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シーズン1 さあ、始めようぜ。馬鹿騒ぎ-Dragon Attack-

P1 知らないことは罪じゃない

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 ついに追い出されてしまった。少しばかり落ち込むべきだろうが、いかんせん追放されたことすら些事になるほどの面倒事が降り掛かってきているので、当面復讐はできない。

「いやー、とても良い天気だ」

 ラークは菩薩のように優しげな表情で、開き直っていた。空は澄み渡り、太陽が燦々と輝いている。そんな天気を見ていると、追い出されたことなんてどうでもよくなるほどだ。

「あの光玉の中には神様でもいるんでしょうかね~。……いるんだったら一発ぶん殴らせろ!! なにが悲しくて女のガキにならなきゃいけないんだ!!」

 でも、現実は変わらない。
 追い出される。飯が食えない。廃棄弁当が今の稼ぎ。デザート感覚で食べたりんごが、ラークをメス落ちさせたらしい。
 結果、中身25歳男性、見た目10歳少女が無事完成した。

「えひゃあああああ!! もう笑うしかないさ!! あぎゃひゃはははあは!!」

 泣いているのと差異があるのかは分からないが、ラークにできそうなことってそれくらいだった。薬物依存者にとりつかれたかのような笑い声が、余計にラークを傷つける。

「ぎゃあははははははははははははあ!! ……あ?」

 泣き笑いしていたら、身体の変化に気が付いた。180センチの身長が150センチにも満たなくなったがゆえに起きた変化ではない。この身体になってからすでに3日経過しているので、ある程度小さすぎる手にもなれているはずだ。拳銃の安全装置すら外すのに一苦労するほどの筋力の弱体化へもなれていたはずなのに、なにか違和感を覚える。

「……生理か? いや、だったらもっとだるいはずだ。知らねェけど」

 所詮中身は男性だから、生理の知識などないに等しい。実際体験しないと分からない感触、この世界には溢れきっているのだから。

「しかも妙に体調が良い。この身体になってからどっかしら痛かったが、きょうは雲でもつかめそうなくらい快調だ。ねェ……」

 分からないところが分からないのだから、いよいよ迷路から抜け出せない。ラークは自分を落ち着かせるためにタバコを咥える。火をつけて、喉に迫ってくる煙に咳き込んで、まずさのあまり捨ててしまった。

「つか、この見た目じゃ年齢確認されるよな。なんでこの国、喫煙と飲酒に厳しいんだよ。大陸じゃ、年齢確認って概念自体が存在しないんだぞ? ああ、チクショウ。貧乏に殺される」

 ラークには金がない。失業保険が降りないからだ。また、失業保険という概念もこの島国にしか存在しないという。エウロパ大陸の人たちはどうやって生きているのか不思議になる。まさか雇用保険がないのだろうか。

「仕事探さねェとな……。けど、無能が故に組織から追い出されたヤツに、できる仕事なんてあるのかよ。バウンティ・ハンター以外できねェぞ、おれは」

 賞金稼ぎで生きながらえてきたラークができることは、やはりバウンティ・ハンターしかない。しかしラークは一度この業界をクビになった身だ。そんな者を雇う人間はいないし、独立して生きていくのなら、身体中に張り付いた無能の印象を取っ払わないといけない。
 ここまで考え、ラークは思わず間抜けな声を出してしまった。

「おれ、今幼女じゃん」

 怪我の功名とでも表せば良いのだろうか。
 ラークは幼女だ。
 名前も中性的かつありふれていて、かつての男らしくごつごつした身体も顔もない。
 使えるものならば使うべきだ。

「そう考えると、人生悪いことばかりじゃねェな。問題は魔術が使えるかどうかだ」

 生命線の九割を担う「魔術」。それが弱いがゆえに追放されたラークが、それでもすがろうなんてふざけた話だが。正直現状より愚弄されることは考えづらい。

「話は早ェみてーだ。底辺から大化けしてやらねェとな」

 あしたのパンを掴むのがどれだけ大変か。奮発してゴムのように噛み砕けないステーキ程度の人間だから、あと失うものといえば命くらいである。

「まずは味方集めだな」

 ラークがラークであると主張してきても、旧友たちは頷いてくれないだろう。こんな愛らしい顔をした少女が、あのラークなわけがないと。

「よし、職業安定所へレッツアンドゴー」

 *

 何者にも選ばれなかった悲しきモンスターたちが、昼間から酒を浴びて自分の人生の空虚さをごまかすための場所。それが職業安定所ことギルトだ。
 ラークはなんら遠慮せず、暗く薄汚いカウンター席に座った。

「嬢ちゃん。ここはガキの来るところじゃねェぜ?」
「みんなガキみてーなモンだろ。負け犬同士傷を舐め合うのを、『大人』とは言わないんだぞ?」
「そう思うなら勝手にしろ。おれは一切責任とらねェし、嬢ちゃんに酒を差し出すつもりもねェ」

 無愛想のままマスターは皿洗いを初めてしまった。
 ラークはあたりを見渡す。

「雑魚しかいないな」

 曲りなりにも一線級で闘い続けたラークは、こんなところで安っぽい自己嫌悪に浸る連中を嫌悪している。こっちはクビになった挙げ句幼女へもなったのに。

「雑魚しかいねェ? 心外だな」

 地獄耳な男がどこからかラークの隣へ座った

「事実を言ってなにが悪い。オマエらはならず者だろ? 雇い主がいないから工業アルコールを飲むしかない」
「辛辣だな。可愛げのねェガキだ」
「かわいいと思われたいわけではないのでね」

 男は手を広げ、疑問符を頭の上に展開したあと、近くにあった瓶でラークを殴ろうとした。
 そのとき、
 咄嗟に繰り出したラークの小さな腕が、瓶を壊した。

「……可愛げがねェうえに、魔術の腕も高けェのかよ」

 男は思わず固唾を飲んだ。瓶を手に振れさせるだけで壊したのだから、この少女はまともではないと。

「ああ、そうかもな」

 退屈気な表情だった。遠くを見据え、興味がないように。
 もっとも、狙ったわけではない。不意打ちされそうになったから、脊髄反射的に虫を取っ払うような動作をしてしまった。ここで避けられないのがラークの限界である。

「つか……こんな強力な悪魔の片鱗使えるヤツが、なんでこんなところにいるんだよ」
「……は? 悪魔の片鱗?」
「知らねェことねェだろ」
「悪いが、知らん。なにも知らないから戦力外になったんだしな」

 男の動物的な勘が働く。この少女についていけば必ずなり上がれると。
 ならば、対決するなど論外だ。
 男はニヤリと余裕たっぷりな笑みを浮かべる。

「知らねェことは罪じゃねェ。知ろうとしねェことが罪だ。どうだ? おれを引き上げてくれねェか?」
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