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シーズン2 小卒が高校生に!?-A Kind of Mgaic-

P11 馬鹿を馬鹿にする愚行

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 魔力がなければヒトは身体を動かせない。それが条理というものだ。
 だから彼らは、意識を保ったまま動けないカカシと化した。

「さて……。じっくり行こうか」

 工場の階層はそう多くないはずだ。そもそも表立ってできないことを行っているのだから、階層を増やしたところで意味がない。そんなことをするのならば、工場の数を増やしてリスク軽減に務めるはずだからだ。

「……おっと」

 ラークは殺気を覚えた。それを感じ取ったころには、ラークは回避のために上へ飛んでいるし、その奇妙な紫色の光線は工場すらも破壊している。

「やはり手慣れは残してあるか」

 ラークはさっぱり動じない。囮にすべて扇動されるような無能の集まりであれば、『若返り薬』なんて酔狂なものを管理できるはずもない。
 しかし感じ取れる魔力はひとつだけだ。純度の高い悪意と殺意だけである。

「一体なんの用だ? ガキが社会見学に来たんなら、粗相が過ぎるぜ」
「これでも25歳なもので」
「なら面接か? よし、返答しよう」

 魔力の膨張が起こる。ラークは避ける道をあらかじめ考えておく。

「答えは損害賠償だ。内蔵で償え、クソガキ」

 肉が焦げる匂いがした。
 瞬発的に放たれたその光線は、へたり込んで動けなくなっていた作業員まで巻き込んで暴発した。いや、ある意味狙いどおりに進んでいった。
 だが、ラークに攻撃は当たらなかった。どれほど優れた弾丸も当たらなければ意味がない。どんな球技でも同じことだろう。
 そんな様子を見たラークは、ゲラゲラと彼を指差し笑いながら、

「おいおい!! おめェはバカをバカにしているのか!? 一直線に進むだけのビームになんの意味があるんだい!? ある意味スポーツじゃ役立つかもしれんがな!!」

 ラークの学習能力は高い。
 スウィングのような理不尽と闘ったあとだから、こんな使い勝手が悪い能力の交わし方なんて、朝飯を食べる前にでも思いつく。魔力の流し方だって大したものとは感じない。

「……ッ」男は奥歯を噛んだ。
「ミクの言っていた意味がよくわかる。ガキさらって集団売春だ? 憎悪を集める割にはみのりが少ねェ仕事をよく思いつくものだ。私が突っ込まなくても、オマエら勝手に滅びていたよ。大物ぶりやがって」
「……だったらオマエに攻撃ができんのかよッ!!」

 もはや凡庸なロバにしか過ぎない男は、滅裂な言葉を続けていく。

「ああ知ってるさ!! 悪魔の片鱗だろ!? それも数万人にひとりの逸材だ!! だがな!! それが勝敗を決すると思うなよッ!?」

 ラークは目を閉じ小さな笑みをこぼす。

「どこまでもだせェな」

 蒼い光が輝く。
 ラークの本質は速度だ。

「さあ、終わらせようか!! 小物くん!!」

 そして速度は重さだ。魔力の流れを操るのが悪魔の片鱗の本質であれば、それを他人に向ければ完成へと近づくのだ。
 そのとき、勝負はついた。骨すら粉々にする速さが男の身体にのしかかった。

「さて……」

 感情が荒ぶったラークは、決着がつけば無意味となる悪感情を取り除くためにタバコへ火をつけ、『若返り薬』を探す。ラークがこうして幼女になったのだから、それが存在することにいささかの疑問も感じない。

「おっ、あった。あのうまそうなりんごだ」

 かつかつ、と高い音を上げながら工場内を物色し、ラークはついに因縁の果物を見つける。

「思えばこれの所為でさんざんな目にあった。メスガキへ生まれ変わり、ありもしねェ才能に嫉妬され殺されかけ、妹をかたるヤツにストーカーされていたのがわかって……クソみてェな人生だ。チクショウ」

 昔を思い返しても良いことはなかった。これからも良いことはないのだろう。覚悟を決めたほうが良さそうだ。
 ラークはジョニーとミクの通信機に周波数をつなげる。

「おい、見つかったぞ。撤収だ」
『本当にあったのかよ。驚きだ』
『あたしの情報に間違いはない。でも、姿かたちまでは確定情報じゃなかったろ? なんでわかったんだ?』
「これ食って、こんな目にあったからだ」

 あっさり正体を暴露する。非常に簡素で、大した意味もない世間話でもするかのようだった。

『……は?』ふたりそろって同じ反応だ。
「ハラ減っていたんだよ。デザート感覚で食ったらこのザマだ。あのときと同じヤツだから、オマエらもたぶんガキに戻れるだろ。ガキに戻れたらしてェことはたくさんあるだろーから、今のうちに腹積もり決めておけ」
『あ、ああ……』
『ま、まあ。子どもに戻れたら子どもと一緒にいても犯罪性ないからな』
「ともかく。ジョニー、こちらへ来てくれ。一〇個以上あるもので、運びきれん」

 ジョニーがどこからともなく現れた。ラークと彼は拳をあわせる。

「じゃあ、ドンって何歳なんだ?」
「25歳だ」
「年上じゃねェか。おれ年上の女の人好きなんだよな」

 よくよく考えてみれば、性別が変わるということは言っていなかった。だがこのまま子どもに戻ることだけ知らせておいて、なぜか性別まで変わって大パニックになるのを眺めるのも一興だろう。

「まあ、私は同性愛者みてーなものだが」
「それはなんとなくわかる。ドンって女っぽい雰囲気がしねェからな」
「女っぽい雰囲気?」
「立ちふるまいがあるだろ? あの男性ホルモン過剰なミクでも、やっぱ同年代の若けェ女子なんだなって思うときあるし。まあ、言葉で説明するのは難しいけど、なんかドンって女っぽくないんだよ」

 やはり見た目が変わっただけで中身は成人男性である。ジョニーはラークの振る舞いを見てきているから、それがわかるのだろう。

「へェ。まあ良いや。さっさと運ぶ──」

 ジョニーは思い切りが良い。この見た目のラークについていくのを即座に決めるほどだ。
 そんな男が、いちいち物事を待つわけがない。ラークが目を細めたころには、ジョニーの姿は變化へんげし始めていた。
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