12 / 49
シーズン1 いざMIH(メイド・イン・ヘブン)学園へ
012 魂→72歳、男性。可愛いと評価され、奇怪な気分になる。
しおりを挟む
白髪少女に成り果てたメビウスだが、射撃の腕前は相変わらずうまい。
銃がなくなったことを音と目で知った、最前立ち尽くしていた少女のボディーガードが男たちを取り押さえる。
「クソッ!! なんであんなガキがハンドガン持ってるんだよ!?」
疑問と憤怒が止まらないのであろう。だが気にする必要もない。メビウスは拳銃をコートの中にしまい、事情聴取のため警察を待とうとする。
だが、この姿のメビウスは自分が蒼龍のメビウスであることを証明する方法を持たない。身元不明の少女がいて、しかも拳銃を持っているとなれば、むしろ強盗よりも危険視される可能性すらある。どんな魔術を使うか分からない以上、警官の裁量で逮捕されてしまうかもしれないのだ。
「困ったなぁ……」
自分で蒔いた種とはいえ、困るものは困る。
そんな困り眉のメビウスの袖を掴む者が現れた。
「ぁ、あの……」
ずいぶん背丈が高いと感じた。たしかに自分自身の身長が縮んでいるということもあるが、それを加味しても170センチは越しているだろう。
髪色はくすんだ茶髪。ボブヘアのくせ毛。服こそ高級ブランドだが、同時に服に着られてしまっている。
「なんだ?」
「ぁ、やっぱりなんでもないです……」
「そうか」
「あ、いや、なんでもあるんです」
「なにがあるのだね?」
「お、お強いですねって」
「ああ、ありがとう」はにかんだ。
「あ、あとひとつお願いして良いですか?」
「なんだ?」
まずなにをお願いされたのか知りたいが、さほど気にせずメビウスは話を聞く。
「私と友だちになってくれませんか?」
断る理由も特段ないが、受ける理由もない。こういうとき、軍にいた若者たちならばどうしているだろうか、と考え、メビウスは返事した。
「もちろん。バンデージだ」
10センチ以上離れた少女に向けて手を差し出す。彼女はこの手の意味をすこし考えていたようだが、やがて両手でメビウスの右手を握った。彼女の手汗でメビウスの汗がべっとり付く頃、彼女は言う。
「ラッキーナ・ストライクです。よろしくお願いいたします」
ラッキーナは頭をペコリと下げた。
「ストライク……君、元王族か?」
「え、あ、そうです。私みたいな落ちこぼれが元王族なんて笑えますよね……」
「落ちこぼれだとは思わないなぁ」
「え、や、なんで?」
「ただすこし自信をなくしているだけに見える。子どもの頃からこうだったわけではないしなぁ」
メビウスは彼女を知っている。というか、いま思い出した。昔暮らしていた家の隣にストライク家があったのだ。あのときは陽気な少女だったと記憶しているが、なにかがあったらしい。
「ば、バンデージさん、わ、私のこと知ってるんですか?」
そう思われても仕方ない口振りなのは否めない。
しかしメビウスはうろたえることもなく、適当なことを言っておく。
「敬語はやめなさい。私だって敬語を使っていないだろう?」
「あ、え、あ、は……うん」
そうやって誤魔化したときだった。
「警察だァ!! クソッタレの強盗犯はどこだァ!?」
事件が起きてから3分ほど経ち、警官たちがテレポートかなにかで店内に現れた。
随分職務怠慢だな、と思いつつ、メビウスは真っ先に手を上げて拳銃を地面に投げる。
「そこにいるだろう? 大きな声を出すな。この身体だと耳が良く聴こえすぎるのだ」
「あー? ……あ。わぁぁあ」
「なぜ股間を隠すのかさっぱり分からないが、そこにいる連中は私が撃った。事情聴取なら受けるので、まずモアという高校生を連れてきてほしい──」
「えっ!? 君が撃ったの?」
「そうだが?」
すこしくらい悪びれろよ、と警官は感じたかもしれないが、今回に関しては全くの正当防衛なので問題はない。
「わ、分かった。過剰防衛にはならないはずだから、一応連行するよ?」
「ああ」
メビウスは警官との会話を終え、彼らが謎の白髪少女の護送方法を話し合っている途中、最前の少女ラッキーナの元へ向かう。
「すまないね。しばらく警察署のお世話になる。連絡先だけでも交換しておこうか?」
「ぇ、あ、は……うん!」
メビウスとラッキーナは携帯電話を取り出す。
こうして見ると、モアが渡してきたスマートフォンはなかなか骨董品のようだ。こちらのものには実体があるのに対し、ラッキーナのスマホの大半は現実として存在すらしていない。画面と本体がホログラムでできている、いわゆるスマートウォッチの形式だからだ。
「日進月歩じゃのう……」
ボソリとつぶやいた独り言は、ひとりの少女の心を射止める。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
表情はいまにも爆発しそうなほど、赤くなっていた。
なぜかは分からないが、ラッキーナは手で縦の長方形のジェスチャーをした。
「しゃ、写真撮って良いでしゅか!?」
「なら一緒に撮ろう。いまはセルフィーが流行りだと言うしな」
「え、あ、あい!」
ラッキーナはメビウスと顔をくっつける。頬の温度は熱いほどだった。
メビウスは苦笑いして、「緊張することもないだろう」と言う。
「き、緊張もしますよっ!! あんなに可愛い女の子始めて見たもん……」
魂→72歳、男性。可愛いと評価され、奇怪な気分になる。しかも、女の子として。
「……。モアやフロンティアくんだけが例外だと思っていたが」
「お友だちですか?」
「妹とその友だちだよ。それより、自撮りするのなら急いだほうが良いぞ? 連絡先も交換しなくてはならないしな」
「そ、そうです……そうだね! すぐ画面つくるね!!」
目まぐるしく表情が変わるものの、基本的には無理した笑顔だ。これでは『フォトジュニック』とやらで『バズらない』のでは? と思ったメビウスは、ラッキーナに提言した。
「もうすこし自然に笑ったほうが良いと思うぞ」
「あ……だったらさ……さっきの表情見せて」
メビウスは若干咳込み、とびっきりの笑顔を見せてやろうと老人臭い喋り方をした。
「どうじゃ?」
そして、彼女は笑ってくれた。
ラッキーナの笑顔は、メビウスの亡き妻バンデージにそっくりだった。
銃がなくなったことを音と目で知った、最前立ち尽くしていた少女のボディーガードが男たちを取り押さえる。
「クソッ!! なんであんなガキがハンドガン持ってるんだよ!?」
疑問と憤怒が止まらないのであろう。だが気にする必要もない。メビウスは拳銃をコートの中にしまい、事情聴取のため警察を待とうとする。
だが、この姿のメビウスは自分が蒼龍のメビウスであることを証明する方法を持たない。身元不明の少女がいて、しかも拳銃を持っているとなれば、むしろ強盗よりも危険視される可能性すらある。どんな魔術を使うか分からない以上、警官の裁量で逮捕されてしまうかもしれないのだ。
「困ったなぁ……」
自分で蒔いた種とはいえ、困るものは困る。
そんな困り眉のメビウスの袖を掴む者が現れた。
「ぁ、あの……」
ずいぶん背丈が高いと感じた。たしかに自分自身の身長が縮んでいるということもあるが、それを加味しても170センチは越しているだろう。
髪色はくすんだ茶髪。ボブヘアのくせ毛。服こそ高級ブランドだが、同時に服に着られてしまっている。
「なんだ?」
「ぁ、やっぱりなんでもないです……」
「そうか」
「あ、いや、なんでもあるんです」
「なにがあるのだね?」
「お、お強いですねって」
「ああ、ありがとう」はにかんだ。
「あ、あとひとつお願いして良いですか?」
「なんだ?」
まずなにをお願いされたのか知りたいが、さほど気にせずメビウスは話を聞く。
「私と友だちになってくれませんか?」
断る理由も特段ないが、受ける理由もない。こういうとき、軍にいた若者たちならばどうしているだろうか、と考え、メビウスは返事した。
「もちろん。バンデージだ」
10センチ以上離れた少女に向けて手を差し出す。彼女はこの手の意味をすこし考えていたようだが、やがて両手でメビウスの右手を握った。彼女の手汗でメビウスの汗がべっとり付く頃、彼女は言う。
「ラッキーナ・ストライクです。よろしくお願いいたします」
ラッキーナは頭をペコリと下げた。
「ストライク……君、元王族か?」
「え、あ、そうです。私みたいな落ちこぼれが元王族なんて笑えますよね……」
「落ちこぼれだとは思わないなぁ」
「え、や、なんで?」
「ただすこし自信をなくしているだけに見える。子どもの頃からこうだったわけではないしなぁ」
メビウスは彼女を知っている。というか、いま思い出した。昔暮らしていた家の隣にストライク家があったのだ。あのときは陽気な少女だったと記憶しているが、なにかがあったらしい。
「ば、バンデージさん、わ、私のこと知ってるんですか?」
そう思われても仕方ない口振りなのは否めない。
しかしメビウスはうろたえることもなく、適当なことを言っておく。
「敬語はやめなさい。私だって敬語を使っていないだろう?」
「あ、え、あ、は……うん」
そうやって誤魔化したときだった。
「警察だァ!! クソッタレの強盗犯はどこだァ!?」
事件が起きてから3分ほど経ち、警官たちがテレポートかなにかで店内に現れた。
随分職務怠慢だな、と思いつつ、メビウスは真っ先に手を上げて拳銃を地面に投げる。
「そこにいるだろう? 大きな声を出すな。この身体だと耳が良く聴こえすぎるのだ」
「あー? ……あ。わぁぁあ」
「なぜ股間を隠すのかさっぱり分からないが、そこにいる連中は私が撃った。事情聴取なら受けるので、まずモアという高校生を連れてきてほしい──」
「えっ!? 君が撃ったの?」
「そうだが?」
すこしくらい悪びれろよ、と警官は感じたかもしれないが、今回に関しては全くの正当防衛なので問題はない。
「わ、分かった。過剰防衛にはならないはずだから、一応連行するよ?」
「ああ」
メビウスは警官との会話を終え、彼らが謎の白髪少女の護送方法を話し合っている途中、最前の少女ラッキーナの元へ向かう。
「すまないね。しばらく警察署のお世話になる。連絡先だけでも交換しておこうか?」
「ぇ、あ、は……うん!」
メビウスとラッキーナは携帯電話を取り出す。
こうして見ると、モアが渡してきたスマートフォンはなかなか骨董品のようだ。こちらのものには実体があるのに対し、ラッキーナのスマホの大半は現実として存在すらしていない。画面と本体がホログラムでできている、いわゆるスマートウォッチの形式だからだ。
「日進月歩じゃのう……」
ボソリとつぶやいた独り言は、ひとりの少女の心を射止める。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
表情はいまにも爆発しそうなほど、赤くなっていた。
なぜかは分からないが、ラッキーナは手で縦の長方形のジェスチャーをした。
「しゃ、写真撮って良いでしゅか!?」
「なら一緒に撮ろう。いまはセルフィーが流行りだと言うしな」
「え、あ、あい!」
ラッキーナはメビウスと顔をくっつける。頬の温度は熱いほどだった。
メビウスは苦笑いして、「緊張することもないだろう」と言う。
「き、緊張もしますよっ!! あんなに可愛い女の子始めて見たもん……」
魂→72歳、男性。可愛いと評価され、奇怪な気分になる。しかも、女の子として。
「……。モアやフロンティアくんだけが例外だと思っていたが」
「お友だちですか?」
「妹とその友だちだよ。それより、自撮りするのなら急いだほうが良いぞ? 連絡先も交換しなくてはならないしな」
「そ、そうです……そうだね! すぐ画面つくるね!!」
目まぐるしく表情が変わるものの、基本的には無理した笑顔だ。これでは『フォトジュニック』とやらで『バズらない』のでは? と思ったメビウスは、ラッキーナに提言した。
「もうすこし自然に笑ったほうが良いと思うぞ」
「あ……だったらさ……さっきの表情見せて」
メビウスは若干咳込み、とびっきりの笑顔を見せてやろうと老人臭い喋り方をした。
「どうじゃ?」
そして、彼女は笑ってくれた。
ラッキーナの笑顔は、メビウスの亡き妻バンデージにそっくりだった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
琥珀と二人の怪獣王 二大怪獣北海道の激闘
なべのすけ
SF
海底の奥深くに眠っている、巨大怪獣が目覚め、中国海軍の原子力潜水艦を襲撃する大事件が勃発する!
自衛隊が潜水艦を捜索に行くと、巨大怪獣が現れ攻撃を受けて全滅する大事件が起こった!そんな最中に、好みも性格も全く対照的な幼馴染、宝田秀人と五島蘭の二人は学校にあった琥珀を調べていると、光出し、琥珀の中に封印されていた、もう一体の巨大怪獣に変身してしまう。自分達が人間であることを、理解してもらおうとするが、自衛隊から攻撃を受け、更に他の怪獣からも攻撃を受けてしまい、なし崩し的に戦う事になってしまう!
襲い掛かる怪獣の魔の手に、祖国を守ろうとする自衛隊の戦力、三つ巴の戦いが起こる中、蘭と秀人の二人は平和な生活を取り戻し、人間の姿に戻る事が出来るのか?
(注意)
この作品は2021年2月から同年3月31日まで連載した、「琥珀色の怪獣王」のリブートとなっております。
「琥珀色の怪獣王」はリブート版公開に伴い公開を停止しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる