体が臭せェ。煙草吸っている上より臭せェってどうなっているんだ? 小便とクソも漏らしているんじゃないか?」
ルーシは女性用のスーツを着ている。スーツの色は黒で、インナーは紫。下はパンツとなっており、ハイヒールの歩きづらい感覚にも慣れてきたところだ。
また、この格好の素晴らしいところは、男のように拳銃をシャツとパンツの間に挟めることである。
ルーシは拳銃を取り出す。ロスト・エンジェルス、通称「LTAS」でもトップクラスの性能と値段を誇るハンドガンだが、結局用途はあまり変わらない。
そして、ルーシはなんの躊躇もなくヘーラーの腕へ銃弾を放った。
あられもなくいびきをかき、心底幸せそうに4リットルウイスキーを抱えて眠るヘーラー。だが、それから1秒後に、彼女は悲鳴を上げる。
「いってえ!? な、な、な、なんでこんなことするんですかルーシさん!? 私は天使ですよ?」
「天使なら天使らしく振る舞え。そしてオレは無神論者だ。さらにオマエを天使と思うヤツなんてひとりもいない。分かったら歯みがきして風呂入れ。オマエ何週間歯磨きとシャワーあびていねェんだ?」
「だ、だいたい2週間くらい?」
「やはりもう一発食らっておくか?」
「いやだー!! 再生できても痛いものは痛いんです!! すぐ入りますので少々お待ちを!!」
ルーシ・レイノルズ。偽名に偽名を重ね、ついには本名すら忘れてしまった無法者は、新しい名字に違和感を覚えながら、子どもらしいちいさな手で書類へのサインを終える。
「ルーシ・レイノルズ。10歳。性別女。……これって、トランスジェンダーの人はどうするんだ?」
「さあ。でも、制服さえ着ていれば問題ない学校だからよ。男だったら女のを着て、女だったら男のを着るんじゃねェの? それ以外にも問題はありそうだが、おれのときはLGBTなんて被差別民以外のナニモンでもなかったしなァ。それに比べりゃ、マシにはなってると思う」
(だったら、心理上の性別は男で、見た目は女ってことにしとけばよかったな。男ってほうがやりやすいし。どうしても昔いた場所の常識が抜けていねェ)
そう思った少女、いや、幼女、ルーシは、いまひとつ価値を見いだせなかった長髪が比較的短髪になったことに、すこしばかりすっきりした気分でいた。
銀髪碧眼。身長150センチジャスト。バストは80センチ。体重は40キロ。引き締まった身体。童顔ながらも整っていて、特徴的な座った目。身体中を駆け巡る和彫りとタトゥー。ほんのすこしだけ施された、いや、自分で行った化粧。デパートに行った際ついでに買っておいた、程よい香水の匂い。そんな少女である。
「それで? 下ごしらえは済んでいるのかい?」
「ああ、仰せの通りに」
それに答えるは、クール・レイノルズという男だ。年齢は32歳。しかし32歳に見えないほど若々しく、それでいて童顔──幼い顔にも見えず、あくまでも男前に整った顔立ちである。身長190センチを超える巨漢で、身体は鍛えられており、タトゥーの類いは入っていない。髪の毛は明るい茶髪。彼の家族は大半が茶髪らしい。なので、ルーシと親子という設定で行くには少々度胸がいるかもしれない。しかし、今回の作戦でクールの存在は欠かせない。そのため、多少の無茶は承知の上だ。
「戸籍謄本も改ざんしておいた。かなり時間を食っちまったが、仕方ねェよな? CEO」
「ああ、オマエはよくやっているよ。さすがはクールの一番子分だ」
そうやってルーシへ話しかけたのは、ポールモールという男だ。年齢は29歳。こちらは歳相応といった顔立ちで、クールほどではないが顔立ちは整っている。身長は180センチほどと、この国における平均身長とまったく同じだ。
そんな3人の無法者は、この国──ロスト・エンジェルス最大の学園「メイド・イン・ヘブン学園」から、合法的に100億円に及ぶ金をかすめ取るべく、きょうを迎えた。
これは、彼らの所属する組織「スターリング工業」の最初の大仕事である。
そんなわけで、さっそくメイド・イン・ヘブン学園──MIH学園へ向かいたいのだが、ルーシにはひとつ懸念材料、いや、行わないといけないことがあった。
「なァ、ヘーラーはどうすんの?」
クールがいったように、ルーシにはヘーラーという存在がいる。天界、とやらから降りてきた天使。スタイル抜群で顔もよく、この国ロスト・エンジェルスの女性平均身長167センチジャスト、スペックだけはモデルか女優にでもなれそうな女である。
「……そうだったな。あのアル中、ポールとオマエの部下が記念に持ってきた酒類全部飲みやがった。越してきて1週間だぞ? どう考えても3ヶ月は持つ酒を1週間で飲んで、いまだに寝てやがる」
「終わってるな。たまには羽目を外すのも悪くねェけど、アイツはそもそも人間として終わってやがる」
「アニキ、ルーシ、どうやってアイツを起こす? 正直、小便臭いし獣臭いし近づくだけでキスされて吐きそうになるし……やっぱりMIHへ入れるのはやめときますか?」
「そうだな……」
「いや、私に良い案がある」
「姉弟がそういうんならやってみろよ。おれら上で待ってるわ」
「おーう」
ルーシは下へ降りていく。この家の構造は地上にある1階と地下1階、地下2階だ。すこし他人には見せられない仕事用の部屋が地下2階であるため、ルーシは1階、ヘーラーは地下1階で生活している。ルーシも極力汚物なんて見たくないので、下の階へ降りるのは3日ぶりである。
「……さて。汚ねェヤツを起こすフェーズだ。つか、この部屋全体が臭せェ。煙草吸っている上より臭せェってどうなっているんだ? 小便とクソも漏らしているんじゃないか?」
ルーシは女性用のスーツを着ている。スーツの色は黒で、インナーは紫。下はパンツとなっており、ハイヒールの歩きづらい感覚にも慣れてきたところだ。
また、この格好の素晴らしいところは、男のように拳銃をシャツとパンツの間に挟めることである。
ルーシは拳銃を取り出す。ロスト・エンジェルス、通称「LTAS」でもトップクラスの性能と値段を誇るハンドガンだが、結局用途はあまり変わらない。
そして、ルーシはなんの躊躇もなくヘーラーの腕へ銃弾を放った。
あられもなくいびきをかき、心底幸せそうに4リットルウイスキーを抱えて眠るヘーラー。だが、それから1秒後に、彼女は悲鳴を上げる。
「いってえ!? な、な、な、なんでこんなことするんですかルーシさん!? 私は天使ですよ?」
「天使なら天使らしく振る舞え。そしてオレは無神論者だ。さらにオマエを天使と思うヤツなんてひとりもいない。分かったら歯みがきして風呂入れ。オマエ何週間歯磨きとシャワーあびていねェんだ?」
「だ、だいたい2週間くらい?」
「やはりもう一発食らっておくか?」
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