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姫にぴしりぴしりと言い当てられた姐御は悄々の塩
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「ほどほどにしておくがよいと思うがの」
「え?」
「昨夜の話よ」
噂に聞く町奉行の娘にそう言われて、律はめまぐるしく思考をめぐらせた。
(どこかに、ぬかりがあったか?)
ひとつひとつ思い出していく。
朝一番にひとっ風呂あびた。
胸にしっかりとサラシを巻きなおした。
きつめの股引きに尻と腰とを押しこんだ。
きりりと締めた帯に十手をぶちこんだ。
完璧だ。いつも通り。
それとわかる着衣の乱れなど、どこにもないはず――まして、白粉の残り香など。
ところが、初栄は証拠をみつけていた。
「親分。帰ってきたときに、足を洗わなんだの」
「はあ」
「昨夜は雨が降っていたのに、雪駄や股引きに泥がついておらぬ」
「あっ」
「どこぞ、早々と上がりこんだとみえるが」
「そ、それは――」
「雪駄や股引きは汚れておらぬが、サラシの胸元に泥の飛沫が跳んでおる」
「え? ――こ、これは、その」
「おそらく、そそっかしい駕籠かきが蹴あげたのであろ」
「うう」
「さて。親分が出入りに、わざわざ駕籠をつかうのは、どこであろうの」
あわれ律、すっかり狼狽して、言葉もでない。
「鉄火な姐御と音にきく置網町の親分も、廓に通うは、さすがに人目をはばかるか」
「い、いや」
「ほれ親分。肩に長い髪の毛が」
「なな、な――」
慌てて肩口を払うと、律はばったりと両手をついた。
「お、おそれ入りましてございます」
「あたったかの」
「へえ。たいそうなお目利きという、噂は本当でございました」
「いや、最後のは冗談じゃ。ゆるしてたも」
初栄は、にっと笑って、
「置網町の親分は切れ者ときく。凶賊が跋扈する折も折、ただ遊んでいるわけでもなかろうと思ったまでよ。それに――」
と、すこし声をひそめ、
「さすがに私の知るところではないが、ああしたところの女人は、裏の世俗によく通じる、というからの」
律はいまいちど、深々と頭をさげた。
「え?」
「昨夜の話よ」
噂に聞く町奉行の娘にそう言われて、律はめまぐるしく思考をめぐらせた。
(どこかに、ぬかりがあったか?)
ひとつひとつ思い出していく。
朝一番にひとっ風呂あびた。
胸にしっかりとサラシを巻きなおした。
きつめの股引きに尻と腰とを押しこんだ。
きりりと締めた帯に十手をぶちこんだ。
完璧だ。いつも通り。
それとわかる着衣の乱れなど、どこにもないはず――まして、白粉の残り香など。
ところが、初栄は証拠をみつけていた。
「親分。帰ってきたときに、足を洗わなんだの」
「はあ」
「昨夜は雨が降っていたのに、雪駄や股引きに泥がついておらぬ」
「あっ」
「どこぞ、早々と上がりこんだとみえるが」
「そ、それは――」
「雪駄や股引きは汚れておらぬが、サラシの胸元に泥の飛沫が跳んでおる」
「え? ――こ、これは、その」
「おそらく、そそっかしい駕籠かきが蹴あげたのであろ」
「うう」
「さて。親分が出入りに、わざわざ駕籠をつかうのは、どこであろうの」
あわれ律、すっかり狼狽して、言葉もでない。
「鉄火な姐御と音にきく置網町の親分も、廓に通うは、さすがに人目をはばかるか」
「い、いや」
「ほれ親分。肩に長い髪の毛が」
「なな、な――」
慌てて肩口を払うと、律はばったりと両手をついた。
「お、おそれ入りましてございます」
「あたったかの」
「へえ。たいそうなお目利きという、噂は本当でございました」
「いや、最後のは冗談じゃ。ゆるしてたも」
初栄は、にっと笑って、
「置網町の親分は切れ者ときく。凶賊が跋扈する折も折、ただ遊んでいるわけでもなかろうと思ったまでよ。それに――」
と、すこし声をひそめ、
「さすがに私の知るところではないが、ああしたところの女人は、裏の世俗によく通じる、というからの」
律はいまいちど、深々と頭をさげた。
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