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シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる
037 ハイリスク・ハイリターンは私そのものだ
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「──ッッ!!」
「てめェの硬すぎる身体ですら銃弾が効くようになる!! なあ、オマエはあのルーシ・レイノルズと引き分けたんだよなぁ!?」
声を荒げるエアーズは、右肩を撃ち抜かれて鈍痛によって意識も朦朧としているメビウスへ追撃を仕掛けた。
「だったらリベンジ・マッチの前哨戦にァちょうど良い!! おら、へばってるんじゃねェぞォ!!」
受けた攻撃は発砲だけだというのに、メビウスの目つきは瀕死の病人みたいに碧さを失いつつある。それに加えて、エアーズは刃物のような固形物を自身の周りへ展開し、その死にかけにしか見えない白髮少女に撃ち込んだ。
「ぐはっあッ!?」
普段であれば傷口すらつかない攻撃でも、エアーズが言うようにいまのメビウスは皮膚の硬さや免疫力が弱くなっている。しかも再生が不可能と来た。この惨劇は魔術を介した未来予知をしておけば防げたはずなのに。
と、メビウスはなぜか笑う。「……下衆の後知恵だな」とつぶやいて。
「なーに笑ってるんだ? 気味悪リィ。もう意識保ってるのがやっとだろうに」
「いいや……。まだまだ足りんさ」
「ンだとゴラ!! ……。上等じゃねェか。そんなに足りねェというんなら、高射砲で仕留めてやるよ。骨のかけらも残さねェ」
刹那、メビウスは魔力を膨張させた。彼女の周りに幽霊のような現象が起き、それらは吸い込まれていく。異変に気がついたエアーズはナイフらしき物体をメビウスへ突き刺さそうと動かしたが、時すでに遅しといったところであった。
「……!? 龍娘?」
──なんだ。わしの正体を知らないのか。
「私は蒼龍のメビウスの孫娘だぞ? 龍娘になれることがおかしいか?」
「おかしいとは思わねェけどさ……。隔世遺伝ってヤツか? ──まあ、弱点自体は変わってねェからなァ!!」
「分かっているさ。ただ、突撃してくるとは冷静さを欠いているようだな」
自分から接近してくれるときほど楽な話もない。メビウスは龍娘であり、その真価は肉弾戦でこそ発揮できる。龍の爪が、腕力が、巨大化した魔力が、なにもかもが、メビウスに有利だ。
「ぐぉ!!」
メビウスは接近戦を仕掛けようと間合いを詰めてきたエアーズに炎を吐く。この紫髪の青年が先ほどやった『再生能力を奪う』に比べれば器用なことはできないが、単純な破壊力であれば息吹のほうが圧倒的に上である。
「あちィ!! あちィ!! チクショウ!!」
「案外耐久力はないのだな」
この一撃で空中浮遊ができなくなるほどに、エアーズがダメージを食らうとは思ってもなかった。人道に従ってメビウスはエアーズを助けようと彼に近づいていく。
だが、エアーズは嫌味な笑みを浮かべた。
「おお、蒼龍の孫娘さんよォ!! てめェは確かに強ェーが、同時に眠てェほどに甘いんだなァ!!」
メビウスの胴体をエアーズの出した金色の刃物らしきものが、再生能力を奪われているメビウスの、目を見開いたメビウスの身体を引き裂く。
「ぎゃあああッ!!」
「くだらねェ悲鳴挙げるンじゃねェ!!」
エアーズが高射砲と評した魔術による幻体は、あと数十秒でフルチャージされる。
身体から力が抜け、メビウスは地上へ落下していく。白目を剥き、口からはケチャップのように血が流れ出ている。
「もう放っておけば死ぬかぁ? ククッ……」
嘲笑するエアーズではあるが、炎を食らったことへのダメージも大きい。魔術による防御は当然行ったが、あれだけの火の玉を食らって全身がケロイドにならなかっただけ奇跡というわけである。
「ただ、トドメの一撃は用意してあるぜェ!? この大砲を受けたとき、オマエは身体が粉々になる! これァ一撃必殺だァ!!」
身体が熱波によって火傷し身体が痛くて仕方ないエアーズは、それでもプロレスラーのごとくメビウスを煽る。
「ンだよ……反応くらいしてくれよ。つまらねェだろうがッ!!」
その刹那。
「──先に返答しておこう。気合いだ」
「──てめェ、なんでまだ魔術なんて使えるんだよ……しかもふたつ同時に!!」
空間を引き裂きエアーズの目の前に自身を宙ぶらりんにワープさせたメビウスは、彼に抱きついてすこしずつ凍結術式を強めていく。
「凍る……? おい、離せッ!! どのみち大砲は撃つぞ!?」
「自爆を選ぶのかね……!?」
「ああ、選ぶな!! 凍死するよりはマシだ!」
パキパキ……と音を立てながらエアーズは芸術品のように凍っていく。こんなところで終わるわけにはいかないのに、あと一歩まで追い詰めたのに、いまとなれば五分五分だ。そして闘いの流れは確実にメビウスにある。
矢先、警報音が鳴り響いた。敵国が飛行術式と爆破術式を組み合わせて空爆してきた場合に流れる、市民にとって恐怖の音。メビウスにとっても重大な意味を示すメロディである。
「……。軍の介入か? いや、そんなはずはねェ」
「なぜそう言い切れるのだ?」
「オマエが消えればルーシ・レイノルズが得をする。この戦闘を宇宙方面軍だかを使って観測できた時点で、連邦国防軍に圧力かけて出動をやめさせるはずだ」
「だとすれば、なにが起きている……?」
エアーズの考察が間違っているとも思えなかったメビウスは、その青年と同じく一旦すべての行動を取りやめるのだった。
*
「これで良いのか?」
「良いらしい」
話は30分ほど前に遡る。ルーシ・レイノルズとその部下ポールモールはMIH地区に姿を現し、ある生徒を拉致して東の街へ逃亡してきた。
「にしてもでけェ女だなぁ。高校生とはいえ育ちすぎだろ」
「悪いことではないだろ。さて、最後に確認しておくぞ?」
「ああ」
ポールモールはその長身の少女に注射器を打つ。
「ぶっちゃけ、上手くいく可能性のほうが低い。成功確率は10パーセントくらいだ。失敗した場合、コイツは暴れ始める。怪獣のように、な。成功したらコイツは死んで“パクス・マギア”を起こすのに必要なラプラスっていうものを呼び寄せる。理解してるよな?」
「ハイリスク・ハイリターンは私そのものだ。やれ」
ラッキーナ・ストライクに謎の注射器が打ち込まれた。
「てめェの硬すぎる身体ですら銃弾が効くようになる!! なあ、オマエはあのルーシ・レイノルズと引き分けたんだよなぁ!?」
声を荒げるエアーズは、右肩を撃ち抜かれて鈍痛によって意識も朦朧としているメビウスへ追撃を仕掛けた。
「だったらリベンジ・マッチの前哨戦にァちょうど良い!! おら、へばってるんじゃねェぞォ!!」
受けた攻撃は発砲だけだというのに、メビウスの目つきは瀕死の病人みたいに碧さを失いつつある。それに加えて、エアーズは刃物のような固形物を自身の周りへ展開し、その死にかけにしか見えない白髮少女に撃ち込んだ。
「ぐはっあッ!?」
普段であれば傷口すらつかない攻撃でも、エアーズが言うようにいまのメビウスは皮膚の硬さや免疫力が弱くなっている。しかも再生が不可能と来た。この惨劇は魔術を介した未来予知をしておけば防げたはずなのに。
と、メビウスはなぜか笑う。「……下衆の後知恵だな」とつぶやいて。
「なーに笑ってるんだ? 気味悪リィ。もう意識保ってるのがやっとだろうに」
「いいや……。まだまだ足りんさ」
「ンだとゴラ!! ……。上等じゃねェか。そんなに足りねェというんなら、高射砲で仕留めてやるよ。骨のかけらも残さねェ」
刹那、メビウスは魔力を膨張させた。彼女の周りに幽霊のような現象が起き、それらは吸い込まれていく。異変に気がついたエアーズはナイフらしき物体をメビウスへ突き刺さそうと動かしたが、時すでに遅しといったところであった。
「……!? 龍娘?」
──なんだ。わしの正体を知らないのか。
「私は蒼龍のメビウスの孫娘だぞ? 龍娘になれることがおかしいか?」
「おかしいとは思わねェけどさ……。隔世遺伝ってヤツか? ──まあ、弱点自体は変わってねェからなァ!!」
「分かっているさ。ただ、突撃してくるとは冷静さを欠いているようだな」
自分から接近してくれるときほど楽な話もない。メビウスは龍娘であり、その真価は肉弾戦でこそ発揮できる。龍の爪が、腕力が、巨大化した魔力が、なにもかもが、メビウスに有利だ。
「ぐぉ!!」
メビウスは接近戦を仕掛けようと間合いを詰めてきたエアーズに炎を吐く。この紫髪の青年が先ほどやった『再生能力を奪う』に比べれば器用なことはできないが、単純な破壊力であれば息吹のほうが圧倒的に上である。
「あちィ!! あちィ!! チクショウ!!」
「案外耐久力はないのだな」
この一撃で空中浮遊ができなくなるほどに、エアーズがダメージを食らうとは思ってもなかった。人道に従ってメビウスはエアーズを助けようと彼に近づいていく。
だが、エアーズは嫌味な笑みを浮かべた。
「おお、蒼龍の孫娘さんよォ!! てめェは確かに強ェーが、同時に眠てェほどに甘いんだなァ!!」
メビウスの胴体をエアーズの出した金色の刃物らしきものが、再生能力を奪われているメビウスの、目を見開いたメビウスの身体を引き裂く。
「ぎゃあああッ!!」
「くだらねェ悲鳴挙げるンじゃねェ!!」
エアーズが高射砲と評した魔術による幻体は、あと数十秒でフルチャージされる。
身体から力が抜け、メビウスは地上へ落下していく。白目を剥き、口からはケチャップのように血が流れ出ている。
「もう放っておけば死ぬかぁ? ククッ……」
嘲笑するエアーズではあるが、炎を食らったことへのダメージも大きい。魔術による防御は当然行ったが、あれだけの火の玉を食らって全身がケロイドにならなかっただけ奇跡というわけである。
「ただ、トドメの一撃は用意してあるぜェ!? この大砲を受けたとき、オマエは身体が粉々になる! これァ一撃必殺だァ!!」
身体が熱波によって火傷し身体が痛くて仕方ないエアーズは、それでもプロレスラーのごとくメビウスを煽る。
「ンだよ……反応くらいしてくれよ。つまらねェだろうがッ!!」
その刹那。
「──先に返答しておこう。気合いだ」
「──てめェ、なんでまだ魔術なんて使えるんだよ……しかもふたつ同時に!!」
空間を引き裂きエアーズの目の前に自身を宙ぶらりんにワープさせたメビウスは、彼に抱きついてすこしずつ凍結術式を強めていく。
「凍る……? おい、離せッ!! どのみち大砲は撃つぞ!?」
「自爆を選ぶのかね……!?」
「ああ、選ぶな!! 凍死するよりはマシだ!」
パキパキ……と音を立てながらエアーズは芸術品のように凍っていく。こんなところで終わるわけにはいかないのに、あと一歩まで追い詰めたのに、いまとなれば五分五分だ。そして闘いの流れは確実にメビウスにある。
矢先、警報音が鳴り響いた。敵国が飛行術式と爆破術式を組み合わせて空爆してきた場合に流れる、市民にとって恐怖の音。メビウスにとっても重大な意味を示すメロディである。
「……。軍の介入か? いや、そんなはずはねェ」
「なぜそう言い切れるのだ?」
「オマエが消えればルーシ・レイノルズが得をする。この戦闘を宇宙方面軍だかを使って観測できた時点で、連邦国防軍に圧力かけて出動をやめさせるはずだ」
「だとすれば、なにが起きている……?」
エアーズの考察が間違っているとも思えなかったメビウスは、その青年と同じく一旦すべての行動を取りやめるのだった。
*
「これで良いのか?」
「良いらしい」
話は30分ほど前に遡る。ルーシ・レイノルズとその部下ポールモールはMIH地区に姿を現し、ある生徒を拉致して東の街へ逃亡してきた。
「にしてもでけェ女だなぁ。高校生とはいえ育ちすぎだろ」
「悪いことではないだろ。さて、最後に確認しておくぞ?」
「ああ」
ポールモールはその長身の少女に注射器を打つ。
「ぶっちゃけ、上手くいく可能性のほうが低い。成功確率は10パーセントくらいだ。失敗した場合、コイツは暴れ始める。怪獣のように、な。成功したらコイツは死んで“パクス・マギア”を起こすのに必要なラプラスっていうものを呼び寄せる。理解してるよな?」
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