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チャプター1 銀髪碧眼幼女、LTAS(エルターズ)に立つ
013 ゴシック・アンド・ロリータ
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「そのわりには動揺するんですね。やはりなんらかの悩みがあると?」
要するに、キャメルは子どもなのだ。小学生が着るような服装とか、10歳の幼女相手に嫉妬を抱く性格とか、そういう話ではない。ただただ単純に未熟なのだ。きっと、彼女のなかでクールという男は理想そのものであり、理想を超えるだけの男を見つけられず、まだまだ世界を知らなかったときに彼がいなくなってしまったことで、彼のもたらした圧倒的な幻想から抜け出せないのだろう。
そして同時に、幼児が親や兄妹に結婚しようとキスをする、というような幼い言葉を未だに信じ続けているのだろう。
それらを予測し、ルーシは最適な言葉を絞り出す。
「でも、わかる気がしますよ。お父様には人を焚きつける魅力がある。それこそ自身のスキルのように。名だたる社長たちも嫉妬で怒り狂うような、妙な才能を持っている。だからキャメルお姉ちゃんはお父様の妙な才能から抜け出すことができないんでしょ?」
「……そ、それは」
「反論なんてしなくて良いし、たかが10歳の幼女の言葉だと思って聞き流してもらっても結構。でも、いつかはそこから抜け出さなければ、キャメルお姉ちゃんは苦しい人生を過ごすことになりますよ?」
つい熱がこもってしまった。明らかな失敗だ。これではどちらが年上かわからなくなってしまう上に、キャメルのような自尊心の高い女はこういった正論を嫌う。ルーシは前世でさんざん女と遊んだから、それくらいは理解している。
「……私だってわかってるのよ。でも、理想を求めることが悪いこととは思えない」
「そうですよ。理想を求めても罪には問われない。けど、お父様のような人間は滅多にいません。要するに、ある程度妥協することも手なんじゃないですか? キャメルお姉ちゃんの学校生活は知らないけど、気になる男の子とかいるんでしょ?」
「え、え? な、なんで、そんなことを……?」
「ちなみにいま、カマをかけました。私は精神操作系のスキル保有者ではないので」
「……ルーシちゃん、アナタはいったい何者なの? 女の子って男の子より精神的な発育は早いけど、アナタの場合は成熟しすぎてる。とても10歳ではないわ。アナタと話してると、すべてを見透かされてるみたい」
ルーシは小さく笑い、
「そうですねェ……。前世の記憶があるようなものですかね。性別も思い出せないし、出身国も思い出せない。なにをしていたのかも思い出せないけど……現実的にいま、キャメルお姉ちゃんが感じているような違和感はそっくりそのまま正解だと思いますよ」
ミステリアスな雰囲気のままいう。
「……前世では随分長生きしたみたいね。そして政治家や大企業の社長のような、人を大事にする仕事へ就いていた。だからアナタは人の考えてることを見透かすように理解することができる。なるほど……確かにアナタは正真正銘お兄様の娘よ。あの方の子どもなら、それくらいは当然だしね」
キャメルはそういった。なにか観念したかのように。
「ところで……気になる子がいるんだったら、化粧とかしてみるのも良いんじゃないんですか? ほら、キャメルお姉ちゃんすっぴんだし」
「……簡単にいってくれるわね」
どうやら化粧すらしたことないらしい。16歳とは思えない。
「難しいことでもないですしね。でもまあ、その前に服がほしいです。お父様からお小遣いをもらったので、これでなにかちょうど良い服探しでもしましょう」
ひとまずルーシはフォローし、なおかつ自身の目的である洋服を買うほうへ話をすすめる。おもしろそうだったのですこしキャメルをからかってみたが、からかったところで目的は果たせない。
そして煙草が吸いたい。一応ポケットに赤と白のパッケージの紙巻煙草は入っているのだが、さすがに彼女の前では吸えないだろう。申し訳程度に10歳児ということになっているし。
「だったら、ペアルックにしない?」
(……なにいっているんだ? この女)
「……えーと、同じ服を買うってことですか?」
「そ。体格も似てるし、姉妹ということで通じるでしょ?」
「銀髪と茶髪が姉妹ですか?」
「ロスト・エンジェルスでは、同じ親から金髪・茶髪・黒髪・赤髪・青髪……とか生まれるのが普通でしょ? まあピンク色の子はすぐ染めるらしいけど。だから違和感はもたれないわよ」
結局ヘーラーは被差別民らしい。考えてみると、多種多様な髪色をした者たちとすれ違ってきたが、ピンク色の髪色をした者だけはいなかった。やはり良い印象はもたれないのだろう。いろんな意味で。
「……わかりました。服はよくわからないので、キャメルお姉ちゃんにおまかせしますよ」
(まあ、あれだ。すこしでも姉らしいところを見せたいんだろう。そしてMIH学園へ入学するのなら、私服はあまり関係ない。ここはお姉ちゃんの好みに合わせよう)
*
ルーシはインターネットを使い、女子服について調べ、結論を出した。「悪目立ちせず、機能的で、寒くなく、軽いもの」。では、その真逆をいくものとはなんだろうか?
「いつも制服ばかりだから、こういう服装はなかなかできないのよ。本当はこの格好で学校へ行きたいんだけどね。それにしても、ルーシちゃんはなに着せても似合うわね」
「……」ルーシは眉を細めた。
ゴシック・アンド・ロリータ。略してゴスロリ。この服装はそもそもルーシのいた日本発祥の服装であるが、ここは異世界であり、異世界人を受け入れている国なので、誰かがファッションとして売り出したのであろう。
そして、そんなことはどうでも良い。
「……好きじゃないの?」寂しげな顔をする。
「い、いえ? キャメルお姉ちゃんとおそろいになれるのはうれしいですよ?」
(んなわけあるかアホ。目立って、機能的でなく、寒く、軽くなく……。キャメルは本気でこれを私服にするつもりか? 黒を基調に白のアクセント。下半身はスカートに長い白の靴下。厚底靴……誰か指摘しなかったのか!? その格好すこしずれているよって!?)
要するに、キャメルは子どもなのだ。小学生が着るような服装とか、10歳の幼女相手に嫉妬を抱く性格とか、そういう話ではない。ただただ単純に未熟なのだ。きっと、彼女のなかでクールという男は理想そのものであり、理想を超えるだけの男を見つけられず、まだまだ世界を知らなかったときに彼がいなくなってしまったことで、彼のもたらした圧倒的な幻想から抜け出せないのだろう。
そして同時に、幼児が親や兄妹に結婚しようとキスをする、というような幼い言葉を未だに信じ続けているのだろう。
それらを予測し、ルーシは最適な言葉を絞り出す。
「でも、わかる気がしますよ。お父様には人を焚きつける魅力がある。それこそ自身のスキルのように。名だたる社長たちも嫉妬で怒り狂うような、妙な才能を持っている。だからキャメルお姉ちゃんはお父様の妙な才能から抜け出すことができないんでしょ?」
「……そ、それは」
「反論なんてしなくて良いし、たかが10歳の幼女の言葉だと思って聞き流してもらっても結構。でも、いつかはそこから抜け出さなければ、キャメルお姉ちゃんは苦しい人生を過ごすことになりますよ?」
つい熱がこもってしまった。明らかな失敗だ。これではどちらが年上かわからなくなってしまう上に、キャメルのような自尊心の高い女はこういった正論を嫌う。ルーシは前世でさんざん女と遊んだから、それくらいは理解している。
「……私だってわかってるのよ。でも、理想を求めることが悪いこととは思えない」
「そうですよ。理想を求めても罪には問われない。けど、お父様のような人間は滅多にいません。要するに、ある程度妥協することも手なんじゃないですか? キャメルお姉ちゃんの学校生活は知らないけど、気になる男の子とかいるんでしょ?」
「え、え? な、なんで、そんなことを……?」
「ちなみにいま、カマをかけました。私は精神操作系のスキル保有者ではないので」
「……ルーシちゃん、アナタはいったい何者なの? 女の子って男の子より精神的な発育は早いけど、アナタの場合は成熟しすぎてる。とても10歳ではないわ。アナタと話してると、すべてを見透かされてるみたい」
ルーシは小さく笑い、
「そうですねェ……。前世の記憶があるようなものですかね。性別も思い出せないし、出身国も思い出せない。なにをしていたのかも思い出せないけど……現実的にいま、キャメルお姉ちゃんが感じているような違和感はそっくりそのまま正解だと思いますよ」
ミステリアスな雰囲気のままいう。
「……前世では随分長生きしたみたいね。そして政治家や大企業の社長のような、人を大事にする仕事へ就いていた。だからアナタは人の考えてることを見透かすように理解することができる。なるほど……確かにアナタは正真正銘お兄様の娘よ。あの方の子どもなら、それくらいは当然だしね」
キャメルはそういった。なにか観念したかのように。
「ところで……気になる子がいるんだったら、化粧とかしてみるのも良いんじゃないんですか? ほら、キャメルお姉ちゃんすっぴんだし」
「……簡単にいってくれるわね」
どうやら化粧すらしたことないらしい。16歳とは思えない。
「難しいことでもないですしね。でもまあ、その前に服がほしいです。お父様からお小遣いをもらったので、これでなにかちょうど良い服探しでもしましょう」
ひとまずルーシはフォローし、なおかつ自身の目的である洋服を買うほうへ話をすすめる。おもしろそうだったのですこしキャメルをからかってみたが、からかったところで目的は果たせない。
そして煙草が吸いたい。一応ポケットに赤と白のパッケージの紙巻煙草は入っているのだが、さすがに彼女の前では吸えないだろう。申し訳程度に10歳児ということになっているし。
「だったら、ペアルックにしない?」
(……なにいっているんだ? この女)
「……えーと、同じ服を買うってことですか?」
「そ。体格も似てるし、姉妹ということで通じるでしょ?」
「銀髪と茶髪が姉妹ですか?」
「ロスト・エンジェルスでは、同じ親から金髪・茶髪・黒髪・赤髪・青髪……とか生まれるのが普通でしょ? まあピンク色の子はすぐ染めるらしいけど。だから違和感はもたれないわよ」
結局ヘーラーは被差別民らしい。考えてみると、多種多様な髪色をした者たちとすれ違ってきたが、ピンク色の髪色をした者だけはいなかった。やはり良い印象はもたれないのだろう。いろんな意味で。
「……わかりました。服はよくわからないので、キャメルお姉ちゃんにおまかせしますよ」
(まあ、あれだ。すこしでも姉らしいところを見せたいんだろう。そしてMIH学園へ入学するのなら、私服はあまり関係ない。ここはお姉ちゃんの好みに合わせよう)
*
ルーシはインターネットを使い、女子服について調べ、結論を出した。「悪目立ちせず、機能的で、寒くなく、軽いもの」。では、その真逆をいくものとはなんだろうか?
「いつも制服ばかりだから、こういう服装はなかなかできないのよ。本当はこの格好で学校へ行きたいんだけどね。それにしても、ルーシちゃんはなに着せても似合うわね」
「……」ルーシは眉を細めた。
ゴシック・アンド・ロリータ。略してゴスロリ。この服装はそもそもルーシのいた日本発祥の服装であるが、ここは異世界であり、異世界人を受け入れている国なので、誰かがファッションとして売り出したのであろう。
そして、そんなことはどうでも良い。
「……好きじゃないの?」寂しげな顔をする。
「い、いえ? キャメルお姉ちゃんとおそろいになれるのはうれしいですよ?」
(んなわけあるかアホ。目立って、機能的でなく、寒く、軽くなく……。キャメルは本気でこれを私服にするつもりか? 黒を基調に白のアクセント。下半身はスカートに長い白の靴下。厚底靴……誰か指摘しなかったのか!? その格好すこしずれているよって!?)
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