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シーズン1 いざMIH(メイド・イン・ヘブン)学園へ
012 魂→72歳、男性。可愛いと評価され、奇怪な気分になる。
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白髪少女に成り果てたメビウスだが、射撃の腕前は相変わらずうまい。
銃がなくなったことを音と目で知った、最前立ち尽くしていた少女のボディーガードが男たちを取り押さえる。
「クソッ!! なんであんなガキがハンドガン持ってるんだよ!?」
疑問と憤怒が止まらないのであろう。だが気にする必要もない。メビウスは拳銃をコートの中にしまい、事情聴取のため警察を待とうとする。
だが、この姿のメビウスは自分が蒼龍のメビウスであることを証明する方法を持たない。身元不明の少女がいて、しかも拳銃を持っているとなれば、むしろ強盗よりも危険視される可能性すらある。どんな魔術を使うか分からない以上、警官の裁量で逮捕されてしまうかもしれないのだ。
「困ったなぁ……」
自分で蒔いた種とはいえ、困るものは困る。
そんな困り眉のメビウスの袖を掴む者が現れた。
「ぁ、あの……」
ずいぶん背丈が高いと感じた。たしかに自分自身の身長が縮んでいるということもあるが、それを加味しても170センチは越しているだろう。
髪色はくすんだ茶髪。ボブヘアのくせ毛。服こそ高級ブランドだが、同時に服に着られてしまっている。
「なんだ?」
「ぁ、やっぱりなんでもないです……」
「そうか」
「あ、いや、なんでもあるんです」
「なにがあるのだね?」
「お、お強いですねって」
「ああ、ありがとう」はにかんだ。
「あ、あとひとつお願いして良いですか?」
「なんだ?」
まずなにをお願いされたのか知りたいが、さほど気にせずメビウスは話を聞く。
「私と友だちになってくれませんか?」
断る理由も特段ないが、受ける理由もない。こういうとき、軍にいた若者たちならばどうしているだろうか、と考え、メビウスは返事した。
「もちろん。バンデージだ」
10センチ以上離れた少女に向けて手を差し出す。彼女はこの手の意味をすこし考えていたようだが、やがて両手でメビウスの右手を握った。彼女の手汗でメビウスの汗がべっとり付く頃、彼女は言う。
「ラッキーナ・ストライクです。よろしくお願いいたします」
ラッキーナは頭をペコリと下げた。
「ストライク……君、元王族か?」
「え、あ、そうです。私みたいな落ちこぼれが元王族なんて笑えますよね……」
「落ちこぼれだとは思わないなぁ」
「え、や、なんで?」
「ただすこし自信をなくしているだけに見える。子どもの頃からこうだったわけではないしなぁ」
メビウスは彼女を知っている。というか、いま思い出した。昔暮らしていた家の隣にストライク家があったのだ。あのときは陽気な少女だったと記憶しているが、なにかがあったらしい。
「ば、バンデージさん、わ、私のこと知ってるんですか?」
そう思われても仕方ない口振りなのは否めない。
しかしメビウスはうろたえることもなく、適当なことを言っておく。
「敬語はやめなさい。私だって敬語を使っていないだろう?」
「あ、え、あ、は……うん」
そうやって誤魔化したときだった。
「警察だァ!! クソッタレの強盗犯はどこだァ!?」
事件が起きてから3分ほど経ち、警官たちがテレポートかなにかで店内に現れた。
随分職務怠慢だな、と思いつつ、メビウスは真っ先に手を上げて拳銃を地面に投げる。
「そこにいるだろう? 大きな声を出すな。この身体だと耳が良く聴こえすぎるのだ」
「あー? ……あ。わぁぁあ」
「なぜ股間を隠すのかさっぱり分からないが、そこにいる連中は私が撃った。事情聴取なら受けるので、まずモアという高校生を連れてきてほしい──」
「えっ!? 君が撃ったの?」
「そうだが?」
すこしくらい悪びれろよ、と警官は感じたかもしれないが、今回に関しては全くの正当防衛なので問題はない。
「わ、分かった。過剰防衛にはならないはずだから、一応連行するよ?」
「ああ」
メビウスは警官との会話を終え、彼らが謎の白髪少女の護送方法を話し合っている途中、最前の少女ラッキーナの元へ向かう。
「すまないね。しばらく警察署のお世話になる。連絡先だけでも交換しておこうか?」
「ぇ、あ、は……うん!」
メビウスとラッキーナは携帯電話を取り出す。
こうして見ると、モアが渡してきたスマートフォンはなかなか骨董品のようだ。こちらのものには実体があるのに対し、ラッキーナのスマホの大半は現実として存在すらしていない。画面と本体がホログラムでできている、いわゆるスマートウォッチの形式だからだ。
「日進月歩じゃのう……」
ボソリとつぶやいた独り言は、ひとりの少女の心を射止める。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
表情はいまにも爆発しそうなほど、赤くなっていた。
なぜかは分からないが、ラッキーナは手で縦の長方形のジェスチャーをした。
「しゃ、写真撮って良いでしゅか!?」
「なら一緒に撮ろう。いまはセルフィーが流行りだと言うしな」
「え、あ、あい!」
ラッキーナはメビウスと顔をくっつける。頬の温度は熱いほどだった。
メビウスは苦笑いして、「緊張することもないだろう」と言う。
「き、緊張もしますよっ!! あんなに可愛い女の子始めて見たもん……」
魂→72歳、男性。可愛いと評価され、奇怪な気分になる。しかも、女の子として。
「……。モアやフロンティアくんだけが例外だと思っていたが」
「お友だちですか?」
「妹とその友だちだよ。それより、自撮りするのなら急いだほうが良いぞ? 連絡先も交換しなくてはならないしな」
「そ、そうです……そうだね! すぐ画面つくるね!!」
目まぐるしく表情が変わるものの、基本的には無理した笑顔だ。これでは『フォトジュニック』とやらで『バズらない』のでは? と思ったメビウスは、ラッキーナに提言した。
「もうすこし自然に笑ったほうが良いと思うぞ」
「あ……だったらさ……さっきの表情見せて」
メビウスは若干咳込み、とびっきりの笑顔を見せてやろうと老人臭い喋り方をした。
「どうじゃ?」
そして、彼女は笑ってくれた。
ラッキーナの笑顔は、メビウスの亡き妻バンデージにそっくりだった。
銃がなくなったことを音と目で知った、最前立ち尽くしていた少女のボディーガードが男たちを取り押さえる。
「クソッ!! なんであんなガキがハンドガン持ってるんだよ!?」
疑問と憤怒が止まらないのであろう。だが気にする必要もない。メビウスは拳銃をコートの中にしまい、事情聴取のため警察を待とうとする。
だが、この姿のメビウスは自分が蒼龍のメビウスであることを証明する方法を持たない。身元不明の少女がいて、しかも拳銃を持っているとなれば、むしろ強盗よりも危険視される可能性すらある。どんな魔術を使うか分からない以上、警官の裁量で逮捕されてしまうかもしれないのだ。
「困ったなぁ……」
自分で蒔いた種とはいえ、困るものは困る。
そんな困り眉のメビウスの袖を掴む者が現れた。
「ぁ、あの……」
ずいぶん背丈が高いと感じた。たしかに自分自身の身長が縮んでいるということもあるが、それを加味しても170センチは越しているだろう。
髪色はくすんだ茶髪。ボブヘアのくせ毛。服こそ高級ブランドだが、同時に服に着られてしまっている。
「なんだ?」
「ぁ、やっぱりなんでもないです……」
「そうか」
「あ、いや、なんでもあるんです」
「なにがあるのだね?」
「お、お強いですねって」
「ああ、ありがとう」はにかんだ。
「あ、あとひとつお願いして良いですか?」
「なんだ?」
まずなにをお願いされたのか知りたいが、さほど気にせずメビウスは話を聞く。
「私と友だちになってくれませんか?」
断る理由も特段ないが、受ける理由もない。こういうとき、軍にいた若者たちならばどうしているだろうか、と考え、メビウスは返事した。
「もちろん。バンデージだ」
10センチ以上離れた少女に向けて手を差し出す。彼女はこの手の意味をすこし考えていたようだが、やがて両手でメビウスの右手を握った。彼女の手汗でメビウスの汗がべっとり付く頃、彼女は言う。
「ラッキーナ・ストライクです。よろしくお願いいたします」
ラッキーナは頭をペコリと下げた。
「ストライク……君、元王族か?」
「え、あ、そうです。私みたいな落ちこぼれが元王族なんて笑えますよね……」
「落ちこぼれだとは思わないなぁ」
「え、や、なんで?」
「ただすこし自信をなくしているだけに見える。子どもの頃からこうだったわけではないしなぁ」
メビウスは彼女を知っている。というか、いま思い出した。昔暮らしていた家の隣にストライク家があったのだ。あのときは陽気な少女だったと記憶しているが、なにかがあったらしい。
「ば、バンデージさん、わ、私のこと知ってるんですか?」
そう思われても仕方ない口振りなのは否めない。
しかしメビウスはうろたえることもなく、適当なことを言っておく。
「敬語はやめなさい。私だって敬語を使っていないだろう?」
「あ、え、あ、は……うん」
そうやって誤魔化したときだった。
「警察だァ!! クソッタレの強盗犯はどこだァ!?」
事件が起きてから3分ほど経ち、警官たちがテレポートかなにかで店内に現れた。
随分職務怠慢だな、と思いつつ、メビウスは真っ先に手を上げて拳銃を地面に投げる。
「そこにいるだろう? 大きな声を出すな。この身体だと耳が良く聴こえすぎるのだ」
「あー? ……あ。わぁぁあ」
「なぜ股間を隠すのかさっぱり分からないが、そこにいる連中は私が撃った。事情聴取なら受けるので、まずモアという高校生を連れてきてほしい──」
「えっ!? 君が撃ったの?」
「そうだが?」
すこしくらい悪びれろよ、と警官は感じたかもしれないが、今回に関しては全くの正当防衛なので問題はない。
「わ、分かった。過剰防衛にはならないはずだから、一応連行するよ?」
「ああ」
メビウスは警官との会話を終え、彼らが謎の白髪少女の護送方法を話し合っている途中、最前の少女ラッキーナの元へ向かう。
「すまないね。しばらく警察署のお世話になる。連絡先だけでも交換しておこうか?」
「ぇ、あ、は……うん!」
メビウスとラッキーナは携帯電話を取り出す。
こうして見ると、モアが渡してきたスマートフォンはなかなか骨董品のようだ。こちらのものには実体があるのに対し、ラッキーナのスマホの大半は現実として存在すらしていない。画面と本体がホログラムでできている、いわゆるスマートウォッチの形式だからだ。
「日進月歩じゃのう……」
ボソリとつぶやいた独り言は、ひとりの少女の心を射止める。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
表情はいまにも爆発しそうなほど、赤くなっていた。
なぜかは分からないが、ラッキーナは手で縦の長方形のジェスチャーをした。
「しゃ、写真撮って良いでしゅか!?」
「なら一緒に撮ろう。いまはセルフィーが流行りだと言うしな」
「え、あ、あい!」
ラッキーナはメビウスと顔をくっつける。頬の温度は熱いほどだった。
メビウスは苦笑いして、「緊張することもないだろう」と言う。
「き、緊張もしますよっ!! あんなに可愛い女の子始めて見たもん……」
魂→72歳、男性。可愛いと評価され、奇怪な気分になる。しかも、女の子として。
「……。モアやフロンティアくんだけが例外だと思っていたが」
「お友だちですか?」
「妹とその友だちだよ。それより、自撮りするのなら急いだほうが良いぞ? 連絡先も交換しなくてはならないしな」
「そ、そうです……そうだね! すぐ画面つくるね!!」
目まぐるしく表情が変わるものの、基本的には無理した笑顔だ。これでは『フォトジュニック』とやらで『バズらない』のでは? と思ったメビウスは、ラッキーナに提言した。
「もうすこし自然に笑ったほうが良いと思うぞ」
「あ……だったらさ……さっきの表情見せて」
メビウスは若干咳込み、とびっきりの笑顔を見せてやろうと老人臭い喋り方をした。
「どうじゃ?」
そして、彼女は笑ってくれた。
ラッキーナの笑顔は、メビウスの亡き妻バンデージにそっくりだった。
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