20 / 23
21 千年魔女
しおりを挟む
「広袖の長衣に緋色の巻き布を重ね着して、肩から腰に金色の鎖──あ、それはきっとあの子ね、モリーさんとこの二番目の男の子のデズくん。昔っからやんちゃでね、お母さんをよく困らせてたなー。でもね、ほんとはお母さん思いの優しい子でね、ほら、一番目のお兄ちゃんがお父さんと喧嘩して出ていっちゃったじゃない? だからあの子はこの街に残ったの──」
よどみなく果てしなく、とりとめのない会話が続いていた──一方的に喋り倒されてるのを会話と言えば、の話だが。
書き手としては遺憾ながら、時間が惜しい方は読み飛ばすことを推奨する。物語の進行上は支障ないので、相手をするのがいかに大変か雰囲気だけ掴んでくれれば良しするしかない。
「ううん、デズくんは絶対そうだって言わないけど、あたし知ってるのよ。だって、もともとモリーさんの旦那さんってちっともお家に居つかない人でしょ? たまにお酒に酔って帰ってくるんだけど、お家にあるお金を全部くすねて、また出ていっちゃうんだって。それってモリーさんと一番目のお兄ちゃんがお仕事をしてもらったお金なのにね。前はすっごく真面目な人だったんだけど、ほら、いつか英雄さまが来たじゃない? あの時に仕事なくしちゃって。だいたい英雄さまも意地悪よね。なにもわざわざ──ええと、なんの話してたっけ?」
「モリーさんの旦那さんの話です」
「そうそう、モリーさんの旦那さん。すぐお金くすねて出ていっちゃうの。それである日、とうとうお兄ちゃんが怒って──まあ、この街ではよくある話ではあるんだけどね。ほら、天鈴亭で働いてるリジーさん知ってる? あの人のお父さんも──知らない? 天鈴亭のよ? 黄昏横丁にある──ふふ、でも黄昏横丁なんて気取った名前よね。なのに、みんながなんて呼んでるか知ってる? ちょっと下品なのよね、ねえ、知りたい?」
「は、はは、立ちション横丁でしたっけ──それで、ええと、今日僕らが会った人はデズさんっていうんですね。とてもよくわかりました。ところで買い物──」
「あら、もう大きくなったんだから『デズくん』っておかしくない? あの子にはちゃんとデズモンドっていう立派な名前があるんですからね」
「え、ええ──? だって、ジュリアさんが──」
「なーに? フィルくんたら、あたしのせいだって言うの? デズくんだってもう大人なんだから、ちゃんと一人前に扱ってあげようとしただけなのにい」
ぷくー。
と、赤みのさす頬を膨らませて見上げてくるのは、まだあどけない思春期未満の少女だった。
今日はそんな容姿である──騙されてはいけない。
その日によって少女だったり、豊満肢体の婦女子だったり、もっと年上の淑女だったりする。
ムシの居所が悪いと、口髭も豊かな筋肉質男性になることすらあるのだ。時折、思春期未満のときに恋愛対象低めの連中がちょっかいを出して、デート当日にギャフンと言わされている。
そう、リシケーシュの千年魔女(あるいは単に『千年魔女』)の異名をとるジュリア・ド・スタールにとって、容姿など気分によって着替える衣服みたいなものなのだ。
「もー。ジュリ姉、話ながい」
と、ロレッタもふくれっ面だった。
こっちもまだ子供々々しているが、本日の千年魔女サマよりは幾分年長に見える。
それにしても『ジュリ姉』とは調子のいい奴。デズさんだかデズモンド氏だかには、ナンとか婆ァ言ってなかったか?
よどみなく果てしなく、とりとめのない会話が続いていた──一方的に喋り倒されてるのを会話と言えば、の話だが。
書き手としては遺憾ながら、時間が惜しい方は読み飛ばすことを推奨する。物語の進行上は支障ないので、相手をするのがいかに大変か雰囲気だけ掴んでくれれば良しするしかない。
「ううん、デズくんは絶対そうだって言わないけど、あたし知ってるのよ。だって、もともとモリーさんの旦那さんってちっともお家に居つかない人でしょ? たまにお酒に酔って帰ってくるんだけど、お家にあるお金を全部くすねて、また出ていっちゃうんだって。それってモリーさんと一番目のお兄ちゃんがお仕事をしてもらったお金なのにね。前はすっごく真面目な人だったんだけど、ほら、いつか英雄さまが来たじゃない? あの時に仕事なくしちゃって。だいたい英雄さまも意地悪よね。なにもわざわざ──ええと、なんの話してたっけ?」
「モリーさんの旦那さんの話です」
「そうそう、モリーさんの旦那さん。すぐお金くすねて出ていっちゃうの。それである日、とうとうお兄ちゃんが怒って──まあ、この街ではよくある話ではあるんだけどね。ほら、天鈴亭で働いてるリジーさん知ってる? あの人のお父さんも──知らない? 天鈴亭のよ? 黄昏横丁にある──ふふ、でも黄昏横丁なんて気取った名前よね。なのに、みんながなんて呼んでるか知ってる? ちょっと下品なのよね、ねえ、知りたい?」
「は、はは、立ちション横丁でしたっけ──それで、ええと、今日僕らが会った人はデズさんっていうんですね。とてもよくわかりました。ところで買い物──」
「あら、もう大きくなったんだから『デズくん』っておかしくない? あの子にはちゃんとデズモンドっていう立派な名前があるんですからね」
「え、ええ──? だって、ジュリアさんが──」
「なーに? フィルくんたら、あたしのせいだって言うの? デズくんだってもう大人なんだから、ちゃんと一人前に扱ってあげようとしただけなのにい」
ぷくー。
と、赤みのさす頬を膨らませて見上げてくるのは、まだあどけない思春期未満の少女だった。
今日はそんな容姿である──騙されてはいけない。
その日によって少女だったり、豊満肢体の婦女子だったり、もっと年上の淑女だったりする。
ムシの居所が悪いと、口髭も豊かな筋肉質男性になることすらあるのだ。時折、思春期未満のときに恋愛対象低めの連中がちょっかいを出して、デート当日にギャフンと言わされている。
そう、リシケーシュの千年魔女(あるいは単に『千年魔女』)の異名をとるジュリア・ド・スタールにとって、容姿など気分によって着替える衣服みたいなものなのだ。
「もー。ジュリ姉、話ながい」
と、ロレッタもふくれっ面だった。
こっちもまだ子供々々しているが、本日の千年魔女サマよりは幾分年長に見える。
それにしても『ジュリ姉』とは調子のいい奴。デズさんだかデズモンド氏だかには、ナンとか婆ァ言ってなかったか?
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
傭兵アルバの放浪記
有馬円
ファンタジー
変わり者の傭兵アルバ、誰も詳しくはこの人間のことを知りません。
アルバはずーっと傭兵で生きてきました。
あんまり考えたこともありません。
でも何をしても何をされても生き残ることが人生の目標です。
ただそれだけですがアルバはそれなりに必死に生きています。
そんな人生の一幕
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる