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シーズン2 小卒が高校生に!?-A Kind of Mgaic-
P8 おれの始めた物語
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「なにはともあれ、家へ帰ろう」
*
さほど広くない家。あしたまでに家賃を払えなければ追い出されるため、出ていくことがすでに決まっているような自宅。回りっぱなしの換気扇。殺風景な家電。
「相変わらずなんにーもない」
「もうストーカーするなよ? オマエ多分、思い込んだら一直線なんだから」
「ストーカーじゃないもん」
「ならなんなんだよ」
「熱心なファンってところ?」
どちらにしても犯罪である。子どものような屁理屈……いや、ラキナは子どもだ。ただアルビノな子どもでしかない。
「しかし、アルビノってところに嫌味を感じるな」
「なんで?」
「おれもそうだったから」
ラークはこうなる前、白い肌に白い髪、赤い目をもったアルビノであった。見た目で舐められないようにと筋肉をつけて刺青も入れた。なお、刺青は現在も残っている。
「なにかやらしい考えを感じるぜ。たちの悪い、嫌がらせみてーな」
「そりゃラキナは、ラークの遺伝子でできてるんだもん」
「……は?」
「冷蔵庫もからっぽ~」
引っかかるどころの騒ぎではないことを口にした。
ラークに子どもはいない。いないはずだが……。
「ちょっと待て。おれの遺伝子でできているだと?」
「気づかなかったの?」
「気づくもなにもないだろ! ──オマエは、おれのなんなんだ?」
「父であり、母でもある存在?」
まさしく支離滅裂だった。父であり母である? まったくもって意味が分からない。あえてわかりづらいようにしていると疑いたくなるほどだ。
「ほら、なに固まってるのさ? ラーク」
「……昔、遺伝子を差し出せば借金を全部肩代わりするってヤツが現れたことがある。おれの遺伝子なんて、クソの役にも立たないと差し出したが……そういうことかよ」
とどのつまり、この少女は紛れもない『妹』だ。巨大な電算機が無機とラークの遺伝子から生み出したなにか。さしずめ『ヒューマノイド』といったところだろうか。
「そういうことだよ」
こうなってくるとラキナの行動すべてが無機質なものだと感じられる。この少女は虚無から生まれた人間もどき。人間のモノマネをしているだけで、所詮もどきはもどきなのだ。
「だからラキナの面倒を見る義務があるでしょ? ラークには」
「そりゃ……そうだな」
「これは、すべてラークが初めたことなんだから」
「おれが……初めたこと」
「ラキナを愛してよ。無視しないでよ。いつだってヒトはラキナを存在しないように扱う」
考えてみると、ラキナはずっと無表情だった。喋り方も抑揚があまり効いておらず、話している内容を鑑みれば、どこか感情がこもっていないようだった。
それは今も一緒だ。されど、伝わってくるものが違う。
「ラキナは、この愚かで愛しい世界の列記とした住民だよ。ラークはわかってくれるよね? 大好きなお兄ちゃん」
病的な目をしっかり見据えて、ラークは答える。
「……はッ。当たり前だろ。おれを誰だと思っていやがる?」
強がりなのか、裏打ちのある宣言なのか。
それはラークにしか分からない。
酒に負けて、轢かれたカエルのようになりながら寝ている幼女がいた。
「ああ……。酒分解する部分も、子どもになっているのか」
動けない。動くつもりもない。至って普通な日常だ。
ラークはもぞもぞと髪をかきむしる。女性の髪が長くないといけないなんて前時代的だと感じながら、同時にシャワーを浴びていないことへの免罪符になるわけでもないことを知り、いつ追い出されるか分からない自宅のシャワールームへ向かう。
「やあ。ラーク」
当然のように12~3歳の少女が自宅の風呂へ入っているのだから、ラークも変な人生を過ごしているものだ。
アルビノの少女に陰毛はなかった。というか、体毛なんて皆無だった。
「照れないの?」
「わざと見せてきたのか……。オマエ、どうかしているよ」
「どうも」
どんな光景かは想像に任すとして、ひとまずラークがシャワーを浴びられないのは確定である。
仕方がないので、ラークは紙巻きタバコに火をつけて、再び酒をあおることにする。
「……あ?」
ほぼ裸な格好で誰かを出迎えたくないものだ。現在、ラークは幼女だからなおさらに。
そんなわけでインターホンに合わせてラークは服を着る。よくよく考えてみると、これはラキナの服だが、気にすることもない。
「ドン。携帯の位置情報アプリでこっち来たぜ」
「ジョニーか」
見た目10歳の幼女を『ドン』と呼ぶ背丈の高い青年ジョニーは、ある意味素敵な脳内を持っているのだろう。きっと遊園地のようにキラキラしているに違いない。
「あたしもな。作戦会議だろ?」
愉快な仲間がもうひとり。ミクだ。アジア系の美人だが……体臭が気になる。空気清浄機がすこし騒がしくなるくらいに。
「作戦か。作戦」
そんなものはない、と端的に伝えたくなるが、そう告げられないのが辛いところだ。
現状、ラークたちには頭脳がない。手足があって武器まで持っているが、それをどこへ運ぶかを決める脳みそが足りないのだ。ジョニーやミクに妙案があるとも思えないし、ラークも同様である。
「ドンの部屋なんもねェ。テレビすらねェのかよ」
「テレビなんて高いもの買えないさ。こっちは金がないんだ」
「テレビくらいあたしが買ってやるよ。でも、そういうことじゃないんだろ?」
「なんだよ、ミク。気前良いな」
「オマエのことは嫌いだけど、オマエの顔立ちは大好きだ。胸に顔うずめて良いんなら、たいていのモンは買ってやるぞ?」
「ロリコンかよ……。しかも同性愛だし」ラークは若干距離を置く。
「幼い命はすべてを救うんだぞ? エロい思いなんてねえ。ただすべてをゆるしてもらいたいだけだ」
そんな性癖を聞いたあと、隣に座ろうなんて思う人間がいるのならば見てみたいものだ。ラークはミクから1番離れた場所に座り、スカートを抑える。
「さて……脳みそが腐り果てて食べごろのお二方。仲良くなれたのかい?」
「水と油は同居できんぜ、ドン」
「油はオマエのほうだけどな」
「うるせェ、ワキガ」
「あ?」
*
さほど広くない家。あしたまでに家賃を払えなければ追い出されるため、出ていくことがすでに決まっているような自宅。回りっぱなしの換気扇。殺風景な家電。
「相変わらずなんにーもない」
「もうストーカーするなよ? オマエ多分、思い込んだら一直線なんだから」
「ストーカーじゃないもん」
「ならなんなんだよ」
「熱心なファンってところ?」
どちらにしても犯罪である。子どものような屁理屈……いや、ラキナは子どもだ。ただアルビノな子どもでしかない。
「しかし、アルビノってところに嫌味を感じるな」
「なんで?」
「おれもそうだったから」
ラークはこうなる前、白い肌に白い髪、赤い目をもったアルビノであった。見た目で舐められないようにと筋肉をつけて刺青も入れた。なお、刺青は現在も残っている。
「なにかやらしい考えを感じるぜ。たちの悪い、嫌がらせみてーな」
「そりゃラキナは、ラークの遺伝子でできてるんだもん」
「……は?」
「冷蔵庫もからっぽ~」
引っかかるどころの騒ぎではないことを口にした。
ラークに子どもはいない。いないはずだが……。
「ちょっと待て。おれの遺伝子でできているだと?」
「気づかなかったの?」
「気づくもなにもないだろ! ──オマエは、おれのなんなんだ?」
「父であり、母でもある存在?」
まさしく支離滅裂だった。父であり母である? まったくもって意味が分からない。あえてわかりづらいようにしていると疑いたくなるほどだ。
「ほら、なに固まってるのさ? ラーク」
「……昔、遺伝子を差し出せば借金を全部肩代わりするってヤツが現れたことがある。おれの遺伝子なんて、クソの役にも立たないと差し出したが……そういうことかよ」
とどのつまり、この少女は紛れもない『妹』だ。巨大な電算機が無機とラークの遺伝子から生み出したなにか。さしずめ『ヒューマノイド』といったところだろうか。
「そういうことだよ」
こうなってくるとラキナの行動すべてが無機質なものだと感じられる。この少女は虚無から生まれた人間もどき。人間のモノマネをしているだけで、所詮もどきはもどきなのだ。
「だからラキナの面倒を見る義務があるでしょ? ラークには」
「そりゃ……そうだな」
「これは、すべてラークが初めたことなんだから」
「おれが……初めたこと」
「ラキナを愛してよ。無視しないでよ。いつだってヒトはラキナを存在しないように扱う」
考えてみると、ラキナはずっと無表情だった。喋り方も抑揚があまり効いておらず、話している内容を鑑みれば、どこか感情がこもっていないようだった。
それは今も一緒だ。されど、伝わってくるものが違う。
「ラキナは、この愚かで愛しい世界の列記とした住民だよ。ラークはわかってくれるよね? 大好きなお兄ちゃん」
病的な目をしっかり見据えて、ラークは答える。
「……はッ。当たり前だろ。おれを誰だと思っていやがる?」
強がりなのか、裏打ちのある宣言なのか。
それはラークにしか分からない。
酒に負けて、轢かれたカエルのようになりながら寝ている幼女がいた。
「ああ……。酒分解する部分も、子どもになっているのか」
動けない。動くつもりもない。至って普通な日常だ。
ラークはもぞもぞと髪をかきむしる。女性の髪が長くないといけないなんて前時代的だと感じながら、同時にシャワーを浴びていないことへの免罪符になるわけでもないことを知り、いつ追い出されるか分からない自宅のシャワールームへ向かう。
「やあ。ラーク」
当然のように12~3歳の少女が自宅の風呂へ入っているのだから、ラークも変な人生を過ごしているものだ。
アルビノの少女に陰毛はなかった。というか、体毛なんて皆無だった。
「照れないの?」
「わざと見せてきたのか……。オマエ、どうかしているよ」
「どうも」
どんな光景かは想像に任すとして、ひとまずラークがシャワーを浴びられないのは確定である。
仕方がないので、ラークは紙巻きタバコに火をつけて、再び酒をあおることにする。
「……あ?」
ほぼ裸な格好で誰かを出迎えたくないものだ。現在、ラークは幼女だからなおさらに。
そんなわけでインターホンに合わせてラークは服を着る。よくよく考えてみると、これはラキナの服だが、気にすることもない。
「ドン。携帯の位置情報アプリでこっち来たぜ」
「ジョニーか」
見た目10歳の幼女を『ドン』と呼ぶ背丈の高い青年ジョニーは、ある意味素敵な脳内を持っているのだろう。きっと遊園地のようにキラキラしているに違いない。
「あたしもな。作戦会議だろ?」
愉快な仲間がもうひとり。ミクだ。アジア系の美人だが……体臭が気になる。空気清浄機がすこし騒がしくなるくらいに。
「作戦か。作戦」
そんなものはない、と端的に伝えたくなるが、そう告げられないのが辛いところだ。
現状、ラークたちには頭脳がない。手足があって武器まで持っているが、それをどこへ運ぶかを決める脳みそが足りないのだ。ジョニーやミクに妙案があるとも思えないし、ラークも同様である。
「ドンの部屋なんもねェ。テレビすらねェのかよ」
「テレビなんて高いもの買えないさ。こっちは金がないんだ」
「テレビくらいあたしが買ってやるよ。でも、そういうことじゃないんだろ?」
「なんだよ、ミク。気前良いな」
「オマエのことは嫌いだけど、オマエの顔立ちは大好きだ。胸に顔うずめて良いんなら、たいていのモンは買ってやるぞ?」
「ロリコンかよ……。しかも同性愛だし」ラークは若干距離を置く。
「幼い命はすべてを救うんだぞ? エロい思いなんてねえ。ただすべてをゆるしてもらいたいだけだ」
そんな性癖を聞いたあと、隣に座ろうなんて思う人間がいるのならば見てみたいものだ。ラークはミクから1番離れた場所に座り、スカートを抑える。
「さて……脳みそが腐り果てて食べごろのお二方。仲良くなれたのかい?」
「水と油は同居できんぜ、ドン」
「油はオマエのほうだけどな」
「うるせェ、ワキガ」
「あ?」
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