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シーズン1 チャプター2 それでもおれは正義のヒーローなんかじゃないっ!!
038 人類と怪物の垣根
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「殺してやる……コロシテヤル……!!」
唇を噛み締めながら痛みをこらえ、それでも戦意だけは衰えないクラリス。
だが、現状クラリスは誰かの手を借りないと立ち上がることもできない。それだけ先ほどの銃弾は本物のそれと変わりがないのだ。
「……。理解し合えないのなら」
いっそトドメくらい刺してやろう。どのみち積み重ねてきた悪事が彼女を生かすことで帳消しになるわけでもないし。
だからおれは右手にスライムを集めて2メートルほどに巨大化させ、それに“悪魔の片鱗”を混ぜる。いわば殴殺だ。
「待て!!」
瞬間、ビリッとした感覚に睨まれたような気分になった。
老人なのに毛根が死滅する様子はまったくなく、ひげまで生やしちゃっている素敵なご老人。
おれからすればこの姿になってから始めて出会ったヒト。
クラリスに至っては血縁という絆でつながっているヒト。
「セーラム上級大将……」
「やはり懸念が当たってしまったな。クラリス、オマエは急ぎすぎた。寝首を掻く方法などいくらでもあっただろうに」
「お祖父様……」
「スライム娘、わしの顔を立ててその拳を降ろしてくれ」
「……。はい」おれはスライムを縮小させた。
そんな頃、クラリスは極限状態が続いていたからが故か、意識をパタッと失った。
「意識がないほうが話しやすいかもしれんのォ」
「なにを話すってんです?」
「クラリスがあそこまで怪物を憎む理由じゃよ」
実際それは気になる。若くして怪物狩り軍団『ノーマッド』の副総長になれたのは、なにも実力と家柄ありきでなかったはずだ。
「この子は冒険者をしておってな。数多の怪物と闘い、その腕を挙げていった」
「そういや最初会ったときそんなこと言ってましたね」
「だが、あるスライム娘によって自分を除くクランメンバーが殺された。それ以来この子は冷徹な……それこそ怪物のように冷淡な怪物狩りになったんじゃ」
だからおれへの態度がよろしくなかったのか。当然だよな。仲間を皆殺しにされたのに、その種族と同じ怪物の面倒なんか見たくなかったわけだ。
「人間と怪物。それらは水と油じゃ。永久に混ざり合うことはない。どちらかがどちらかを迫害することでしか、互いの安全を守ることができないのだ」
おれは黙り込み、その話を訊く。
ロスト・エンジェルス中にいる怪物たちから崇められて、おれの一挙一動に彼らは注目している。でも、彼らにだって恨みはある。人間のクラリスと同じように。
「分かり合うことができないってことですか」
「悲しいが、な」
「……。そうだ。おれも決め台詞を考えたんですよ。どんなに馬鹿にされたってこう名乗ってやろうって台詞を」
「なんじゃ?」
「我が名はタイラント。人類と怪物に垣根を生み出す連中を粛清する者だ」
セーラムは鼻で笑い、「いつしか成し遂げてみせよ。主にはそれすらも期待してしまう求心力があるようだからな」と言うのだった。
唇を噛み締めながら痛みをこらえ、それでも戦意だけは衰えないクラリス。
だが、現状クラリスは誰かの手を借りないと立ち上がることもできない。それだけ先ほどの銃弾は本物のそれと変わりがないのだ。
「……。理解し合えないのなら」
いっそトドメくらい刺してやろう。どのみち積み重ねてきた悪事が彼女を生かすことで帳消しになるわけでもないし。
だからおれは右手にスライムを集めて2メートルほどに巨大化させ、それに“悪魔の片鱗”を混ぜる。いわば殴殺だ。
「待て!!」
瞬間、ビリッとした感覚に睨まれたような気分になった。
老人なのに毛根が死滅する様子はまったくなく、ひげまで生やしちゃっている素敵なご老人。
おれからすればこの姿になってから始めて出会ったヒト。
クラリスに至っては血縁という絆でつながっているヒト。
「セーラム上級大将……」
「やはり懸念が当たってしまったな。クラリス、オマエは急ぎすぎた。寝首を掻く方法などいくらでもあっただろうに」
「お祖父様……」
「スライム娘、わしの顔を立ててその拳を降ろしてくれ」
「……。はい」おれはスライムを縮小させた。
そんな頃、クラリスは極限状態が続いていたからが故か、意識をパタッと失った。
「意識がないほうが話しやすいかもしれんのォ」
「なにを話すってんです?」
「クラリスがあそこまで怪物を憎む理由じゃよ」
実際それは気になる。若くして怪物狩り軍団『ノーマッド』の副総長になれたのは、なにも実力と家柄ありきでなかったはずだ。
「この子は冒険者をしておってな。数多の怪物と闘い、その腕を挙げていった」
「そういや最初会ったときそんなこと言ってましたね」
「だが、あるスライム娘によって自分を除くクランメンバーが殺された。それ以来この子は冷徹な……それこそ怪物のように冷淡な怪物狩りになったんじゃ」
だからおれへの態度がよろしくなかったのか。当然だよな。仲間を皆殺しにされたのに、その種族と同じ怪物の面倒なんか見たくなかったわけだ。
「人間と怪物。それらは水と油じゃ。永久に混ざり合うことはない。どちらかがどちらかを迫害することでしか、互いの安全を守ることができないのだ」
おれは黙り込み、その話を訊く。
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「……。そうだ。おれも決め台詞を考えたんですよ。どんなに馬鹿にされたってこう名乗ってやろうって台詞を」
「なんじゃ?」
「我が名はタイラント。人類と怪物に垣根を生み出す連中を粛清する者だ」
セーラムは鼻で笑い、「いつしか成し遂げてみせよ。主にはそれすらも期待してしまう求心力があるようだからな」と言うのだった。
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