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シーズン1 さあ、始めようぜ。馬鹿騒ぎ-Dragon Attack-
P2 ヒトの統治する場所に、ヒトの心を期待するな
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ラークは頭をかしげる。なぜこの男がラークに懇願するのだろうか。10歳の幼女にすがるほどに落ちぶれていたのだろうか。
「……あ? オマエ、なに言っているんだ?」
「悪魔の片鱗を教えてやる。そうすりゃ、オマエとおれで成功できるはずだ。まさかロスト・エンジェルスに片鱗すらしらねェヤツがいるとも思ってなかった。小学校で習う分野だぞ?」
「小学校中退なもので」
金がないため、ラークはのんびり学校へ通うこともできなかった。10歳にはすでに2回捕まっていた人生だったから、ラークに一般教養を期待するほうが酷だ。
「まず、片鱗は魔力の流れを集中させることで発動できる。まあ、魔力が血液に混じってるのか、身体にまとわりついてるかは分からねェが」
「どっちでも良いだろ」
聞いてきた割には興味がなさそうだ。男は若干呆れ気味に続ける。
「んで、さっきのは魔力を腕に流したことで起きた。バカとハサミと魔力は使い物だな?」
「魔力を腕へ流す? そんな器用なことできるヤツそうはいないだろ」
「オマエさんはできてるだろ。自覚してねェのか?」
「まったく自覚がねェ」
「愉快なメスガキだ。せっかく美人さんも台無しになっちまうくらい強ェー片鱗使えるんだから」
ラークはかわいいというより美人だ。あどけない顔つきすらも包み込むように、ラークは小柄な女優のような見た目の少女だ。また、声変わりもしているため、案外見た目では年齢が推し量れないかもしれない。
「ともかく、オマエさんは絶対に成功する。博打は早く打つに限るし、おれはオマエさんについていくよ」
当人の自覚しないところで味方ができたらしい。
されど、ラークは苦虫でも噛み潰したように、なぜ先ほどの攻撃を潰せたのか考えている。
「下手くそな博打だ。勝てる見込みが1パーセントもねェんだから」
「いいや、勝つよ」
「なんでだよ」
「この国の本質と痛いほどマッチングしてるからな」
「魔術と技術の国、ロスト・エンジェルス連邦共和国。本質は暴力ってわけだ」
暴力こそロスト・エンジェルスの国是だ。人口たった750万人の狭苦しい島国が、この乱世を涼しい顔しながら乗り越えられたのは、紛れもなく暴力のおかげである。
「まあ、ふたりで嵐は起こせないな」
ラークは男に向けてそう言い放つ。
数は正義を証明する。この男がどの程度の実力者なのかは知らないが、きっとラークより強くない。ならばいったいなにを巻き起こせるというのだろうか。
「とりあえず、連絡先交換しておこう」
「携帯電話は便利だな。他の国へもあるのかね?」
「ねェだろ。一度もこの国から出たことないから知らんけど」
この技術の国は他国の200年先を進むという。
そしてこの国は奇妙な国家だ。
「来る者は一切拒まず、去ることは決してかなわない。ロスト・エンジェルスは被差別民の集合体だが、その中でも劣等は生まれる。悲しいこった」
「人間が統治する場所に、人間の心を期待したらダメだろ」
「名前は?」
「ジョニーだ」
「お……私はラーク」
この見た目で1人称「おれ」はすこし変だ。咄嗟に1人称を女性的なものに変えてみる。
「というか、ガキのくせに貴族みてーな喋り方だよな。崩れるときは下品だが、普通にしゃべるとこれ以上ねェくれー流暢なブリタニカ語だ」
「ああ、まあ。話し方くらい丁寧なほうが良いだろ? 血なまぐさい喧嘩ばかりやるんだから。だいたい、この国の言語おかしいんだよ。ガリア語とブリタニカ語、ルーシ語とゲルマニア語、はてにはアジア系の連中まで集まって造語症起こしているんだから」
ロスト・エンジェルスは多民族国家であるため、公用語が年々増えていく。最初はブリタニカ語とガリア語だったのが、最近ではエウロパ大陸の大国の言語はすべて公用語とされている。だというのに、国民の9割以上はブリタニカ語を話しているつもりらしい。
「文化が根付いて良いことじゃねェか」
「そりゃ、独立して100年も経っていない国だからな。つい100年前には通貨の概念すらなかったんだぜ? この島。今じゃクレジットカードで買い物できるってのに」
「技術者の異世界人でも受け入れてるのかもな。連邦政府ならやりかりねェだろ?」
「それもそうだな……」
携帯の画面はさほど大きいわけではない。平均的なサイズだ。それでも画面を動かすのに苦戦してしまう。指が届かないのだ。
そんな苦戦を乗り越え、ラークはジョニーと連絡先を交換し合った。
「どうせなら、美人が良かったよ」
「ああ、美人ならいるぞ。性格に難ありだが」
そのときには目の色が変わっていた。ラークは同性愛者なのだろうか。
「良いねェ。実力はどれくらいよ?」
「おれよか弱ェ」
「ならダメじゃねェか」
「おいおい。こう見えても結構実力者だぜ? おれは」
「こんなところで酒浴びているヤツが実力者なら、この国は滅びてしかるべきだ」
辛辣極まりない。ジョニーは余裕ありげに笑みを浮かべる。
「ま、手駒がほしいのも事実だ。あしたの飯へ辿り着くためにな。その女はどこへいる?」
「手、握れ」
ゴツゴツした手を差し出してきた。
突拍子のなさにラークは怪訝になるが、ひとまず手をぱんっ、と握った。
「おお」
「空間移動術式だ。おれの生命線ともいえる」
あながち『実力者』なのは間違っていないようだ。
ラークはそう評価を改め、美人を探し始める。
どこかの街の裏路地だ。小汚い場所である。注射器や吸い殻、空き瓶がそこらへんに転がっていることからも、明らかだ。
「つか、ここどこよ?」
「ソイツの縄張りだよ」
「ああ、なるほど…………はァ?」
「ソイツは自らの暴力性のみで成り上がってきた。部下は暴力で従わせ、裏社会じゃちょっと名のしれてる女だ。不足はねェだろ?」
「ああ、ないが……」
ラークはなぜか魔力の流れを察知できるようになっていた。魔力があるところにヒトと仮定し、その総計は数にして30人。おそらく男女混同だ。
「てめェら、なにしにきやがった!! ここがどこの誰のシマだと知って来たんだ!?」
「そうだ!! ミクさんの邪魔立てするヤツらは、私たちが片付ける!!」
ラークは、背中合わせになっているジョニーへ言う。
「ジョニー。コイツら全員賞金首か?」
「そうだな」
「話が早ェ」
「……あ? オマエ、なに言っているんだ?」
「悪魔の片鱗を教えてやる。そうすりゃ、オマエとおれで成功できるはずだ。まさかロスト・エンジェルスに片鱗すらしらねェヤツがいるとも思ってなかった。小学校で習う分野だぞ?」
「小学校中退なもので」
金がないため、ラークはのんびり学校へ通うこともできなかった。10歳にはすでに2回捕まっていた人生だったから、ラークに一般教養を期待するほうが酷だ。
「まず、片鱗は魔力の流れを集中させることで発動できる。まあ、魔力が血液に混じってるのか、身体にまとわりついてるかは分からねェが」
「どっちでも良いだろ」
聞いてきた割には興味がなさそうだ。男は若干呆れ気味に続ける。
「んで、さっきのは魔力を腕に流したことで起きた。バカとハサミと魔力は使い物だな?」
「魔力を腕へ流す? そんな器用なことできるヤツそうはいないだろ」
「オマエさんはできてるだろ。自覚してねェのか?」
「まったく自覚がねェ」
「愉快なメスガキだ。せっかく美人さんも台無しになっちまうくらい強ェー片鱗使えるんだから」
ラークはかわいいというより美人だ。あどけない顔つきすらも包み込むように、ラークは小柄な女優のような見た目の少女だ。また、声変わりもしているため、案外見た目では年齢が推し量れないかもしれない。
「ともかく、オマエさんは絶対に成功する。博打は早く打つに限るし、おれはオマエさんについていくよ」
当人の自覚しないところで味方ができたらしい。
されど、ラークは苦虫でも噛み潰したように、なぜ先ほどの攻撃を潰せたのか考えている。
「下手くそな博打だ。勝てる見込みが1パーセントもねェんだから」
「いいや、勝つよ」
「なんでだよ」
「この国の本質と痛いほどマッチングしてるからな」
「魔術と技術の国、ロスト・エンジェルス連邦共和国。本質は暴力ってわけだ」
暴力こそロスト・エンジェルスの国是だ。人口たった750万人の狭苦しい島国が、この乱世を涼しい顔しながら乗り越えられたのは、紛れもなく暴力のおかげである。
「まあ、ふたりで嵐は起こせないな」
ラークは男に向けてそう言い放つ。
数は正義を証明する。この男がどの程度の実力者なのかは知らないが、きっとラークより強くない。ならばいったいなにを巻き起こせるというのだろうか。
「とりあえず、連絡先交換しておこう」
「携帯電話は便利だな。他の国へもあるのかね?」
「ねェだろ。一度もこの国から出たことないから知らんけど」
この技術の国は他国の200年先を進むという。
そしてこの国は奇妙な国家だ。
「来る者は一切拒まず、去ることは決してかなわない。ロスト・エンジェルスは被差別民の集合体だが、その中でも劣等は生まれる。悲しいこった」
「人間が統治する場所に、人間の心を期待したらダメだろ」
「名前は?」
「ジョニーだ」
「お……私はラーク」
この見た目で1人称「おれ」はすこし変だ。咄嗟に1人称を女性的なものに変えてみる。
「というか、ガキのくせに貴族みてーな喋り方だよな。崩れるときは下品だが、普通にしゃべるとこれ以上ねェくれー流暢なブリタニカ語だ」
「ああ、まあ。話し方くらい丁寧なほうが良いだろ? 血なまぐさい喧嘩ばかりやるんだから。だいたい、この国の言語おかしいんだよ。ガリア語とブリタニカ語、ルーシ語とゲルマニア語、はてにはアジア系の連中まで集まって造語症起こしているんだから」
ロスト・エンジェルスは多民族国家であるため、公用語が年々増えていく。最初はブリタニカ語とガリア語だったのが、最近ではエウロパ大陸の大国の言語はすべて公用語とされている。だというのに、国民の9割以上はブリタニカ語を話しているつもりらしい。
「文化が根付いて良いことじゃねェか」
「そりゃ、独立して100年も経っていない国だからな。つい100年前には通貨の概念すらなかったんだぜ? この島。今じゃクレジットカードで買い物できるってのに」
「技術者の異世界人でも受け入れてるのかもな。連邦政府ならやりかりねェだろ?」
「それもそうだな……」
携帯の画面はさほど大きいわけではない。平均的なサイズだ。それでも画面を動かすのに苦戦してしまう。指が届かないのだ。
そんな苦戦を乗り越え、ラークはジョニーと連絡先を交換し合った。
「どうせなら、美人が良かったよ」
「ああ、美人ならいるぞ。性格に難ありだが」
そのときには目の色が変わっていた。ラークは同性愛者なのだろうか。
「良いねェ。実力はどれくらいよ?」
「おれよか弱ェ」
「ならダメじゃねェか」
「おいおい。こう見えても結構実力者だぜ? おれは」
「こんなところで酒浴びているヤツが実力者なら、この国は滅びてしかるべきだ」
辛辣極まりない。ジョニーは余裕ありげに笑みを浮かべる。
「ま、手駒がほしいのも事実だ。あしたの飯へ辿り着くためにな。その女はどこへいる?」
「手、握れ」
ゴツゴツした手を差し出してきた。
突拍子のなさにラークは怪訝になるが、ひとまず手をぱんっ、と握った。
「おお」
「空間移動術式だ。おれの生命線ともいえる」
あながち『実力者』なのは間違っていないようだ。
ラークはそう評価を改め、美人を探し始める。
どこかの街の裏路地だ。小汚い場所である。注射器や吸い殻、空き瓶がそこらへんに転がっていることからも、明らかだ。
「つか、ここどこよ?」
「ソイツの縄張りだよ」
「ああ、なるほど…………はァ?」
「ソイツは自らの暴力性のみで成り上がってきた。部下は暴力で従わせ、裏社会じゃちょっと名のしれてる女だ。不足はねェだろ?」
「ああ、ないが……」
ラークはなぜか魔力の流れを察知できるようになっていた。魔力があるところにヒトと仮定し、その総計は数にして30人。おそらく男女混同だ。
「てめェら、なにしにきやがった!! ここがどこの誰のシマだと知って来たんだ!?」
「そうだ!! ミクさんの邪魔立てするヤツらは、私たちが片付ける!!」
ラークは、背中合わせになっているジョニーへ言う。
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