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シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる

048 ”英雄メビウスの死”

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 1800年7月10日。
 ロスト・エンジェルス連邦共和国の市民たちは、突然の訃報に驚愕した。
 英雄メビウスの死が、テレビからラジオ、インターネットと様々な媒体より市民へ伝達されたのだ。また、メビウスの死を公式発表した若き大統領クール・レイノルズは、何度も何度も言葉を詰まらせている。

 市民たちは嘆き悲しんだ。50年ほど前、4年間で100万人をも超える死傷者が出たという『大独立戦争』にて、ロスト・エンジェルスを単独勝利に導いた英雄が、ついにいなくなってしまったのだ。

 特に当時を知る老年の市民たちは、ひとつの時代が終わったこと、そしてこれから連邦共和国が進む道に不安を抱く。軍拡路線を採用しつつあった現連邦政府に歯止めをかけられるのは、陸軍を退役していながらも影響力は残っていると思われるメビウスだけだと考えていたからだ。

 そんな混乱の中、2日後には国葬が行われることも決定した。英雄に最後の挨拶をすべく、300万人を超える市民が首都ダウン・タウンに集まる見込みだ。

 ……というニュースを自宅で聞いたメビウスは、ひょっとして認知症になってしまったのかもしれない、と孫娘モアの部屋へ向かう。

「あ、お姉ちゃん。おはよう」

「もう16時だが? ああ、いや。いまはそんなこと関係ないな。速報を聞いたか?」

「んー。おじいちゃんの国葬が行われるんでしょ?」

 散らかった部屋のベッドで足をパタパタさせながら、なぜそんなに平然とした態度をとれるのかさっぱり分からない。

「まあ、ヒトはいつか死ぬからね~。ロスト・エンジェルスは長寿大国って言われるけど、あとすこしで73歳になるヒトが亡くなってもおかしくないもん」

「いや、私は死んでいないのだが……?」

「うん。死んでないね」モアは勝ち誇ったような表情になり、「だって、お姉ちゃんはもうおじいちゃんじゃないじゃん。女子用のピンクパジャマ着ておいておじいちゃんは無理あるよ」

 肉体と魂の同化。この姿になってから、モアはしばしば『魂が肉体に追いつこうとするはず』だと言っていたが、たしかにメビウスはなんの違和感も持たずにモコモコのルームウェアを着ていた。もはや男性的な要素を探すほうが圧倒的に難しい。

「髪の毛もロングヘアくらいまで伸びてるし、三つ編みまでしてる。そんな姿なのに72歳の老人名乗るのは無理しかないじゃん?」

「ま、まあそうかもしれんが」

「そうに決まってるよ。にしても、クール大統領は役者だね。その気になれば会えること分かっているのに、もう号泣し始めてるし。本当にお姉ちゃんが亡くなったときどんな反応するんだろーね」

 モアはスマートフォンを見せてくる。老眼と無縁になってから数ヶ月経過し、メビウスは目を凝らすことなく6インチにも満たないディスプレイを見る。

『英雄の死は……我が国の安全保障を覆すことはない。メビウス元上級大将の意志、平和への尽力は我々の内皮の中に受け継がれる。私はそれを市民の皆様に約束しよう』

 クール・レイノルズは壇上から去っていった。

「これであたしの研究も昇華したね~☆」

 モアはとても満足そうにウインクを飛ばしてくるのだった。

 *

「ッたく……。私が意識不明の間に決定しやがって」

 ルーシ・レイノルズは憤慨していた。味方であるはずのクールが、ルーシになんの了承も得ずに『蒼龍のメビウスの死』を全国放送してしまったからである。
 そんな憤りを隠さないルーシの隣へは、アーク・ロイヤルとミンティが見舞いというわけで訪れていた。

「まあまあ。クールくんも色々考えた上で決断したんでしょ」

「あのヒトたぶん、その場のライブ感で決めてると思うよ」

 クールの息子のミンティは、かの大統領がパフォーマンスのためにわざわざ国営放送にまで出しゃばってきた、と捉えているようだった。

「間違っちゃいねェだろうな。クールはなんとなく行動するヤツだ。それでもすべてうまく行ってしまうのが一番の問題点ですらある」

「まあ、あれでしょ? メビウス元上級大将が亡くなったことになっても、今度は少女の器を持って第二の人生始めるだけじゃん? それに、あの方は自分たちに危害が与えられなければなにもしてこないさ」

「アーク、煽るのも大概にしろよ……。こちらは侵害したつもりないのに、偶然の結果あの野郎が参戦しやがったことを知っているだろう?」

「でもさ、アネキ。アンタの主目的は達成できたんじゃねーの?」

 ミンティはいかにも退屈そうなあくびを浮かべ、されど鋭くルーシの目を見据える。

「ああ……。世界の最定理は成功した。もう数年も経てば、この惑星はロスト・エンジェルスに追いつけるはずだ」

 闘いに完敗したが、戦争そのものへは辛勝した。平和の魔術“パクス・マギア”による『世界の技術力を200年早める』プランは成功し、世界は大荒れを起こしている。
 アークらが属す連邦国防軍の軍種のひとつ宇宙方面軍は、大陸で起きている戦争に戦闘機と戦車が追加されたことを感知したという。

「あとはどのように調理していくか、だな。大丈夫、オマエらには私がついている」

 銀髪碧眼のショートヘア、包帯まみれの幼女は不敵な笑みを浮かべるのだった。

 *

「やあ、大統領閣下」

「よう、切り込み隊長」

 演説を終えたクール・レイノルズと演壇の下でそれを見守っていたジョン・プレイヤーは、盟友として握手を交わす。

「オマエの決めたことだ。おれはなんも言わんが、メビウスさんに伝えておいたほうが良かったんじゃねェのか?」

「そうしたらメビウスさん固辞するだろ。死んだことにしたほうが都合良いとはいえ、もう国葬の準備まで始めてんだ。あのヒトが派手な葬式を好むと思うか?」

「思わんな。政治的利用ってか」

「そりゃその側面もあるさ……」クールはタバコをジョンに渡して、「ただ、もうメビウスさんを解放してやろうとも思うんだよ。12歳より我が国に尽くしてきたんだから、残りの人生は好き放題生きてもらいたい。だろ?」

「言えてるな……」ジョンはニヤッと笑いタバコを咥え、「オマエらしく酔狂な真似だよ。もう蒼龍のメビウスが死んだという事実は揺るがない。残るのはMIH学園の超大型ルーキー、120億メニーの少女バンデージのみだしな」
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