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認可

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 これは僕が変わった世界に生まれた……そんなお話です。



 はじめまして麻生 明あそう あきらといいます。突然ではありますがまず最初に……僕には前世というものがあります。しかしそれは今回僕が生まれた今世とはまた違った世界の記憶です。
 なぜそう思ったのか、それはどこか前世程に発展した今世には魔法というものが存在したからです。
 その魔法というのが女性のみにしか使えないという制限があることが残念ですがこれが前世と今世の生まれた世界が違うと僕が思った原因です。

 僕がこの世に生を受けてから20年。それなりに平凡に生きてきました。しかし前世でも平凡に生きていた僕としては今世は平凡ではない生き方をしたいと思ってしまいました。

 だから僕はある代行業をはじめます。それは恋人代行業です。恋人代行業とはもてない女性のためにお金をもらって期間限定で男性が付き合ってあげる・・・という職種です。
 なぜこんな職種が存在するのかというと、今世は男性の出生率が女性に比べて極端に低く男性が少ないことと僕から見て美人が多い・・・・・・・・・・ということが原因です。

 美人が多いのにそんな職種があるのが不思議ですか? それはあくまでもその美人が僕から見て……ということです。
 どうやら今世の美人観は僕とは真逆のところにあるようで、今世の美人観というのはお腹が出ていて胸は小さいかもしくはお腹と同じ程度の大きさで、背はそれほどなくて足は短く太いほうがいいとされています。

 顔は一重で睫毛がないかかなり短いこと、そして眉が太い、鼻がつぶれている。など、僕からすれば生理的に無理! といった感じです。
 まあ結局恋人代行所にやってくるもてない女性というのは僕からすればなかなかの美人ということで自分の実益を兼ねて恋人代行業をはじめようと考えたわけです。

 そしてただの恋人代行業ではまだまだ平凡だと思い大魔法使い専用の恋人代行所を考え付きました。
 大魔法使いとは前世で言う男が30まで童貞だったら魔法使いになると言ったそれを今世だと女が30まで処女だったら大魔法使いにしただけ……ではなく、今世では本当に女が30まで処女だったら大魔法使いになるのだ。

 そして大抵、大魔法使いになるのは絶世のブス……前世なら絶世の美女といえるような人間なのです。
 この世界で大魔法使いになるような女はどんなブス専の男でも生理的に受け付けないらしくライバルも少ないと考えられ案外大魔法使い専用の恋人代行所は僕の天職ではないかと思ったほどです。

 そして今日が政府に代行業をすることを認可してもらう試験日なのです。



 ピンッと、張り詰めたとある試験が行われる部屋の中に二人の女性がいる。もしも前世の記憶を持つ明がいたのならメガネを掛けいかにも才媛といった感じのぴったりしたスーツを着こなしたメリハリのある美しい肢体をした美女と、顔面岩もかくやという顔の豚が直立歩行したような……がいると思ったことだろう。

 メガネの女は用意された資料を貪る様に読んでおり、それを隣の豚が……失礼、隣の豚のような女性が微笑ましそうに見つめる。

「舞、この資料は本当なのよね。ドッキリとかじゃない?」
「そんなわけないじゃない。私も驚いてるけど資料に書かれていることは本当よ。炎華」

 資料に関してメガネをかけた美女、炎華が隣の豚である舞に疑いの目を向けるが舞は肩をすくめうざ……仕方ないというような顔をして肩をすくめる。

「そっか……」
「炎華。大丈夫?」
「あー、うん。なんというか現実感が沸かなくて……今なら死んでもいい。あっ、でもやっぱりデートしてから……」
「はいはい、ちょっと落ち着く」

 炎華は気の抜けたように脱力する。本当に現実感が沸かずに茫然自失といった感じでそんな炎華の肩をうざい顔を継続させたまま舞がぽんぽんと叩く。

「いや、でもこんな可愛い子が本当に私たちみたいなのを相手にするの?」
「だからその試験のために今日があるんでしょ」

 資料の写真を指差して炎華が不安そうに舞に尋ねると舞はそういってまたもうざい顔で肩をすくめる。炎華の指差している写真に写っているのは明だった。そう、ここは明が代行業を認可してもらうための試験会場である。

 試験内容としては簡単な面接と本当に大魔法使いの容姿に耐えられるかをデートをして証明するという試験だけだ。ちなみに試験内容は明には伝えられていない。

「そ、そうよね。本当に大丈夫かしら」
「資料的には誰にでも分け隔てなく対応できるって書いてあるし学生時代からその筋では有名だったようだからいけるんじゃない? まあ私としてもそんな可愛い子だったら大魔法使い専用じゃなくて普通の恋人代行やってほしいと思うけどね。そしたら私もアプローチできるのに」

 政府が開催する試験だけあって資料は多く、その内容は明が自ら出した履歴書から始まり通ってきた学校関係の資料、探偵による調査書、近所の評判、友人関係からの聞き込みなど多岐にわたる。そしてここまで事前調査が緻密なのは明らかにお金目的である人間を弾く為だ、実は大魔法使い専用の恋人代行所は過去にも作られたがそれ自体が詐欺に近いようなモノだったので各方面に被害をもたらし今後このようなことがないように大魔法使いを相手にする恋人代行所を作る場合は緻密な事前調査が行われることになったのだった。

「だ、駄目! 絶対駄目! 舞がアプローチしたら私なんて完全に相手されないじゃない!」
「あー、はいはい。分かってるって冗談だから……半分ほど」
「半分は本気ってこと!?」

 そうやってでこぼこコンビがじゃれあっていると試験の時間になり二人は表情を引き締めて受験者である明の入場を待った。



 そのとき私は天使が舞い降りたのかと思った。急にこんなこと言われても分からないだろうが受験生である浅生明君が部屋の中に入ってきた瞬間私は雷に打たれたような衝撃を受ける。

 実際写真も見ているが実物をみるとさらに可愛いと思わされた。
 本来なら私なんて一生相手にされないような美少年だ。
 明君は透き通るような色素の薄い茶色の瞳をこちらに向けて笑顔を浮かべる。

 思わず表情のだらけそうになった私はどうにかそれを抑えて引き締める。緊張しているのか所作がどこかぎこちなく可愛らしい、イスに座りこちらを見る入ってきたときとは違い瞳が不安そうに揺れている。
 どうしたんだろうと思っていると隣にいる舞から表情が怖いことになっていると念話が届く。
 それを聞いて私はぎこちなく笑顔を作ってみる。すると明君は少し目を丸くしてすぐに微笑んだ。

「それじゃあ面接を始めようか」
「……はい、よろしくお願いします」

 空気が和やかになると舞が微笑みかけて試験の開始を伝える。明君は舞いに微笑みかけられ俯いてしまう。
 まあ大抵の男の子は舞いに微笑みかけられればああやって照れるので気にしないでおく。

「それではまず私の隣にいる試験官は大魔法使いなのですがハグをしろと言われてハグできますか?」
「ちょっ!?」
「……はい、できます」
「……!? っ!?」

 なにやら最初から予定にない質問を明君に向ける舞。私が思わずあわてて声を出すと舞の質問に固まっていた明君が答える。
 そして私は声にならない驚きを上げる。

「それでは実際にハグをしてもらおうと思いますがいいですか?」
「はい」
「えぇ!?」

 舞の更なる質問に即答する明君。私は思わず変な声が出る。舞! 舞! なんてことを!! ってお膳立てはしてやったから早く行け? ありがとう舞! 今度ご飯おごるね!
 私は立ち上がった明君の前まで行きながらそんな感じで舞と念話を行う。親友だろ別にいいさとかいっている舞マジ天使!!

「えっと、よろしくお願いします?」
「……はい」

 脳内でフィーバー状態の私も明君の前まで来るとさすがに緊張で何も考えられなくなってくる。
 いや、よろしくお願いしますとか言って首をかしげる明君可愛いとかしか考えれない!! などと考えていると失礼しますといって明君が私に抱きついてくる。私が190cmで資料では明君は150cmほどだからかなりの身長差により鳩尾あたりに明君の頭が来る。

 明君は手を私の後ろまで回す。私も緊張しながら壊れ物を扱うように慎重に抱きしめる。
 小っさい! 可愛い! なんかいい匂いがする! このまま時間がとまればいいのに!!

「ひゃう!」

 思わず時間を止める魔法を使おうとしてしまいそれに反応したのか明君がびくりと震える。
 そして私はそういえば男の子は邪念のある自分が対象になる魔法を第六感で感知できるらしいという話を思い出す。そのときの反応が何かにおびえる様な小動物のよう……うん。やっちゃた!
 ちなみに私の魔法は男の子がよく持っているマジックキャンセルの効果を持った魔石に弾かれている。

「ごめんなさい!!」

 私は勢いよく明君から離れ土下座する。土下座するときに一瞬見えた明君の顔は真っ赤にしていた。相当怒っていることだろう謝ったところで許してもらえるか分からない、これは私が自分から刑務所に入るしかないぐらいだ。

「あの、大丈夫です。頭を上げてください」
「……!? で、でも……」
「うぅ、僕が落ち着きません。頭を上げてくれませんか?」
「炎華。頭を上げなさい、本当のところなら即通報物だけど今回は明君もいいっていってるから見逃しておくわ」
「……はい」

 頭を上げてくれと明君に言われるがそう簡単にあげるわけにはいかない、けれど私が頭を上げずにいると弱弱しい声でもう一度頭を上げるように言ってくれる。それに続いて舞からも頭を上げるようにいわれる。
 私は覚悟を決めて顔を上げる。

「よかったです。あの本当に気にしてないので立ってください」

 明君は手をこちらに伸ばしてそういう。顔はまだ真っ赤だが表情は怒っておらず、しかし目には涙がたまっており無理して笑っている表情は妖艶さすらまとう聖父のようである。

「はい」
「ひゃにぅ……」

 私が差し出されている手を握り立ち上がろうとすると奇妙な声が明君のほうから聞こえてきた。私が不思議に思って明君のほうを向くと明君は顔を真っ赤にして前かがみになり足が内股になっている。
 そして私の手を握っているほうとは逆の手で服のすそをつかみ伸ばして恥ずかしそうに下を向いている。

「えっと……」
「すみません。久々にこんなことになったので敏感になってるのを忘れて……」

 男の子の第六感といえば五感すべてをあわせたものをそう呼んでおり、第六感を使うということは全神経を集中させるという意味でただでさえ敏感な男の子の体が敏感になるということで……。今の体勢と関連させると私と手をつないで勃った……。
 そこまで考えて私鼻血を噴出してぶっ倒れた。後に舞いに聞くとその時は幸せそうににやけながらぶっ倒れていたとのことだった。



 僕はまたかと思った……この世界の女性はなぜかよく鼻血を噴出して倒れる。いや、理由は分かっているのだがそれにしても漫画や小説のようなリアクションで少し驚いてしまう。

「あの、これは……どうしたらいいでしょうか?」

 僕はもう一人の試験官さんに顔を向ける。直視するには少し耐えがたい顔だが我慢してその顔を見つめる。

「あー、うん、ほっといてもいい。それから試験は合格ということでいいよ」
「え? あの、いいんですか?」
「いいんだよ。この試験は大魔法使いに対して本当に恋人代行が行えるか、というのを調べるための試験だからね。君はその子とハグしてといっても拒否しなかったしその時点で合格は確定ってこと」
「……はい」

 なんとなくこんなに簡単に合格できたことに現実感をなくしながらもどうにか返事を返す。

「まぁ、そういうことだから今日のところはもう帰ってもいいよ」
「はい、それでは失礼します」

 僕は倒れた試験官さんがやけに幸せそうな顔をして気絶していることに罪悪感を少しなくして退出するのだった。
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