44 / 49
シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる
044 私は……おれは、ただこの世界のために一生懸命働いていただけなんだぞ?
しおりを挟む
「……細胞が再生し始めているな」
各自がそれぞれの闘争に挑んでいく中、メビウスは辛うじて生き残っていた。
エアーズの攻撃によって細胞再生が無効化されており、食らった攻撃を免疫や魔力で修復できていなかったが、これでようやく動ける。
と、思い、隣に転がっているフロンティアの傷口を塞ごうとしたら。
「──うぐぅ!!」
メビウスはまたもや吐血し、手にびっちゃりと血液がこびりつく。呼吸も不整脈のごとく整わず、やがて力なく地面に膝を屈してしまった。
「ばんで……メビウスさん……オレ、こんなところで死ぬのかな……」
仰向けに地面へ転がり、曇り始めた空が命運を象徴するように雨を降らす。フロンティアの弱気な口振りに、メビウスは返事すらできない。
そんなとき。
「メビウスさん! こんなやべー場面に呼んでくんねェなんて水臭せェッスよ!!」
……ごく一部の者は魔力のみで天候すら変えることができる。連邦国防軍が何度も実験したという“核兵器”に良く似ている爆発がもたらした雨は、笑顔を浮かべるサングラス姿のジョン・プレイヤーによって降り止んだ。
「やっぱりアンタ“蒼龍のメビウス”じゃん。そりゃ強くて当たり前だ」
放っておけば数分後には絶命していたメビウスとフロンティアの元に、スタスタとミンティが歩み寄ってきた。彼はこれまた軍用品の興奮剤と医療セットを両手に抱えている。
「ほら、着払い勢らしく仲良くしようぜ。ちょっとキツく閉めっけど我慢してくれ」
「ありがと……う」
「いまから死ぬわけじゃあるめェ。そんな顔するなよ」
フロンティアの治療をミンティが請け負う中、メビウスの手元には軍用興奮剤が置かれている。脳内麻薬を強制的に発生させる、下手な麻薬よりもよほど中毒性と危険性の高い劇薬である。
ジョンがメビウスに近寄ってきた頃、白い髪の少女は後ろ髪を孫娘からもらったヘアピンで止め、彼に不敵な笑みを見せる。
「戦闘準備万端って感じッスね。やっぱ弟子に獲物盗られるのは嫌なんですか?」
「当たり前だろう。わしを誰だと思っている。私は……蒼龍のメビウスだ」
やられっぱなしでは終われない。あの幼女を無力化しなければならない。いままさにメビウスたちは危害を加えられているのだから。
そんな覇気を完全に取り戻したメビウスは、興奮剤をなんの躊躇もなく心臓に打ち込む。
「って、これ腕に打つヤツッスよ? 心臓に打ち込んじゃったら後々寿命縮まっちゃう」
メビウスは、白い髪の少女は、胸に打った注射器をポケットにしまい、口調とは裏腹にニヤリと笑うジョンへ告げる。
「なにを言っておるのだ。わしはもう72歳のジジイじゃ。寿命などいまさら惜しくもないわい」
愛らしい表情のメビウスは、地面を蹴り壊すかのように天空高く舞い上がっていくのだった。
その頃、ひとつの闘いが幕を下ろしつつあった。
「どうしたよォ、エアーズ。熱出したみてーに顔色が悪りィ゙ぜ?」
「うるせェよ……。クソ野郎がァ!!」
子どもじみた口喧嘩は空中高くで起きているし、高射砲らしき物体は消えかかっている。エアーズの運命も決まりつつあるというわけだ。
「おっと、最後の賭けなんて許すと思うか?」
ルーシは一撃離脱を狙ったエアーズの読みを当て、もう息も絶え絶えのエアーズが即座の攻撃を選ばなかったことに疑念を抱くが、呼吸も苦しい空中にいれば判断を間違えてもおかしくはない。いわゆる囮でないと踏んだルーシは、エアーズへ黒い鷲の翼を発射した。
「ぐぅッ!?」
ありったけの魔力を込め、存在感の薄れていた高射砲がくっきり浮かぶ。だが、当てれば確実に相手を鎮められる大砲も、当たらなければブリキのおもちゃというものである。
「ぐうの音は出るのかい……惜しいな。私と手を組めば、この世界も掴めただろうに」
どのみち、突き刺した時点で勝ちは確定だ。ルーシはすこしエアーズを殺すことを躊躇しているが、エアーズもエアーズで放っておけば勝手に死ぬくらい傷だらけ。どうにかして配下に加えられないかと、ルーシはいわば慢心していた。
「だがまあ、オマエは頑張りやさんだ。最期のチャンスをくれてやるよ。ここで私についてくるって決めるのなら、てめェに刺した翼は再生用に使ってやろう。さあ、どうする?」
エアーズは思わず、「はッ……」と苦い笑い声をあげる。彼は続けた。
「てめェのケツ舐めながら生きるくれーなら、ここで地獄堕ちたほうがマシだ。どっちにしても死ぬんなら、断じてオマエには従わねェ!!」
「残念だよ……!!」
殺すしかない。ここまでやって心がへし折れない相手なんて、飼い切れるわけがない。飼い慣らせない仲間などクール・レイノルズだけで充分だ。
ルーシの翼が妖しく光り、エアーズはついに爆散と臨終のときを迎えていた。
が、ここでルーシは踏みとどまる。地上から、なにかが来ている。大爆発で半壊した廃工場を中心に、廃墟が広がる地上から、何者かが来ている。
──まさか、蒼龍のメビウスが……あの場面で生き残った? どうやって生き延びた? どう考えても死ぬべきだっただろ。
ルーシの喉が干からびるように乾いていく。唾液を何度も飲み込み、焦りをまったく隠せていない。
──オカシイだろうが。私は……おれは、ただこの世界のために一生懸命働いていただけなんだぞ? ……オカシイだろうがッ!!
エアーズから自身の翼を引き剥がし、落下していく彼へは目もくれない。圧倒的理不尽が直ぐ側まで迫ってきている。もう生き残れないかもしれない。ついにツキがすべてなくなってしまったのだ。落ち目の乱暴者など、誰も助けようとは思わない。
「それが……なんだって言うんだよッ!! おお、蒼龍!! しっかりトドメを刺してやるべきだったんだよなァ!!」
各自がそれぞれの闘争に挑んでいく中、メビウスは辛うじて生き残っていた。
エアーズの攻撃によって細胞再生が無効化されており、食らった攻撃を免疫や魔力で修復できていなかったが、これでようやく動ける。
と、思い、隣に転がっているフロンティアの傷口を塞ごうとしたら。
「──うぐぅ!!」
メビウスはまたもや吐血し、手にびっちゃりと血液がこびりつく。呼吸も不整脈のごとく整わず、やがて力なく地面に膝を屈してしまった。
「ばんで……メビウスさん……オレ、こんなところで死ぬのかな……」
仰向けに地面へ転がり、曇り始めた空が命運を象徴するように雨を降らす。フロンティアの弱気な口振りに、メビウスは返事すらできない。
そんなとき。
「メビウスさん! こんなやべー場面に呼んでくんねェなんて水臭せェッスよ!!」
……ごく一部の者は魔力のみで天候すら変えることができる。連邦国防軍が何度も実験したという“核兵器”に良く似ている爆発がもたらした雨は、笑顔を浮かべるサングラス姿のジョン・プレイヤーによって降り止んだ。
「やっぱりアンタ“蒼龍のメビウス”じゃん。そりゃ強くて当たり前だ」
放っておけば数分後には絶命していたメビウスとフロンティアの元に、スタスタとミンティが歩み寄ってきた。彼はこれまた軍用品の興奮剤と医療セットを両手に抱えている。
「ほら、着払い勢らしく仲良くしようぜ。ちょっとキツく閉めっけど我慢してくれ」
「ありがと……う」
「いまから死ぬわけじゃあるめェ。そんな顔するなよ」
フロンティアの治療をミンティが請け負う中、メビウスの手元には軍用興奮剤が置かれている。脳内麻薬を強制的に発生させる、下手な麻薬よりもよほど中毒性と危険性の高い劇薬である。
ジョンがメビウスに近寄ってきた頃、白い髪の少女は後ろ髪を孫娘からもらったヘアピンで止め、彼に不敵な笑みを見せる。
「戦闘準備万端って感じッスね。やっぱ弟子に獲物盗られるのは嫌なんですか?」
「当たり前だろう。わしを誰だと思っている。私は……蒼龍のメビウスだ」
やられっぱなしでは終われない。あの幼女を無力化しなければならない。いままさにメビウスたちは危害を加えられているのだから。
そんな覇気を完全に取り戻したメビウスは、興奮剤をなんの躊躇もなく心臓に打ち込む。
「って、これ腕に打つヤツッスよ? 心臓に打ち込んじゃったら後々寿命縮まっちゃう」
メビウスは、白い髪の少女は、胸に打った注射器をポケットにしまい、口調とは裏腹にニヤリと笑うジョンへ告げる。
「なにを言っておるのだ。わしはもう72歳のジジイじゃ。寿命などいまさら惜しくもないわい」
愛らしい表情のメビウスは、地面を蹴り壊すかのように天空高く舞い上がっていくのだった。
その頃、ひとつの闘いが幕を下ろしつつあった。
「どうしたよォ、エアーズ。熱出したみてーに顔色が悪りィ゙ぜ?」
「うるせェよ……。クソ野郎がァ!!」
子どもじみた口喧嘩は空中高くで起きているし、高射砲らしき物体は消えかかっている。エアーズの運命も決まりつつあるというわけだ。
「おっと、最後の賭けなんて許すと思うか?」
ルーシは一撃離脱を狙ったエアーズの読みを当て、もう息も絶え絶えのエアーズが即座の攻撃を選ばなかったことに疑念を抱くが、呼吸も苦しい空中にいれば判断を間違えてもおかしくはない。いわゆる囮でないと踏んだルーシは、エアーズへ黒い鷲の翼を発射した。
「ぐぅッ!?」
ありったけの魔力を込め、存在感の薄れていた高射砲がくっきり浮かぶ。だが、当てれば確実に相手を鎮められる大砲も、当たらなければブリキのおもちゃというものである。
「ぐうの音は出るのかい……惜しいな。私と手を組めば、この世界も掴めただろうに」
どのみち、突き刺した時点で勝ちは確定だ。ルーシはすこしエアーズを殺すことを躊躇しているが、エアーズもエアーズで放っておけば勝手に死ぬくらい傷だらけ。どうにかして配下に加えられないかと、ルーシはいわば慢心していた。
「だがまあ、オマエは頑張りやさんだ。最期のチャンスをくれてやるよ。ここで私についてくるって決めるのなら、てめェに刺した翼は再生用に使ってやろう。さあ、どうする?」
エアーズは思わず、「はッ……」と苦い笑い声をあげる。彼は続けた。
「てめェのケツ舐めながら生きるくれーなら、ここで地獄堕ちたほうがマシだ。どっちにしても死ぬんなら、断じてオマエには従わねェ!!」
「残念だよ……!!」
殺すしかない。ここまでやって心がへし折れない相手なんて、飼い切れるわけがない。飼い慣らせない仲間などクール・レイノルズだけで充分だ。
ルーシの翼が妖しく光り、エアーズはついに爆散と臨終のときを迎えていた。
が、ここでルーシは踏みとどまる。地上から、なにかが来ている。大爆発で半壊した廃工場を中心に、廃墟が広がる地上から、何者かが来ている。
──まさか、蒼龍のメビウスが……あの場面で生き残った? どうやって生き延びた? どう考えても死ぬべきだっただろ。
ルーシの喉が干からびるように乾いていく。唾液を何度も飲み込み、焦りをまったく隠せていない。
──オカシイだろうが。私は……おれは、ただこの世界のために一生懸命働いていただけなんだぞ? ……オカシイだろうがッ!!
エアーズから自身の翼を引き剥がし、落下していく彼へは目もくれない。圧倒的理不尽が直ぐ側まで迫ってきている。もう生き残れないかもしれない。ついにツキがすべてなくなってしまったのだ。落ち目の乱暴者など、誰も助けようとは思わない。
「それが……なんだって言うんだよッ!! おお、蒼龍!! しっかりトドメを刺してやるべきだったんだよなァ!!」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる