32 / 49
シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる
032 アンタみたいな小物、あたしのお姉ちゃんにはもったいないのよ!!
しおりを挟む
モアはその言葉らが一応彼女を励ますものであることを知った。12歳から軍人をやっている祖父と、高校卒業時点でセブン・スターになったとインターネットの記事に書かれていたジョン・プレイヤーとの価値観はあまりにも乖離している。しかし言葉へは申し訳程度に気を使っているように感じた。彼らなりにモアへは立ち直ってほしいのであろう。
「……。おじいちゃん、ジョンさん。あたしのこと見捨てないでくれる?」
「いままでもこれからも君の相手をし続けるよ」
「元々見捨てた覚えがねェけどなぁ」
白い髮で青い目を持つ少女と金髪の高身長青年が共に笑う。モアはその様子を見て、たぶんきっと大丈夫だろうと自分を無理やり鼓舞させた。
「分かった。お姉ちゃん、行こうよ。ジョンさんも来る?」
「ああ。おれァ仕事だ。家族水入らずで行ってきな」
「おお。ついに私もお姉ちゃんとして復帰かね?」
「うん。行こう」
それでもいままでとはまったく違うテンション。メビウスは不安を強く覚えながら、耳鼻科へと向かうのだった。
*
「何人か候補をまとめておいた」
「さすがはポールモールだな?」
あの戦闘から一週間。メビウス側にはやや傷口が残っているものの、この幼女ルーシの皮膚はすでに再生されていた。
葉巻特有の甘い匂いが立ち込めるCEO室にて、ルーシはポールモールからの報告書をタブレットで受け取る。
「ストライク家の令嬢『ラッキーナ』。アーク・ロイヤルの弟の悪ガキ『ケーラ』。大統領閣下の息子『ミンティ』ねえ」
「それ以外にも候補はいるが、有力なのはその3人だと思うぜ?」
「それぞれの市場価値は?」
「ラッキーナ・ストライクが4億6,000万メニー。ケーラ・ロイヤルが2億5,400万メニー。んで、ミンティはまだ公示されてない」
「ならラッキーナ・ストライクを叩くのが一番良さそうだな。市場価値が出回ってくれるおかげでやりやすいぜ」
「身体中の魔力に拒絶反応起こして暴発させる薬なら、もう準備できてンだ。あとはCEO自ら被験者を捕らえてくる番だぜ?」
「分かっているさ。計画はこうだ。暴発した魔力を使って小道具を強制収集。あの道具どもには意思が宿っていると言われるほどだしな。勇者並みの魔力を感じ取ったら一斉にロスト・エンジェルスへ現れるのさ」
ルーシとポールモールが独自の計画を建てている間にも、メビウスとモアは着々と北の街にたどり着いていた。
「……。おじいちゃんに買ってもらったメガネさ、もう踏みつけられて壊されちゃったかな」
一番ひどい頃に比べれば大分顔色も良くなってきたが、依然として口調はネガティヴである。そのためメビウスはメガネのケースをコートから取り出した。
「……! これは?」
「ルーシとの戦闘が始まる前に拾ったのじゃよ。私とモアの思い出など、このぐるぐるメガネくらいしか思い浮かばなくてのう」
年寄りじみた喋り方になったメビウスを一瞥し、モアはワナワナと震える手でメガネを手に取る。
「ありがとう……。本当にありがとう」
メビウスとモアの思い出は限られてくる。どれもこれも仕事人間になって家族をないがしろにしたメビウスの所為だ。
しかし、そんなメビウスとモアにも共通の昔話があった。それをこの白い髮の少女はなくさなかったのだ。
そんなふたりの前にひとりの少年が姿を現した。
「なーに街中で笑い合ってるんだ? 気色悪リィ」
不良風の頭が悪そうな話し方に反応を示さないふたりを見て、その不良少年は躍起になっていく。
「おーい。こっちの話聞いてるか? いや、聞いてねぇな。しゃーねぇ」
どうやらメビウスとモアが平和に過ごすことは当分できないらしい。意図的に金髪彗眼の少年を無視していたわけだが、拳銃を突きつけられた時点ですべて台無しになる。
「おもちゃじゃねぇことは知ってるだろ? 契約金寄越せ。それかおれと闘え。このケーラ・ロイヤルと!!」
男性の大声で震えていないか確認するが、モアはまったく怯んでいない。むしろケーラ・ロイヤルという少年の元へ一歩ずつ進んでいった。
「も、モア?」
「あ? オマエからおれとやり合おうってわけか──!?」
モアが空中に発生させたミサイルらしきなにかが、ケーラに直撃した。パラパラパラ……という警報とともに。
メビウスは思わず口を開け、モアではなくケーラの心配をしてしまう。
「アンタみたいな小物、あたしのお姉ちゃんにはもったいないのよ!!」
瞬間、音が弾けた。大爆発の時間である。一点に集中したパワーが分散し、熱波が肌をかすめる。耳障りな轟音が響き渡る頃、メビウスはケーラの元へ向かって駆け出していた。
「ごはあッ!? はあ、はあ……。なんだってんだ? チクショウ!!」
さしものモアも手加減したようであり、胴体が引きちぎれるほどではなかった。が、好戦的な子でないだけにこの攻撃はいわば憂さ晴らしのようなものだったのであろう。
「ケーラくん。いますぐ逃げたほうが良い。モアが本気で暴れ始めたら、私でも止められるか分からない」
「あ、ああ……!!」
とはいえ、メビウスへはモアを止める方法はない。口で説得することはできても、魔術面で無理やり言うことを聞かせるのは困難である。モアに攻撃できないのはメビウスの精神的な葛藤もあるかもしれないが、一番の問題はやはりモアが使う魔術だ。
「お姉ちゃん、どいて。ソイツまだ息してる」
「息をしているだけだ。私を刺すだけの力が残っているとは思えん」
「そ、そうだ。もう闘う気はねぇ」
「ふーん……」
溜飲を下げたのか、モアは手も下げた。
ところが、ケーラが立ち去ろうとしない。こういう場面で情けをかけられた者は即座に撤収するものだが、この少年はそうしない。それになにかを言おうとしている。
「な、なぁ。妹のモアですらこんなに強ぇーんだったら、その姉のアンタはどれくらい強いんだ?」
「当然、お姉ちゃんはあたしなんかよりもっと強いよ」
「だったらおれを傘下に入れてくんねぇか!?」
「……。おじいちゃん、ジョンさん。あたしのこと見捨てないでくれる?」
「いままでもこれからも君の相手をし続けるよ」
「元々見捨てた覚えがねェけどなぁ」
白い髮で青い目を持つ少女と金髪の高身長青年が共に笑う。モアはその様子を見て、たぶんきっと大丈夫だろうと自分を無理やり鼓舞させた。
「分かった。お姉ちゃん、行こうよ。ジョンさんも来る?」
「ああ。おれァ仕事だ。家族水入らずで行ってきな」
「おお。ついに私もお姉ちゃんとして復帰かね?」
「うん。行こう」
それでもいままでとはまったく違うテンション。メビウスは不安を強く覚えながら、耳鼻科へと向かうのだった。
*
「何人か候補をまとめておいた」
「さすがはポールモールだな?」
あの戦闘から一週間。メビウス側にはやや傷口が残っているものの、この幼女ルーシの皮膚はすでに再生されていた。
葉巻特有の甘い匂いが立ち込めるCEO室にて、ルーシはポールモールからの報告書をタブレットで受け取る。
「ストライク家の令嬢『ラッキーナ』。アーク・ロイヤルの弟の悪ガキ『ケーラ』。大統領閣下の息子『ミンティ』ねえ」
「それ以外にも候補はいるが、有力なのはその3人だと思うぜ?」
「それぞれの市場価値は?」
「ラッキーナ・ストライクが4億6,000万メニー。ケーラ・ロイヤルが2億5,400万メニー。んで、ミンティはまだ公示されてない」
「ならラッキーナ・ストライクを叩くのが一番良さそうだな。市場価値が出回ってくれるおかげでやりやすいぜ」
「身体中の魔力に拒絶反応起こして暴発させる薬なら、もう準備できてンだ。あとはCEO自ら被験者を捕らえてくる番だぜ?」
「分かっているさ。計画はこうだ。暴発した魔力を使って小道具を強制収集。あの道具どもには意思が宿っていると言われるほどだしな。勇者並みの魔力を感じ取ったら一斉にロスト・エンジェルスへ現れるのさ」
ルーシとポールモールが独自の計画を建てている間にも、メビウスとモアは着々と北の街にたどり着いていた。
「……。おじいちゃんに買ってもらったメガネさ、もう踏みつけられて壊されちゃったかな」
一番ひどい頃に比べれば大分顔色も良くなってきたが、依然として口調はネガティヴである。そのためメビウスはメガネのケースをコートから取り出した。
「……! これは?」
「ルーシとの戦闘が始まる前に拾ったのじゃよ。私とモアの思い出など、このぐるぐるメガネくらいしか思い浮かばなくてのう」
年寄りじみた喋り方になったメビウスを一瞥し、モアはワナワナと震える手でメガネを手に取る。
「ありがとう……。本当にありがとう」
メビウスとモアの思い出は限られてくる。どれもこれも仕事人間になって家族をないがしろにしたメビウスの所為だ。
しかし、そんなメビウスとモアにも共通の昔話があった。それをこの白い髮の少女はなくさなかったのだ。
そんなふたりの前にひとりの少年が姿を現した。
「なーに街中で笑い合ってるんだ? 気色悪リィ」
不良風の頭が悪そうな話し方に反応を示さないふたりを見て、その不良少年は躍起になっていく。
「おーい。こっちの話聞いてるか? いや、聞いてねぇな。しゃーねぇ」
どうやらメビウスとモアが平和に過ごすことは当分できないらしい。意図的に金髪彗眼の少年を無視していたわけだが、拳銃を突きつけられた時点ですべて台無しになる。
「おもちゃじゃねぇことは知ってるだろ? 契約金寄越せ。それかおれと闘え。このケーラ・ロイヤルと!!」
男性の大声で震えていないか確認するが、モアはまったく怯んでいない。むしろケーラ・ロイヤルという少年の元へ一歩ずつ進んでいった。
「も、モア?」
「あ? オマエからおれとやり合おうってわけか──!?」
モアが空中に発生させたミサイルらしきなにかが、ケーラに直撃した。パラパラパラ……という警報とともに。
メビウスは思わず口を開け、モアではなくケーラの心配をしてしまう。
「アンタみたいな小物、あたしのお姉ちゃんにはもったいないのよ!!」
瞬間、音が弾けた。大爆発の時間である。一点に集中したパワーが分散し、熱波が肌をかすめる。耳障りな轟音が響き渡る頃、メビウスはケーラの元へ向かって駆け出していた。
「ごはあッ!? はあ、はあ……。なんだってんだ? チクショウ!!」
さしものモアも手加減したようであり、胴体が引きちぎれるほどではなかった。が、好戦的な子でないだけにこの攻撃はいわば憂さ晴らしのようなものだったのであろう。
「ケーラくん。いますぐ逃げたほうが良い。モアが本気で暴れ始めたら、私でも止められるか分からない」
「あ、ああ……!!」
とはいえ、メビウスへはモアを止める方法はない。口で説得することはできても、魔術面で無理やり言うことを聞かせるのは困難である。モアに攻撃できないのはメビウスの精神的な葛藤もあるかもしれないが、一番の問題はやはりモアが使う魔術だ。
「お姉ちゃん、どいて。ソイツまだ息してる」
「息をしているだけだ。私を刺すだけの力が残っているとは思えん」
「そ、そうだ。もう闘う気はねぇ」
「ふーん……」
溜飲を下げたのか、モアは手も下げた。
ところが、ケーラが立ち去ろうとしない。こういう場面で情けをかけられた者は即座に撤収するものだが、この少年はそうしない。それになにかを言おうとしている。
「な、なぁ。妹のモアですらこんなに強ぇーんだったら、その姉のアンタはどれくらい強いんだ?」
「当然、お姉ちゃんはあたしなんかよりもっと強いよ」
「だったらおれを傘下に入れてくんねぇか!?」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
女ハッカーのコードネームは @takashi
一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか?
その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。
守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
声楽学園日記~女体化魔法少女の僕が劣等生男子の才能を開花させ、成り上がらせたら素敵な旦那様に!~
卯月らいな
ファンタジー
魔法が歌声によって操られる世界で、男性の声は攻撃や祭事、狩猟に、女性の声は補助や回復、農業に用いられる。男女が合唱することで魔法はより強力となるため、魔法学園では入学時にペアを組む風習がある。
この物語は、エリック、エリーゼ、アキラの三人の主人公の群像劇である。
エリーゼは、新聞記者だった父が、議員のスキャンダルを暴く過程で不当に命を落とす。父の死後、エリーゼは母と共に貧困に苦しみ、社会の底辺での生活を余儀なくされる。この経験から彼女は運命を変え、父の死に関わった者への復讐を誓う。だが、直接復讐を果たす力は彼女にはない。そこで、魔法の力を最大限に引き出し、社会の頂点へと上り詰めるため、魔法学園での地位を確立する計画を立てる。
魔法学園にはエリックという才能あふれる生徒がおり、彼は入学から一週間後、同級生エリーゼの禁じられた魔法によって彼女と体が入れ替わる。この予期せぬ出来事をきっかけに、元々女声魔法の英才教育を受けていたエリックは女性として女声の魔法をマスターし、新たな男声パートナー、アキラと共に高みを目指すことを誓う。
アキラは日本から来た異世界転生者で、彼の世界には存在しなかった歌声の魔法に最初は馴染めなかったが、エリックとの多くの試練を経て、隠された音楽の才能を開花させる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる