6 / 23
6 逆襲の心理戦
しおりを挟む
「苦戦中のようね、ノーザン・クエストの皆さん?」
見事なモデル立ちで見おろすシンシアを、
「商談中なんですけど」
リアが睨んだのも無理はない。明らかなマナー違反だ。
というか他社が商談中のブースに突入するようなマネを、シンシア・カークコールディ以外の誰がやるのか教えてくれ。
「これはこれは、シンシア様」
しかしクライン氏は咎めだてるどころか、貴賓を迎える恭しさで立ちあがっていた。なんだよ。割り込んできた相手にそれかよ。
「クラインさん。ご機嫌いかが?」
「はい、おかげさまで何とか。ただ今、お茶をお持ちしますので」
「あら、お気遣いなく。すぐに行きますわ」
「まあまあ、ごゆっくりなさって」
リアがたまりかねて、
「商・談・中・なんですけど!」
そうだそうだ。今度ばかりはリアが正しい。俺たちはアポイントをとってここにいるんだ。
いくら大手だからって、零細企業の商談を邪魔していい道理がない。それがたとえ公共クエストを告示するカスバ市長の娘であってもだ。
しかし俺は、そんな心中をおくびにもださずに笑顔をつくって、
「どうやらダブルブッキングのようですね。クライン様はご多忙ですので無理はありません。せっかくオールダム商事様もお見えのようですので、私どもが席を外してお待ちしましょうか?」
露骨に依怙贔屓をやってのけたクライン氏も、これには言葉が出なかった。
「ちょっと、フィル」
リアが小声で睨んできた。
正論が正解とは限らないことをリアはよくわかってない。たぶん永遠にわからないだろう。
今回は入札案件ではないので、どこを贔屓しようと担当者の勝手だ。邪魔されたと怒ってみても、担当者の心証を悪くするだけで、いいことはひとつもない。
俺も声を落として、
「ここは引くんだよ。引くことでクライン氏にひとつ貸しをつくるんだ」
クライン氏にしてみれば、約束通りに来社した取引先を自分の都合で待たせることになる。
多少なりとも引け目を感じるだろうし、それによって依怙贔屓を自覚させる効果も期待できる。
他人に不公平を指摘されると意固地になるだけだが、自覚すると密かに襟を正そうとするものだ。
次の行動では公平な自分を演じようとするだろう。
「それって、うまくいくの?」
「──たぶん」
なんたってリグビー出版の『年収三千万デルの冒険者が駆使する九十九の心理テクニック』にそう書いてあったのだ。
そうであってくれ。でなけりゃ困る。
見事なモデル立ちで見おろすシンシアを、
「商談中なんですけど」
リアが睨んだのも無理はない。明らかなマナー違反だ。
というか他社が商談中のブースに突入するようなマネを、シンシア・カークコールディ以外の誰がやるのか教えてくれ。
「これはこれは、シンシア様」
しかしクライン氏は咎めだてるどころか、貴賓を迎える恭しさで立ちあがっていた。なんだよ。割り込んできた相手にそれかよ。
「クラインさん。ご機嫌いかが?」
「はい、おかげさまで何とか。ただ今、お茶をお持ちしますので」
「あら、お気遣いなく。すぐに行きますわ」
「まあまあ、ごゆっくりなさって」
リアがたまりかねて、
「商・談・中・なんですけど!」
そうだそうだ。今度ばかりはリアが正しい。俺たちはアポイントをとってここにいるんだ。
いくら大手だからって、零細企業の商談を邪魔していい道理がない。それがたとえ公共クエストを告示するカスバ市長の娘であってもだ。
しかし俺は、そんな心中をおくびにもださずに笑顔をつくって、
「どうやらダブルブッキングのようですね。クライン様はご多忙ですので無理はありません。せっかくオールダム商事様もお見えのようですので、私どもが席を外してお待ちしましょうか?」
露骨に依怙贔屓をやってのけたクライン氏も、これには言葉が出なかった。
「ちょっと、フィル」
リアが小声で睨んできた。
正論が正解とは限らないことをリアはよくわかってない。たぶん永遠にわからないだろう。
今回は入札案件ではないので、どこを贔屓しようと担当者の勝手だ。邪魔されたと怒ってみても、担当者の心証を悪くするだけで、いいことはひとつもない。
俺も声を落として、
「ここは引くんだよ。引くことでクライン氏にひとつ貸しをつくるんだ」
クライン氏にしてみれば、約束通りに来社した取引先を自分の都合で待たせることになる。
多少なりとも引け目を感じるだろうし、それによって依怙贔屓を自覚させる効果も期待できる。
他人に不公平を指摘されると意固地になるだけだが、自覚すると密かに襟を正そうとするものだ。
次の行動では公平な自分を演じようとするだろう。
「それって、うまくいくの?」
「──たぶん」
なんたってリグビー出版の『年収三千万デルの冒険者が駆使する九十九の心理テクニック』にそう書いてあったのだ。
そうであってくれ。でなけりゃ困る。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる