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シーズン1 さあ、始めようぜ。馬鹿騒ぎ-Dragon Attack-

P4 女は悦ばせてなんぼ

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「それで? これからどうするよ、ドン」
「オマエはメスガキに、『ドン』とか言って悲しくならねェの?」

 マフィアの頭領をドンと呼ぶらしい。ロスト・エンジェルスにはあふれかえるほどマフィアがいるため、この単語も日常的に使われている。

「あんな片鱗見せられりゃ、夢見がちな男の子は辛れェぜ」
「男の子って年齢でもないだろ。年齢は?」
「24歳だけど?」

 年下かよ、とラークは内心驚く。
 そして他人に年齢を聞いておきながら、自分の歳をさらさないのも変だ。しかしこの見た目で25歳は無理しかない。どうしたものか。

「ドンはいくつなんだ?」
「あー、レディーに年齢聴くのは失礼だぞ?」

 とりあえずそう返しておこう。

 ジョニーはニコニコしながら「そうか」と返事する。

「さて、コイツをどうするよ」

 ミクの処遇を決めなければならない。妙に男性ホルモンが多そうな見た目と顔つきをした、しかし女性らしい体型をした女の運命を。

「味方に引き入れる。戦力としちゃ上等だ」
「強ェヤツほど、味方へ入れるのは難しいんだぜ?」
「上にいきたいのなら、それくらいクリアしないとな」
「ドンにはアイデアがあると?」
「ねェ。……私が全知全能に見えるのかよ?」

 今だって1人称を間違えそうになったのだから、所詮ラークはチンピラに毛が生えた程度の存在だ。

「だが、絶対に引き入れる。女は悦ばせてなんぼだ。ジョニー、オマエって顔立ち良いよな?」
「嫌だよ、こんなヤツとヤるの。猿相手にシコってるほうがマシだ」
「そんなに抱きたくないか? コイツのこと」
「ムスコが引きちぎられそうだ。どうせ処女だしな」
「誰が処女だって?」

 ミクはむくりと立ち上がった。タフな人間である。
 茶髪、巨乳、スタイル良好。
 ここまでは良いのだが、肝心なのは目つきと……体臭だ。

「誰のことだろうな」ジョニーはしらばっくれる。
「このガキのことか? いや、10歳くらいのガキが処女なんて当たり前だろ。ロスト・エンジェルスも幼女に娼婦させるほど落ちぶれちゃいねえはずだ」

 間違ってはいないが、不思議な気分になる。“処女だが童貞ではない幼女”とはどういった立ち位置なのだろうか。

「連邦政府のお偉方は10歳児抱いてるだろ。アイツら、内心移民を見下してるからな。透けて見えるぜ。なにが夢の世界だ」
「移民だと? なら見下されて当然だな」
「あ? んだとワキガ」
「あ? やンのか、三下?」
「おい、なんで喧嘩になるんだ? オマエら、もうすこし理性ってものを持てよ」

 子ども(中身25歳だが)に説教されるのだから、いよいよこの国も落ちぶれたのだろう。『ロスト・エンジェルスを再び偉大に』というスローガンの保守勢力が議席を伸ばしている程度には、この国もガタガタなのだ。

「あ? てめえは関係ねえだろ」
「負け犬がよく吠えるのは事実らしいな」

 その刹那には拳銃を向かい合わせているのだから、ラークの気苦労は絶えない。

「落ち着けっての!! オマエら無法者か!?」
「「ならコイツを殺して終いだ!!」」

 馬が合って羨ましい限りだ。つい先ほど交戦していたとは思えない息の合いようは、これから役に立つかもしれない。

「仲良しなのはよくわかったから、まずは仕事するぞ」
「仕事、だあ?」
「ああ、オマエはきょうからバウンティ・ハンターだ。表社会で思う存分暴れられるぞ?」
「肩書きが変わっても、蛮族は蛮族だろ」

 ミクの態度に、ジョニーが悪態をつく。

「そうだな。ちょっと高等に名乗っても中身がこれだもんな?」

 前途多難だが、同時にこのふたりを抑えておくことは重要だ。ようやく運が上向いてきたのだ。
 そう思い、ラークは携帯電話を見る。他国では携帯電話どころか電話という概念が出来上がったばかりというのだから不思議な話である。

「金がねェとなにもできねェ。そんなことくらいわかっているはずだ。銃弾一発買うのだって金が必要なんだぞ?」
「わかったよ、ドン。おれはアンタに従う。コイツは知らねェけど」
「あぁ? なんで、てめえに出し抜かれなきゃならねえんだ。アタシも同意するぜ?」

 ジョニーの思惑に乗せられていることには、気づいていないようだ。ひょっとしたら、ミクは天然なヤツなのかもしれない。

「そりゃよかった。さて、あしたの飯と服代、家賃を稼ぐぞ」

 ひとまず大きなヤマを狙うことはやめておいたほうが良い。連携が取れるかどうかの確認をしてからでないと、しくじる可能性のほうが高い。

「よし、ひとり頭30,000メニーの仕事だ。反政府運動をしているテロリストどもらしい。高貴な話だな?」
「殴って壊せるんなら、誰かがとっくにやってるだろうさ」
「だな。ロスト・エンジェルスを舐めちゃいけねえ」

 確認がとれたので、ラークは目的地へ向かおうとするが、ここで致命的な欠陥に気がつく。
 この3人、全員情報屋ではない。賞金首の顔はわかっても、どこへいるのかを割り出せなければ意味をなさないのだ。

「どうした? 浮かない顔して」
「……なあ。私たちは脳筋集団だよな」
「今更だろ。アタシの子分どももバカばっかだぜ?」
「ならどうやって居場所を割り出す?」
「しらみつぶしにやってくしかないだろ」
「時は金って言うが、金を出し惜しむんなら、時を消費するのも覚悟しとかなきゃならねえよ」

 そんな悠長に過ごせるほど金を持っていない。一〇メニー札2枚とすこしの小銭。なお、自宅の家賃は滞納しきっているため、あしたまでに支払えないと追い出される可能性が出てくる。
 性別と年齢がすり替わった今、余計に金は必要だ。

「どうしたものか……」

 所詮クビになるようなヤツだから、妙案など浮かぶわけがない。落ちこぼれはそう簡単に変われないのだ。

「──殺気ッ!? 伏せろ!!」

 そんなとき、だった。

 殺意の高い魔力が急接近してきていた。人間が醸し出して良いものなのか疑問に思うほど、明確な殺人の意思を持った魔力の荒ぶりようであった。
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