蒼龍ノ爪痕-少女になっちゃった老将軍、高校生活楽しんだり新たな弟子育てたりする第二の人生始めるらしい-

東山統星

文字の大きさ
上 下
17 / 49
シーズン1 いざMIH(メイド・イン・ヘブン)学園へ

017 私はメイド・イン・ヘブン学園へ入るつもりだ

しおりを挟む
「……あァ? 軍用機?」

「あれはロスト・エンジェルスのものだな。我々は暴れすぎたのかもしれん」

 メビウスとクール・レイノルズは、大量のヘリが出す無数の羽根の音で一瞬正気に戻った。
 ここまでの戦況としては、若干メビウスが押している。とはいえお互い無傷。どちらが勝ってもおかしくはない。

「おれの許可も取らずに軍を介入させるとァ良い度胸してるじゃねェか……アイツら。あとで詰めねェとな」

「しかし、まだ練度の低いレーダー網に引っかかるほど魔力を使った我々にも責任はあるのでは?」

「それはそうなんですけど、ほら、大統領ってのは最高指導者として威厳がなきゃいけないんっすよ」

「威厳などあるか? そのような砕けた喋り方で」

「そりゃもちろん……!!」

 クールの身体にまとわりついていたマグマが溶け始めた。代わりに焼身自殺でもするかのごとく、彼は炎に包まれる。

「あるに決まってるじゃないですか!! おれァ天下の大統領!! 権威はこの掌にある!!」

 その炎はまるでドラゴンのように変化していく。すべてを食らい尽くす怪物だ。もはや島の半分ほどの大きさとなったクールの火は、森林をほとんどすべて焼き払ってしまった。

「覚えてますかメビウスさん!! 15年前、ロスト・エンジェルスに最強の魔術師がふたり生まれた!!」

 メビウスは冷静にドラゴンの化身となったクールの本体を見据える。超巨大な魔力が炎になっているから、生半端に突撃すれば焼け死んでしまう。

「時代の寵児になったふたりは別々の道を歩んだ!! ひとりはセブン・スターとして平和を守るという困難極まりない夢を掲げた!! そして……もうひとりは落ちぶれ鉄砲玉としてあしたの飯代を稼ぐ日々!!」

 ただ、メビウスは呼吸を整えて突撃する構えを見せる。孤島の生き物たちが灼炎に晒され、やがて死に絶えていく中、それでもなおメビウスは額に汗ひとつ垂らさない。

「しかし、落ちぶれに落ちぶれたその男は諦めがとても悪い!! そこで前代未聞の国盗りを企み……成功させた!! アンタはおれたちにこう言ったよな!? 『君たちは世界を望むように変えられる、度し難い力を持っている』と!! だからここで宣言する!! おれは世界を変えてやったぞォ!!」

「いいや、君はまだ──」

 膨大な炎の塊に、白髪の少女が単身突っ込んだ。

「──世界など掴めていないのだよ」

 空間を引き裂き、メビウスはクールの本体へあと一歩のところまで詰め寄る。

 その怪物たちの対決を間近で見ていたアーク・ロイヤルは、灼熱の中ぼやく。

「たぶん、クール大統領が勝ちました」

「え? まだ両者とも魔力が消滅していないですが?」

「すぐに大統領は魔術を解くはずなので、接近できるようにしておいてください」

 その予言どおり、クールの起こした炎のドラゴンは実体をなくした。
 アーク率いる魔術総合軍の大隊は、ハゲ山になった部分に着陸する。
 そこでアークが見たものは、奇妙な光景だった。

「やはりこの肉体では若い頃の魔力が戻っても、長期戦には耐えられんな」

「でしょ? おれそれ知ってて消耗戦選んだもん!」

 白い髪の少女と大統領が、岩に座りながら談笑していた。

「あのー……、クール大統領。この方は一体どなたですか?」

 アーク・ロイヤルによる当然の疑問は、大統領クールに笑い飛ばされた。

「ははッ! アーク、オマエが派遣されてきたンか!」

「いや、質問に答えてくださいよ。大統領の隠し子ですか?」

「だってさ。年齢教えてあげてやってくださいよ、メビウスさん!!」

 メビウス、という単語を訊いた途端にアークはぎょっとした表情になった。されどメビウスは気にすることもなく、正直に答える。

「わしは72歳じゃ。まあもっとも、見た目と年齢、性別すらも一致していないが」

 アークは目の前にいる少女の、髪色や服装から派手に見える少女の素朴な笑みに、頭を抱える。

「……。老後の過ごし方としては、なかなか刺激にあふれてそうですね」

「おいおい! アーク、すぐ信じ込むのは良くねェぞ?」

「ジョンさんにでも訊けばすぐに教えてくれるでしょ? 軍を退役なさったメビウスさんがよもやこんな姿になってることを」アークは怪訝な目でメビウスを見て、「それに……男から女になったヒトなんて、友人
 や同僚にもいますからね」

「そんなにこの国の連中は美少女になりたいのか?」

「そうでしょう。みんな疲れてるんですよ。メビウスさん」

「疲れたら生娘になりたくなるものなのかのう?」

「…………? まあ、すくなくともぼくはそう思いますよ。いろんな問題から解放されたいんでしょ」

 元々美人のオーラが漂っているメビウスであるが、時々彼女はそのオーラをも超える雰囲気を醸し出す。絶世の美女と対峙するというのは、こんな感覚なのだろうと感じるほどである。

「おれァ女になんかなりたくねェけどなぁ。男に生まれてよかったって、物心ついたときから思ってるくらいだし」

「わしだってそうだ。性別で蔑視しているわけではないが、やはりどうしても男性だった頃が恋しく感じる」

「え、メビウスさんはいつ頃少女になったんですか?」

「一週間前くらいかのう。トイレだったり、生理用品だったりと……やはり慣れないものさ」

「……? ま、まあ。この話ってジェネレーションギャップっていうものかもしれませんね。世代ごとに価値観がまったく違うから、たぶんここで話し合ってても意味ないと思います。ですので、一旦帰りましょう」

 なんでこのヒト、老人臭い喋り方すると太陽のような笑顔を浮かべるのだろう、とアーク・ロイヤルの疑念は尽きない。
 ただ、メビウスとクールはここでようやく立ち上がり、アークとともにヘリの場所に歩いていく。

「ところで、アークくん」

「はい?」

「君はMIH学園に属しているのだろう?」

「そうですよ。あまり出席できていませんが」

「わし……ああ、この見た目なら私と言うのが適切か。ともかく、これからよろしく頼むよ、先輩たち」

「は?」最初に反応したのはクールだった。

「え?」

「言っていなかったか? 私はメイド・イン・ヘブン学園へ入るつもりだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

パーフェクトアンドロイド

ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。 だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。 俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。 レアリティ学園の新入生は100名。 そのうちアンドロイドは99名。 つまり俺は、生身の人間だ。 ▶︎credit 表紙イラスト おーい

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...